ナーベがんばる!   作:こりぶりん

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前回のあらすじ:
エドストレーム「サキュロントがやられたようだな…」
マルムヴィスト「ククク…奴は六腕の中でも最弱…」
ペシュリアン「オリハルコン級冒険者ごときに負けるとは六腕の面汚しよ…」



第三十話:”不死王”デイバーノック

「まことに申し訳なかった、許して頂きたい……!」

 

 王国戦士長のガゼフがそう言って深々と頭を下げると、周囲の大して多くもない客の視線がそのテーブルに集中した。

 冒険者向けとしては王都で最高級であり、格式も高い宿屋の一階、食堂である。ガゼフの対面に座るのはナーベラル。テーブルの横にハムスケが丸まっている。

 

「いや、別にいいわよ気にしてないから。大した用があった訳じゃないし」

 

 そう言ってナーベラルが砂糖を入れた紅茶をスプーンでぐりぐりとかき混ぜるのを、ガゼフは緊張に強ばった顔で恐る恐る窺った。ガゼフに女性の心の機微を読むことなど得手である筈が無く、ましてや相手はナーベラルである。彼女の台詞が額面通りのものなのか、軽々には決められぬ。

 何をしているのかというと、家令の老人にこわごわ打ち明けられて、ナーベラルの王都及び自分の屋敷への来訪を知り仰天したガゼフが、なんとか自分の業務にきりをつけてようやく捻出した時間で、王都におけるナーベラルの滞在先となった宿屋を訪問して、「不幸な行き違い」について平身低頭謝罪をしているところであった。

 

「いや、あのような大口を叩いておいてこの不始末、なんとお詫びしてよいやら分からぬ。せめてもの詫びにお茶でも奢らせてくれ」

 

 実際のところ、本当にナーベラルは気にも留めていない。こうしてガゼフが飛んでくるまでは、家を間違えたと思ったままだった。だが疑心暗鬼に捕らわれたガゼフの耳には、彼女の台詞全てが裏の意味を含んで聞こえる。「王都に来た際は私の館に寄っていただければ歓迎させていただく」という主旨の台詞を言っておいて、実際に遊びに行ったらすげなく追い返された、では彼女の機嫌をどれほど損ねたことやら、戦々恐々としているのだ。「気にしてない」という言葉が、「歓迎してくれるって言った癖に」と翻訳されて聞こえてくる程である。

 

「まあ、奢ってくれるというならありがたく頂くけど。私まだここのメニュー半分くらいしか読めないのよね」

 

 その言葉にガゼフはがばと体を起こし、ハンドベルを鳴らすと飛んで来たウェイトレスに質問して、お勧めの甘味を追加注文する。その様子を半眼で眺めていたナーベラル、テーブル脇で丸まったハムスケに声をかけた。

 

「あんたも何か頼んだら?ストロガノフが奢ってくれるそうよ」

 

「まことでござるか!ありがとうでござるガゼフ殿!」

 

 そう言ってハムスケが、おっかなびっくり応対するウェイトレスと相談しながら興味を引かれたものを注文する。とりあえず、奢らせて貰えたことにほっとしたガゼフが一息つくと、気を取り直して言った。

 

「それでだ、もし良ければ改めてガンマ殿を私の屋敷に招待させていただきたい。エ・ランテルではあの時の少年の家に居候していたと聞くし、なんなら王都では私の屋敷に滞在して貰っても構わないが……」

 

 思いつくままに喋りながら、今の提案が傍から見てどのように聞こえるか今更ながら思い当たったガゼフはやや顔を赤らめる。これではまるで……

 

「別に興味ないわ。あのご老人も私のこと嫌ってるんでしょう?そんなところに行っても気詰まりするだけだろうし……」

 

 今のガゼフにとっては当然、この台詞も「あの失礼なジジイはちゃんと躾けておいたんだろうな、ああん?」という風に翻訳されて聞こえる。ガゼフはハンカチで汗を拭い、乾いた笑みを浮かべた。

 

「ハ、ハ、なんともお恥ずかしい……ウチの者にはよく言い含めておいたから、勘弁してやって頂きたい」

 

 人の良い家令の老人がよかれと思ってやったことをどう窘めるか。頭から叱りつけるのも躊躇われたガゼフがとった選択は、「ストロガノフと呼ぶのは彼女にとってニックネームみたいなもので、悪気は無いんだ、だからそう反発しないでやってくれ」という些か事実とは異なる説明であったが、反省を促すつもりが客人を追い払ってしまったことにびくびくしていた老人は深々と頷いたものである。

 

「別に、歓迎して貰いたくて行った訳じゃないのよ本当に。そんなことより……」

 

 ナーベラルの眼光に真面目なものが宿り、ガゼフが居住まいを正す。

 

「用事なら今ここでだって済むわ。王都に戻ってからならまた別の話が聞けるかも知れないと思って行ってみたのよ。……何か新しく分かったことはないかしら?」

 

 その言葉を耳にして、ガゼフは彼女の用事が何だったのかを正しく理解した。彼も王都に戻って以降、聞き込んだり、調べたり、調べさせたりはしたのだが、結果は芳しく無かった。彼女の捜し物に関する手がかりは、文献にも、伝承にも、一切出ては来なかった。ガゼフは色よい報告ができないことを無念に思いながら答える。

 

「残念だが、今まで調べた限りにおいて新しい事実は出てきていない……」

 

「……そう。まあ、そんなに期待していたわけじゃないけどね……」

 

 そう言いながらも、あからさまに落ち込んだ様子で紅茶を一口飲むナーベラル。

 その様子を離れた所から眺める視線が二対あった。

 

「なあ……あれは何をやってるんだ?」

 

 声の主はガガーラン。貴族の令嬢としての生活もあるラキュースが王城に出掛けているときは、拠点であるこの宿で適当に暇を潰しているしかない。

 

「私が知るものか。なんでも、戦士長はガンマに以前命を救われたそうだが……こないだ帝国が国境付近の開拓村に焼き討ちを仕掛けてきて、戦士長に出動命令がくだった事件だ」

 

 答えたのはイビルアイ。忍者姉妹はどこへともなくふらりと姿を消したり現したりするが、この二人は基本的に宿屋で暇をかこっているのであった。

 

「もっとも、その情報も表向きのもので、裏では色々と工作があったみたいだがな……法国も一枚噛んでいたらしいという噂も聞く。……どうした、そんな顔をして?」

 

 興味津々の視線で二人の様子を見つめ、悪戯っぽい顔をするガガーランの様子を不審に思ったイビルアイが問うと、彼女はニヤリと笑って答えた。

 

「そーだな……なんだか、デートして口説いてるみたいだなって思ってさ!」

 

 必要以上に大声で放たれたその台詞に、戦士長の肩ががくんとずりおち、周囲の客がうんうんと頷いた。ナーベラルはきょとんとした視線を寄越しただけで特に反応はしなかったが。

 その日以降、「王国戦士長は”紫電の魔女”(ライトニング・ウィッチ)に懸想して日夜口説いている」という噂がまことしやかに囁かれるようになる。

 

 

 ナーベラルがハムスケを引き連れて通りを歩いていく。

 ハムスケを連れているのは、ラキュースの要望によるものである。先日の事件で前後関係を精査して聞き取った彼女が、ハムスケを連れていることによって引き起こされる可能性があるささやかなトラブルより、ナーベラルが単独行動することによって引き起こされるトラブルの方が遙かに深刻であるという事実に思い当たったため、急遽意見を180°反転させて、ハムスケを連れて歩いてくれとお願いしたのである。森の賢王が後ろにいれば、お馬鹿なチンピラが因縁をつけによってくる可能性は激減する筈だった。

 ところが。

 

「姫、なんだかさっきから付いてくる連中が居るでござる」

 

 ハムスケが小声でそう言うのを聞き、ナーベラルはフムと首を傾げた。尾行されているらしい。誰が、何のために?ラキュースの言うとおり、ハムスケの姿を見てなお近づいてくるような猛者はその辺のチンピラには居ないだろう。ならばそれよりは剣呑な何かであると思われる。

 延々と付いてこられるのも鬱陶しいし、先に相手をしようか。そのように考えて、ナーベラルはわざと人気のない路地へと入り込んでいく。人混みに紛れられなくなったにも拘らず、姿を隠す様子もなく一定の距離を保って付いてくる三人の人影を、ナーベラルはやや不審げな視線をもって振り返った。

 

「……何の用かしら?こんな所まで付いてきておいて、たまたま道順が一緒だっただけ、とは言わないわよねまさか」

 

 三人の男はいずれも筋骨逞しい屈強な男で、荒事を専門にする暴力従事者特有の雰囲気を漂わせていた。ただ、その出で立ちとは裏腹に、無表情な顔で意思を感じさせない声色でこう告げる。

 

「――オリハルコン級冒険者、ガンマ。”不死王”様がお前に話があるとのことだ。我々に付いてきて貰おうか」

 

 その言葉を聞き、ナーベラルの心臓がどくん、と一際強く脈打った。

 ”不死王”――ナーベラルが男達の言葉に従い、大人しく付いて歩き出したのは、ひとえにその言葉がもつ響き、それが否が応でも連想させる尊き御方を思い起こしてのことである。

 そんな筈はない。至高の御方が自分に用があるのなら、このような下等生物(アメンボ)共を使いに寄越す必要など無いのだ。妙な期待を抱くのは止めろ、馬鹿を見るだけだぞ――ナーベラルの理性はそのような警鐘を鳴らしているが、そのような正論で彼女の心臓が早鐘のように脈打つのを止めることはできない。緊張に胸を高鳴らせながら、ナーベラルは男達について人気のない路地を奥へ奥へと入り込んで行き、窓の無い分厚い壁を持つ建物へと案内された。

 

「――この中で”不死王”様がお待ちだ。入れ」

 

 そう言って開けられた扉の中は、殺風景なだだっ広い広間であった。薄暗いその奥に、黒いローブに身を包んだ人影が静かに佇んでいる。それを目にした瞬間、ナーベラルの目が失望に彩られた。

 

死者の大魔法使い(エルダーリッチ)……」

 

 まあわかってた、彼女は脱力しながらそうぼやく。そのようなナーベラルの様子を不審そうに見ながら、ローブの男は地の底から響くような声を発した。

 

「お初にお目にかかる、ガンマ殿。俺の名は”不死王”デイバーノック、『六腕』の一人と言えば分かって貰えるかな――」

 

 失望したのはこちらの勝手、怒りを持つのはまだ早い。そう必死に自分に言い聞かせていたナーベラルは、その台詞を聞いて胡乱そうに問いかけた。

 

「ろくわん?何それ?」

 

 この反応は予想外だったのか、デイバーノックが顎をかくんと落とす。沈黙が二人と一匹の間を満たす。

 

「……先日、”幻魔”のサキュロントを殺しただろう?おっと、そんなに不思議そうな顔をして首を捻るな、とぼけているわけではなさそうだな……もしかして覚えていないのか?幻術使いの軽戦士(フェンサー)だ」

 

 その説明を聞き、ナーベラルはようやくあーあーと手を打った。

 

「あー、あの、なんか分身する奴。そういえばそんなような名前だった気がするけど……なに、あなたあいつの仲間なの?仇討ち?」

 

 自分を殺した相手に名前すら覚えて貰っていないサキュロントに、初めて若干ながら同情を覚えつつ、デイバーノックは首を横に振った。

 

「そうではない。あのような雑魚を殺されたことに遺恨はない。それよりガンマ。ここに来たばかりのお前は知らないのかもしれんが、この王都、ひいては王国を闇から牛耳る裏社会の巨大組織を『八本指』という。その中でも戦闘用の実戦部隊の最高峰チームを『六腕』と呼び、あの男や俺はそこに所属している戦闘のプロだ」

 

「はあ」

 

 気の抜けた相槌を打つナーベラルに毒気を抜かれた気分になりながらも、気を取り直してデイバーノックは続ける。

 

「先日の事件……世間ではお前が正義の味方だという風潮にまとまっているが、その評判はお前がエ・ランテルで撒き散らしてきた”紫電の魔女”(ライトニング・ウィッチ)のそれとは一致しない。おそらくあの時起こったのは不幸な遭遇戦、別にお前にこの世に正義をもたらそうという意図などない、違うか?」

 

「……まあ、違わないけど」

 

 その答えを聞き、デイバーノックは満足そうに頷いた。

 

「ならば結構、俺の申し出は単純明快だ。お前、奴の代わりに『六腕』に入れ。悪くないぞ、八本指は。力を持つもの、より強い力を求めるものにとって最高の組織だ。強い力を持つマジックアイテムだって手に入る。このローブ、指輪、オーブ……まだまだあるぞ、これら全てがマジックアイテムだ!どう……どうした、何がおかしい?」

 

「……別に、なんでもないわ」

 

 強いマジックアイテム(・・・・・・・・・・)と言いながら見せびらかされたそれらを目にし、つい笑ってしまったナーベラルは唇を噛んで真面目な表情を作った。……まだ、決裂するには早い。

 

「……まあいい、それでどうだ?返答は如何に?」

 

 そういうデイバーノックをナーベラルはじっと見つめていたが、やがて口を開いた。

 

「……返答の前に、聞きたいことがあるわ」

 

「なんだ、言ってみるが良い」

 

「……この王都に、あなたのような異形種は他にいるのかしら?王都の裏社会(アンダーグラウンド)では、あなたのような異形種達で構成されたコミュニティがあったりするの?」

 

 心拍数を上げながら緊張した顔で放たれた質問をどのように解釈したか、デイバーノックは呵々と笑った。

 

「なんだ、王都の闇に俺のような怪物が他に潜んでいないか気になるか?意外と見た目相応の可愛らしいところもあるのだな!安心するがいい、王都の影に棲む人外の怪物は俺の知る限り他には居らぬ。居るというのなら俺が教えて欲しいくらいだぞ」

 

 当然、見当違いの解釈に基づいたその回答は、ナーベラルの期待するものでは無かった。彼女ははあとため息をつくと、他に聞きたいことがあるかどうか考え、もうないと結論する。だから彼女は、深呼吸を一つして、答えを待つ眼前の死者の大魔法使い(エルダーリッチ)に今の自分の正直な気持ちを吐き出した。

 

「巫山戯るなこの下等アンデッドめ、紛らわしい二つ名を名乗りやがって……そのように大層な二つ名を名乗って良いのは至高の御方だけよ、この愚物が!!」

 

 ナーベラルの怒りを正面から受けたデイバーノックは、一瞬沈黙した。彼女の台詞の真意は半分も分からなかったが、己が酷く侮辱されたことだけはよく分かった。デイバーノックは虚ろな眼窩の奥に憤怒の炎を燃え上がらせて、震える声を押し出した。

 

「決裂か……よかろう、そんなに死にたいのならこの”不死王”デイバーノック様が貴様を殺してやる。サキュロントを退けたくらいでいい気になるなよ、人間。奴が『六腕』の座につけたのは他にマシなのが居なかったが故のお情けだ、本物の『六腕』の実力を思い知らせてやる!」

 

 その言葉をナーベラルはハッと鼻で笑う。

 

「お前こそいい気になるなよこの下等アンデッドが。お前如き俗物には過度なその二つ名、お前が使うことで不愉快になることが二度と無い様、その身体を粉々に吹っ飛ばしてやるわ!……ハムスケ、あんたは表の連中を片付けて邪魔が入らないようにしなさい!」

 

「合点承知!」

 

 ハムスケが身を翻して入り口の方に駆けていくと、戦いが始まった。

 

<火球>(ファイヤーボール)

 

<電撃球>(エレクトロ・スフィア)

 

 デイバーノックの手から生み出された火の玉と、ナーベラルの手から生み出された電撃球が、お互いの中間地点でぶつかり、爆発を巻き起こす。同位階の魔法がぶつかり合ったため、完全に相殺された形だ。

 

「どうした、第五位階の魔法を使うという触れ込みはハッタリか!?……まあ、詠唱時間や連射性能を考えれば、ハッタリでなくともそうそう使えんだろうがな!」

 

 デイバーノックは不敵に笑うと、その手から<火球>(ファイヤーボール)を生み出す。ナーベラルが同様に<電撃球>(エレクトロ・スフィア)を放ち、先程と同様に中間で相殺された。

 

「ふふん、撃ち合いが望みか?……いいだろう、思い知らせてやる。ただの人間に、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)たるこの俺が、どれほどの<火球>(ファイヤーボール)を連発できるかをな。そして<電撃球>(エレクトロ・スフィア)を撃てなくなった時が貴様の最期だ、この俺を侮辱したことを後悔しながら黒こげになれ!」

 

 そうして<火球>(ファイヤーボール)<電撃球>(エレクトロ・スフィア)の撃ち合いが始まった。

 デイバーノックはほくそ笑む。先程の宣言通り、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)である彼は、普通の人間が考えられないほどの回数、<火球>(ファイヤーボール)を放つことができる。

 しかし――

 

 

 

 いったい何発<火球>(ファイヤーボール)を撃ち、それと同数の<電撃球>(エレクトロ・スフィア)を撃ち返されただろうか。三十から先は数えることも忘れたが、百発を超えたかも知れぬ。デイバーノックは呼吸をしない筈の己の身体が、荒い息をつくような錯覚に襲われた。疲労しているのだ。疲労しない筈のアンデッドが、精神を削られた結果、同様の状態に陥っている。

 繰り返された爆発により、部屋の中はサウナのように熱気で満ちている。その中を平然と佇み、未だ余裕そうに両手に電撃を弄ばせているあの女はいったい何なのだ、デイバーノックの頭蓋の端をちらりと恐怖が掠める。

 

「……もう、終わりかしら?」

 

 ナーベラルが嘲笑を浮かべて言う。台詞の内容より、こちらを見下すその笑みに反骨を刺激され、デイバーノックが手を前に突き出す。

 

「なんの、まだまだ――」

 

 ところが、身体は意志に従わなかった。デイバーノックが意志を込めて魔法を発動しようとしても、突き出した骨の手からは、もはや何も出ない。とうとう魔力が尽きる寸前まで<火球>(ファイヤーボール)をばらまいたのだ。これ以上無理矢理魔法を唱えれば気絶する。そのことが分かっているから身体が言うことを聞かないのだ。

 

「馬鹿な――」

 

 魔法を唱え続ければ魔力はいつか尽きる、それは当たり前だ。信じられないのは、目の前の女が、未だ余裕綽々でその両手に電撃を纏っていることだ。ただの人間が、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)である自分より、魔力が多いなどと、そんなことが有る筈がない、有って良い筈が無い。

 

「別に、さっさと始末しても良かったんだけど。自分が如何に身の程知らずな二つ名を名乗っていたのか、少しは思い知らせてやろうと思ってね、射撃戦に付き合ってあげたの。どう、魔力が尽きた気分は?自分が雑魚だって思い知らされた気分は?」

 

 デイバーノックは屈辱に喘いだ。この生意気な女に目に物見せてやりたかったが、もはや彼にできることは少ない。

 

「流石に熱くなってきたし、そろそろ終わりにしましょうか」

 

 涼しげな顔でそのようなことをしゃあしゃあと言い放つナーベラルの隙を窺う。奴が自分に止めを刺したと思ったその時がチャンスだ。そう思って腹に力を溜める。

 

「――なんてね。私だって知ってるわよ、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)が電気に高い耐性を持っていることくらい。お前が追い詰められてる癖に妙に余裕そうなのも、そのせいでしょう?私が電撃魔法で止めを刺しに来ると思ってるから、それに耐えて隙をつけるなんて夢を見てる」

 

 だから、そう言ってナーベラルが手から放電を消した時、デイバーノックは慌てた。自分の狙いを読まれていたことに。だが、あの女の得手は電気属性の筈、それに耐性を持つ自分をなんとする?

 

<二重最強化(ツインマキシマイズマジック)()空圧波>(エアロバースト)

 

 次の瞬間、左右から自分を挟み込むように叩きつけてきた空気圧の衝撃に、デイバーノックは己の身体がばらばらに吹っ飛ぶのを感じ――永遠に意識を失った。

 

 デイバーノックの身体を構成する骨が粉々に砕け、そのまま煙のように消滅する。装備していたマジックアイテムが周囲に散らばるのを確認すると、ナーベラルは額に浮かぶ汗を拭って息をついた。

 

「ふぅ、流石に少し疲れたわね。あの世で己の増上慢を後悔するくらいの思いを味わわせてやれてればいいんだけど。……ハムスケ、行くわよ!ああ、こっちに来なくてもいいわ、熱いから。私の方から行くから外で待ってなさい」

 

 そうしてマジックアイテムを一応回収したナーベラルがその場を去ると、”不死王”デイバーノックがこの世に存在していた痕跡はもはやどこにも無くなったのだった。

 

 

 




 ”不死王”デイバーノック
 「異形種」である、ただこの事実一つで、王都に棲む全知性体の中で最もナーベラル・ガンマの初期好感度を稼ぐことができる筈だった幸運児。
 ただし、それと同時に、ナザリックNPC一温厚な男であるセバスですら不快感を示す二つ名のせいで、完璧な死亡フラグを登場時点で内包している不幸な人。
 名乗った瞬間フラグを立てるその様は、麻雀で言えば天和。

 エルダーリッチ関連の強さを調べてたらイグヴァ=41さんのとこに「冷気と電気に対する完全耐性」を発見。危ねえ、いつものように<龍雷>(ドラゴン・ライトニング)で始末するところだったぜ……( ´∀`)

1/23 誤字修正。


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