落第騎士と生徒会長の幼なじみ   作:簾木健

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まさかの一万字オーバー・・・詰め込みすぎました。

投稿も遅くなってしまってすみません。いつものごとくまとまってないですが納得できるものが書けたと思っています。

では今回も楽しんでいただければ嬉しいです。

簾木 健


剣士

「ということになった訳だ」

 

総司はステラに対して今回の一件について説明をし終えた。ステラは話が終わると目を伏せてしまう。

 

「ステラわかってると思うが・・・・「知ってるわよ。イッキが普通では伐刀者(ブレイザー)として生きることができないことは」・・・そうか」

 

そこでステラは目を上げキッと総司を睨んだ。

 

「でもソージさんがそのまま・・・・・ごめん。それじゃダメなのね」

 

「ああ。ここから先一輝が伐刀者(ブレイザー)として生きていくためにはこの辺でけりをつけないといけないんだ。それも自分の力で」

 

「・・・ソージさん。正直に教えてイッキがトーカさんに勝つ可能性はどれくらいあると思う?」

 

「・・・・正直に言っていいんだな?」

 

総司の確認にステラが頷くのを見てから総司は口を開く。

 

「おれは一輝が勝つ確率は一割かもっと低いと考えている」

 

「なっ!?」

 

その余りに低い可能性にステラは絶句してしまう。さらに総司は続ける。

 

「しかもこれは一輝が刀華の『雷切』を打たせなかったとしての確率だ。もし『雷切』を使わせてしまったら・・・・勝てないだろう。一輝には現状では刀華のクロスレンジ、『雷切』を突破する手段はない」

 

「・・・・でもイッキにはクロスレンジしかない」

 

ステラの言葉に静かに総司は頷く。それがステラにあまりにも低すぎるこの可能性が現実だと認識させてきた。

 

「一輝もそれがわかってるんだ。それに一輝はさっきも言ったように巌さんの本質に触れてしまったからな」

 

「巌さんっていうのがイッキのお父さんなのね・・・・それはアタシもイッキから聞いたわ。実はずっと守られたって・・・・」

 

「巌さんはなんだかんだで子どもたちを大切に思ってるからな。でもだからこそ一輝は『なにもするな』だったんだ」

 

総司はハアとため息をつく。

 

「今一輝は色んなものと戦ってるんだ。なのにくだらないことでも悩んでるみたいだし・・・・このままじゃ確実に負けるな」

 

「くだらないこと?なんで迷ってるの?」

 

「・・・あーそれは一輝に聞いてくれ」

 

総司は苦虫を潰したような顔になり席を立つ。

 

「悪い邪魔をしたらそろそろ帰るな」

 

「えっ・・・ソージさん・・・」

 

「一輝の悩みに関してはたぶん珠雫が気づいてる。だからそっちは珠雫に聞いてくれ。たぶんそれが解決すれば少しはよくなるだろうよ。じゃあな」

 

「え、ええ」

 

総司はそさくさとステラと一輝の部屋から出て行く。そして寮の廊下で総司はハァともう一つため息をついた。

 

「あいつ、彼女にくらい悩みを相談しろよ・・・・ここはあいつのところよりも・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ・・・・」

 

「あら珠雫。ため息なんて幸せが逃げるわよ」

 

「だってアリス・・・お兄様の相手があの『雷切』なんて・・・・」

 

「そうね・・・確かに厳しい相手ね」

 

「厳しい相手すぎよ・・・・玖原先輩じゃないだけよかったけど・・・・・」

 

「確かにあの人が相手だったら・・・・あら?」

 

そこで部屋にノックの音が響く。

 

「こんな夜に誰かしら・・・・」

 

「そうね。アリス出てくれる?」

 

「ええ。ちょっと行ってくるわね・・・・」

 

凪はドアのほうに行き、スッと覗き穴から外を覗きドアの前にいる人物を確認して驚く。

 

「あら?珍しいお客さんね・・・・どうぞ」

 

「悪いな。珠雫はいるか?」

 

「ええ。入る?」

 

「出来れば頼む」

 

「わかったわ。珠雫。お客さんよ」

 

「お客さん?あっ・・・総司先輩・・・」

 

「悪いな。珠雫。ちょっといいか?」

 

「はい。どうかしましたか?」

 

総司は申し訳なさそうな入ってくる。そんな総司が珍しく珠雫も怪訝そうにしながらも総司を迎え入れた。そして入ってすぐ総司は話を切り出す。

 

「珠雫。最終戦の一輝の相手聞いたか?」

 

「・・・・ええ。『雷切』ですよね?」

 

珠雫の答えに総司が頷く。

 

「そうだ・・・・その件なんだが・・・・実は黒鉄家が関わってる」

 

「・・・・またですか?」

 

「ああ。ちょっと色々あってな」

 

総司はなにがあったのか珠雫と凪に説明した。

 

「じゃあ、そのせいで一輝は会長さんと戦うことになったの?」

 

「ああ。珠雫わかっていると思うが・・・・」

 

「いえ。むしろありがとうございます。あの兄の目標に沿う形で手助けをしていただいて」

 

珠雫は総司に向かって頭を下げる。それに総司はくすぐったそうに笑った。

 

「いや、巌さんのやり方にはおれも疑問を覚えていたしそれはいい。ただ実はちょっとな・・・・」

 

「なにか問題でもあるんですか?」

 

珠雫が首を傾げる。それに総司は少し言い淀んでから答えた。

 

「一輝自身の件だ」

 

「お兄様自身の件ですか?」

 

「ああ」

 

総司が頷く。そしてこう続けた。

 

「その問題を解決しないかぎり一輝は刀華とまともに勝負にもならない」

 

「なっ!?」

 

その言葉に珠雫は驚きに声をあげ、凪も驚き目を見開く。総司はそんな二人の前で頭を掻く。

 

「話によるとたぶんうちの泡沫が問題なんだ・・・・あいつが少し余計なことを言ったみたいでな。それで相談なんだが・・・・・その解決を珠雫、お前に頼みたい」

 

「・・・・・なんで私なんですか?ステラさんの方が・・「いやここは珠雫のほうが適任だ」・・えっ?」

 

珠雫がおれの言葉に目を見開く。凪はフフッと笑って総司を見ていた。

 

「ステラは一輝にとって心の支えであると同時に目標であり最高の好敵手だ。だからこういったことでは良くない。ここは珠雫、お前のほうが適任なんだよ」

 

総司は上手く言葉を使い珠雫を誘導していく。そんな総司を見ていた凪はフッとさらに笑う。

 

「似てない似てないって言ってるくせに、父親にもよく似ているのね」

 

総司自身も自分は交渉などを苦手だと認識している。しかし実際はかなり巧妙で口がよくまわるのだ。誤認さえ改めればいい政治家などにもなれるかもしれない。

 

「まぁ本人は嫌がるでしょうね」

 

凪の笑みが苦笑いに変わる。そうこうしているうちに珠雫は丸め込まれていた。

 

「では玖原先輩どうすればお兄様を・・・・」

 

「悪い。具体的な方法は思いついてないんだ。でもその悩みの根幹なら教えてやれる。まぁ最も珠雫なら前から危惧していたかもしれないけどな」

 

「私が危惧していたこと?なんなんですか?お兄様の悩みというのは?」

 

「それは・・・・・・一輝自身が自身の価値を低く見積もっていることだよ。珠雫は・・・・・・いやアリスも気づいてるんだろ?」

 

「・・・・ええ」

 

「まぁね」

 

総司の問に二人が頷く。一輝の問題。それは一輝が生きてきた道が影響している。総司には刀華やカナタがいた。しかし一輝にはだれもいなかったのだ。そのせいで一輝は自分が誰かの思いなどを背負うことを知らない。それが一輝自身の問題だった。

 

「一輝は今でも一人で戦ってるんだ。でもそれだけでは刀華は勝てない。というか一輝自身がそれを出来ないと思っている」

 

「はい。お兄様を取り巻く環境は変わりましたが・・・・・たぶんまだ一人なんです」

 

「一輝は自らの心や自らを取り巻く環境に鈍いのよね」

 

「そこの問題を少しでも取り除いてやってほしいんだ。どうだ?出来るか?」

 

総司の言葉に目を伏せ珠雫は考える。少ししてスッと顔を上げた珠雫の目には確かな覚悟が宿っていた。それを見て総司はフッと笑う。

 

「じゃあ頼む」

 

「わかりました・・・・・・ただ一つ聞いてもいいですか?」

 

「?なんだ?」

 

「玖原先輩どうしてお兄様のためにここまでしてくださるのですか?むしろこのままお兄様が悩みを抱えたまま戦いに向かったほうが『雷切』のためになるんじゃないですか?」

 

珠雫の質問に総司は声をあげて笑った。

 

「ハハハ!!刀華のためになるか・・・・珠雫それは違うぞ」

 

「違う?」

 

訝しげな目で見つめる珠雫に総司は獰猛な笑みを浮かべて答えた。

 

「おれにしても刀華にしても一輝にしてもただ不調の相手に勝つだけで満足する人間じゃない。己を高めるためなら例えそれが修羅の道であったとしても進む。刀華も一輝の不調を知ればそれを解消しようとしたさ。一輝だってそうだろ?戦うならば相手の全力を真っ向から切り伏せて進みたい。そして己を高める糧としたい。そうやって戦って強くなる。それがおれたちなんだよ」

 

この言葉に珠雫は戦慄する。そして同時に思った。

 

「狂っている。この人は完全に狂っている」

 

ただ珠雫はそれが自分が一輝の隣に立てない理由を突き付けられた気もした。そのせいで顔を強張らせる珠雫に総司は真剣な表情で言う。

 

「珠雫。そんな甘い心構えじゃこの先・・・・「ストップ」・・・アリス」

 

総司の言葉を凪は遮った。それに総司は困った顔をする。

 

「アリスここは・・・・・」

 

「もう良いじゃない。それにそこから先は珠雫自身が一番わかってるわよ」

 

「・・・・ハァ。そうだな」

 

総司は諦めたように息を一つ吐き部屋を出ていく。そして部屋のドアを開けようとして総司はなにか気づいたようにハッとした。そして振り返らずに言った。

 

「珠雫、もしお前がその心構えを捨てるのなら・・・・・おれのところに来い。鍛えてやるよ」

 

そして総司は部屋を出ていった。

 

「珠雫。大丈夫?」

 

「・・・・・・ええ。核心を突かれたわ」

 

珠雫はソファーの上で蹲る。

 

「私にはお兄様やステラさん、玖原先輩とは決定的に違う部分がある。それが私の弱さ・・・・でも玖原先輩が言うように私がそれを捨てれば・・・・・っ!!」

 

そんな珠雫をアリスは突然抱きしめた。

 

「あ・・アリス?」

 

「珠雫」

 

アリスが優しく告げる。

 

「珠雫、もしそれを捨ててしまったらもう戻れないわ。それくらい人にとって大切なものなの。でももしそうまでしても一輝についていきたいのなら・・・・・」

 

「ありがとうアリス」

 

珠雫はスッと手を添えアリスを抱きしめ返す。

 

「少し考えてみるわ。それに今はお兄様のほうが優先だしね」

 

「ええ。そうして頂戴」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうちゃん!!」

 

「ああ。ただいま刀華」

 

寮の部屋に汗だくで制服をボロボロにした総司が帰ってきたことで刀華が目を見開く。

 

「なにしてるん!?明日は最終戦なんよ?」

 

時刻は最終戦の前夜。刀華最後の調整を終え自室でゆっくりとしていたところに総司がそんな状態で帰ってきたのだ。

 

「一体どんな鍛錬したんそうちゃん?」

 

「・・・・・ちょっと自分の全力と戦ってきた」

 

「なっ!?」

 

刀華が絶句する。総司の言った鍛錬方法。それは昔から総司が行っている鍛錬方法であり、最も過酷な鍛錬方法だ。イメージというのは達人が行うと凄まじい次元になり、それはもはや実体といえるレベルになる。総司が戦った自分自身、それは間違いなく()()()()だったはずだ。

 

「最終戦前になんていうことを・・・・・」

 

ただそんな刀華に総司はフッと笑いかけた。

 

「ちょっと追い込みたくなったんだ。それに刀華そっちこそ大丈夫なのか?明日の相手は・・・・」

 

「ハァ・・・・・」

 

刀華は総司に対してため息をつく。

 

「どうしてこんなことを・・・・・」

 

「ちょっと強くなりたくてな」

 

総司は目をスッと細める。刀華にはその目が見据えるところがあまりにも遠くあることに気付いた。

 

「そうちゃんに取っては七星剣舞祭すらも通過点・・・・いや、それですらないのかもしれない」

 

果てしなく遠く、あまりにも先にいる総司。でも・・・・

 

「そうちゃん」

 

「うん?」

 

「私は明日黒鉄君を斬るよ」

 

「・・・・・」

 

絶対について行くと誓ったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて行くか。刀華と一輝の戦いを見たいし、さっさと片付けるか」

 

総司は速足で入り口に向かう。その腰には《白和》と《黒光》を携えて。

 

「さて、一瞬で締める」

 

総司は選抜戦で初めて最初からその二本を抜き放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生方、どうですか?試合の方は?」

 

総司はゆっくりとそこに居た人物たちに近づいていく。

 

「玖原と貴徳原か・・・・最終戦は?」

 

そこに居た黒乃が総司に話しかける。それに対して総司は右手に持ったメダルを見せる。それはこの破軍の代表を表すメダル。

 

「やっぱり勝ったんだ。さすが総司ちゃん」

 

寧音がニヤリと笑う。

 

「ありがとうございます。で?刀華たちは?」

 

「まだ始まっとらんよ」

 

その声に総司は目を見開いた。なんせそこに居た人物は生ける伝説なんだから。

 

「まさかおいでなられてるとは・・・・南郷先生」

 

そこにいたのは刀華の師であり総司の師の永遠の好敵手、《闘神》南郷虎次郎であった。

 

「ふぉふぉ。刀華の相手が『黒鉄』と聞いたからの。足を運ばんわけにもいかんじゃろう?」

 

「まぁそうりますよね・・・・・というかなんで試合が始まってないんですか?確か今日は全試合同時開始だったはずですが?」

 

「東堂の奴が遅刻したらしい・・・・玖原お前知らなかったのか?」

 

「え?」

 

「総司さん。会長は総司さんの試合を見てからここに向かったんですよ」

 

「ハァ?あいつなにしてんだ。今回の試合は・・・・「総司」・・なんですか南郷先生?」

 

そこで口を開いたのは南郷であった。南郷は鋭い眼で総司を見つめ言う。

 

「刀華はこの試合に臨むために最高の心理状態を作ったんじゃ。どうやらこの試合・・・刀華はすべてを賭けてでも勝つつもりみたいじゃの・・・・『黒鉄』の男はそこまでの強さなのか?」

 

「・・・・・それは一輝が出てくればわかりますよ」

 

総司がそう言い終わると実況が叫んだ。

 

「ご来場の皆さんお待たせしました!!!七星剣舞祭代表選抜戦最終試合を開始します!!!!」

 

赤いゲートからゆっくり入ってくる刀華。

 

「赤ゲートより今、《雷切》が姿を見せました!十九戦十九勝無敗。そのすべてを無傷で勝ち抜き圧倒的な強さを見せつけてきた我らが生徒会長。成績低迷の破軍の中にあり、輝き続けるその姿に私たちはどれだけ勇気づけられてきたことでしょう。彼女こそ我ら破軍の誇り!燦然と輝く一番星!栄光の道を歩み続ける綺羅星が最後の七星剣舞祭へ臨むため、決戦の場に向かいます!!三年《雷切》東堂刀華選手!!今万人の期待を背に、決戦のリングに立ちましたぁあ!!!」

 

煽った実況に総司は少し苦笑いを浮かべながら刀華の様子を見る。まっすぐ背筋を伸ばし、青ゲートを見つめるその立ち姿はまさに威風堂々。その姿から総司は確信する。

 

「完璧に仕上げてこの場に臨んでやがるな」

 

総司がそう思っていると総司の横で『闘神』が笑った。

 

「ふぉふぉ。やはり今日の刀華は一味違うようじゃの。総司なにがあったのじゃ?この場にここまでの覚悟で臨む理由がなにかあるのか?」

 

「・・・・・ちょっと色々ありまして」

 

「そうか。さて『黒鉄』のほうはどうかの・・・・」

 

そこで実況がまた入る。

 

「そして青ゲートより姿を見せるのは同じく十九戦十九勝無敗。しかしながらその歩んできた道は《雷切》とは真逆!誰にも相手にされず、誰からも認められずただ一人、地の底に取り残された一匹狼。しかし・・・・彼は這い上がってきました。《紅蓮の皇女》を!《狩人》を!《速度中毒》を!破軍の名だたる騎士たちを次々になぎ倒して!今や彼の名を知らない者は破軍にはいません!破軍が誇る最強のFランク!一年《落第騎士》黒鉄一輝選手。天に牙剥く狼が、今、星を喰らうべく決戦の舞台に上がりましたぁぁぁ!!!」

 

続いて、青ゲートより一輝が姿を見せる。その一輝に総司は笑った。その様子に黒乃が気付く。

 

「嬉しそうだな玖原」

 

「・・・・ええ。まさかここまでとは」

 

総司の笑み。その笑みは黒乃や寧音にとってとても懐かしいものによく似ていた。

 

「恵さん、本当に彼はあなたに似てきましたよ」

 

「あれが刀華の相手か・・・・ふぉふぉ。強いの」

 

老人が言う。その言葉にその場に居た全員が反応した。

 

「南郷先生。わかりますか?」

 

「わかるとも。刀華があそこまで集中する意味も納得できる。あの小僧は・・・・・強い」

 

「さすが黒坊だね。完璧に調整してあそこに立ってる。こりゃっすごい戦いになるねぇ」

 

寧音が面白そうに笑う。そこで総司の腕を引いてカナタが総司に聞いた。

 

「総司さん。この戦いどうなるとお思いですか?」

 

カナタが不安そうに尋ねる。その表情に総司は察する。一輝が放つ気配、それが今この会場を呑み込んでいる。完全に場を掌握するほどの気配にカナタが不安がっているのだと。

 

「・・・・・・普通に戦えば刀華が勝つ」

 

おれは少し考えてからそう言った。するとそれに寧音が口をはさむ。

 

「普通にか・・・・総司ちゃんそれって普通に戦わなければ黒坊が勝つことがあるってことかな?」

 

「・・・・・・はい」

 

「っ!?」

 

総司の肯定にカナタが目を見開く。それにほぉうっと南郷が自らの顎髭を撫でる。

 

「では玖原、どうすれば黒鉄が勝つんだ?」

 

「・・・・方法自体はシンプルです」

 

総司が二人を見つめ、そして悟る。たぶん一輝は総司が今から言う方法で刀華と戦うつもりだと。一輝ほどの生粋の剣士がこの場でその手段を用いないわけがない。

 

「刀華の『雷切』で斬られる前に刀華を斬ればいい」

 

「「「なっ!?」」」

 

総司の言葉に南郷除く全員が驚きに声を漏らす。総司はそのまま続ける。

 

「『雷切』を打たせない方法はある。ようは抜刀術なんだから刀を抜かせて戦えばいい。でも一輝にはそれを為しえるだけの剣技は持っているが、魔術戦で戦える力はない以上いずれジリ貧になる。だからもし持久戦になれば圧倒的に一輝が不利になる。それならもう短期決戦しかない。でも刀華には『雷切』がある。ただもしそれよりも早く剣を届かせることが出来るなら・・・・・・『雷切』を真っ向から破り勝てる。それに・・・・・・」

 

総司はそこでフッと笑う。それにカナタは首を傾げ、黒乃と寧音もなにが可笑しかったのかわからず勘ぐるような視線で総司を見た。でもただ一人納得したように『闘神』は頷いた。そして総司はフフッと笑いながら言った。

 

「一輝ほどの剣士なら真っ向から刀華に、『雷切』に打ち勝ちに来ますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕には資格なんてないと思っていた。誰かのためになにかを背負って戦うなんておこがましいと。でも違った。僕は僕自身が気付かない間にそんな人間になることが出来ていた。それを珠雫がアリスが、今まで戦ってきた友がそして最愛の恋人が教えてくれた。

 

「お兄様はもう決して一人なんかじゃないんです。確かに最初は一人だったかもしれません。その時間はとても長かったかもしれません。だけど・・・・」

 

そこで珠雫が周りを見る。そこには友達、弟子や今まで一輝と戦った好敵手たちがいる。

 

「今はこれだけ多くの人が、お兄様を応援してくれています。試合があってここに来れなかったステラさんとアリスも、お兄様の勝利を願ってくれています。《落第騎士》は私たち全員のヒーローなんです」

 

「イッキも勝って!そして、二人で行きましょう!騎士の高みへッ!!」

 

駆けつけてくれたステラの言葉・・・・・もう迷いはない。だから

 

「勝ってくるよ!」

 

そして僕は最強の相手に向かいあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「刀華さんありがとうございます」

 

「なにがですか?」

 

「この戦いに上がってくれたことです。僕のわがままでこれは決闘にしてしまった」

 

「いいんですよ。だって・・・・」

 

口の端を笑みの形に吊り上げて、スタンスを開く。

 

「私はずっと思っていたんですからこの人と戦いたいと」

 

大気に稲妻が走り、その稲妻は刀華の手に収束し《鳴神》を形作る。試合が待ちきれないという表情に一輝は・・・

 

「それは僕も同じですよ」

 

告げて、己の愛刀である黒い日本刀を右手に顕現させる。そうだ。彼もずっと思っていた。『雷切』と自分。強いのはどっちだろうと。自分はこの人を倒せるだろうかと。時にそのことで思い悩み、無形の霧のような迷いに囚われることもあった。だが、今はとてもまっすぐに彼女が見える。

 

「この場に立った以上、自分にも、貴方にも、そして背中を押してくれた人たちにも、恥となるような剣は一太刀だって振るうつもりはありません。だからここに誓います」

 

一輝は右手に持つ刃を持ち上げ、その切っ先を刀華に突きつける。

 

「僕の最弱(さいきょう)を以て、貴方の不敗(さいきょう)を打ち破る!!」

 

「両雄、短く言葉を交わし、己の霊装(デバイス)を手に向かい合います。頂点を歩み続けてきた少女と、底辺から這い上がってきた少年。本当に強いのはどちらか。七星剣舞祭代表枠を賭け、最後の戦いが今始まります!――――では皆さんご唱和ください!LET'S GO AHEAD!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開幕の合図の瞬間。試合開始のブザーと同時に一輝は自身の身体から蒼い光を放ち、刀華に向かって駆け出した。

 

「な、なななんと黒鉄選手いきなり切り札の《一刀修羅》を発動!!!開幕速攻だァァァ!!!!」

 

その事実に会場がどよめく。会場に居た黒乃や寧音などの実力者はこれが悪手であることに顔を顰め、珠雫や凪やカナタなどの学生騎士の実力者たちもあまりに無謀な行いだと表情を悲痛に歪ませる。そんな中、その一輝の行いに微笑むものが二人いた。

 

「まったく。自分の騎士としての人生がかかっているというのに、アンタって本当にしょうがない人ね・・・・。イッキ」

 

一人は一輝の恋人であるステラである。

 

「《雷切》が居合抜きである以上、刀を抜かせた状態で攻め込めばいい・・・・そんなアタシにもわかっているのだから、イッキが気付いていないはずがない。でもイッキはそれは選ばなかったのか・・・でもわかる。なんでイッキがそれを選ばなかったのか」

 

そしてもう一人は玖原総司である。

 

「一輝がここで《雷切》に挑まない訳がない。誰も突破出来ていないクロスレンジに挑まないで勝利を掴んだところで納得はできないんだろ?でもそれは同時に刀華と戦う上で最もいい選択だ」

 

総司が思う刀華の強さとは《雷切》による攻撃じゃない。刀華が戦いの中で常時用いているもう一つの伐刀絶技(ノーブルアーツ)閃理眼(リバースサイト)こそが刀華の強さの神髄だと総司は思っている。

 

「《雷切》は確かに刀華最強の技だ。圧倒的な威力と速さを持っている恐ろしい技だと思う。でもそれ以上に相手の脳の伝達信号から相手の思考を先読みすることの出来る閃理眼(リバースサイト)は恐ろしい。特に一輝みたいな騎士にとってはあの眼は天敵だ。でもそれすらも一切関係なくする刀華の攻略方法こそが《雷切》を突破すること」

 

総司はまたフッと笑う。

 

「刀華が《雷切》を撒き餌に使って戦うって言うんなら話は別だが・・・・《雷切》にはそれなりのプライドを持ってるからな逃げないだろう。さて後は・・・・・・どっちが速いかだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうこれは閃理眼(リバースサイト)で伝達信号を読む必要もない」

 

真っ直ぐに突っ込んでくる一輝にその意図に確信する。

 

「彼は真っ直ぐに突っ込んでくる・・・・ここで引いてその後アウトレンジから嬲れば絶対に勝てる・・・・・冗談じゃない!!!!!」

 

刀華はそのプランでの勝利を確信する。しかし刀華一瞬でそのプランを投げ捨てた。

 

「クロスレンジは私の最強の領域。ここで逃げてしまったら今まで積み上げてきたものすべてを失ってしまう。それに・・・・・」

 

そこで浮かぶのは自分の先を行く幼なじみの背中。

 

「あの背中に届く訳がない!!!!」

 

刀華はスタンスを大きく広げ、《鳴神》を納めた鞘に稲妻を送り込む。

 

「私はここで彼を斬る。そして()と一緒に行くんだ!!騎士の頂点に!!!」

 

刀華が構えるは伝家の宝刀。放てばただ一人の例外もなく斬って落としてきた不敗の一撃。それを抜刀態勢に構え、刀華は風を巻いて迫る一輝を迎撃する。もうあとのことなど知ったことではない。この一刀にすべてを賭ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――――二人の騎士が今対決する。

 

一輝が放つは自身が持つ七つの技のうち最速の一刀。《第七秘剣・雷光》。太刀筋すら見せぬほどの速度で振るわれる不可視の剣。

 

刀華が放つは不敗であり最速の一撃。《雷切》。降り落ちる雷すらも斬り裂く神速の居あい抜き。

 

二人は自身の持てる力や想いも、応援してくれる他者の願いも、そのすべてを己の魂である剣に託し

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

二人の騎士は渾身を込めて、その一刀を振り抜いた!!撃ち放たれた鋼の稲妻。互いに最短距離で疾駆する一撃は、()()()()()()()()()()()()()

 

「刀華が取った」

 

総司は確信する。この打ち合いを制したのは刀華だと。

 

「しかもこの一撃は・・・・」

 

今までずっと一緒に鍛錬をしてきた。様々な相手や場面で打つ《雷切》を見てきた。しかしここまで美しく光り輝いた太刀筋を総司は見たことがない。一輝を殺してしまうほどの覚悟を持って振り切られた刀華の一刀は一輝の身体を斬り裂きに疾駆する――――――しかし次の瞬間、総司の眼を疑う光景が起こる。刀華の一刀が一輝の身体に迫る中、その一刀よりも少し遅れていた一輝の一刀が()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ!?」

 

そして衝突した鋼の稲妻。吹き飛ばされる大気。衝突は千里に轟く落雷が如き轟音と閃光を生み、あらゆる色と音を奪い去り――――――パリィン・・・とその無音の中で、鋼が砕け散る音が甲高く、会場に響いた。そして後から誰からが倒れる音。総司は閃光の眩しさに目を閉じていた目をハッと開けリングを見る。そして息を飲んだ。

 

 

砕け散ったのは――――《鳴神》。

 

リングに伏せていたのは《雷切》東堂刀華だった。

 

「く、砕け散ったぁぁああああああ!!!。な、なんということでしょう!!たった一刀の交錯、僅か一撃の錯綜!その一瞬で東堂選手の《鳴神》が!《雷切》が!粉砕されましたぁぁぁあああ!!!!」

 

倒れた刀華はピクリとも動かない。総司は息を飲んだまま固まってしまう。そして思い出すのはあの一瞬の交錯の最後の瞬間。一輝が加速したシーン。

 

「どうして一輝が加速したんだ・・・・・」

 

そしてその思考はすぐに答えに辿り着く。

 

「まさか一刀修羅をさらに濃縮したのか!?」

 

一刀修羅。一輝の切り札である伐刀絶技(ノーブルアーツ)。それは一分間で自身の力を使い果たすことと引き換えに自身の身体能力を数十倍に魔力すらも上昇されるもの。しかしそれでは刀華の《雷切》には届かなかった。そこで一輝はあの一瞬の中でそれをさらに濃縮し強化倍率を数百倍まで跳ね上げたのだ。

 

「そんなことができるのか!?」

 

総司は一輝のやったことに驚愕する。そしてそこで告げられる試合終了のコールに会場は割れんばかりの歓声を上げる。

 

「総司さん・・・・」

 

カナタが総司を切なげな瞳で見つめる。そんなカナタに総司はフッと笑いかけた。

 

「・・・・・仕方ない。今回は一輝が上手だった。いや・・・・あの一瞬で進化しやがった。あれはどうしようもない」

 

「総司さん・・・・・はい」

 

総司はいつもと同じようにそう言ったように聞こえる。しかし付き合いの長いカナタには分かった。その総司の言葉に悲しみが混じっていることに。総司もそれに気づいたのか次は出来るだけ明るく振る舞って言った。

 

「さて泡沫と合流して刀華のところに行こう。霊装(デバイス)を砕かれているんだ。ちょっとまずいこともあり得る」

 

「ええ。わかりました」

 

カナタがそれに頷くのを確認すると総司は南郷たちに頭を下げ客席から出いき、カナタもそれにならって頭を下げて総司について行った。その様子を見ながら南郷はフッと微笑んだ。

 

「・・・・・安心したわい」

 

「?南郷先生なにがですか?」

 

「じじいどういうことだよ?」

 

南郷はふぉふぉっと笑っただけで二人の問に答えることはなかった。




どうだったでしょうか?

今回の話で三巻の終わりまで書きたかったのですが書けませんでした。すみません。

次回この話の後日談を少しして四巻の話に繋げていく予定です。

それにしてもこの戦い良いですよね。一刀の決着。様々な設定で書いては見たのですがやはりこの形だ!と思いました。

総司の戦闘シーンも書こうかと思ったのですが、それはもう少々お待ちいただければと思います。

今回も感想、批評、評価お待ちしておりますのでよろしくお願いします。

ではまた次回会いましょう。

簾木 健



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