ナーベがんばる!   作:こりぶりん

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 前回のあらすじ:
 「組合長!エ・ランテルのミスリル級冒険者チームの数が二つに減りました!」
 「なん……だと……?」
 もうやめてナーベ!アインザックの胃のライフはとっくにゼロよ!( ´∀`)



第二十六話:幕間陰謀劇

「ねえみんな、エ・ランテルに突然現れた、オリハルコン級冒険者ガンマの名前を聞いたことはある?」

 

 そう口にしたのは生命力に満ちあふれた若く美しい女性であった。彼女の名はラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。れっきとした王国貴族の令嬢でありながら神官戦士としてアダマンタイト級冒険者の座にまで上り詰めた、文字通りのお転婆娘である。

 

「ああ、聞いてるぜ。俺たちの稼業じゃ同業者に対する情報は速えんだ、まさかこの中に知らない奴はいないだろ?」

 

 そう答えたのは全身を筋肉の鎧で固めた巨漢の女性、”胸じゃなくて大胸筋”ことガガーラン。アダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』のメイン盾を務める、脳筋の戦士だ。

 

「そうだな、注目すべき同業者の情報を集めていないとなれば、それこそ『蒼の薔薇』のメンバーとして失格だろう。……第五位階の魔法を使いこなす魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)だと聞いている」

 

「おっ?そうだな、ちびすけにはそこが気になるよな。初めてお前のライバルになれるかもしれない奴が現れたんだもんな!」

 

 楽しそうに茶化すガガーランに、「やかましいこのゴリラ!」と悪態をついたのは漆黒のローブで全身をすっぽりと覆い隠し、仮面をつけて顔すら隠した小柄な魔法詠唱者(マジック・キャスター)――イビルアイである。

 

「”黄金”に匹敵する絶世の美女と聞いた。是非一度会ってみたい」

 

 身体にフィットする黒装束に身を包んだ女性、忍者のティアがそう言った。それを聞いたラキュースが苦笑する。

 

「本当に、あなた達は自分の興味に忠実ねえ……あ、でもそうするとティナは?」

 

 格好風体も、顔立ちも、ティアと瓜二つの女性が、名前を呼ばれて反応した。ティアとは姉妹であり、同じく忍者であるティナは平坦な口調で告げる。

 

「……私はその”紫電の魔女”(ライトニング・ウィッチ)がとんでもない問題児だと聞いた、ボス」

 

 彼女ら五名こそは、王国が誇るアダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』の構成メンバーであった。

 

「そうだなあ……どこまで本当かわかんねえけど、先輩を再起不能にしたとか、自分をぺてんにかけようとした連中を皆殺しにしたとか、街中でも平気で魔法をぶっ放すとか、冗談みたいな話ばっか聞こえて来やがる」

 

 ちなみにガガーランの聞いた話は大体あってる。イビルアイがラキュースの方に仮面を向けて言った。

 

「それで、ラキュース。そのガンマがどうしたというのだ?エ・ランテルで活動する冒険者ならそうそう私たちに関わることもなさそうだが……」

 

 その疑問に、ラキュースは頭をガリガリと掻いて答える。

 

「来るのよ」

 

「何だって?」

 

「その子、王都に来るのよ。確かに滅茶苦茶腕が立つらしいんだけど、同時にガガーランが言ったとおりの超特大問題児だから、アダマンタイトに上げるのにはよく審査しなきゃいけないって組合が判断したみたいでね。それで、審査を私たちに手伝えってさ」

 

「OH……」

 

 ティアとティナが呆れたような声を出し、ガガーランが顔を顰める。イビルアイは少し考えるそぶりをしたが、やがて疑問を発した。

 

「審査って、何を判断すればいいんだ?」

 

「そうね……とりあえず、私たちに面談させるつもりだって言ってたから、彼女の実力の確認と、一緒に行動して人品品格立ち居振る舞いにどんな問題があるのか調べろってところかしら」

 

「もしかして、俺らに混ぜる為に引き合わせるつもりなんじゃねえの?エ・ランテルじゃ釣り合う腕の奴が居なくてやむなくソロ活動してるって聞いたぜ?」

 

 ガガーランが思いついた疑問を口に出すと、ラキュースは頷いた。

 

「そうね、明言されなかったけど、そういう想定は選択肢として考えているでしょうね。女性なんだから、入れるとしたら『朱の雫』ではなく私たちということになるんですから。まあ、それも実力と性格を確かめてからの話だけれどね。私たちと上手くやっていけそうにないなら、どれほど強くても断るしかないわけだし」

 

「まあ、色々な意味で興味深い人物なのは確かだ。せっかく会いに来ると言うんだ、精々好奇心を満たさせて貰おうか」

 

 そう言ってイビルアイがまとめると、一同は深く頷いた。

 

 

「王都から呼び出しが来た」

 

 開口一番そう告げたアインザックに、ナーベラルは首を傾げた。組合受付で、組合長から話があると告げられて来てみればすぐこれである。何の話だろうか。

 

「君のアダマンタイト級への昇格の件だよ。理屈の上では第五位階魔法を使える冒険者ならそれだけでアダマンタイト級だとは言ったがね、実際にそうやって昇格した前例のないことではあるし、向こうとしてもまあ、審査などしたいのだろうね。王都に来て、とりあえず『蒼の薔薇』と面談して欲しいという話だ」

 

「蒼の薔薇」

 

 オウム返しに呟くナーベラルの様子を見てピンと来たのは隣に座ったイシュペン嬢であった。目を輝かせて身を乗り出すと、人差し指を立てて口を開く。

 

「おや、まさかご存じないので、ガンマさん?これはいけませんねえ、王国に二つしかないアダマンタイト級冒険者チームの一つ、『蒼の薔薇』を知らないとは!構成メンバーが全員女性の華やかなパーティーですよ」

 

 そうなのか。ナーベラルが曖昧に頷くと、アインザックが言葉を引き取った。

 

「やれやれ、ロンブル君に台詞を取られてしまったな。……ともあれ、君のパーティーメンバーの問題もそこで解決するかもしれん」

 

「その……蒼の薔薇が、私をメンバーとして受け入れてくれると?」

 

「確約はできんがね、蒼の薔薇と面談しろというのはつまり、本部としてそういう狙いがあると思っていいだろう。君をいつまでもソロで活動させるのは王国としても大きな損失だからね。もっとも、ただ受け入れてくれる訳ではない、当然試験があると思うべきだな」

 

 アインザックが厳めしい表情を作って大仰に宣告する。

 

「試験?」

 

「そうさ、試験だよ。先日君がウチのミスリル級チームの面々を散々な目に遭わせてくれたように、今度は君が蒼の薔薇から実力を試される番というわけさハハハ。……おっと、うん、皮肉の通じる相手ではなかったな、今の言葉は忘れてくれたまえ」

 

 ナーベラルが退出すると、アインザックは胸をなで下ろした。

 

「アダマンタイト級冒険者ともなれば、それに相応しい仕事をたかだか一都市が賄えるものでもない。どこに拠点を置くにせよ、王国全土に派遣されることになるだろうね。そして首尾良く蒼の薔薇に迎え入れられれば、その拠点は当然王都リ・エスティーゼというわけだ。……やれやれ、やっと肩の荷が下りそうだよ」

 

 そう言って愛おしげに最近少し贅肉を落とすことに成功した(心労で痩せた)腹回りをなで回す。こう書くとまるで妊娠しているように思われるかも知れないが、苦労をかけ通しの胃袋を労っただけである。

 これまで散々ナーベラルの存在に心労を重ねてきた組合長である。「組合長、それフラグですよ」という台詞を飲み込むだけの情けが、イシュペン・ロンブル嬢にも存在した。

 

 

 

 バレアレ家に戻ってアダマンタイト級の昇格試験を受けるために王都に行く、そう言うと家人は皆喜んだ。

 

「ガンマ殿なら間違いなくアダマンタイト級に合格できるじゃろ、めでたいことじゃて」

 

 そう言ったのはリイジーであった。ンフィーレアの方も、笑顔を浮かべて言った。

 

「おめでとうございます!餞別に一番いいポーションを作りますから、是非持って行ってくださいね!」

 

「前祝いしましょう!今夜はごちそう作りますよ」

 

 エンリがそう続けると、最後にネムは目に涙を溜めてこう言った。

 

「ガンマ様、遠くに行っちゃうの?」

 

 こら、おめでたいことなのよ、と姉が叱りつけると、ネムはこくりと頷いた。

 

「うん、わかってるよ。お祝いしなくちゃって。……でも、もう会えないのかなあ?って思っちゃって……」

 

 ナーベラルは幾分か躊躇ってから、ネムの頭に手を乗せてわしわしと撫でた。

 

「……まあ、またいつか会えるわよ。いい子にしてれば」

 

「する!いい子にしてるから、またいつか帰ってきてね!」

 

 そう言ってひしとしがみつくネムを、ナーベラルは困ったように撫で続けた。翌朝、バレアレ家の家人に見送られる中、「さよなら」ではなく「……またね」と言ったナーベラルに、ネムは満面の笑顔で応えたものである。

 こうしてナーベラルはハムスケ一匹を供に王都へ向かった。

 

 

「――ふむ、そなたの話、大変に興味深い。聞かせてくれて、嬉しく思うぞ」

 

 バハルス帝国の皇帝、”鮮血帝”の異名で知られる唯一絶対の専制君主、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスがそう口にすると、声をかけられた若い男は額から汗を流しながらははっ、お役に立てて光栄でございますと頭を下げた。己の腕一本が頼りのワーカー稼業、帝国皇帝がなんのその。普段はそう嘯いているその男も、実際に謁見した皇帝の圧倒的な存在感には、ただただ恐れ入って平伏するばかりであった。

 

 ここはバハルス帝国の首都アーウィンタール、その中心に位置する皇帝の居城。その中でもジルクニフが最も長い時間を過ごしてきた、皇帝執務室である。寝る間も惜しんで各種の改革に邁進する皇帝は、寝室よりも執務室に居る時間の方が長いともっぱらの噂であった。

 その部屋に、七名の人間が居た。一人は部屋の主、帝国皇帝のジルクニフ。一人はその眼前で平伏する、木っ端ワーカーの青年。そして一人、帝国にその人有りと謡われた人類最強の大魔法詠唱者(マジック・キャスター)”三重魔法詠唱者”(トライアッド)ことフールーダ・パラダイン。残りは皇帝の護衛を務める近衛騎士である。

 

「黒髪黒目の異国風の顔立ちをした絶世の美女で、白銀の巨大な魔獣を従え、<雷撃>(ライトニング)を自在に操る魔法詠唱者(マジック・キャスター)……どう聞いても王国に最近突如として現れたというオリハルコン級冒険者ガンマ、のことで間違いないと思わないかじい?」

 

 ジルクニフが親しげに枯れ木のような老人に話しかけると、フールーダは己の豊かな白髭をしごいて答えた。

 

「そうですな陛下。そこまで共通点があれば別人と考える方が愚かでしょう。……報告ではその魔法詠唱者(マジック・キャスター)、第五位階の魔法を自在に操ることでオリハルコンの位をポンと貰ったとか。実に興味深いですな」

 

 フールーダが社交辞令とは全く異なる、好奇心が溢れて零れそうな強い眼光で天井を見上げた。彼の直弟子でも最高で第四位階の魔法までしか習得していない。第五位階の魔法をおおっぴらに切り札として喧伝するのなら、あるいは更なる奥の手を隠しているのではないか?そう想像するだけで心が躍る。無論、逆に五位階魔法を使いこなすというわざとらしい宣伝がブラフの可能性もある。だが、これは多くの目撃情報から可能性が薄いと思われた。

 

「しかし、第五位階の魔法を使うからというのであれば、アダマンタイト級の方が相応しいのでないか?そんな奴は我が国でもじい以外に居ないだろう?」

 

「そこはそれ、ポッと出の流れ者が、登録後即アダマンタイトでは他の冒険者も面白くないでしょうからな。そういった周囲の感情に配慮して、とりあえずワンクッション置くことにしたのでしょう」

 

「ふーん、そういうものか。ウチは実力本位だから、そういうことに文句は言わせないんだがな」

 

 帝国の最重要人物二名が、自分の頭上を飛び越して親しげに会話をするその様を、平伏するワーカーの男は脂汗を流しながら早く終わってくれと祈った。この場の圧力は、男には刺激が強すぎる。

 そもそも何故こんなことになったのかと言えば、全てはあの女のせいだ。あの女――あの時はお互い名乗りもしなかったが、今であれば皇帝とフールーダの会話から、その名前がガンマであると分かる。ともかく、そのガンマに邪魔されて依頼を失敗し、道具として使っていた森妖精(エルフ)の奴隷二人も失った。正直言えば大損害で、信頼を裏切られてぷんすかする依頼主に違約金を支払うにも困窮し、結局何が起こってどうなったのかを恥を忍んで話さざるを得なかった。すると話を聞いた大貴族、尚も言い訳を並べようとする男を制して思案顔になり……それなりの待機時間はあったものの、あれよあれよという間に皇城へと呼び出しがかかったという訳であった。

 皇帝がなんぼのもんじゃいと虚勢を張りながら、内心びくびくものの男がおっかなびっくり登城して見れば、下にも置かぬ歓待ぶり。目に見る物全てに圧倒されながら己の恥を晒して詳しい話を白状し、皇帝達から興味津々の反応を受けて今に至る。

 

「ほら、陛下。興が乗るのも結構ですが、そこの彼が困っておりますぞ」

 

「おお、済まんな。話に熱が入ってそなたの処遇を忘れておった、許して欲しい」

 

「ゆ、許すなどと、そのような……」

 

 フールーダが彼のことを思い出してくれて内心ではやっと話が進むと喜んだが、そのようなことはおくびにも出さずますます平伏する。ジルクニフがパンと手を叩いて隣の近衛騎士に合図をすると、騎士が兜を縦に振って頷き、背後に置かれていたらしい盆を重々しく抱えて持ってきた。その上に踊るのは、山と積まれた帝国金貨である。息を呑んでその輝きを見つめる男に、ジルクニフが優しげな声をかけた。

 

「――金貨千枚ある。そなたの話への報酬だ、受け取るがいい」

 

「へ、ま、まさかそのような?」

 

 無論、騎士がそれを手に取った時点でもしかしたらという期待はあったが、たかが恥ずかしい失敗談を開陳しただけで金貨千枚とは破格の報酬である。これを受け取れば、男のワーカーとしての立て直しにもどうにか光明が見えるというものだ。

 

「そなたの話にはそれだけの価値がある、そう私が判断したのだ。遠慮は要らぬぞ?」

 

「へ、は、は、では、ありがたく」

 

 緊張の余り殆ど過呼吸になりかけながらも、男がどうにか震える手を卓上の金貨に伸ばす。その指が金貨の山に触れるか触れないかというところで、皇帝が声をかけた。

 

「――そうそう、ところで、念を押しておきたいのだが」

 

「は、はいっ!?」

 

 びくりと首を竦めて飛び上がった男を、愉快そうな目つきで眺めると、ジルクニフは言った。

 

「そのガンマなる魔法詠唱者(マジック・キャスター)のことは、以後帝室の預かりとする。具体的に言うと、今の話を聞いた上では、そなたには当然そのガンマに対する遺恨があるだろうが、それは全て忘れろ、そういうことだ。わかるな?」

 

 分かったら金貨を受け取るがいい。そのように述べたジルクニフの言葉を理解するにつれ、男の頭は真っ白になった。要するに、目の前の報酬には以後こちらの言うとおりにして貰うぞという意味もあるらしい。とはいえ、ガンマにしてやられたことを忘れろと言われているだけなのだから、問題にもならない条件である、普通ならば。

 だが、男はもはや普通ではなかった……その胸にうずまくガンマへの復讐心という炎の勢いという意味で言うならば。男はしばし沈黙し、汗を流しながら苦悶の表情で唸りを上げると、震える手を無理矢理に握り込んだ。

 

「怖れながら、できませぬ」

 

「ほう?」

 

 その言葉に近衛騎士が一歩踏み出しかけるのを手で制すると、ジルクニフはむしろ面白そうに相槌を打った。先程まで恐れ入って平伏するばかりだった木っ端ワーカーが、皇帝の言葉に逆らったのだ、逆に興味が湧いてくる。

 

「何故だ?千枚では不服か?駆け引きが望みならもっと積んでも良いぞ?」

 

「いえ、千枚が万枚でも。金の問題ではございません、この私めのプライドの問題であります故。あの女にしてやられ、馬鹿にされたままでは、この先一生私めは前を向いて生きていくことができませぬ。故に、あの女はいつか必ず見返してやります。それがどのような方法になるかはまだ分かりませぬが、この金を受け取ったばかりにそれが叶わぬということにでもなれば、後悔してもしきれませぬ」

 

 それを聞いてジルクニフは、愉快そうに笑った。

 

「プライドか!それは何とも、頼もしいことだ。良かろう、先程の言葉は取り消そう。その金貨のうち、百枚を取って下がるが良い。それがそなたの話に対する、余計な条件のつかぬ純粋な報酬だ。それでどうだ?」

 

 それを聞いて男は深々と平伏し、厚い絨毯に額ずけた。

 

「――ご厚情、感謝致します」

 

「よいよい、私の言葉に逆らってみせるなど、面白いものが見れた。なかなか在野にも、まだまだ気骨のある者はいるものよな。おい、バジウッド。彼を外まで送ってやれ」

 

「はっ」

 

 そうして近衛騎士の一人が頷くのを聞き、男は瞠目した。するとこの男が、帝国最強と名高い、帝国四騎士の筆頭、”雷光”バジウッド・ペシュメルか。王国最強の男ガゼフ・ストロノーフと同じく、男がいつか越えてやるつもりの目標の一人である。そのような男が自分を案内するという。この場合、外まで送るというのは、中で余計なことをしないよう見張っておけという意味をもつ。つまり自分は、帝国四騎士をつけて見張らねばならぬほどの男か。実際はそんなわけがないことは男も分かっては居るのだが、その想像は男の気分を少しだけ良くする効果があった。

 男が機嫌良く退出すると、ジルクニフは上機嫌に鼻歌など口ずさみだした。フールーダが重々しい声をかける。

 

「陛下、よろしいので?」

 

「うん?分かっている癖にじいは心配性だな。本当、魔法絡みのことになるといちいち執念深い。……幾つだと思う?私は二だ」

 

「そこまでの器には見えませんでしたな。私は一だと思います」

 

「そうか?あれだけの大口を叩いたんだ、さぞかし自信があるんだろう?まあ、私にはよくわからんがね」

 

 そのようなことから始まって雑談をしているうちに、やがてバジウッドが一抱えもある箱を抱きかかえて戻ってきた。

 

「戻ったか、ご苦労だった」

 

 ジルクニフが声をかけるとバジウッドは無言で一礼し、箱を押し頂いて片膝をついた。

 

「それで、何合だった?」

 

 ジルクニフがわくわくする子供のような顔で問いかけると、バジウッドは姿勢を変えずに答える。

 

「零でございます、陛下」

 

 その言葉を聞いてがっかりした顔をしたジルクニフは、呆れたように嘆息した。

 

「なんだ、実質アダマンタイト級の冒険者に張り合おうというのに、口ほどにもない奴だなあ!じい、どちらも外れたな!」

 

「そうでございますな、まあ別に問題はありませんが」

 

「そうだな、その辺はどうでもいいな。重要なのは、ガンマ殿が首尾良く帝国を訪問してくれた暁に、万が一にも不愉快な思いをさせることがあっては本末転倒だ、というところだからな!」

 

「そういう意味では断ってくれてようございましたな。監視をつける手間が省けましたからな」

 

「全くその通りだな!おい、一応確認させてくれ。あまり見たいものでもないけどな」

 

 ジルクニフの言葉に従い、バジウッドが箱の蓋を持ち上げる。

 その中では、敷き詰められた塩の上に無造作に乗せられた、まだ温もりを残した先程のワーカーの生首が、恨めしげに虚空を眺めていた。

 

 

 




 十二話で張った露骨な伏線の回収。
 ……えっ、これで予定通りですよ? ひょっとして、直接リベンジするチャンスが貰えるとでも思ってたんですかエルなんとかさん( ´∀`)?

1/9 朱の雫の名称間違い修正。
  ……エルなんとかさんはもっと強い筈って指摘受けたんですけど、修正は保留( ´∀`)
  別に直さなくてもいい気が……
1/23 誤字修正。

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