それでも楽しんでいただければ幸いです。
それと、通算UA10000突破・お気に入り100件突破いたしました。
こんな拙い作品を読んでいただき感謝に堪えません。
これからもどうかよろしくお願いします。
~夜 ギルド内~
ガヤガヤガヤ・・・ハハハハハハハ・・・
「聞いたか、例の教会から来た神父が死神の旦那と一緒に討伐依頼に同行したんだけど、何の役にも立たずに勝手に突っ込んで返り討ちにされたらしいぜ」
「教会の戦士とやらもたいしたことないな」
「いや、隣にいた二人の少女たちはなかなかの腕らしいぞ。二人がかりとはいえ、バスターソードを持ったアイツの剣を破壊して拘束したんだからな。並大抵の実力じゃないな」
「そうだな。全員が全員、あの神父みたいな奴ばかりの実力じゃないってことだな」
「まあ、今回は死神の旦那の活躍に乾杯しようや」
「そうだな。じゃあもう一度、乾杯!!」
「「「「乾杯」」」」
グラス同士が打ち合う中、店内の隅の円卓のテーブルでは話の内容の中心である三人と、いまだに気絶していて、床で寝ている神父がいた。
「(やれやれ、相変わらず騒がしいですね)すいません、御二方、騒がしいところで・・」
颯の背後で騒いでいるギルドメンバーを一瞥して、前に座っているゼノヴィアとイリナに謝罪しようと振り向いたが、
ガツガツガツガツ・・・・
モグモグモグモグ・・・・
その二人は目の前の料理にがっついていた。
夕方に討伐報告のためギルドに戻ってきた一行であったが、「ちょうどいい時間帯なのでということで、夕食でもどうでしょうか?御馳走しますよ?」と、誘ったところ、「「ぜひ!!」」と二つ返事で承諾した。
自分で誘っておいてなんだが、それでいいのか?教会の戦士は。っと内心頭を抱えたが、良い食べっぷりのため、すぐにそんな気持ちはなくしてしまった。
ヒョイ。パク。
「あ~~ちょっとゼノヴィア。それ私の皿にあったお肉でしょう!?勝手に食べないでよ!!」
「何を言っているイリナ。ここは食事という名の戦場だ。なればこそ一瞬の油断が命取りだ。隙を見せたのが敗因だ」
ヒョイ。パク。
「あ~~また食べた~~!!」
二人の食事のやり取りを見ながら、颯はマスターに追加の注文をするのであった。
しばらくして、二人は満足したのか、食事の手を止め、颯に感謝の十字を切り、真剣な顔で問いただした。
「それで“名無し”よ。もう一度問うが、我らと一緒に教会の戦士にならないか?貴殿が一緒になって戦ってくれれば、これほど心強いものはないのだが」
食事している風景とは打って変わってゼノヴィアの質問に、颯は内心で驚くが、自分の答えは決まっていた。
「申し訳ありませんが、最初に言ったようにお断りさせていただきます」
「・・・理由を聞いても?」
「教会側でも確かに討伐の依頼が入るでしょうが、それは実行するに対して色々と手続きがあるでしょう。編成人数、その場所までの時間などを考えると、教会にいるより現地での依頼を受けた方がより速く手が付けられるからです」
「なるほど。そういう考えもあるか」
「さらに言えば、ネロ神父の下で働くのはどうも性に合わなくて。この人は協調性とかなく、相手を見下したような態度をとるから、付き合い辛いと思うので」
「まぁ、気持ちはわからんでもないが、そういう理由だったら仕方のないことだな」
「さらに言えば、私は悪魔からも依頼を受けているので、下手をすると処罰の対象になりかねないからです」
「わかった。其処まで言うのであればこちらも引き下がろう。ただ、こちらと敵対するという事はないか?」
「教会側が私や周辺の人物に対して手を出してこない限り何もしませんよ」
「では、一つ頼みがあるのだが・・・」
「なんでしょうか?」
「手合わせを願いたい」
「はい?」
「貴殿の戦い方を拝見したが、スピード・パワー・剣筋、どれをとっても私よりはるかに上だ。だから、手合わせすることで、私はさらに上の段階まで戦士として成長するかもしれないからだ!」
テーブルを叩き、体を前に出し、真剣な顔つきで手合わせを願った。
「あの~、一つ言っておきたいのですが、そんな簡単に技術というものは上がらないんですが。地道な鍛錬と、それを継続することによって身につくものかと思うのですが・・」
颯は戸惑いつつも、何とか諦めてもらおうかと説得するが、
「そんなことはない!強いものと戦えばそれに応じて経験が増し、強くなるではないか!」
その発言を聞いた瞬間、颯は感じた。
「(ああ、この人脳筋だ~)」
「さあ、善は急げだ。早速外へ出て私と「何をするのですか?ゼノヴィア?」・・っ!?」
急に周りの温度が低下したように感じた。颯とイリナはそう感じたが、ゼノヴィアに関しては、絶対零度のように感じ、ギギギッとまるで機械仕掛けの人形のように首を後ろに向けた。其処にいたのはシスター姿の北欧的な顔立ちの青い目をした美女がにこやかな笑顔を、ある意味、冷淡な笑顔を向けていた。
「シ、シ、シスターグリゼルダ!?」
ゼノヴィアは大声を上げ驚いた。
「まったく貴女達は、戻ってくるのが遅いと思って迎えに来てみれば、夕食をとるならまだしも、争い事を起こさせるなんて一体どういうつもりなんですか?」
シスターは笑顔のままゼノヴィアに問いかけるが、当のゼノヴィアは震えて顔中から汗が滝のように流れて、シスターの質問にしどろもどろの様子だった。
その様子を見ていた颯は助け舟を出すため、シスターに話しかけた。
「すいません、シスター。この二人に夕食を誘ったのはこの私です。急ぎの様子もなかったので、もし叱責を受けるのであれば、それはこの私になりますので、この二人には寛大な処置を願います」
テーブルに座ったまま颯は、シスターに頭を下げ、ゼノヴィアには罪はないことを説明した。シスターはゼノヴィアから颯に視線を向けた。
「これは御見苦しい所を御見せしました。申し遅れました。私は教会の戦士のグリゼルダ・クァルタと言います。こちらのゼノヴィアとイリナの上司になります」
「これはご丁寧に。私は、はぐれ狩りの名無しと言います」
「存じております。とても優秀なはぐれ狩りであって、別名が死神と噂を聞き及んでおります」
「お褒めいただき光栄です」
「彼女らが遅れた理由はわかりました。ですが何の連絡もなく今の今まで忘れていたり、ネロ神父の看病もしなかったのを私は責めているのです。何より、貴方に対してのゼノヴィアの暴力的な態度に対して怒っているのです」
「し、しかしシスター、私としてはこれを機にもっと戦士としての技量が得られればと思っているから、手合わせを願っただけで・・」
「黙りなさい、ゼノヴィア。そんなのだから貴女は成長しないのです。何でもかんでも力や戦いで物事を解決しようとするからいけないのです。そもそも貴女達三人の目的はこちらの方の勧誘でしょう?なぜ与えられた使命を果たせないのですか?」
「「す、すいませんでした」」
ゼノヴィアに対して注意しているのに、なぜか隣にいるイリナまで謝っていた。
「ではこの件は協会の支部に戻ってから改めて説明させていただきます。早くネロ神父を連れて支部に戻りましょう」
「「ハイ!!」」
そこからの行動は速かった。いまだに気絶しているネロ神父に駆け寄り、腕を肩にかけ、起こしてギルドの外へと出て行った。あまりの行動の速さに颯はただ見つめていることしかできなかった。
「この度は大変お騒がせしました」
そう言うと、シスターは深々と頭を下げて謝罪した。
「いえ、構いません。私も少し楽しい時間を過ごせました」
「そう言っていただけるなら幸いです。それで改めてどうでしょう?私たちと共に行動しませんか?」
「あの二人にも言いましたが、辞退させていただきます。理由はあの二人に聞いてください」
「わかりました。ではこの辺で失礼させていただきます。貴方のこれからに幸あらん事を祈っています」
目の前で十字を切り、シスターグリゼルダも店を出て行った。
教会の勧誘から五日程たったある日。いつものように討伐依頼を果たし、ギルドに戻ってきた名無しは、報告を済ませ自室に戻ろうとしたが、マスターに呼び止められた。
「まて、名無し。アンタに客が来ているんだが」
「また教会の関係者ですか?」
「わからんが、奥のテーブルで待ってもらってる。銀髪の女性だ」
言われた場所に目を向けると、一人の女性が紅茶を飲みながらこちらに背を向け待っている姿が見えてとれた。颯はすぐに駆け寄った。
「遅れて申し訳ない。貴女が私を待っていたという事ですが、どのような要件でありましょう?」
その声を聴いた女性はイスから立ち上がり、振り向いてお辞儀した。
「初めまして。私はロスヴァイセと言います。アースガルズで戦乙女をしております。本日は貴方に英雄として我がアースガルドに来ていただきたいのです」