大阪の中心部から離れた、湾岸の埋め立て地。そこに無人のビル群が存在する。数十年前の都市開発の折、建物だけは建てるだけ建てたものの、肝心の企業誘致が上手くいかず、テナントが入らないまま新品同然で打ち棄てられた失策の名残だ。だが普段は人っ子一人いないその灰色のゴーストタウンは今、活気に溢れていた。立ち並ぶ露店。日本列島全国から集った人々の空まで届くざわめき。何故そこまで人が集まっているのか。その理由はただ一つ。二日後。――――このゴーストタウンに存在する『湾岸ドーム』で年に一度の学生騎士の祭典、七星剣舞祭が開催されるからだ。七星剣舞祭はもともと、プロの魔道騎士の格闘興行KOKリーグよりも国民の注目を集める一大イベントだ。例年でもチケットはもちろん、周辺にある宿泊施設の競争率は非常に高い。だが今年はその注目度に輪にかけて、破軍学園襲撃に端を発した国立暁学園に纏わる騒動が絡んでいる。一週間ほど前に起こったこの事件はその背景と共に日本全国に衝撃を与えた。背景にいたのは現内閣総理大臣月影獏牙。その人が発表した『
「ついたか・・・・」
「ええ・・・・」
ステラと総司はちょうど今大阪にたどり着いた。こんなにバタバタになってしまった発端は総司の間違いにあった。
「え?剣舞祭前のパーティって前日じゃないのか?」
「総司ちゃん・・・・・違うよ」
「マジで?」
そういうことがあり総司とステラは大急ぎで大阪にやってきたのだ。
「そういえばソージさん。こんなに急いで来たってことはなにかあるの?」
二人はタクシーに乗り込み剣舞祭の選手宿舎になっているホテルに向かう。そこで剣舞祭前のパーティは行われている。
「ああ。ちょっと約束をしててな・・・・それにパーティには一度出てみたかったんだ」
「ふーん・・・・」
「そうなことよりもステラよかったのか?お前まで一緒に来る必要はなかったんだぞ?」
「大丈夫よ。もう根を詰める時期は終わったし・・・「どの口が言うんだか」・・・うっ!」
総司がニヤニヤと笑う。それにステラは顔を真っ赤にした。
「あんだけ根詰めといてよく言うぜ」
「うう・・・・仕方ないじゃない。あのときは本当に追い込まれてて・・・・いてもたってもいられなかったんだから・・・・・」
総司と寧音のところに来たステラだがあれが根を詰めていないと言われれば嘘になるどころか、口が裂けてもそうま言えないレベルの鍛錬だった。何度もボコボコになり気絶しながらなんとか今日までやってきた。本当によくやったとステラ自身も思う。しかし・・・その中で得られたものは《とても多かった》。それは総司もステラ自身もよくわかっている。だからこそこんな風に軽口も叩くことができる。
「ステラはBブロックだったな?」
「ええ。ソージさんはAブロックよね?」
「ああ。ということは・・・・・」
「ええ。そういうことね」
ステラの目に炎が灯る。ステラの目標は一輝との再戦とそれに勝つこと。そのためには総司も越えなければいけないのだ。そしてそれでも・・・・
「総司さんアタシはあなたに勝つわ」
ステラは優雅に笑ってそう告げる。そんなステラに総司は苦笑いを浮かべた。
「その挑戦は受けてたつ。ただ・・・・ステラそれの意味をわかってるよな?」
「ええ。その意味はよくわかってるわよ。この数日骨身にしみているわ」
「そうか。ならいい」
総司がニヤリと笑う。その笑顔の裏にある獰猛さをステラはこの数日何度も味わった。それでもこの足を止めることは出来ない。
「ええ・・・・《楽しみにしてるわ》」
そこでタクシーはホテルに到着した。
一輝はパーティの会場に入った瞬間に感じたのは衝撃すら感じる視線の束といままでざわめいていた会場の沈黙だった。すぐに沈黙はまたざわめきに変わっていった。しかし・・・・
『あれが《雷切》を倒した破軍の《
『さすがにいい雰囲気を纏っているわね。研ぎ澄まされてた刃みたいに冴え冴えとしていて、とっても素敵』
『間違いなく全国クラス・・・・それもかなり上のほうだな』
『これだけ雰囲気をもってりゃひと目で強いことはわかるだろうに。こんな騎士を留年させたなんて破軍の前理事長はマジで何を考えていたんだ?』
ざわめきから漏れてくる会話は。先ほど一輝を貫いた視線がただの偶然でなかったことを物語っていた。
「へえ。さすがに全国クラスにもなると一目でお兄様の実力を見抜いてくるんですね」
一輝の隣にいた珠雫が場の雰囲気を察し、嬉しそうに顔を綻ばせた。珠雫は先の襲撃の件で七星剣舞祭を辞退した凪と葉暮姉妹の代わりに破軍と代表となりこの場に来ることができたのだ。そんな珠雫に対し一輝は・・・
「見くびっていたのは僕の方、か」
そう思いながら珠雫には気づかれない程度に、小さく苦笑する。油断してくれるかもしれない。なんて甘い目論見だったのだろうか。ここに居るのは全国から選りすぐられ、なおかつ暁学園という巨大勢力の登場にも臆さずに残った猛者たちだ。ランクというステイタス一つに踊らされて、油断するような馬鹿がいるはずない。相手の実力など、一瞥の下に見極めることができる。ここではそれが出来て当たり前なのだ。そんな雰囲気に触れいよいよ一輝は実感した。
「ついにここに来たんだ」
日本の学生騎士、その頂点を決する戦いの場へ。この場所なら間違いなく、自分の可能性を極限まで試せるに違いない。とそのような実感に一輝が武者震いしていると
「あっ!黒鉄君!!」
突如声がかかる一輝と珠雫がその声がするほうを見ると薄い黄色のドレスに身をつつんだ『雷切』こと東堂刀華が居た。
「東堂さん?どうしてここに?」
「えっと・・・少し今回私は黒乃さんの手伝いとしてちょっと早くから大阪入りしてたんですけど、私さえよければパーティに参加してもいいと黒乃さんに言われまして」
「ああ。それで・・・・」
「ええ。ちょっと居づらいですが・・・・・」
刀華が少し気まずそうに笑う。一輝もその笑みに気まずくなる。
「そ、そういえば総司先輩はどうしたんですか?」
その気まずさを抜け出すために一輝は質問をした。
「あっ!それも聞きに来たんです。黒鉄君はそうちゃんを見てないでしょうか?」
「いえ・・・僕は見てませんが・・・・珠雫は?」
「私も見てませんね・・・・本当に玖原先輩来るんですか?」
「普段はこんな会には参加しないんでが・・・なんか今回は参加するみたいで・・・・・」
「そうなんですね・・・・まぁ総司先輩が来れば一瞬でわかると思いますよ」
「ええ。そうですよね・・・・・」
「あっ!お、お兄様!」
突如、隣の珠雫が焦ったような声でスーツの裾を引いてきた。
「どうしたんだい?」
「あ、あれを!」
ピッ、と珠雫が指すのはパーティの料理が並べられているテーブル。その前に立ち、誰かを探すようにあたりをキョロキョロと見回している女性だ。
「あの人は・・・!」
「えっ・・・・」
一輝と刀華もすぐに珠雫が驚いた理由を悟る。その女性の、様々な色の
「暁学園の、《血塗れのダ・ヴィンチ》サラ・ブラッドリリーさん・・・・」
「まさかあれだけのことをしておいてパーティに来ていたなんて思いませんでしたね」
「誰かを探してるみたいですね・・・・」
キョロキョロとあたりを見回しているサラ。その視線はピタリと一輝の元で止まった。そして次の瞬間――――
「えっ」
あろうことか、サラは早足で一直線に一輝に向かってきた。ようやく見つけた、と言わんばかりに。そしてサラは一輝の目の前、息がかかるほ程の距離で立ち止まると、無言のままとても真剣な表情でじっと一輝を見つめる。
「じぃー」
「あの、僕に何か?」
突然の接近に一輝は困惑する。サラの瞳は確実に一輝だけを映しており、彼女が自分に何か用があることは明らか。しかし自分とサラに接点などはなく、何か用なのかまるで予想がつかないからだ。一方でサラはそんな動揺する一輝の顔を見つめ―――
「・・・・・・・いい」
無表情のままポツリと呟くや、次の瞬間、一輝の肩や胸板を自身の手でぺたぺた、まるで持ち物検査でもするように触り始めた。
「うわっ、ぶ、ブラッドリリーさん!?」
「こ、こら!貴女突然なにをしてるんですか!?」
「黙ってて。今集中してる」
一輝や珠雫の驚く声にも耳を貸さず、サラの服の上から一輝の身体の輪郭をなぞる。相手はテロリスト。その上一度牙を剝いてきた敵だ。無防備に身体を触らせるのは危険。それは一輝もわかっているのだが―――
「すごい集中力を感じる・・・・」
どうにも、サラのこの行動からは悪意や害意といった負の感情は感じなかった。むしろ、邪魔するのを躊躇うほどに真剣な感情を感じる。だから一輝はサラを無理矢理引き剥がしはせずに、躊躇いながらも彼女が何をそう真剣に確かめようとしているのか聞き出そうとし――――次の瞬間、サラのよってスーツの下に着ていたシャツを力任せに破られた。
「「えええええええっ!?」」
始めましょうといったのに戦闘シーンはありません。すみません!!
さてついにやってきました大阪。七星剣舞祭本戦です。少し戦闘に入るまでありますができるだけ早く戦闘に入っていきたいと思っていますのでよろしくお願いします!!!
今回も感想、批評、評価募集していますのでよろしければお願いします!!
ではまた次回会いましょう!!!
簾木 健