前回のあらすじ:
傭兵団「先生、お願いします!」
ブレイン「どうれ……言われなくてもスタコラサッサだぜえ~!」
途中、アジトの内部を荒れ狂った破壊の跡と多くの死体を目撃した女性達に驚かれたり、怖れられたり、尊敬されたり。四者四様の視線を集めながら一切意に介することもなく、ナーベラルが四人の女性とハムスケを引き連れてぞろぞろとアジトから外に出ると、入り口前の広場に転がる十数人分の死体を慎重に調べていたらしい六人の冒険者達と目があった。
「何者だ!?……ん、そのプレートはもしかして……!!」
冒険者達のうち三人は前衛職の男性だった。
もう一人、その横には
アジトから出てきたナーベラルの姿に身構えたものの、ナーベラルが首から提げたプレート、後ろに控えるハムスケ、さらにその背後に守られた四人の女性に順番に目をやると、冒険者達は顔を見合わせてひそひそと内緒話を始めた。
やがて、赤毛の女戦士が一同を代表するように一歩前に出て問いかけた。
「もしかして、ガンマさんでいらっしゃいますか?」
「そうだけど。会ったことが有ったかしら?悪いけどこちらには見覚えがないわ」
不思議そうに問うナーベラルに、赤毛の女戦士は苦笑した。
「いえ、直接言葉を交わしたことはありません。だけどエ・ランテルの冒険者であなたを知らない人は居ませんよガンマさん。紫電……っと、なんといっても都市唯一のオリハルコン級冒険者で、絶世の美女としても有名人なんですから」
そういうものか、ナーベラルは曖昧に頷いた。オリハルコン級と聞いた背後の視線が驚愕を孕み、怯えから畏怖混じりの尊敬へと統合されていくのを感じる。それもどうでもいいが。
「あ、申し遅れましてすいません。私はブリタと言って、普段は街道の警備絡みの依頼をこなす鉄級冒険者です。今回、この近辺で野盗の類の仕業と思われる被害が頻発していることを受け、盗賊団の塒がこの周辺にあるのではないかとして偵察任務を引き受けました。それで、森の中を探索していたところ……たまたまなんらかの騒ぎが起こっていることを聞きつけて、この洞窟まで辿り着いたのです。で、まあ、見ての通りの惨状ですから、何が起こったのか死体を調べていたところ、ガンマさんが出てきたわけでして……」
ブリタがそう言うと、ナーベラルは既に興味を無くした顔で無造作に言い放った。
「ふーん。まあそいつらならついさっき全滅したわよ」
他人事のようにそう言うと、冒険者達から驚愕の視線が注がれる。ブリタがパクパクと口を開閉させると、気を取り直してひとつ咳払いをした。
「それはつまり、あなたが全滅させたということですよね?何かのご依頼で?」
「いえ、別に。……別件で前を通りかかったら、たぶん塒の場所を目撃されたのが気に入らなかったんでしょうね、襲いかかってきたから返り討ちにしただけよ」
はあー。なんでもないことのように言うナーベラルに、流石はオリハルコン級冒険者であるとの感心と称賛の視線が注がれる。そして、ブリタが頭を下げた。
「それはなんというか、ありがとうございました。私たちの任務的にも、近隣の住民としても助かりました。僭越ながら代表してお礼を申し上げます」
「別に良いわよ。成り行きだし……」
そう言うとナーベラルは、閃いたとばかりに後ろを見やった。
「あ、そうだ、お礼というならこいつらの面倒を見てやってくれないかしら。私たちは疲れてるからできればさっさと帰りたいのよ」
「その方達は……」
「盗賊共のアジトに捕まっていたお嬢さん方でござる。そのままにしておくのも忍びないので一緒につれて参ったでござるよ」
「それは……はい、わかりました。お引き受けさせて頂きます。本来は拠点を発見した後に野盗達を釣り出して罠にかける予定だったんですが、その分の仕事がまるまる浮きますしね」
ブリタはハムスケの説明だけで、女性達がどのような目に遭わされてきたのか察したのだろう、同性として一瞬痛ましげな表情を浮かべたが、すぐに気を取り直してそう言った。ナーベラルはそれを聞いて満足そうに頷く。
「じゃあよろしく。そういうわけだから、後はこいつらに面倒を見て貰いなさい」
後ろを振り向いてそう声をかけると、一番幼い少女がとてとてと駆け寄ってきて、ナーベラルが反応する間もなく抱きついた。困惑に顔を顰めるナーベラルをぎゅうっと抱きしめて、震える声を絞り出す。
「あのっ、ガンマさま、本当に、ありがとうございました」
「ありがとうございました、あなたは命の恩人です」
「ガンマ様のことは一生忘れません」
「本当に助かりました。しかも仇までとって頂いて……お礼の申し上げようもございません」
それに釣られるように、残りの女性達も口々にお礼を述べて深々と頭を下げる。ナーベラルは困惑したまま無意識に右手を伸ばすと、抱きつく少女の頭をわしわしと撫でた。
そうして少女をゆっくりと引きはがし。何故か悄然としてとぼとぼとその場を立ち去るナーベラルとハムスケを、六人の冒険者と四人の女性はその姿が森の中に消えるまで見送った。
「あれが、
「そうね、でも正直助かったわ。今回の作戦だって怪我人多数、死者もやむなしって規模の合戦になる覚悟だったもの。それを依頼でもないのに片手間で解決するとか、正直憧れちゃうなあ冒険者として……」
「ま、お前……俺たちには無理だけどよそんなこと。英雄ってのはああいう人のことを言うんだぜきっと」
「そうそう、まあ、凡人には凡人の仕事があるってこと。英雄が些末事に煩わされずに済むよう露払いをするのも大事だってことだ」
口々にナーベラルを褒め称えた冒険者達は、羨望の眼差しを込めて空を見上げたのだった。
◆
一応依頼人としてクエストを募集した形になるので、事の次第は報告せねばならない。エ・ランテルに帰還したナーベラルは、塞ぎ込んだ顔でイシュペンに顛末をかいつまんで話した。イシュペンは顔を引きつらせてぼやく。
「それはまた、なんともはや……お疲れ様でした、ガンマさん。ではクエストは未完了と言うことで処理しますが……引き続き依頼を出されますか?」
「……当然よ。見つからなかった以上、取り下げる理由はないわ」
「ですよね、やっぱり。……ガンマさん、これは提案なんですけど、私たちの方で情報提供者を選別させて頂けませんか?」
「選別?」
イシュペンは頷いた。
「今のままでは正直ガンマさんが心配です。いちいち期待して裏切られて傷つくのは見てられません(そして巻き添えで破壊される周囲もたまったもんじゃないです)。だから、あまりにも見込みがないのは、こちらで篩い落とさせていただけないかと。……正直、流石にもうあんなのは現れないんじゃないかと思いますけどね」
「どうやって判断するの?」
ナーベラルが問うと、イシュペンは人差し指を立てて言った。
「そこはご協力をお願いしたいのですが。ガンマさん、あなたがその、ナザリック地下大墳墓とアインズ・ウール・ゴウンを本当に知っているなら当然知っているはずの質問とその答えを私に教えてください。もし自称情報提供者が今後現れたときには、私がその質問内容を確認して、答えられた場合のみあなたに連絡します、そういう形でどうでしょうか?」
ナーベラルは考え込む。確かに、正直、今回のように揺さぶられ続けるのはしんどい。希望と絶望の狭間で踊らされることは、この上ない痛みを彼女にもたらし、己の裡に燃え上がった怒りの炎が鎮火した後には虚無感が残った。目の前の受付嬢がわかりやすい嘘だけでも捌いてくれるというのなら、任せてもいいのかもしれない。
「……わかったわ、それでお願いします。ただ質問内容は少し考えさせて」
「了解しました、ありがとうございます」
イシュペンはホッとした顔で頷いた。初日の騒ぎでもうあんな馬鹿は現れないと思い、油断して後手に回ったが、これでナーベラルが無駄に傷ついて無駄に暴れるのを止められると思ったのだ。ナーベラルの破壊行為を掣肘したいのは確かだったが、彼女のことを心配しているのもまた事実であった。
◆
「そういえばガンマさん。あなたはチームは作らないんですかあー?」
ネムに慰められながらふて寝した翌日、組合を訪れて早速ナーベラルに話しかけてきたイシュペンがそんなことを言い出した。ナーベラルと最初に関わったばっかりに、専任担当なる存在しない役職を周囲から押しつけられて以降、躁鬱の波が激しくなった彼女ではあるが、今日はやさぐれモードのようだった。だがやけっぱち半分とは言え、物怖じせずにナーベラルと接することができる受付嬢は組合全体でイシュペンただ一人のため、適材適所ではあるのだろう。
「チーム、ね……」
「いくらガンマさんが無類の強さを誇るアダマンタイト級相当の冒険者でも、
イシュペンがこのようなことを言い出したのも気まぐれではない。そもそもこの会話は未だ十分な読み書きができないナーベラルの為に適切なクエストを見繕ってやるためのものなのだが、ナーベラルが如何に強かろうと、一人で活動する限り紹介できる依頼もまた限られてくる。せめて前衛を置くべきではなかろうか。彼女の言い分はそのような感じになる。
「そう、ね……かつては六人、もしくは七人パーティーでの行動が基本だったわ」
「へえ、それは凄いですね」
遠くを見るようにして口にしたナーベラルの言葉を受け、イシュペンが感心したように頷く。人数が多いほど、有機的な連携を維持するのが難しくなる。六人で連携行動をとれるなら、それは余程息のあった仲間達が居たと言うことだ。
「今は……おっとと」
イシュペンは既に聞きかじったナーベラルの事情を思い起こしながら、みんな心配してるでしょうねという月並みな言葉は飲み込んだ。ナーベラルがそれだけ取扱注意の繊細な表情をしていたのだ。
「だったらやはり、仲間を捜した方が良くないです?」
代わりに口にしたのはそんな言葉。ナーベラルは少し考え込むと、頷いていった。
「……そうね、でも雑魚とつるむ気はないわ」
正確には、どれだけ腕が立とうと一つ所に腰を落ち着けて活動するようなチームに入りたくはないのだが、そこまで説明する気もないのでとりあえずそう言うと。イシュペンはやさぐれた目に輝きを取り戻して言った。
「なるほど、それもそうですよね!私が一肌脱ぎましょうライバルさん!」
止めてお願い。反射的に出かかったその台詞を危うく喉元で押しとどめると、ナーベラルは胡乱な目つきでイシュペンを凝視する。イシュペンはその視線を受け止めると、ウインクして親指を立てた。
「我がエ・ランテルで最高ランクの冒険者チームを紹介しますので、一緒に仕事をしてみてはいかがです?」
◆
エ・ランテル冒険者組合の組合長を務める、プルトン・アインザックは、イシュペン・ロンブル嬢に対して些か申し訳ない気持ちがあった。
ガンマという実質アダマンタイト級の実力を持つ型破りな
「それではまあ、組合の依頼として決済はするがね。……大丈夫なのかね、本当に」
だから。そのロンブル嬢が躁状態でハイになって持ち込んできた企画に、ついうんと言ってしまったのである。あのガンマが関わっているというだけで却下したい気持ちがむくむくと湧き起こってくるのを押さえることはできなかったが、ガンマの専任担当を押しつけておきながら、ガンマ絡みというだけで提案を却下されてはロンブル嬢が浮かばれない。
それで渋々ながらもあくまで冷静に、理性的に判断した上で、まあロンブル嬢の企画がそれなりの妥当性があることを認めた上で、内心の不安を押し殺しながら認可の印をポンと押した。押してしまった。その上でなお未練がましく不安な台詞が口をついたのは、管理職たるアインザックの悲哀と言えよう。
「大丈夫です!別に上手く行かなくても現状が維持されるだけですし、首尾良く行けば、このエ・ランテル初のオリハルコン級冒険者チームが誕生するんですよ!ワクワクしませんか?」
躁状態特有のハイテンションで叫ぶロンブル嬢を窘めつつ、アインザックはため息をつく。手元の企画書には、「オリハルコン級冒険者ガンマの為のチームメンバー選抜試験」と書かれた題字が踊っていた。
こうしてハムスケが頑張った結果、名声が高まっていくのであった。
しかしおかしいな……プロットの時点ではアインザックさんの胃がここまでダメージを受ける予定はなかったんだけどな?ガゼフと違って( ´∀`)
・二つ名について
とりあえず○○の魔女にしよう→提案されたやつがあったな、風雷の魔女……ルビどうしよう?→(審議中)いまいちしっくりくるルビが思いつかないので見送り。
ルビから考えてみよう→得意魔法からライトニング・ウィッチにしよう→どんな単語を当てはめる?→そういえば紫電って
こんな感じ。提案してくれた人達ありがとうございました( ´∀`)ソシテゴメンネ