しかもうまく話が・・・・
こんなものでも楽しんでいただければ嬉しいです!!!
簾木 健
「倒れている人もいますのでまずはお休みください」
美奈はそう言い全員を部屋に案内する。そしてその最後はもちろん総司であった。
「総司兄は自分の部屋でいいよね?弄ってないからそのままだと思うし」
「ああ。もちろんだ・・・・・」
総司は頷いてから少し考えてから口を開いた。
「みんなが起きるまでちょっとあるな」
それに美奈はキョトンとした表情で返す。
「そりゃね。いくら幻想形態とはいえあの恵さんに突かれた訳だし簡単には起きないと思うけど・・・・どうかしたの?」
それに対しニヤリと総司が笑った。その顔は本当に恵によく似ていると美奈は思う。
「道場行こうぜ美奈・・・・ちょっと相手してやるよ」
美奈は嬉しそうに好戦的な笑顔を作った。
「美奈と最後に戦ったのはいつだったっけな?」
道場の中。刃が潰してある小太刀を両手に持った総司が屈伸をしながら尋ねる。
「確か総司兄が破軍に入学する前だから・・・三年前くらいかな」
美奈は手に持った刃をつぶした刀を振る。
「そっか。なら相当強くなってるんだろうな」
総司はそう言いながら準備運動を行っていく。
「うん・・・・前みたいに簡単には負けない」
美奈の目が爛々と輝く。そんな総司は苦笑いを浮かべた。
「こういうところで笑うのはやっぱり玖原の血だな」
そう言いながら総司は全身を伸ばし終わり、開始線に立つ。
「準備オッケーだ。さて美奈始めようぜ」
「うん」
美奈はスッと正眼に刀を構える。対して総司は両手をダラリと下げて美奈をじっと見つめる。その視線には途轍もないプレッシャーを纏っている。しかし美奈はそのプレッシャーに対し一切の躊躇いなく総司に対し真っ直ぐに踏み込み、切りかかった。その鋭さは一輝の一刀修羅を用いてないときの速度と遜色がない。
「・・・・」
しかし総司はそれを最低限な動きで見切り避ける。
「しっ!!」
ただ美奈の攻撃は一撃では終わらない。そこから刀を返し追撃を繰り出す。しかしそれも総司には届かずまた最低限の回避で避けられる。追撃はまだ終わらない。美奈はそこからさらに刀を返し振りぬき、総司の首を狙う・・・・がそれも総司には届かない。スッと後ろに跳び回避する。そしてまた間合いが空き一瞬睨み合う。ただ総司はすぐにフッと笑った。
「鋭い。速度だけなら一輝並みか・・・・強い武人に育ったな」
その言葉に美奈は少し笑みを浮かべるが、すぐに険しい表情になる。
「これでも届かない」
美奈は思う。この三年間研鑽を怠ったことなどない。厳しい鍛錬で自分を追い込み続けた。そのおかげで自分は三年前よりも格段に強くなった。自他ともに認めるほど成長した。しかしそれでも自分の目標としてきたこの人には届かない。しかも相手は本気を出すどころか、こちらを軽々とあしらっている。
「さてさて、攻めは大体わかった。次は守ってみせろよ」
「っ!!!」
総司が動き、姿が消える・・・・否。無意識の狭間に存在を入り込ませる。それに対し美奈は素早く対応し、自らの無意識に目を向け総司の姿を捉える。ただそれでも総司を相手にするのには遅い。
「行くぜ」
総司が右手の小太刀を振るう。総司の抜き足により反応が一瞬ではあるが遅れた美奈は後手にまわってしまいその攻撃を刀で受ける。
「くっ!!!!!」
その攻撃を美奈は何とか防ぎきる。さらにその防御は咄嗟だったが柔らかく綺麗に総司の攻撃を受け流し、それによって総司の態勢を崩した。
「ハァァァァァァ」
気合いを籠め崩れた態勢の総司に切りかかった。
「ちっ!!!」
総司は強く舌打ちをする。そんな総司に美奈は違和感を感じた。総司の表情こそ追い込まれているように見える。でもその身体は美奈の刃を避けるようと足掻いているようには見えない。
「おかしい。総司兄が勝負を途中で投げるなんてこと・・・・・!!」
そこで美奈は気付く。総司の左手。そこに握られているはずの小太刀がない。しかも目の前から何かが迫ってきている気配。
「やばい!!」
美奈は攻撃を中断し素早くバックステップして総司にたいし距離を取る。
「気づいたか」
「ふう・・・・総司兄こそまさかそんな攻めをしてくるとは思ってなかったよ。崩されて隙を見せといて小太刀を投擲してくるなんて」
「はは。これで決まると思ったんだが・・・・本当に強くなったよ。しかもあの攻めは破軍選抜戦で斬りかかる段階を防げたのはカナタだけなんだぞ」
総司の褒め言葉に美奈は自嘲気味に苦笑いをした。
「・・・・私には本当にこれしかないから」
それに総司はしまったと顔を顰める。美奈のこの言葉の真意。それは一輝以上に残酷な運命を意味していた。なぜなら玖原美奈には生まれつき魔力がない。美奈は
「それより総司兄。私見てみたいんだけど・・・・」
気まずくなったその雰囲気を壊すように美奈は少し戯けて笑う。総司は美奈のそんな気遣いに乗る。
「どうした?なにか見たいものがあるのか?」
「うん。総司兄・・・・天陰の技を見せて。私まだ基礎しかやってなくて・・・しかも総司兄が天陰を使ってるところ私見たことないから」
美奈の瞳が好戦的輝く。その瞳を見て総司はフッと笑い、身に纏う殺気の鋭さが増す。
「・・・・・・・・覚悟しろよ」
「っ!!!」
総司の殺気に美奈の表情が引き締まり、刀を正眼に構え総司の挙動に集中する。そして次の瞬間・・・・総司の身体は何の前触れも気配もなく前のめり倒れた。
「えっ?」
美奈は驚く。急に戦いの最中に気配もなく倒れるなんて美奈は見たことがない。ただもちろん総司に限って倒れるだけなんてことはないと美奈が思ったところでさらに美奈は驚くことになる。
「っ!!!」
なぜならそう思ったころには既に総司が美奈の懐に入って来ていたのだ。その距離からで防御が間に合う訳もなく総司の小太刀が美奈の首のところで寸止めにされた。
「ふう・・・」
総司は息を零し美奈の首から小太刀を離す。美奈そんな総司を唖然として見つめていた。そんな美奈に総司は笑いかける。
「今のが天陰の技の一つ。名前は『麒麟』。高速の移動から放たれる斬撃で真正面から敵を斬る技だ。もしくは相手の死角から斬りかかるのにも・・・」
そんな風に総司が技の解説を行っているうちに美奈の顔が驚愕からワクワクとした顔に変わっていった。
「ねぇ!総司兄!!今のなに!?総司兄が急に倒れたと思ったらもう私の懐にいて・・・・すごい!すごいよ!!これが天陰の技・・・・」
普段はクールな美奈が小さな子どものようにはしゃいでいるのに少し圧倒されるも、総司はすぐに嬉しそうに笑った。
「今の技は・・・・・・・」
そんな二人を少し開いた道場の扉から刀華は鳥肌を立てて見ていた。その鳥肌には二つの意味があった。一つはその技のキレ。たぶん自分にも防ぐことは出来ないという恐れ。そしてもう一つは・・・・・
「あの技は・・・・あの時の・・・・」
刀華の脳裏にはあの時の惨劇が思い出される。血で真っ赤に染まった服を纏い二本の小太刀を持ち涙を流しながら薄い笑いを浮かべた少年。そしてその周りに転がるいくつもの人間の頭。
「・・・・・っ!!!!」
思い出したくないと思っていた。でもこうして総司が戦っているのを見るとふいに思い出してしまう。
「・・・・・・強くなろう」
この光景を思い出すといつもこう思ってしまう。そして強くなって強くなって・・・・・・
「・・・・・彼と一緒にいよう」
どうだったでしょうか?
ちょっとずつではありますが、総司や刀華たちの過去も描けていければと思っていますのでそちらもお楽しみに。
次回は玖原家の人々を多くだしていきたいと思っています。
今回も感想、批評、評価、募集していますのでよろしければお願いします。
ではまた次回会いましょう。
簾木 健