~朝・生徒会室~
朝のホームルームの前に詳しい話をしたいと言うことで、支取会長に生徒会室に連れてこられ、中に入ると、会長の机の横には副会長の真羅椿姫と同じ学年の生徒会唯一の男子、匙元士朗が待っていた。
「会長、お疲れ様です」
「ありがとう椿姫。匙、あの件はどうなりました?」
「仁村達と一緒になって対応したので、何とかなりそうです」
「そうですか、ご苦労様。さて・・・東雲君、座ってください」
二人の仕事の確認を済ませ、生徒会長の机に座り、同じ机の向かい側にイスを用意させ、颯が座ると、話を切り出す。
「では東雲君、先程も言いましたが、貴方を生徒会に入れたいと考えているんですが、どうですか?」
「ふむ、なぜ自分なんかを入れるんですか?自分の他にも能力的に上な人はたくさんいると思いますよ?私はこれと言って、何かの才能はないですよ?」
「用務員の仕事を自主的に手伝い、尚且つ他にも困った人がいれば生徒や教職員のみならず、対応してくれていることが生徒会に欲しい人材であるからです。貴方が思っているより、私は貴方を評価していますよ」
支取会長の颯に対しての評価が上だったので、隣にいる匙は内心歯軋りをしている。
「それで、どうですか?入ってはもらえませんか?」
「・・・お断りさせていただきます」
会長の問いに、颯はきっぱりと断った。だがそれで面白くないのは隣の匙である。
「テメェ、会長のせっかくの勧誘を!!」
「匙、止めなさい。理由を聞いてもいいですか?」
声を荒げ、颯に怒りを覚える匙だったが、会長の一言でそれは納まる。
「私のやっていることは、自主的なことでやっています。誰から言われてやっているのではありません。仮に生徒会に入ったとしても、やることは生徒会に話がいった案件だけです。それでは急な事が起こった場合、生徒会がすぐに動けるとは思いません。対応が遅れてしまいます。でしたら、動ける人物がやるほうが効率がいいとは思いませんか?」
「それなら、尚のこと貴方が生徒会に入ってくれれば、活動の幅が広がり・・・」
「私はやろうと思っているから手伝いをしています。それに、役員ってのはどうも苦手で、やりたくないんですよ」
支取会長の説得も、颯はそれとなくかわしていく。
「東雲よぉ、こんだけ会長がお前のこと評価してんだから、生徒会に入っちまえばいいじゃねぇか」
そのやり取りに面白くないと感じた匙は、強引にでも入るように言い出した。
「匙君、私は入りたくないと言っているんです」
「でも会長の言葉だぜ。そんだけでもうれしいと思わないか?評価してもらえるならそれを会長の為に役立ててみたいと思わねぇか?」
「私は別にそうは思いません。ただおのれの成すべきことをなすだけです」
「この、こっちが下手に出ているのに・・・」
「下手に出るという言葉を一回調べてみたらいかがですか?」
「てめぇ・・・」
「匙!」
「うっ・・すいません、会長」
キーンコーンカーンコーン
「おっと、予鈴が鳴りましたね。それでは私は教室に行きますので、失礼します」
席を立った颯は、そのまま生徒会室を出て行った。
「会長、どうしますか?彼の勧誘は失敗しましたが」
「もちろん勧誘は続けます。今回はダメでしたが」
「会長、なんで東雲の奴なんかを生徒会に入れようとするんですか?」
「彼の行動力は価値のあるものだからです。今の生徒会に彼を迎えれば、いい活性剤になると思ったのですが」
「でも生徒会に入れると言うことは、その・・」
「ええ、いずれは私の眷属にしようと考えていますよ」
~朝・教室~
支取会長、いやソーナ・シトリーとの会話が終わり、教室に戻る颯。そして教室にはいるや否や、兵藤が鬼気迫る表情で颯に近づいてきた。
「東雲!ちょっと聞きたいことがあるんだけど!」
「・・とりあえず離れてくれませんか?こんなに近くじゃあ話なんて出来ませんよ」
「スマン。んで聞きたいのは、お前天野夕麻ちゃんて覚えているか?」
「天野・・夕麻」
「覚えてるだろ!?昨日校門前で紹介した、あの女の子のこと!!元浜や松田にも携帯の写真を見せようとしたのに残ってなくて、言葉で説明してもぜんぜん覚えてないって言うんだ!!」
「(ああ、あの夜何かしらの魔力が町全体に流れたかと思えば、どうやら記憶の改竄をリアス・グレモリーが実行したんですね。もし結界で弾いてなかったら私も記憶を失っていたのですか)」
「で、どうなんだ!?覚えているだろ!?」
「すいません、誰ですか?」
ここで覚えていると言った場合、後にばれてしまった時、根掘り葉掘り事情を聞かれそうになりそうなので、嘘を吐く颯。そういった瞬間、兵藤の表情は絶望したかのようになり、膝から崩れ落ち床に手を着き俯いてしまった。
「終わった・・・これで最後の希望もなくなった・・・」
どうやら、知っている人物に片っ端から聞き回ったみたいで、颯が最後だったみたいだ。
「まぁまぁ、イッセー。そうクヨクヨすんなって」
「そうそう。そんなことよりどうだ?家に秘蔵のお宝があるんだけど、見に来ないか?」
絶望に打ちひしがれている兵藤に、元浜と松田が近づき、慰めのつもりなのか、彼らにとってのお宝(エロDVD)鑑賞の誘いをしてくる。その瞬間、兵藤は動きを止め、急に立ち上がる。
「くそー、しょうがないなー。そんなに熱心に誘われちゃあ断れないな。こうなったらその提案を仕方なく受けよう。仕方なくな」
そう言うが、顔のにやけだけは隠れていない。
「そうそう、人の誘いは断るもんじゃない!」
「よーし、早速今日の放課後にでも行こうぜ!」
変態三人組は教室の中なのにもかかわらず、大声で会話しているため、教室内の女子から冷たい視線が向けられている。その間颯は、さっさと自分の席に戻る。・・・教室の端から殺気に満ちた視線を感じて、今日も授業を受ける。
~放課後・駒王学園~
今日は珍しく校内の手伝いはなく、いつもよりは早めに家路に向かう東雲。このときは気分転換もかねて、いつもと違う道で遠回りしながら帰ろうとした。夜中は町全体を見回しているとはいえ、まだ明るい時間帯にこうして街中を歩くのは久しぶりと思った。いつもと違う風景、その違う風景の中にある人々の話し声や笑い声。それを聞く度に颯の心の中は満たされる。自分の守りたい人々の平穏な生活をその身に感じることが出来ているのだから。しばらく歩いていると少し小腹が空いてきたので、偶然近くにあった移動販売の車が目に入り、ちょうどいいと思いそこで売られていた小さなパンの詰め合わせを買い、近くのベンチに座り食べようとしたら・・・出来なかった。なぜなら、どこからか視線を感じたから。それも颯自身にではなく、颯の持っているパンに対してである。さりげなく辺りを見回していると、近くの電柱の後ろに女の子がいた。小柄で白髪の見た目幼女だが、颯と同じ駒王学園の制服を着ている。颯の記憶が正しければ、彼女は学園のマスコット的存在、塔城小猫に間違いなかった。しかも魔力探査で調べた結果、彼女は悪魔でしかも他にも別の力を感じ取れていたが、この時点でまだ颯は理解が出来なかった。ともあれ、そんな彼女がなぜこっちを見ているのかわからず、しばらく考えていたがずっと黙っているわけにもいかず、
「あの、何か用ですか?」
「・・・・・・・・・」
声を掛けるが、返答がない。ならばと思い、一番可能性が高い選択肢を選ぶ。
「えっと・・食べますか?」
「はい」
速攻で返事が返ってきた。
もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ
颯は自分が座っている横で、ものすごい勢いでパンが消えていく様を目撃している。学園のマスコットの塔城小猫が、脇目も降らず租借しているからだ。声をかけた後、塔城は隣に座るとさっそく袋に入っているパンを掴み食べ始める。
~十分後~
パンの詰め合わせは、瞬く間に消え、颯には一つも口に入ることなく終了した。
「ご馳走様でした」
「・・はい、お粗末さまでした」
あまりの食べっぷりに、颯自身も呆気に取られ、ついそう返事をしていた。
「・・・ところで、東雲先輩はどうしてここにいるんですか?」
「おや、私の名前をご存知でしたか、塔城さん?」
「・・・先輩はいい意味で有名人ですから・・他にも有名人はいますけど、それは悪い意味ですが・・」
「はは・・彼ですか、後輩にまで知られるとは、なんとも言えませんね」
「・・・それで・・さっきの質問ですが、どうして先輩はこっちにいるんですか?」
「今日の私は暇でしてね、少し遠出しようと思ったんですよ。塔城さんは?こっちが帰り道ですか?」
「・・・いえ、私は今日はこっちに有名な移動販売の車がこっちにあると聞いて探しに来たんです。しかもそれは半年に一回来るか来ないかわからないので、ずっと待っていたんです。でもなかなか見つけることが出来なくて、諦めようとしたんですけど、ちょうど東雲先輩が目的のものを買っていたので、その後で私も買いに行ったらちょうど売り切れだと言われて、すごくショックでしたが、こうなったら最後の手段だと思い、先輩の後をつけていたんです。そしたら先輩は何も言わずにこれをくれました。ありがとうございます」
「いや・・あれだけパンに視線を向けられれば、自ずと答えはわかりますって」
むしろ無意識のうちに視線がパンに向いていたことに自分では気づいてなかったのかと言いたかった。
「まったく、どうしてそのまっすぐな行動を別のことに向けられないのか、そういうところはあいつ《・・・》にそっくりですよ。塔城さん」
「・・・あいつって?」
「ああ、すいません。昔のことですよ、妹みたいな子がいて、ずっと傍にいたものですから、自分より他の子と遊びなよと言ったけど、頑なに傍についてきましてね、その行動力は今の塔城さんにそっくりだったものですから」
「む・・私はそんなに執着深くはありません」
「おや、目的のものに半年も待つような人が執着深くないと?」
「・・・・・・」
塔城は反論できず、黙ってしまう。
「まぁ、そろそろいい時間なので、私は帰りますが、塔城さんはどうしますか?」
「・・・私はこの後用事があるので、このまま向かいます」
「そうですか、ではまた学園で機会があったら会いましょう」
そう言い、颯は夕暮れの街中に消えていった。