前回のあらすじ:
エルなんとか(偽)「あれ、私の出番これだけですか?」
……あれだけ大仰に伏線張っといてねえ( ´∀`)?
エルなんとか(偽)
・本物は帝都で殺された
・帝国のワーカーが王国の組合に何しに来てるんだ
・ナーベちゃんに見覚えがなく違和感バリバリ
これだけ揃ってれば誰かが用意した偽物だって分かるだろうと思ったのに読者の皆さんを混乱させちゃったようでなんだかすいません。
やはり、本来であれば大きなヒントになるはずの本人の違和感が、例え本物を見たとしても同様に「全く見覚えがない」と言うであろうことがネックだったか……( ´∀`)
ノックの音もそこそこに、呼ばれもしない王国戦士長が入室してきたのを受け。この場に入る五人のリーダーである副組合長は、闖入者の姿を確認すると顔を顰めた。
「何用ですかな、戦士長殿?審議中は大人しく待って頂きたかったものですな。そもそもあなたをお呼びしたのは、審議の結果がガンマ君にとって不本意なものとなった場合、万一彼女が暴れ出すようなことがあればそれを取り押さえて貰いたいからであって、特に戦士長殿の識見を求めたりする予定はないのですが」
ガゼフはその言葉を聞くと、じろりと男を睨み付ける。静かな迫力を湛えたその眼光に、男がうっと口ごもった。
「不本意な結果になれば暴れ出すかも知れない、か……その言い草からして十分ガンマ殿に失礼だが、まあそれはいい」
ガゼフはその場に居る五人の顔を順に見回した。王国戦士長の眼力の前に、目を逸らしたりオドオドしたり、平静では居られない男達を十分に睨み付けてから言葉を続ける。
「率直に言おう。今回のよくわからぬ審問会とやら……その裏には多くの思惑が絡んでいる。嫉妬や縄張り意識など、個人レベルでの悪感情についてはまあどうでもいい。組織レベルでの思惑としては、単純に面目と手足を潰された『八本指』の報復感情が挙げられるだろう。八本指自身、というよりは『八本指』を便利に使い、代わりに便利に使われていた大貴族連中の余計なことをしやがってという恨みだな。……まあ、これも大した問題にはならぬ」
ガゼフは一度言葉を切り、呼吸を整えた。口をもごもごさせて反論しようとした一人を視線で黙らせる。
「問題は、バハルス帝国の関与だ。今回の件、ガンマ殿と我が国の関係に対する、帝国の離間策が絡んでいると私は睨んでいる」
「なっ、なにか証拠があってそのような讒言を口にしているのか戦士長……殿……」
口を挟んできた男を睨み付けると、その言葉は尻すぼみになって消えた。
「証拠はない。だから君らのうち誰がどいつに動かされて今の状況ができているかは問わない。だが覚えておくがいい、君達が直接接触した相手は大貴族の意を受けたとりまき連中のそのまた使い走りで、君達としては貴族の覚えがめでたくなればいいと思った程度の話かもしれないが、その大貴族を動かしているのはもっと厄介な代物だ……今回の話、対応を間違えれば王国が滅ぶ。国を滅ぼすに相応しい代価を受け取っての行動か、よく考えることだ」
「そんな、滅ぼすなどと、大袈裟な……」
副組合長がなんとかその声を絞り出すと、ガゼフは男に視線を固定した。
「わかってないようなら説明してやる。彼女の先程の台詞は覚えているか?この会議の結果が気に入らなければいつでも冒険者なんてやめてやる、そう言ったな。彼女のことを多少は知っている私から見れば、あれはハッタリなどではない、間違いなく本気だ。……亜人に対して好意的な彼女が、王国の冒険者組合を辞めて、その先はどうすると思う?」
「う……」
その言葉に一同が呻いた。この近隣で人間が居住するのに向いた国家は三つ。王国、帝国、法国である。他に竜王国や聖王国、都市国家連合なども存在するが、規模や距離、周辺に抱えた脅威など、各種問題を抱えており選択肢としては一段落ちる。
スレイン法国は亜人を殲滅対象と見なしているため、亜人に味方するナーベラルが向かう先としては考えにくい。すなわち、王国を出奔するとなれば、行き先としてまず挙がる国家は。
「帝国……」
「そうだ。スレイン法国は選択肢としてまずあり得ない。王国の冒険者組合に見切りをつければ、彼女の行く先は帝国だ。なにもアプローチがなければワーカーになるかもしれないが……まずそうはなるまい。第五位階の魔法を使いこなす
ガゼフはつかつかと室内のテーブルに歩み寄ると、両手を勢いよく卓上に叩きつけた。明らかな威圧行為に、室内の五人の男が首を竦める。
「もし、なにかの間違いで彼女が帝国軍に混じって戦場に出てくるようなことがあれば……次のカッツェ平原での合戦は、例年のような一当てして終わりの小競り合いにはならぬ。始まった瞬間、王国軍が総崩れして、その後の帝国軍の追撃を含めれば万単位の死者が出るだろう。すなわち、王国の破滅だ」
「……そ、それで?結局何が言いたいのですか?だから、国家からは完全に独立した組織である冒険者組合の判断に干渉しようとでも?後悔することになりますぞ?」
ガゼフの威圧に負けず、副組合長が不快感を示すことができたのは、彼の台詞通り、国際的な巨大組織である冒険者組合の運営に一国家が脅迫まがいの口出しをしてきたことへの反発による。その言葉を聞いて、ガゼフは不敵に笑った。
「後悔か……こちらは今言ったとおり、王国が滅ぶかどうかの瀬戸際まで追い込まれている。どう転ぼうとこれ以上失うものなど無い。……覚えておけ、本当に冒険者組合が自身の理念に従ってガンマ殿を冒険者として不適格だと見なすというのなら、それはそれで仕方がない。ただし、今回このまま帝国の陰謀に乗っかって彼女を王国から追い払った場合は……それこそが組合に対する大いなる干渉の結果ではないか、独立した組織が聞いて呆れる。その時にはしでかしたことの責任の重さを思い知らせてやる、覚悟しておいて貰おう」
言いたいことを一方的に言い放ち、最後に居合わせた一同の顔ぶれを殺気の籠もった視線で一撫ですると。ガゼフはそれ以上何も言わず、静かに退室した。
残された男達は、きょろきょろと落ち尽きなくお互いの顔を見合わせる。互いの顔に浮かんだ動揺と困惑を認め、気まずげな沈黙がその場を満たした。
◆
ナーベラルが椅子にもたれ掛かって欠伸をかみ殺していると、会議室のドアが開いて五人の男達がぞろぞろと入ってくる。ようやく結論がでたのか、随分と待たせるものだ……そのように思いながら彼らの様子を眺める。四人の男達は悄然とした顔で元いた場所に着席し、副組合長が固い動きでナーベラルの前まで歩いてきた。
「……それで?結論はどうなったの?」
ナーベラルの方から問いかけてみたが、男は黙して答えない。ラキュースが立ち上がって発言を求めた。
「副組合長、先程の話の流れ……ガンマさんが亜人の味方をしたから冒険者に相応しくない、そのような論法には私たちも抗議したい点がおおいにあります。もしそれが組合としての総意であるなら、私たち『蒼の薔薇』としても黙ってはいられません――」
言いつのろうとするラキュースを手で制すると、副組合長は力なく首を横に振った。自分の方を眺めていたナーベラルと視線が合うと、硬い表情で手に持ったプレートを彼女に差し出す。
「……我々冒険者組合は、ガンマ君をアダマンタイト級冒険者として認める。今後は人類の守護者たる自覚を持って、英雄に相応しい立ち居振る舞いを期待する」
仰々しく始まった割にあっけなく終わったな、ナーベラルはそのアダマンタイト製の薄い板を受け取りながらそう思う。右手で露骨にほっとした顔をしているストロガノフが何か口利きでもしたのだろうか。
ぎこちない動きで組合の幹部達が退出すると、アダマンタイトのプレートを指先でくるくる回して遊んでいるナーベラルの下に『蒼の薔薇』の面々がやってきた。
「アダマンタイトへの昇格、まずはおめでとうございます」
「……どうも」
ラキュースの祝福に、型どおりの礼を返すナーベラル。ラキュースがチームメンバーの顔を振り返り、ひとつ頷き合うと言った。
「それで、これからどうするつもりかしら?……もし、あなたが私たち『蒼の薔薇』への参入を希望するのであれば、私たちは歓迎する用意があるけれど」
ナーベラルはその言葉を聞くと、少し考え込んだ。固唾を呑んで見守るラキュース達のうち、イビルアイの仮面をまっすぐ見据えて口を開く。
「……あなたとだったら組んでもいいか、と思わなくもないのだけれど。私はあなたと違って、足手まといのお守りをする趣味はないわ」
かなり侮辱的な台詞ではあったが、その言葉を聞いて蒼の薔薇の面々の胸に去来したのは、やはりなという思いであった。イビルアイと他のメンバーの間に存在する断絶した実力差を、彼女には見抜かれていたらしい。
「そうか、それは光栄だ。……そして残念だ。私にとって彼女たちは大事な――」
「ただし!」
イビルアイの返答を途中で遮るようにして、ナーベラルは叫んだ。誰とも目を合わせないように明後日の方向に視線をやって続ける。
「ソロでやるにも限界はあるし、他にマシな相手が居ないのも事実だし……とりあえずはクエスト毎に臨時パーティーを組む、そういう形でならまあ……」
その言葉を聞いて、蒼の薔薇の面々が破顔した。ガガーランがにやけ顔でナーベラルの背中を叩く。
「なんでえ、いちいち面倒くせえ奴だな!
「……私に聞くな。まあそういうことならいいだろう、宜しく頼むとしよう」
「そうね、わかったわガンマさん!これからよろしくお願いしますね!」
「よろー」「よろー」
口々に挨拶する蒼の薔薇の面々に、ナーベラルは頭を掻いた。そのまま歓迎会をしようという話になるが、ナーベラルに用があるというガゼフに呼び止められて、なら先に宿に行って準備をしておこうという流れになった。
外に出ると、ラキュースがイビルアイに声を掛ける。
「……でも、よかったのかしらイビルアイ。あなたと二人で組んだら、ひょっとしなくても今の『蒼の薔薇』より強いチームになった可能性が高いと思うけど……」
「それは論外だ。私が蒼の薔薇に入るのは、あのばばぁとの約束だからな。……第一、彼女が私の
「まあ、それについては、それなりに可能性はあるんじゃないのか?亜人に対しても寛容だってわかったし、逆よりはさ」
ガガーランの台詞に、イビルアイは頷く。
「まあ、逆よりは可能性があるがな。所詮は可能性だ、そうそう試せるものでもない。……それに、だからこそ、私を受け入れてくれたお前達には感謝しているんだ。実力差以上に、仲間だと思っている。だから簡単には別れたくない」
自分で言って恥ずかしくなったのか、明後日の方向を見ながらそう言うイビルアイの様子を、忍者姉妹が評していった。
「なんかそのポーズ、デジャヴを感じる」「似たもの同士」
「言われてみれば確かにそうだな。
「やかましい、それより彼女を歓迎する準備をするんだろう、さっさと行くぞ!」
そうして、蒼の薔薇の面々はわいわいと騒ぎ立てながらその場を去った。
◆
蒼の薔薇が退出し、共に来ていた部下達も先に下がらせると、ガゼフとナーベラルの二人のみが会議室に残る。
「――で、何の用かしらストロガノフ?できれば手短にお願いしたいところなんだけど」
ナーベラルがそう声を掛けても尚、ガゼフは躊躇っていたが。しばしの沈黙の後、意を決したかのように重い口を開いた。
「とりあえずはアダマンタイト級への昇格、おめでとう存ずるガンマ殿。昇格したばかりの貴女にこのようなことを聞くのはなんだが……先程口にしていた冒険者としての地位に未練も執着もないという台詞、冒険者として最高位に上がってもなお変わりはないだろうか?」
その言葉を聞き、ナーベラルが首を傾げる。
「何、そんなことが聞きたかったの?変なことを気にする奴ねえ。まあいいわ、その答えはYESよ。冒険者に登録したのは単なる手段、そうするだけの理由があれば、いつでも捨ててやるわこんなもの」
そう言って指先に絡んだ鎖をくるくると回す。彼女の指先で回転するプレートを、眼を細めて見つめた後、ガゼフは更に言葉を重ねた。
「そうか……では、単刀直入に申し上げる。ガンマ殿……貴女を我が国の王宮に宮廷魔術師として迎え入れたい。受けていただけないだろうか」
「嫌よ」
まさに即答である。重い口を開いてようやく口にしたガゼフの頼みを即座にばっさり切り捨てたナーベラルは、胡乱そうに目の前の男を眺めた。
「何かと思ったらそんなこと考えてたわけ、なんとも暇人ねえ。あなただって私の目的は知ってるでしょう?この国の宮廷なんかに興味はない……」
ナーベラルは言葉を途中で切った。目の前の男が床に手をつくと、続いて額を床につけて深々と土下座したからである。
「そこを曲げてお願いする。なんとか受けていただけまいか。この通りだ」
「……」
ナーベラルは冷ややかに土下座して頼み込むガゼフを見つめていたが、やがてガゼフの目の前まで歩み寄ると、腰に手を当てて上体を倒し、頭を床につけたガゼフの耳元にその唇をそっと寄せた。
「あなたのことは人間にしてはそう嫌いでもないんだけれど、ストロガノフ。……でも、自分がそうやって頭を地面にへばりつけることが、私に対してなんらかの価値をもつと決めつけてるところ。そういうところはちょっと好きになれないわ」
それ以上声を掛けず、また何も言わせず。
ナーベラルがハムスケを連れて組合の建物から歩き去るまで。ガゼフは無言で床に手をついたままの姿勢から動かなかった。
実際は受け入れてくれるどころか正体を明かした方が好感度が上がるらしい。
これにて第三部完ー。長々とおつきあいくださりありがとうございました。
今後とも見捨てずにおつきあいくだされば幸いです( ´∀`)
第四部は……ここから完全オリ展開なのに大丈夫かな、いや違う、宣言することで自分を追い込むのだ。1/23開始予定。
……やっぱ1/24にするかも()。とにかく1週間後にまた!
1/17 原作で王都の組合長が四十代の女性として出てたという指摘のため
組合長→副組合長に変更。
近隣諸国についての表現を少々修正。