今回も楽しんでいただけると嬉しいです。
簾木 健
「ちっ!!」
「大丈夫ですか!!宰相!!」
「すまん。賊を逃がした」
「いえそれより《白髭公》には?」
「報告はまだだ。しかしあの男……今すぐだ!今すぐ連盟各国に伝える必要がある!今すぐ通達を出す」
「何をでしょうか?」
「玖原だ!玖原総司を国際指名手配する!!」
そう言った宰相の頬は薄く斬られて、血が垂れていた。
「僕を呼び出すなんてなんのようかな?」
場所は砂漠。このあまりにも暑い場所である。しかし笑顔でそう告げた子どもは黒いフードを被っていた。しかしそれと対峙している男もまた逸脱した格好をしていた。
「いや……まぁテメエにちょっと言っとくことがあってな」
乾いたボサボサの頭髪に黒一色の陰気な装いを纏う男。この恰好でも世界から逸脱していることはわかるが、しかしこの二人が身に纏う魔力をさらに普通から逸脱していた。黒いフード被った子どもは《傀儡王》として世界を掌握しているとさえいわれる
「なにかな?こう見えても結構僕危ないんだ。色んな人から追われてる」
「そんなもん言われなくても知ってる……この間の話を断ることにした」
「……ふーん……そっか」
そう言いながらオル=ゴールは自身の武器である鋼線を両腕から出す。湧き上がる殺気は常人であれば身を震わせ、動くことすらできないだろ。しかしそんな殺気に対し、ナジームは笑った。
「なんで笑ってるのかな?」
「いやこんな殺気を当てられるのは久しぶりでよ。おめえの相手をしたくなったが、今日の仕事ではおめえを譲らねえといけねえんだ」
「はぁ?」
砂漠に急に激しい風が吹く。砂を巻き上げ、オル=ゴールに迫る。それに対しオル=ゴールは自身を鋼線で包むことで防ぐ。砂嵐がオル=ゴールを通り過ぎ、ナジームがいたところを再度見ると、そこにはナジームではない別の男が立っていた。短髪の黒髪。紋付の袴を身に纏った目つきの鋭い男。その男をオル=ゴールは知っていた。自身が末端で操っていた人形から見たことがある。
「本人と会うのは初めてか。初めまして《傀儡王》」
「ヒヒッ。まさか君がこんなとこにいるとはね《閃光》」
「その名は捨てたんだ」
総司は自身の腰から下げた。二本の小太刀を抜いた。
「悪いが《傀儡王》……死ね」
その瞬間。総司の姿が消える。
「ヒヒッ!君とは一度遊んでみたかったんだ!!」
オル=ゴールは鋼線を広げる。すると砂から巨大な
「なっ……」
さすがのオル=ゴールも絶句する。ただその一瞬すら今の総司には大きな隙となってしまった。オル=ゴールの懐に斬り込む。そしてオル=ゴールがそれに気づくことはなく、総司に首を斬り裂かれてしまった。
「ふん。さすがにそう簡単にはいかねえか」
総司が斬ったオル=ゴールは砂になり消える。しかし総司は砂を作っていた鋼線を掴み、それに電流を流した。
「かはっ!!!」
その電流によりオル=ゴールは悶絶する。しかしそれでもオル=ゴールは笑っていた。
「ハハッ!!捕まえた!!!」
オル=ゴールが鋼線を動かす。しかし総司を捉えたはずの鋼線は総司の肌をスルリと滑り捕まえることが出来なかった。
「甘い。甘すぎるぜ!!《傀儡王》」
今度は総司が笑う。
「お前の能力が鋼線と分かっているのになんの対策をしないわけねえだろ」
「その能力は……」
この現象にオル=ゴールは覚えがあった。それは自分を闇の世界に引き入れた師の能力。《隻腕の剣聖》ヴァレシュタインが持っている摩擦を操る力。
「オル=ゴール。てめえ本当に言われた通りのやつだな」
「どういうことかなそれは?」
「……互角になれば確実に殺せる最弱の
総司の言葉にオル=ゴールの表情が変わる。笑顔だった表情は完全に怒りとなっていた。
「ハハッ僕の恐ろしさは!これからだよ」
オル=ゴールはそこで手を持ち上げようとした。しかし
「もう戦いは終わってる」
総司はつまらなさそうにそう言った。
「これはもしかして僕の……」
「さすがに自分の能力くらいはわかるか。でももう遅い」
総司はゆっくりとオル=ゴールに近づきオル=ゴールの首を掴んだ。
「これで終わりだ」
オル=ゴールの肉体は徐々に干からび始める。手脚の末端からドンドン水分というものが吸いだされていく。
「っ!!かはっ!!」
オル=ゴールは苦しそうな声は漏らすが手足は動かない。しかもさっきから鋼線を使って総司に攻撃を行っていくがそのすべては総司の肌でスルリと滑り、有効打にはならない。そしてついに攻撃が止み、オル=ゴールの身体から完全に力が抜ける。
「終わったみてえだな」
そこで総司の後ろから男が現れた。
「ああ《
総司が振り返った時、総司が掴んでいた人間は完全に砂となりこの砂漠の中に溶けていった。
「本当におっかない能力だ。俺ですら対峙することになればさすがに普段と同じではいかねえな」
「お前が裏切らなければ別にそんなことにはならないよ」
「それは逆にお前が俺との約束を守ればありえない。それで?お前は次に何をするつもりなんだ?」
「………今度ヴァーミリオンとクーベルラントが《戦争》をするのを知っているか?」
「うん?ああ。あの甘ちゃんたちの《戦争》だろ?あんなもんは戦争じゃねえが……まさか」
ナジームがニヤリと笑う。サングラスの奥の瞳が子どものように光輝いていた。
「ああ。乗り込む。そして《連盟》に再度宣戦布告する……どうする?ついてくるか?」
「そりゃかなり面白いことになりそうだ。いいぜ行ってやるよ」
「わかった。じゃあこれを」
総司はナジームに一本の小太刀を渡す。それにナジームはさらに笑みを深めた。
「こいつがあの《翼の宰相》の能力」
「ああ。形はおれの
「ありがたく、もらっとくぜ」
「それを受け取った以上はもうおれの仲間だ……もし裏切ったら」
総司から殺気が溢れる。それは長年傭兵として殺気を受けてきたナジームですら、肌を逆立てるほどの濃さだった。
「ハハッお前とやるのは楽しそうだが……まだその時じゃねえ。もしやりたくなったら……」
今度はナジームから殺気が溢れる。それは総司と同じほどの濃さであり、そして総司以上に数多くの人を殺した匂いがした。二人は互いの殺気に当てられながらフッと笑う。そして左手で握手をした。
「じゃあ。またな」
「ああ。今度な」
総司は自身の懐からもう一本小太刀を取り出す。そしてそれを砂漠につきたてた。すると宙に舞う無数の白い羽根だけを残しいなくなっていた。そこでナジームは一つは声を上げて笑った。
「《暴君》以降裏のボスは変わることはなかった。でもあいつは取って代わる!!新しい時代の幕開けだ!!」
いかがだったでしょうか?
まさか《傀儡王》がお話にもならないとは……最恐主人公とは恐ろしいものです。
さて実はそろそろこの物語を完結させようかと思っています。どうするかはちょっとまだ未定ですが打ち切りみたいになりそうなので、できるだけそうならないようにやっていければと思っています。
では今回はこの辺で。また次回会いましょう!!
今回も感想、評価、批評募集していますのでよろしければお願いします。
簾木 健