でも繋ぎの話として後悔はしてません!
今回も楽しんでいただけると嬉しいです!
簾木健
「はっ!!」
試合から一時間後気を失っていた刀華は眼を覚ました。そして状況を確認する。ベットに横たわる自分。そして介抱する泡沫とカナタ。その後ろで壁に寄りかかって立っている総司。その表情と光景に自分が敗れたことを確信する。
「そっか・・・・負けちゃったか」
刀華の記憶・・・・記憶の切れる最後の瞬間は疾駆する《鳴神》が一輝を捉えたと感じたところからない。
「そうちゃん、我ながら最高の《雷切》だったと思うんだけど・・・・どうだった?」
総司はその刀華の問にフッと微笑んだ。
「今までは最高だったんじゃないか?放った瞬間でなら一輝を上回ってた」
「・・・・放った瞬間ではね」
刀華は自嘲気味に笑う。総司の言葉の意味が刀華の身に染みる。次の瞬間に一輝が刀華を上回って行ったという事実は自らの甘さを痛感させられる。でもそれと同時に刀華は自らの可能性を強く実感していた。
「現時点では私はまだ《落第騎士》には届かない。この負けは必然。でも・・・・・私はまだまだ強くなれる」
今現在の一輝との差。その差は必ず埋める。埋めてみせる。と刀華は自らの心に強く誓った。それを外から総司は感じてまたフッと笑った。
「それでさ・・・・刀華」
「うん?」
そこでふと気まずそうな表情で泡沫が話しかけてくる。
「『若葉の家』には僕から連絡しようか?」
そこで刀華は思い出す。そういえば横断幕作っていたのだった。ちゃんと自分は負けたことを伝えなければならない。
「気を遣ってくれてありがとう。でも大丈夫。自分のことは自分で言うよ」
「いいのか?無理してるならおれから連絡してもいいぞ?」
総司も気を遣ってくれている。でも刀華それにも首を横に振った。
「だってこの負けに何も恥じることはないから」
刀華は全力も出した。渾身のあらん限りの力を使い果たし負けた。あの一刀は誰に見せても恥ずかしくない。だから
「私は胸を張れるよ」
それから一週間後、破軍の代表に選び抜かれた六人の正式な任命式が行われた。しかしその場には何故か四人しかいない。
「私情により、玖原総司と有栖院凪は欠席している」
カナタはその理事長の言葉を聞いて横に居た刀華に尋ねた。
「・・・・・・会長」
「うん?どうかしましたか?」
「今日総司さんはどこに行ったんですか?」
「そうちゃんは今日朝から出かけて行ったの。なんか寧音さんのところに行くって・・・・」
「西京先生のところ?」
「うん。なんか呼ばれたみたい」
「・・・なにかあったんでしょうか?」
「いや、それは大丈夫みたい・・・・たぶん
「えっ・・・・・」
刀華の言葉にカナタが顔を青くする。
「それって
カナタの質問にうーんっと苦い顔で刀華は笑った。
「まぁ寧音さんも公式試合前だから
「前に調整と言って行ったのが災害レベルでしたですもんね・・・・」
「うん・・・あっ・・・・そろそろ準備しなきゃ」
そう言って刀華はカナタから離れていく。刀華にはこの場で破軍学園代表団長に校旗を渡す仕事があるのだ。刀華が離れてしまった後でカナタは一つため息をついた。
「総司さん・・・・」
カナタがそう名前を呟いた時、当の本人は二つの小太刀を抜き構えていた。場所は東京の郊外にあるKOK選手専用の演習場。目の前に立つのはもちろん西京寧音。その両手に鉄扇を持ち総司と対峙していた。
「さて総司ちゃん。今回の調整は
「・・・・いいんですか?」
「なに遠慮してんだ?いいよ。アタシは調整になるし、総司ちゃんも少しは錆落としときたいだろ?」
寧音がニヤリと笑う。それにつられてか総司もニヤリと笑った。
「わかりました・・・だた寧音さん」
「うん?なんだい?」
「・・・・・・あの時と同じと思わないほうがいいですよ?」
「っ!!!!」
総司から魔力が放たれる。その魔力はAランクである寧音からしても、ヒヤリと冷たい汗を流すほどだった。
「こりゃこっちも出し惜しみしてらんねぇ・・・・」
寧音はそう思いながらもさらに笑顔になる。昔知っている子の成長を実感した喜び・・・・いやそれ以上に寧音はある喜びを実感していた。
「こんな強い相手と戦えることが嬉しくないはずはない!!」
その後激しい爆音と地震が何度もその地域を中心として起こったらしい。
七月中旬。黒鉄珠雫は破軍学園にある演習場である相手と向かい合っていた。
「ハァハァ・・・・」
息切れを起こす身体。魔力も残り少ない・・・・それでも・・・・・
「くっ!!!」
攻撃は止まらない。
「ハァァァ!!!」
飛んでくるのは雷撃。それを珠雫は水を使って防ぐ。
「あっ!!」
しかし今までは防ぎきっていた雷撃だったがついに水の守りを掻い潜り珠雫に直撃した。
「っ・・・・・」
珠雫は膝から崩れ落ちる。そんな珠雫に雷撃を打っていた相手がやってきた。
「まだまだだな・・・・・・ただ魔力制御はさらによくなった。超純水の生成速度も速くなってるし水に込められて魔力の質も濃い。まぁもうちょい持続力を付けれれば文句なしだ」
やってきたのは玖原総司。珠雫は総司の特訓を受けることにしたのだ。しかし・・・・捨てることはしなかった。
「私はそれを捨てることができません。でもそれでも強くなりたい。このままでお兄様を迎えてあげることが出来る人は私以外にはいないんですから」
それが珠雫の答えだった。その答えはどうやら総司の満足の行くものだったようでこうして総司は珠雫に鍛錬をつけていた。総司がつけているのは魔術の訓練。珠雫は小太刀の扱い方なども教えてくれると思っていたので初日にそれについて尋ねると総司は・・・・・
「おれの小太刀は確かに基礎をきちんと基にしたものだけどよ・・・おれは感覚派でな。武術の方は教わるのなら一輝のほうがいい」
と言って武術は教えなかった。その代わりの魔術については今のようにとことんいじめ抜かれていた。
「それで・・・・・あれは出来そうか?」
「・・・正直難しいですね」
「でも、できなくはないだろ?」
総司がフッと笑う。それに珠雫はムッと顔を顰めた。
「やりますよ!!やってやりますよ!!!」
「なんか投げやりだな。まぁいい・・・・そっちのほうもしっかりやっとけよ。今回はこれで終わりだ。お疲れさん」
「ええ。ありがとうございました」
「お疲れさま。珠雫」
「ええ。ありがとうアリス」
総司はそんな二人に背を向け去っていく。
「・・・・本当にすごい」
「ええ。珠雫の鉄壁の守りが子ども扱いなんてとんでもないわ」
「それもだけど・・・・・この間より雷撃が少し強くなってたの」
「え?」
「その前もちょっと変わってた。あの人は無造作に雷撃を飛ばしているように見えてそのすべてをコントロールして飛ばしているの・・・・・私よりも遥かに魔力制御力が高い」
「っ!!!!」
珠雫は魔力制御に関しては一年生主席だった。その力は選抜戦でも如何なく発揮されその点では生徒会長でもある東堂刀華にも通用した。でもその力を持ってしても玖原総司とは圧倒的な差がある。
「あれで剣術のみでお兄様と戦える実力があるなんて・・・・・本当に信じられない」
珠雫と凪は総司が去っていく背中をその姿が見えなくなるまでずっと見ていた。
「お疲れ刀華。刀華も今飯か?」
寮の食堂。総司はそう言って持っていたトレーを置いて刀華の前の席に座る。
「そうちゃん、お疲れ様。トレーニング?」
「おれのじゃないけどな。珠雫のやつだ」
「ああ。なるほど・・・・・どう?」
「まぁ魔力制御に関しちゃちょっと意識が甘いだけで天才だからな。どんどん伸びるよ」
「そっか。それは楽しみだね」
刀華はふふっと笑ってお味噌汁を飲む。総司もいただきますと言って持ってきた鯖の味噌煮に手を付け始める。
「そういえばカナタや泡沫は?」
「うたくんは仕事。この頃また溜めちゃっててね。それに区切りがつくまでさせてるの。カナちゃんはなんか用があるとかで実家に戻るって連絡来てたよ」
「なるほどな・・・・そういえばもう少しでテストもあるな・・・・泡沫は大丈夫か?」
「うーん・・・・それなりに大丈夫だと思うよ。赤点とかにはならないと思う」
「そうか・・・・で?
「・・・・・・」
総司の問に刀華の顔をさっと伏せる。
「おい、刀華」
「・・・・・」
黙っている刀華に総司はハァとため息をついた。
「飯食ったら見てやるよ。一般教科だろ?」
「はい・・・・お願いします」
「了解」
刀華は頷いて頭を下げる。それに総司また一つため息をついてからさらに鯖を食べ進める。刀華はハァとため息をついて顔を上げてあることに気付いた。
「そうちゃん。ちょっと動かないで」
「えっ?どうした?」
刀華にそう言われ総司がピタっと動きを止めると刀華はスッと椅子から腰を上げ手を伸ばす。そして総司の口元についていたご飯粒をスッと取った。
「お弁当ついてるよそうちゃん。もう・・・・」
刀華はそう言いながら手で取ってご飯粒を自分の口に入れて食べた。ただ次の瞬間ハッとして段々と顔を赤くしていく顔を伏せていく。それを見ていると総司も段々と恥ずかしくなってくる。総司はご飯粒がついていた辺りをかきながら言った。
「悪い刀華・・・・ありがとう」
それに刀華は顔を伏せたまま答える。
「いえ・・・こちらこそ・・・・お粗末さまでした」
そんな二人を見て食堂で何人もの人が机に突っ伏したのは当然のことだろう。
どうだったでしょうか?
楽しんでいただけました?
今回は完全に繋ぎの話です。これから合宿編そしてその後につながっていきます。
これからも楽しんでいただけるよう頑張っていくのでよろしくお願いします!
簾木健