落第騎士と生徒会長の幼なじみ   作:簾木健

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竜を前にして英雄は振るう。己の肉体に何もかもを預け、その武器を振るう。


聖剣

なにかが爆発するような音が響き、ステラの姿が消える。

 

そして総司との距離が10メートルのところでステラは壁にぶつかったように停止した。

 

『な、なにが起きたのでしょうか!?ステラ選手が急停止しました!!』

 

『うちの魔術にさらに鋼線か』

 

『ということは今のは「重力」と「鋼線」の組み合わせですか?』

 

『うん。もしかしたらそれだけじゃないかもしれないけど・・ただ総司ちゃん流石だね。竜化してパワーアップしたステラちゃんを完璧に止めてみせた。やっぱり総司ちゃんの方が完全に上手みたい』

 

『そうですか。ただステラ選手の力で殴られれば玖原選手もひとたまりもないでしょう』

 

『まぁそうだろうけど・・総司ちゃんが当たるはずないじゃん』

 

ニヤリと寧音は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげえな」

 

総司はステラを拘束しながらも感嘆する。ここまで拘束に力を使ったのは初めてだった。さすがは人間ではない化物といったところだろう。さらにその肌はかなり硬い。普通の人間ならもう四肢が斬り飛んでいるであろう力を込めているがそれでも鋼線が肌には入っていかない。

 

「竜って生物はここまで化物なのかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「解けない!!」

 

ステラは焦っていた。どんなに力を入れても総司の拘束をと解くことができないのだ。さらにあまりに力を込めると四肢が斬り落とされるかもしれないので力一杯にはこめられない。

 

「こんなにも・・()ですらここまでの差があるの!?」

 

こと力と魔力においては自分に分があるとステラは考えていた。だからこの戦いでは総司が使ってくる魔術や体術をいかにして制するかを考えていく必要があると思っていたのだが……ステラは目の前の総司をにらみつける。総司はフッと笑う。ほらさっさとそれを解いてみせろと言っているかのようなその表情にさらに苛立ちが募る。

 

「絶対倒してみせる!!!!」

 

ステラは自分が纏う炎の熱量を上げる。いままでステラが纏っていた炎が赤黄色だったのが蒼光に変わっていく。

 

「ハァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

 

バチバチと激しい音が響き総司がステラを拘束するために使っていた鋼線が溶けてしまう。

 

「本当に馬鹿げた魔力だな」

 

「言ってなさい!今からその余裕を打ち砕いてやる!!」

 

ステラがまた突っ込む。今度は停止せずに総司の懐に跳び込む。そして拳を振るう。そのラッシュは激しく一つ突くたびに大気が爆発する。ただその拳は一発も総司を捉えることはできない。そして逆に

 

「っ!!」

 

拳を振るうたびにどこかを斬られてしまう。ただどれも浅く気にすることなどない。そうステラは切り捨ててラッシュを続ける。ただそれを簡単に許すような男ではない。総司の剣気がステラの肌を逆立てた。ステラはすぐにそれに気づきラッシュを止めて思いっきり後ろに下がる。しかし左足の太ももが今までより斬られていた。

 

「っ!?」

 

ステラはその事実に驚嘆する。《竜神憑依(ドラゴンスピリット)》を使うと、身体はすべてが竜と等しものになるのだ。神話の生物が神話の中で語れるような攻撃力に防御力。そして生命力。そのすべてを肉体に宿して戦っている。神話の中でも竜といえば鱗がよく語られる。竜の生命力の塊であり、不死性の象徴である鱗。それは固く簡単には傷つけることも曲げることもできないものだ。それは一枚ですらかなりの力を持っているが、それを纏っている竜はその力の集合体であり、それを貫き竜にダメージを与えることはかなり困難であることは誰もが知ることであろう。ただこの目の前にいるこの人間はそこをあっさりと貫いてきた。ステラのラッシュを掻い潜りながら放った一撃は決して万全の状態で放ったものでないはず。しかしその一撃ですらステラの鱗を貫いてくる。この事実にステラはもう一度気を引き締める。

 

「当たったら終わりなのはお互いさま!今度はその攻撃を掻い潜って私が先に一撃を入れてみせる!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「硬いな」

 

総司は振るった右手に持っていた『白和』から伝わってきた感覚を思い出す。人身体を斬りつけた感覚では明らかにないその感覚。総司は切断するつもりで、雷系の能力で強化した刃を持って斬りつけたがそれでも斬り裂けただけ。竜の鱗の硬度はやはりすごいものだと実感する。しかしそれもここまで。チューニングは済んだ。次は切断できる。そして今度は総司から跳び出す。両刃とも雷系の能力で強化し、肉体にも強化を施し突っ込む。

 

「ハッ!!」

 

そうして振るわれる刃をステラは回避する。しかしそれをたやすく許す総司ではない。引力によってステラを引き寄せ返しの刃でステラを斬りつける。

 

「っ!!!」

 

ステラの腕から血が舞う。ステラもすぐさま回避をすることを諦め、迎撃を試みる。総司の武器は小太刀であり、リーチがない武器である。よって戦いは超近接戦。この距離ならステラの拳も届く。

 

「ハァァァァァァ!!!!!」

 

ステラが拳を振るう。しかしそれは掠りもしない。さっきと同じようにスラリスラリと総司に回避されてしまう。

 

『ステラ選手の凄まじいラッシュ!!!!しかしそれは一つも当たらない!!!!!玖原選手によって回避されてしまう!!!』

 

『『空蝉』に『抜き足』それを複合して当たらないようにしてるね』

 

『たまらずステラ選手が間合いを空ける。しかしそれを玖原選手は許さない。すぐさま間合いを詰めて斬りかかる!しかしステラ選手も負けてない!!魔術によって反撃!!巨大な七匹の炎竜が顎門を開き襲い掛かる!!』

 

しかしその七匹の炎竜は地面に叩きつけられ霧散する。その炎を煙幕に総司はまた距離を詰める。そして鞘にしまった左側の小太刀『黒光』を抜き打つ。激しい雷鳴と眼がくらむような光。まさしく『閃光』の一撃で総司はステラ斬った。

 

『言葉も出ないほど完璧な一撃!!!!これは決まってしまうのか!!!!!』

 

『いやまだだね』

 

寧音がそう言った瞬間。光の中で鉄と鉄が激しくぶつかる音が響く。光に眼が追いつくとリングの真ん中で大剣と2本の小太刀が衝突していた。

 

「今のは完璧に決まったはずだぞ」

 

総司が獰猛な笑顔を浮かべる。それにステラは同じような獰猛な笑顔で返す。

 

「竜の力を舐めないでほしいわね!!」

 

総司は腹部から肩にかけてを逆袈裟に斬った。しかしもうすでにステラの身体にその傷はない。

 

「さすがは竜の不死性まで体現してるだけはある」

 

「こんな簡単に私は倒せないわよ!!!!」

 

ステラが大剣で押し返す。総司はそれに従い間合いを空けた。

 

「くっ」

 

ステラは唇を噛む。

 

「なにも出来ない。竜化してもここまで圧倒されるなんて。しかも竜の超回復を使わされた」

 

さっきの逆袈裟に斬られた傷をステラは竜の生命力をフルに使い一瞬で癒した。

 

「使いすぎるとガス欠になる。ただでさえこの力を使っていないと戦えないのに!!」

 

ステラは無条件で竜の力を使える訳ではない。もちろん前提として魔力を消費する。しかしそれと同時に大量のカロリーを消費するのだ。今日はそのために大量の食事を取ってきた。たださっきの傷はかなり深いものだった。それを瞬間的に癒すためには大量のカロリーを使う必要があった。それをしてでもさっきの交錯で一撃を当てるつもりだったのだが結果簡単に防がれてしまっている。今までのステラの行動はすべて裏目に出てしまったいる。完全に総司の手の平の上で転がされてしたっている感覚にステラは歯噛みするしかない。しかしどうやってその読み合いを制すかを考えていかなければなどと考えている。

 

「ステラ」

 

総司がステラを呼んだ。

 

「お前に一輝みたいな読み合いが出来る訳ないだろ。お前の最も得意なものはなんだよ」

 

その言葉にステラはハッとさせられた。そして一瞬にして自分に足りないものを今はいらないと切り捨てた。肉体に残っている魔力とカロリーをかき集める。集まっていく大量のエネルギーにステラの纏う炎の色が段々と白くなっていく。

 

「そうだ!!一輝と同等にたくさんの引き出しを持っているこの人に読み合いで勝てる訳がない!!ならアタシの最も自信のある()()()で一瞬でもこの人の理解を越えるしかない!!!」

 

もう大剣を維持する魔力すらこの一撃に全部を注ぎ込む。

 

「すげえエネルギーだな」

 

足元に転がっていたリングの破片がステラに吸い込まれてく。ステラの発する熱エネルギーが磁場を狂わせて引力が発生しているのだ。その光景に会場は息を吞む。これはもはや一つの惑星。それと同等のエネルギーを人が生み出している光景に会場は完全に眼を奪われていた。実況もこの光景に声がでない。そんな中実況席に座る寧音はニヤリと笑った。

 

「いくら総司ちゃんでもここまでエネルギーをため込んだ一撃は致命傷になる。しかもこの攻撃は避けれない。避ける時間すらステラちゃんは与えないつもりだろう」

 

拳とはよくも悪くも一点集中の点の攻撃。しかし今回のステラの両拳は魔力が集まり巨大な竜の爪と化していた。

 

「確かに『空蝉』を使えば回避できるかもしれないけど次の一撃で刺されちまう。あれには掠っただけでも致命的だろうし、総司ちゃんはそんなリスキーなことはしないだろうし、さてさてどうするつもりなのやら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前にいる竜はついに覚悟を決めたようだ。その両拳に巨大な爪で斬り裂きにくるのは明確。しかしそれはあまりにも巨大であるために回避は出来ないだろう。また片一方を防いでももう片一方で斬り裂かれてしまう。

 

「これはかなりやべえな」

 

総司は笑った。危機的状況。死が目の前から迫ってくる。それでも総司は笑っていた。この目の前の死神すら今の自分の障害にはならないという実感がある。

 

魔人(デスペラード)ってここまでなのか。そりゃあの時のおれでは《比翼》にも勝てない訳だわ」

 

なぜかそんなことを考えてしまうほどの余裕。

 

「さて行きますか」

 

総司は自身の魔力を解放する。今回ここを死線と断定してもいいだろう。この竜をここで完全に断つ。

 

「ふう・・・」

 

肉体に酸素を巡らせていく。使う技は決まっている。天陰流奥義 天斬。それは天陰流で最速で最強の一撃。そしてもっとも単純な一撃。剣で斬る。それだけだ。肉体を極限まで脱力し剣を振る。これが奥義なのかと教えられたときに総司は思ったものだ。しかしそれはやはり奥義だった。使い手の技量を鏡のように写し出しそれによって必殺となす。この技で《天陰》こと玖原鷹丸は戦時中の英雄となった。一振り一殺。これこそ暗殺の秘奥。ただこの技を総司は《天陰流》で唯一いまだ極めることができていない技でもあった。しかし今ここでならそれすらも超えられる気がしていた。しかし一つ問題はあった。あの巨大な爪にたいして総司の武器は小太刀。完全に近づかなければこちらの剣が当たることはない。しかしそれではあの爪に押しつぶされてしまうだろう。よってただ一つこの奥義に仕掛けをしなければならない。総司は《黒光》を鞘にしまい、《白和》を両手で握り上段に構える。すると《白和》に金色の光が集まる。そしてその光はいつしか一振りの大剣をかたどった。

 

「・・綺麗」

 

誰かが呟く。それはまさしく多くの物語で語られるあの剣のようであった。伝説の王が持っていたとされているその剣。竜を斬った伝説はその剣にはないにしろ竜を斬るには相応しい剣であろう。もちろんだがその剣はのちに七星剣舞祭の伝説として語られることなる。《竜殺しの聖剣》。またの名を『Excalibur for Dragon Killer』と。

 

 

脚に力を込め、竜は跳び出す。その速さは普通の人間の眼には全く映らないほどの速度。しかし眼の前で大剣を上段に構えた人間の眼にはしっかりと捉えられている。そしてついにその人間は金色の剣を振るった。

 

それに合わせ竜も爪を・・・・その瞬間竜の視界はブラックアウトした。記憶もショートし抜け落ちている。

 

次に目を覚ました竜に告げられたのは・・・自分がルール上勝利したこと。そして最愛の恋人も勝利したこと。自分が3日間も目を覚まさなかったこと。決勝は明後日から行われること。そして自分を()()()あの男が仲間と共に消えてしまったことであった。




いかがだったでしょうか?

次回で七星剣舞祭編は終了となります。そしてオリジナルストーリーにえと繋がっていくこととなります。

そちらもある程度はプロットも完成しているのですが、まぁ少しずつ変えつつ色々挑戦していけたらと思っています。


さてさてこれからどうなっていくのか。これからも楽しんでいただけることを祈りつつ、これからも頑張って投稿していきますのでよろしければ応援していただけると幸いです。

今回も感想、評価、批評募集しております。よろしければお願いします。

ではまた次回会いましょう!!!

簾木 健

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