そしてどうしてこうなった・・・・
手におえなくなったらどうしようか不安ですが後悔はしてません
では今回も楽しんで頂けると嬉しいです!
簾木 健
「っ!!!」
「カナタ起きたか」
「うん。大丈夫みたいだね」
貴徳原カナタがベットの上で飛び起きるとそこは学園の医務室だった。そこにはカナタを切った玖原総司と幼馴染の御禊泡沫だった。
「じゃあ僕は戻ってるよ」
泡沫はいつものように笑って医務室から出て行った。
「・・・・・・・負けましたね」
「・・・・まぁそういうことだ」
総司はふっと笑う。その笑顔につられてかカナタも笑った。
「まだ私にはあなたに並び立てないのですね」
「・・・懐かしいな、それ」
「ええ・・・・思えば遠くまで来ましたね」
刀華や泡沫とは二人が総司とカナタが小学校の時に出会いそこからの付き合いだが、総司とカナタはもっと幼い時からの付き合いなのだ。そしてちょっとした約束をしたのは刀華たちと出会う前の話。だからその約束のことは刀華たちも知らない。
「・・・強くなったなカナタ」
総司が優しく告げる。ただそれにカナタは首を横に振った。
「まだまだですわ・・・というか約束を覚えているのならもう一つの約束も覚えているんですか?」
カナタがいたずらっぽく微笑む。それに総司が顔を少し赤らめて顔を逸らしながら言った。
「それ今でも本気なのか?」
「ふふっ・・・それはどうでしょうね・・・・・っと」
カナタは微笑みもそのままベットから立ち上がる。それに総司が少し心配そうな声で聞いた。
「大丈夫か?」
「ええ。うたくんとそうちゃんで治療してくれたんですからもう大丈夫ですよ」
「そっか・・・・」
また総司が照れたように顔をそむけカナタに背中を向けた。たぶん昔の呼び名で呼ばれて照れているんだろうなとカナタは思う。
「うんじゃ・・・行くか・・・・」
背中のまま総司がちょっとうわずった声で言った。それにカナタはふっと微笑んでから
「はい」
そう頷いて医務室を出ていく総司の後ろからついていく。
「ふふっ・・・・なんだか昔に戻ったみたいです」
カナタはこの状況にそう思っていた。昔はよくこの背中について色んなところに行った。色んなことをした。そしてこの背中に憧れると同時に・・・・
「ふふっ・・・やっぱりこの気持ちも変わらないですわね・・・いえ少し変わりました・・・」
「?なんか言ったか?」
総司が振り返って聞いてくるがカナタはそれをはぐらかした。
「いえなんでもないですわ」
「そっか・・・」
総司はそう言ってまた前を向いて歩いていく。
「・・・・あの子以外には絶対に渡しませんわ」
カナタは今度は総司に聞こえないように呟く。あの子・・・カナタが総司以外で初めて自分を晒すことの出来た少女。その子はたぶん総司のことが好きだ。でもその子になら譲っても構わないと思うようになったのは確かな変化だろう。そして総司との約束。それは実に子どもらしい約束だが、子どもの時から貴徳原のためにしか生きられないと思っていた自分を変えてくれた恩人である総司に全力でそうなりたいとカナタが望んだ約束。・・・もし総司に並ぶことが出来たのなら・・・・
「私をお嫁さんにしてくださいね」
その後、総司は一度風紀委員室に向かい、委員の仕事を必要なだけ捌いた後、生徒会室に向かっていた。なぜかというと今度の奥多摩に行く打ち合わせとカナタがいい茶葉を手に入れたらしく、その紅茶を飲みながら泡沫とゲームをするためだ。主に目的の比重としては2:8くらいである。そんな感じでちょっとうきうきしながら生徒会室に行くと、その前に二人の男女が締め出されていた。
「一輝にヴァーミリオン?こんなところでなにしてるんだ?」
「玖原先輩・・・・ええっと・・・・・」
「トーカさんが曲がり角でアタシたちと鉢合わせてトーカさんが持っていた紙をばらまいちゃって・・・・」
「ああ。あいつドジだからな・・・・そいつは悪かったな」
「いえ、それは良いんですけど・・・・」
「あいつはドジっ子属性だからなそう言ってもらえると助かる。・・・・そういえば今日の刀華の試合の相手は・・・・・」
「ええ。僕の妹でした」
「・・・・・まぁなんだ残念だったな」
「見ていたんですか?」
次の試合は総司とカナタだったということもあり、一輝が驚きに声を漏らす。でも総司はそれに首を横に振った。
「最後に刀華が歩いて出て行っていたのを見ただけだ。まぁ《
総司がごく自然にそう言ったことが少しに気に食わなかったのかステラがむっとした表情で言い返した。
「珠雫は強いわよ。もしかしたら・・・・・」
「それ以上に刀華は強い。見ててわからなかったのか?それにヴァーミリオンそれはお前にも言えることだ」
「えっ?」
ステラはその言葉に目を見開く。でも一輝はその言葉の意味を理解していた。というか理解できてしまったのだ。
「わかってないのかヴァーミリオン?今のお前では刀華には敵わないぞ」
「なっ!?」
「・・・・・・・」
ステラがさらに大きく目を見開く。でも一輝はそれになにも言わない。たぶん一輝は理解しているのだ。総司のその言葉が正しいことを。
「もし当たったらお前負けるぞ」
「・・・・なにを根拠に」
ステラの周りの温度が少し上がるのを総司は感じるが動じることはない。そこで総司はフッと笑った。
「それはお前の彼氏に聞くんだな」
その発言にステラの顔がポン!っと爆発したように真っ赤になり、一輝の顔が少し赤くなった。総司は二人が真っ赤になったのに対し少し笑いながら質問を変えた。
「で?なんで締め出されてんだ?」
「それは・・・・生徒会室が・・・・・・」
一輝が言いよどんだのを見て総司がああっと漏らす。
「昨日から刀華もおれもカナタも居なかったからな・・・・・たぶんそうとうやばいことになっていたか・・・」
そう言いながら総司が生徒会室のドアをノックする。
「刀華入るぞ」
「えっ!?そうちゃん!?ちょっと待ってよ!!」
「どうせ恋々と泡沫が散らかしたんだろ?おれも手伝うから入れろ。それに刀華よりおれのほうが片付けうまいし」
「わかった・・・」
「うんじゃ二人はもうちょっと待っててくれ」
そういうと総司も中に入っていく。それをボンヤリとみていた。すると中から声が聞こえてくる。
「泡沫、恋々。何回この部屋を散らかすなって言ったっけ?」
「いや・・・ほらたまにあるじゃん?漫画一気読みしたくなったり童心に帰ってゲームとか・・・・・」
「筋トレはもうちょっとやろうかなって・・・・この間総司君もしたらって言ってたじゃん・・・」
「言い訳はいい。さっさと片付けろ」
「「ひぃっ!!」」
「うたくん、このゲーム消すけんね!」
「ちょっと待って刀華!それ昨日からセーブ・・・うわぁぁぁぁ!!!!僕のはぐりんがぁぁぁぁッッ!!!!」
「恋々は服を着ろ!!目に毒だ。しかも風紀委員としてその恰好は看過できない」
「ええ!!でもかいちょーがクーラー壊したから暑いんだよ・・・」
「うう・・・・それは大変申し訳なく・・・・」
「そこはおれが後で見て直してやるから、とりあえず今すぐ服着ろ」
「はーい」
「はやく片付けないと全部捨てちゃいますからね!!!」
「うわ!わかったわかった」
バタバタと中で動いている音がする、窓がガタガタ揺れる。その騒音と騒動を廊下で聞きながら
「なんというか・・・・トーカさんがお母さんでソージさんはお父さんね」
「・・・・生徒会長も風紀委員長も大変みたいだね」
一輝とステラは二人の印象が少しづつ変わり始めてしまった。結局二人が刀華の代わりに運んできた資料を置く暇もなく追い出されてしまったが、それは責めまい。そして待ちぼうけすること数分。
「ぜぇ、ぜぇ・・・・・お、お待たせ、しました。どうぞ中に・・・」
げっそりした刀華が顔をのぞかせ、二人を招きいれた。
「あ、はい。お邪魔します」
二人はお茶のお誘いを受けたことに少し後悔しながら中に入る。するとどうだろうか・・・・さっきまであんなに散らかっていた生徒会室が綺麗に片付いている。アンティーク調の品のいい調度品が、その空間をまるで西洋の城の一室を思わせる。よく数分でここまで片付けてたものだ。しかし片付けはまだ完全には終わってないようで総司が生徒会室を動きながら、様々なものをきっちりと直していた。一輝とステラは進められるまま、部屋の中心にあるソファーに腰を下ろし、生徒会役員たちと同じテーブルにつく。すると向かい側に座った恋々が人懐っこい笑みを浮かべ話しかけてきた。
「クロガネ君。お久しぶりー。アタシに勝ってからも快調に勝ち続けてるみたいだね」
「はい。なんとか頑張ってます」
そのやりとりに追随する形で、カナタがステラに柔和な笑みで挨拶をする。
「ステラさんもお久しぶりです。私とはレストランで会って以来ですね」
「ええ。まさかこの部屋に呼ばれる日がくるなんて思わなかったけど」
「貴徳原さん。お二人にお茶をお出ししてください」
「はい」
「あ、カナタ。僕のもお願い」
「カナタ先輩!アタシ、マドレーヌ食べたい!」
「悪い子二人は今日はおやつ抜きです」
「な、なんだって!」
「ひどいよ刀華!おやつが食べられないんだったら僕たちはなんのために生徒会室にいるのさ!」
「生徒会役員だからに決まってるでしょ!?」
刀華が悲鳴のような声をあげる。
「刀華ちょっと声がデカイ。響いてるぞ」
それに冷静に突っ込んできたのは総司だった。どうやら片付けは終わったらしい。
「カナタ。おれにもお茶を。あと恋々と泡沫にマドレーヌ出してやってくれ・・・・一輝たちも食べるか?」
「・・・・いいんですか?」
「遠慮はするな。ここは先輩の顔を立ててくれ」
「では、頂きます。ステラは?」
「もちろんいただくわ」
「おけ。じゃもう二つマドレーヌをって・・・おれも手伝うか」
そう言って場をきっちりまとめてから席を立ちカナタのほうに行って手伝い始める総司。
「このメンバーをまとめきる玖原先輩ってすごいな」
と一輝は心の底から思う。そこでいままで黙っていた雷が厳しい顔に喜色を浮かべて感心した声を出した。
「しかしさすが会長。仕事が早い。もう例の件の助っ人を見つけてくるとは。それもいい人選だ。その二人ならば戦力として申し分ない」
突然、戦力や助っ人などと言われ揃って首を傾げる一輝とステラ。そんなことを聞かされてなかった二人は疑問の視線を刀華に向けるも・・
「はい?」
本人もキョトンとして頭にはてなを浮かべていた。そこに人数分マドレーヌを持った総司が会話に加わる。
「刀華が言ってたじゃんか。黒乃さんに奥多摩の件を頼まれたって、おれがここに来た理由の一つもそれだし」
「あ、ああああ!!」
その瞬間、刀華が青ざめた表情で叫ぶ。
「忘れてたのか・・まぁ大方黒鉄妹との試合に集中してたんだろうけど・・・しっかりしてくれ」
「うう・・・ごめんそうちゃん」
「ねえ。奥多摩の件ってなんのこと?」
頭を抱えてしょんぼりする刀華に一輝の隣に腰掛けたステラが尋ねる。その質問には刀華ではなく、カナタが全員分のティーカップに紅茶を注ぎながら答えた。
「先日新宮寺理事長から生徒会に頼み事があったのです。七星剣舞祭の前にいつも代表選手の強化合宿を行っている合宿施設が奥多摩にあるのですけど、最近そこに不審者が出たそうで」
「穏やかじゃないわね」
「ええ。そこで一応生徒会のほうで安全確認をしてきて欲しいと頼まれまたのです。先生方は選抜戦の運営で大忙しですから。・・・・ですけど、合宿所の敷地には高い山や広い森もありまして、とても生徒会だけでは人手が足りませんの」
「なるほど。そこで外部の助っ人を、ということですか」
大規模な選抜戦で忙しくなるのは教師だけではないということらしい。
「ちなみにその不審者というのはどんな人物なのか、情報はあるんですか?」
「はい、それなんですが・・・・」
カナタは一瞬言い淀んでから、答えた。
「体長四メートルほどの巨人らしいです」
どうだったでしょうか?
まさかカナタがこんな風になるなんて・・・・
でもやっと一輝と総司がきっちりと邂逅しました。これから一気に学園編のラストまで駆け抜けて行きたいです!
ではまた次回楽しみ待っていて頂けると嬉しいです!
簾木 健