突然のことで、たまり場にいた全員が音のした方に目を向けると、黒を強調した神父服に身を包んだ金髪の男とそのすぐ後ろに、灰色のローブを身に包んだ茶髪のツインテールと青い髪でショートカットの少女2人が立っていて、青髪の少女の背中には、身の丈ほどの大きな布に包まれているものを背負っていた。
金髪の男はたまり場を見ていた。まるで品定めでもするような視線で。
「ふん。どいつもこいつも雑魚ばかりだな」
鼻で笑い、小馬鹿にしたような台詞を吐きながら店内へと足を踏み入れた。すると、その台詞を聞いたギルドメンバーは怒りに満ち、不快そうな顔を三人に向けていた。
「ネロ神父。あまりそのようなことを大勢の場で言うのはどうかと思うのですが・・・」
「正直なことをいって何が悪い」
「ですが・・・」
「イリナ。この人に何を言っても駄目だ。自分中心で物事を判断する御方なのだから」
ツインテールの少女がネロと呼ばれている男性を宥めようとしたが、青髪ショートカットの少女の肩に手を乗せ、呆れ顔でやめさせた。
そして三人がカウンターまで来るとマスターに男性が質問をしてきた。
「マスター、ここに“死神”という人物がいると聞いたんだがどこにいる?」
「・・・そんなこと聞いてどうするんだ?依頼でも出すのか?」
「いや、こんな所にいるより、我々協会側に来てほしいという、所謂スカウトというやつだよ」
「こんな所で悪かったな。そりゃ奴が行きたいというんなら連れて行くがいいさ。」
「ああ、言い方が不適切だったね。そいつが行く行かないの返事を出さなくても我々は“死神”を連れて行くから」
その言葉を聴いた店内の全員が驚いた顔をした。
「そいつはどういうことだ?」
マスターはしかめっ面をして神父に睨んだ。
「何、簡単なことだ。彼の持つ力は危険だ。故に我々協会の人間が管理しなくてはならないと判断したからです。」
淡々と理由を述べていると、バンッとテーブルをたたく音がし、
「ふざけるな!!兄ちゃんのどこが危険なんだと言うんだ!」
音がしたほうに振り向くと、店内にいる全員が三人に向かって睨んでいた。
「・・・一人で複数のはぐれ悪魔を討伐した人物は危険ではないと?」
「ああ、そうだ。例えどんな力があろうが、兄ちゃんは一度も人を傷つけたことはないし、犠牲を出したこともない。」
「だからといって、このまま野放しにしておくわけにはいかない。こちらで監視する」
「それはそちらの勝手な都合だろうが!!」
「そうとっても構わないが、ならばどうするのですか?」
「決まっている。あんた等が兄ちゃんを無理矢理連れて行くっていうんなら、俺たちは力ずくでもそれを阻止してやるからな」
そういうと、男は我慢の限界に達したのか立ち上がり、自分の得物である大剣≪バスターブレード≫を手に持ち、三人の前に立った。
「やれやれ、こちらとしては、穏便に済まそうとしたんですがね」
明らかに挑発的な物言いなのに、自分には全く非がないといった態度が、さらに男の怒りを増長させた。
「この・・・ふざけやがってぇぇぇぇ!!!」
あまりの態度に、我慢の限界だったのか、大剣を振り上げて、神父に向かって走り出した。
「イリナ、ゼノヴィア、彼を止めろ」
「「了解」」
ネロ神父の前に立ち、男の突進を目の前にして二人は落ち着いていた。
「ゼノヴィア、頼んだわよ」
「ああ」
青髪の少女は、背中に背負っていた布を取ると、バスターソードと似た大剣が出てきて、両手に持ち、待ち構えていた。
「力で俺と勝負か?上等だぁぁぁ」
男が振りかぶった大剣を振り下ろした。それに対して、青髪の少女は振り上げて迎え撃った。
ガキィィィィン・・・・バキン
折れたのは、男の大剣だった。
「な・・・に・・・」
男は信じられないといった表情で呆然としていた。
その隙をツインテールの少女は見逃さなかった。腕に巻いてある紐を解き、振うと、紐の長さが伸びて、天井の吹き抜けの柱を通し、男の腕に巻きつき、引っ張り吊り上げた。
「く・・くそぉぉ」
男は吊り上げたままの状態で悔しさを露わにしたが、どうすることもできなかった。
その男に、ネロ神父は近づいて行った。
「どうですか?我々の力は。お前如きだったら、こんな風に簡単に制圧できるんだよ。身の程を知れよ、雑魚が」
「なにを、自分は何もしてないくせに」
「お前如き、僕の手を汚すまでもないと思ったからだよ。・・ただお前の言うことも一理ある。最後は僕自身の手で始末してあげよう」
そういうと、ネロ神父は、右手を軽く上げると、空間が歪み、そこから剣が一振り出てきた。
「お前如きに聖剣を出すのが勿体ないが、こいつの切れ味を身をもって知れ。こいつの名はガラティーン。かのガウェイン卿が使っていた聖剣だ。光栄に思うんだな。普通なら見ることもおこがましいお前に僕がこの手で、この剣で断罪するんだからな」
男の目の前に来て、薄ら笑みをきかせ、ガラティーンを振り上げ、そして・・
「判決・・・死刑」
振り下ろした。
ギィィィン
男は目を瞑っていたが、いつまでたっても痛みがこないので、目を開けると、そこには猿の仮面が近くにあり、背後で刀を背に回し、ガラティーンを受け止めていた。
「少し、やり過ぎではありませんか?」
冷静な物言いではあるが、内心は怒気が含まれている口調に二人の少女と店内にいるギルドメンバーはたじろいだが、神父だけはそのことに気づいていなかった。
「なんですか、君は?部外者は引っ込んでいてください」
「私は、あなた方が探している人物ですが、何か問題でも?」
そのセリフと同時に神父の剣を弾き、後方に下がらせる。
「ああ、君がそうでしたか。では話が早い。僕たちと一緒に来てください」
「お断りします」
「では仕方ない。力ずくでも連れて行く。イリナ、ゼノヴィア。彼を捕えろ」
「「了解」」
そう言うと、吊り上げていた男の手から紐を解き、自分の手元に戻し、バスターソードを叩き折った剣を構えてこちらに向かって攻撃する準備をした。
「その前に、こちらは依頼を受けたのでそちらを優先させていただきます。マスター、依頼番号28番:怪鳥ハーピーの親玉の討伐任務を受領してください」
カウンターにいるマスターにそう告げると、『わかった』と右手を挙げて答えた。
「話はまた後で、それでは・・・」
「まて」
踵を返し、店内を出ていこうとしたときに、神父に呼び止められた。
「われわれもその依頼に同行させてもらえないだろうか」
「なぜです?」
「アンタの実力をこの目で見てみたいんで」
薄ら笑みを浮かべて死神(颯)を見ていた。
「・・・わかりました。お好きなように。ただし、傍観するだけにしてください。戦闘になったらこちらの指示があるまで手を出さないでください。それが条件です」
「ああ、わかった」
「そちらの二人も、いいですね?」
少女二人の返事はなかったが、頷いたのでよしとする。
「では、行きましょうか」
そういうと、名無し(颯)はギルドを出ていき、それに続いて神父組がついていった。
またまた中途半端ですみません。