落第騎士と生徒会長の幼なじみ   作:簾木健

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どうしてこうなった・・・・

今回も楽しんでいただければ幸いです。

簾木 健


足枷

「さて・・・・で?これはどういう状況だ?」

 

総司が目を細めて蔵人に掴み上げられた幽衣を見る。すると蔵人が獰猛に笑った。

 

「『閃光』。こいつは上物だな」

 

「《剣士殺し(ソードイーター)》か」

 

総司が幽衣から視線を蔵人に移す。すると蔵人は幽衣を手放し総司と対峙する。

 

「なんだ?やる気か?」

 

「そこの馬鹿と一緒にしてんじゃねぇ。俺でも我慢くらいする」

 

「そうか・・・・」

 

総司はそう言いながら手放された幽衣に視線を戻す。

 

「さて・・・・おれの後輩がお世話になったみたいだな」

 

「チッ!」

 

幽衣が苦々しい顔で総司を見つめる。さきの襲撃の折、総司の強さを最も理解していた幽衣であり、今この場で手を出してしまったら殺されるのは自分だとよくわかっていた。ゆえに舌打ちをするしかない。そんな幽衣に総司はハァとため息をついた。

 

「まぁ今回は見逃してやるよ。七星剣舞祭の前だしな・・・・・ただ次はねぇぞ」

 

一瞬、総司から濃厚な殺気が噴き出す。その一瞬でこの場にいた人間全員の肌が逆立った。

 

「チッ!!」

 

その総司の殺気を受けさらに幽衣はイラつきながら舌打ちをして会場から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・・悪い刀華。実はパーティは明日だと勘違いしててな」

 

「そうちゃんらしいね・・・・でも間に合ったし大丈夫だよ」

 

「それはよかった」

 

「久しぶりやな。総司」

 

諸星が口を挟み総司に挨拶をかわす。

 

「ああ。久しぶりだな雄大」

 

「わいは待っとったで!!いつかお前とやれんのをな」

 

好戦的な雄大の笑みに総司は困ったように笑った。

 

「おれとしては面倒だからあんまりお前とはやりたくないんだが・・・・・・負けることはないけど」

 

「ほぉ・・・ええ度胸や」

 

雄大の頬がピクピクと動く。

 

「わいに当たるまで負けんなや」

 

「それはおれのセリフだ。雄大の一回戦の相手は一輝なんだろ?」

 

総司がニヤリと笑う。その笑みに雄大は真剣な表情になった。そしてステラと珠雫に挟まれて困ったように笑っている一輝のほうを見ながら総司に尋ねた。

 

「やっぱ強いんか?」

 

「そんなの聞かなくてもわかってるだろ?もしわかってないのなら今すぐ白夜にでも聞いておいたほうがいい」

 

「・・・・・そいは楽しみやな」

 

雄大が笑う。雄大もやはり一流の騎士ということだろう。

 

「そういや総司の一回戦の相手は・・・・・」

 

「おれの一回戦の相手は「ガハハハ!!!!玖原!!!!久しぶりだな!!!!」・・・・ああ。久しぶりだな恋司」・・・・こいつだ」

 

総司は少しげんなりとする。それを見て刀華が苦笑いを浮かべる。そして刀華が声の主に挨拶をする。

 

「お久しぶりです加我君」

 

「おう!!東堂も久しいな!!まさか負けるとは思ってなかったぞ!!!」

 

「あはは・・・・相変わらず加我君は元気ですね」

 

気まずそうに笑う刀華。しかし恋司全く気にした様子はない。

 

「やはり『無冠の剣王(アナザーワン)』は強いか!!」

 

「ええ。すごい強いですよ」

 

「そうか!!ただおらの相手は・・・・・玖原!」

 

「ああ。なんだ忘れてやがるのかと思っていたぜ」

 

「まさか!?お主を忘れるわけなどありえない!!」

 

それに総司がフッと笑う。その笑みはどこか楽しそうであった。

 

「恋司、全力で来い。楽しい一回戦にしようぜ」

 

「ああ!!そうしよう!!!」

 

ガッという効果音と共に握手を交わす二人。それに刀華は苦笑いを浮かべ、雄大は暑苦しそうにそんな二人を見ていた。

 

「あっ!そういえばキリコは?」

 

総司が思い出したようにそこの三人に聞く。全員で会場を見渡してみるがキリコこと《白衣の騎士》薬師キリコはいない。

 

「いないか・・・・な。あいつ忙しいから仕方ない・・・・・」

 

総司は学生手帳を出し、メールを打った。

 

「これで良し。刀華ちょっと付き合ってもらっていいか?」

 

「うん。なにするの?」

 

「ちょっとした挨拶回りあと少し調整がしたいんだ」

 

「・・・・・わかった。それなら黒乃さん言って」

 

「いいぞ東堂行ってこい」

 

そう言いながら黒乃はタバコを咥えながら歩いてきた。

 

「黒乃さん良いんですか?」

 

「ああ。この大会の主役は選手だ。その選手が全力を出すために必要だというのなら今日は付き合ってやれ」

 

「ありがとう黒乃さん。では刀華は借りていきます」

 

「ああ。きっちり調整して来い」

 

総司はスッと頭を下げると黒乃前から移動し知り合いの来賓や他の学園の生徒に軽く挨拶を交わしていき一通りそれが終わると刀華と共に会場去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて刀華。始めようか」

 

総司と刀華はこの七星剣舞祭の選手のために開放されているトレーニング施設にやってきていた。総司はゆっくりとした動作で2本の小太刀を抜きその小太刀を両手をだらりとさげて持つ。その目は刀華を見つめている。総司のとった構えに刀華は見覚えがあった。

 

「あの構えは『比翼』の・・・・・」

 

総司の構えはあの『比翼』の構えと同じ構えだった。刀華も『鳴神』を生み出し構え臨戦態勢へ移行する。眼鏡を外し総司に目を移した瞬間総司の脳の信号の異常性に気付いた。

 

「嘘・・・全然戦闘する脳信号じゃない」

 

互いに剣を構え、向いあっている。そんな状況で普段生活している時と同じように入れる人間がいるはずがない。もしそんな人間がいるとすれば・・・・・常時戦場に身を置き戦い敵を斬ることが日常生活になっているような人間。

 

「そうちゃん・・・もしかして・・・・・」

 

刀華はその思考から一つの答えに行き着く。総司が破軍に入学する時に自身にかけた三つの枷。それを総司はついにすべて解いたということに。その三つの枷というのは

 

一つ、能力を全力で使わない。

 

一つ、人を殺さない。

 

一つ、暗殺の中で得た力を使わない。

 

この三つの枷を総司はこの二年間ずっと守ってきた。しかしついにこの枷を解いたのだ。それなら今のこの状態を理解できる。総司が『玖原』の任務を行っていた時、総司は戦争や紛争が起こっている中でそれに関わる要人の暗殺を行ったり、常人では入り込むことが不可能な場所に入り込みそこで情報を盗んだり・・・・総司は常時様々なものに気を張り巡らし生活をしていた。そんな生活を送るために総司の脳は進化をしたのだ。

 

「この短期間でまた強くなってる」

 

刀華はその事実に戦慄する。今までとは異なったベクトルだが総司は強くなっている。その事実は刀華にとっては信じられないものだった。総司クラスになれば成長は多少は緩やかになるはずなのだ。現にこの二年間の総司の成長は緩やかであり急激成長することはなかった。それは普通のことであり、ステラや一輝のようにある程度完成された騎士でも合宿の時には中々成長出来ずに悩んでいた。しかしこの頃の総司には伸び悩むとういことがない。刀華から見て一輝やステラ以上に完成された騎士であるはずの総司はこの頃あり得ない速度で成長している。確かに近頃の様々な修羅場が総司を強くしたと理由をつけることはできる。しかしそれしたとしても今の総司の成長の速度は異常だった。

 

「今回は昔に戻ったことで強くなった。でもそれはただ戻っただけじゃない。昔の力をを捨てたをことで得た力と絡み合ってさらに相乗効果を生んでる」

 

そんな理由付けをしたところで刀華はハァとため息をついた。

 

「こんな思考に意味はなかった。今は・・・・・」

 

刀華から魔力が溢れ周囲に雷が迸る。そして目の前に佇む騎士に対して集中力を高めていく。

 

「・・・・・考え事は終わったか刀華?」

 

「はい・・・・」

 

静かに交わす言葉。刀華の言葉には緊張や興奮、様々な感情が混ざり合っている。しかし総司の言葉にはなにも感じられない。無機質で冷たく鋭い声。そんな声とは裏腹に総司は微笑んでいた。

 

「じゃあ始めよう」

 

「っ!!!!」

 

合図と同時に刀華が仕掛ける。『疾風迅雷』で強化した肉体を持って総司に接近する。しかし総司は動かない。でも刀華は止まることはしない。そのまま全力で斬りかかる。総司の脳信号には変化はない。

 

「取った!!!」

 

刀華が思う。しかし次の瞬間。総司の脳信号が瞬間的に動く。取られる行動は回避。頭上から来た刀華の刀を総司はすんでのところで回避した。迅速で効率的な最低限の回避行動。しかもその目は今斬りかかられたというのに穏やかだった。しかしその穏やかな表情からは信じられないほど鋭く速い斬撃が刀華に迫ってきていた。刀華は素早く後ろに跳び回避をする。しかしその頬には薄く斬られた跡がありそこから血が流れる。

 

「刀華急におっかないな。まさか『幻想形態』じゃなくて真剣で斬りかかってくるなんて」

 

おどけたような言葉だがその声にはそんな感情はない。というか一切の感情すら感じることが出来ない。

 

「そうちゃんこそ・・・・・・なんて言うかやばい力だね」

 

「ははっ・・・・ちょっと寧音さんとステラのせいで昔を思い出してね」

 

殺気もない。剣気もない。そして脳の信号すら一瞬。しかも・・・・・

 

「そうちゃんはまだ『天陰流』も『伐刀絶技(ノーブルアーツ)』すら使っていない。それでいてこの恐ろしさ」

 

刀華はそう思いながらニヤリと笑う。もうとっくに刀華の頭のねじはどこかに飛んでしまっていた。

 

「・・・・・笑うか」

 

総司もフフッと微笑む。そしてまたさっきと同じように構えた。その構えは『比翼』を連想させ刀華の肌を逆立てる。それと同時に総司のその雰囲気に肌が逆立つ。

 

「さて続けよう」

 

そう告げると次は総司が突っ込む。抜き足を用い、また脳信号も一瞬さすがの刀華も反応出来ず立ち尽くす。しかしそこでただで斬られてやるほど『雷切』の名は安くない。

 

「ハァァ!!!」

 

刀華の全身から雷が猛り刀華の肉体を中心として全方向に雷撃を飛ばした。

 

「!!」

 

総司は雷撃を躱し刀華距離を開ける。しかしそれを刀華は許さない。空いた距離の分を一気に詰める。しかも身体には雷を纏ったまま刀を振るう。それに総司は笑った。その肉体から魔力が溢れた。すると刀華の刀は総司に当たる瞬間で一瞬停止し、後ろに弾け飛んだ。その隙に総司が斬りかかる。しかし刀華は弾け飛ぶ力を利用し、身体を後ろに投げ出しその斬撃を回避する。ただ総司は止まらない。後ろに投げ出した間合いを詰めさらに斬りかかる。刀華の頭上から振るわれる小太刀。それを刀華は『鳴神』で防ぐ。ただ防いだ瞬間気付く。明らかに小太刀の重さでは感じられない超重量をこの小太刀が纏い振るわれていることに。刀華は自らの能力で脳信号をさらに加速させ常人ではあり得ないほど素早く脱力をし力を逃しにかかるがそれは間に合わず逃しきれなかった力が刀華を襲った。

 

「っ!!!!!」

 

左足から聞こえる嫌な音と失われていく感覚。しかし今はそれを気にする暇などない。今斬りかかってきたやつが次の一撃を放ってくる。

 

「ハァァ!!!!」

 

叫び声とともに雷撃を放ち、距離を稼ぐ。しかしそれも一瞬。今までは感じなかった剣気を纏い、再びは襲い掛かってくる。刀華は剣気が向かってくる方向を見る。足を失った今もう回避も防御も出来ない。また『雷切』のように両足で踏ん張ることを必要とする技は使うことが出来ない。そうすれば刀華に選択肢は一つしかない。例えこれが時間稼ぎにすらならないこととしてこうするしかない。

 

「ハァァァァァァぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

渾身の魔力を込める。放つのは魔術の名は『雷鴎』。雷撃を飛ばすという刀華が最もよく用いる伐刀絶技(ノーブルアーツ)一つ。それに今持てる魔力のほとんどを込め放つ。そうやって放たれた『雷鴎』は果てしない大きさとなり接近するものに襲い掛かる。それに対し一切失速することなく剣士は小太刀に金色の光を纏わせ迫る。そしてその小太刀を『雷鴎』に向かって振ると『雷鴎』は斬られたところからズタズタに()()()()()()。その部分を縫うように接近し首筋に小太刀の峰を押し当てた。

 

「終了だ。ありがとうな刀華。いい調整になった」

 

「・・・・ええ。私もいい勉強になりました」

 

一瞬小太刀が魔力によって光ると刀華はスッと意識を失いそれと同時に霊装(デバイス)も消える。

 

「さてカプセルに運びますかね」

 

総司は小太刀を消すと刀華を背負いトレーニング施設を出て行った。




いかがだったでしょうか?

ちょっとバトルシーンを入れようとなどと思ったらなんかすごいことになってしまいました。しかし後悔はしていません!!これで良いんですwww

さて次回の話を少し・・・・次回はあの白衣の騎士を登場させようと考えています。ファンの皆さまお待たせいたしましたww総司との関係性もお楽しみにwww

投稿はできるだけ速く行えるように頑張りますので少々お待ちください。

今回も感想、批評、評価募集していますのでよろしければお願いします!!!

ではまた次回会いましょう!!!!

簾木 健

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