~とある岩山~
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
足場が悪く、岩が剥き出しの山道をネロ神父は息を切らしながら登っていた。その前方三〇mには息を全く切らしていない共の少女2人と、死神が先行していた。
「お・・おい。そんなに・・・急いで・・・登って行くな。はぁ・・はぁ・・もう少し・・ペースを・・落とせよ・・」
前にいる三人に文句を言い、ゆっくりとだが登って行く。
(くそぉぉぉ。せっかくこの世界に転生したのになんで僕が岩山なんかに登らなきゃならないんだ。転生する際に神に頼んで聖剣の適合者にしてもらってガラティーンまでもらったのに、何で【無限の体力】の願いにしなかったんだ。そもそも、願い事が二つまでってのが気にくわねぇ。どうせだったら一〇個までにしろよな)
悪態をつきながら、前にいる死神に睨みを利かせる。
(さらに、何が『お前以外にも、もう1人転生者がいる。じゃあの』だ。そんなの聞いてねぇよ。このまま話が進めば、いずれ駒王学園に行ってグレモリーに会って、頃合いを見て教会と決別して、眷属にしてもらうという、当初の予定だったのに。どうせ、目の前にいるやつがそうなんだろうけど。そんなの僕が始末して転生者は僕だけの状態にすれば、計画通りになるはずだ。教会関係の依頼で引き抜きに赴いたけど、隙を見て殺してやる)
神父の到着を三人は見下ろしながら待っていた。
「彼は体力がなさすぎます。今までどうしてこれたのか不思議なのですが」
「ネロ神父様は強力な聖剣の適合者なので他の教会の戦士たちよりも位は高いんですけど実戦に出たことが殆どなくて、激しい運動などは苦手なようで」
名無しの疑問にツインテールの女の子が苦笑いをしながらも疑問に答えていた。
「それよりも死神、聞きたいことがあるんだが」
青髪ショートカットの女の子が話を遮って聞いてきた。
「私の名は死神ではなく、名無しです。それであなた方の名は?」
「ん・・・そうか、すまなかった。私の名はゼノヴィアだ。こちらは「イリナで~す」という。それで聞きたいのだが、その腰に差している刀は聖剣か魔剣なのか?先ほど、ガラティーンの一撃を防いでいたが」
「いえ、これは聖剣でも魔剣でもありません。その証拠に魔力も聖なる波動も放出してませんでしょう」
そういうと、名無しは腰に差している刀を抜刀し、二人の目の前に見せるようにした。
「確かに、何も感じない。どうなっているんだ?」
「聖剣を受け止めたのに、傷一つついていないなんて」
二人が、まじまじと刀(斬魄刀)を凝視していると、
「どうやら、来たようですね」
二人が名無しの背後を見ると、ネロ神父がようやく到着した。
「はぁはぁはぁ」
「大丈夫ですか?ネロ神父」
「はぁ・・ふん・・これくらい・・はぁ・・なんとも・・ない・・はぁ・・」
イリナが心配そうに声をかけるが、息切れをしながらも強気な口調は崩さなかった。
「いえ、来たというのは・・・」
名無しはそういうと、山頂に向かって視線を向けた。三人も何のことかと思い、同じように目線を上に向けると、
≪ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ≫
大地が裂けそうな音量の鳴き声が響き、推定体長一〇メートルの大きさで、両翼を伸ばしたら一五メートルの巨大な怪鳥が羽ばたきながら四人に近づいてきた。
「な・・なんだあれは!?」
「何だといわれても、あれが討伐依頼のハーピーですが?」
ネロ神父が驚いて大声を上げるが、颯は何のことはないといった声で答えた。
「それにしてはデカ過ぎだろう!」
「声を上げたからといって、大きさが変わるわけではないでしょう。そういうわけでここは私に任せて後方に下がってください」
ギルドでのやり取りで、颯の要望どおりに討伐には手を出さずに見ているだけにしてほしいと頼んだので、このまま後ろに下がるだろうと思っていたが、なぜかネロ神父は前に出て異空間からガラティーンを出してハーピーと対峙した。
「冗談じゃない。こんな大物を前に引けないね。ここは僕がやるから、君が下がるんだな」
「それでは約束と違いますが?」
「そんな約束、忘れた・・ねっ!!」
その台詞と同時に、ネロ神父は巨大ハーピーに向かって駆け出すが、それをじっと見ていた巨大ハーピーは背中の羽を羽ばたかせるとそれによって生じた風圧がネロ神父を直撃。
あっけなく吹き飛ばされて岩に頭をぶつけ、そのまま気絶してしまった。
「彼は・・・何がしたかったんですか?」
「重ね重ね申し訳ない」
「ごめんなさい」
颯はその考えないで相手に突っ込んだネロ神父の行動を、後ろを振り向いてゼノヴィアとイリナに尋ねたが、いつもの行動なのか、二人とも素直に謝った。
「はぁ・・・しょうがないですね。神父を回収して後方で治療して下さい」
それを聞いた二人はやれやれといった表情で近づいていき、後ろに下がっていった。
「では、こちらも始めましょう」
そう言うと、右手にある斬魄刀を構え、ゆっくりとハーピーに近づいていく。
「おい、そんな不用意に近づくのか?神父の二の舞になるぞ」
ゼノヴィアが注意を呼びかける。
「大丈夫です。と言うのも・・・」ヒュン
ズバァァァァァ
「相手が反応する前に攻撃すればいいのです」
「ギャアアアアアアアアアアア」
死神が瞬時に消えたと同時にハーピーの悲鳴とも聞こえる鳴き声がこだました。その鳴き声のした方に目を向けると、左側の翼が半分ほど切断されていた。その近くには高速で跳躍した死神が刀を振っていた。そして切断された翼では空を飛ぶことにも満足にできず、岩山に落下していった。
「・・・イリナ、今の動き、見えたか?」
「ぜんぜん・・・何も・・・動きの動作もわからなかった」
落下した衝撃で土埃が舞うハーピーの前に死神が着地していた。
「では、これで終わりにしましょう」
刀を構え、再度攻撃しようとした矢先、土埃の中心から突風が吹き荒れ、ハーピーが飛翔した。
「な・・肩翼を失った状態でまだ飛べるのか?」
飛び上がったハーピーは自分の翼を切った敵を物凄い憎悪の目でにらみつけた。そして得物を持ってる黒い服装の人間を見つけると、その巨大な巨体で押しつぶそうと特攻してきた。それに対し、颯は微動だにせず、片手を挙げた。
「何をしている!早くよけろ!」
ゼノヴィアが大声を出して逃げるように促すが、颯は落ち着いて鬼道を放つ。
「(破道の五十七)大地転踊」
その言葉を皮切りに、周りにある無数の岩が浮き上り、突っ込んでくるハーピーに向かって飛んで行った。
ガガガガガガガガガガ・・・
地面から急に岩が飛んでくるので驚いたハーピーは突撃をやめ、両腕をクロスして防御の構えをした。その際に、空中で浮遊する形となり、ほぼ無防備な形となった。
その瞬間を颯は見逃さなかった。瞬歩でハーピーの真下に移動し、斬魄刀を始解した。
「舞え、袖白雪」
すると、刀身も鍔も柄も全て純白の形状に変化し、柄頭に先の長い帯がついた。
「あれはなんだ!?刀の形状が変わったぞ!」
「そんな!!確かにさっき見せてもらった時は聖なる力も魔力も感じなかったのに、今ではハッキリと魔力が感じられるなんて!!」
ゼノヴィアとイリナが信じられないといった表情で驚いていた。
そんなことはほっといて、解放した袖白雪を横一文字に振りぬく。
「初の舞・月白」
すると振った刀と同じ範囲の地面が白くなり、颯が飛び退くと、地面から氷の柱が一瞬のうちに形成されていき、飛んでくる岩ばかりに集注していたハーピーは、下の事には気付かなかったため、真上にいたものをすべて一瞬のうちに体内まで凍らせた。その後氷はヒビが入り、その場でハーピーごと砕き崩れていった。
それを見届けた颯は、一振りして斬魄刀を元に戻し、鞘に納め手元から消した。そして振り返り、ゼノヴィアとイリナの元に歩みを進め、二人の近くに行くと、
「依頼完了です。ギルドに戻りましょう」
っと、いまだに気絶しているネロ神父を担ぎ上げ、軽々と岩山を下って行き、ボー然としていた二人も急いで後を追いかけて行った。
まだまだ続きます。