017
「ったく、どこ行きやがったンだ、アイツら」
「待ち合わせ場所決め損ねたからなぁ。忍のことだから、あんまり遠くへは行ってないとは思うんだけど......」
見事謎の魔術師たちを撃破した僕と一方通行は学園都市を徘徊していた。
先に脱出した忍と打ち止めを探しているのだ。
吸血鬼ダッシュを駆使してさっさと見つけてしまいたいところだが、一方通行が杖を突いているので普通に歩くしかなかった。
さっきみたいに超能力使って飛ぶなりすればいいのに、と聞けば、能力の使用可能時間に制限があるのだとか。
「阿良々木、さっきの刀は何なンだ?」
「さっきのは『心渡』っていう妖刀なんだ。実は忍の持ち物なんだけど、何かあったときにってことで昨日のうちに貸して貰ってたんだよ」
「妖刀ねェ......。なンだ? 妖怪でも斬ンのか、それで」
「ああ。『怪異殺し』の刀だからな。あらゆる怪異を斬り伏せる。魔術を斬れるかどうか微妙なところだったけど、上手くいったみたいだな」
「なるほどなァ......」
「それより一方通行、そろそろ教えてくれよ。お前の超能力って一体どういうものなんだ?」
僕は少しだけ立ち止まった。
一方通行は僕に構わず歩き続ける。
「ベクトル制御。あらゆる力の『向き』を操るっつゥ能力だな。だから基本的に俺に攻撃は効かねェンだよ。だがまァいろいろあってな、今はミサカネットワークの代理演算がなきゃまともに歩くこともできねェ」
「ミサカネットワーク......?」
「気にすンな、それ以上はややこしィ話になる。めンどくせェ話は嫌なンだよ」
まぁ、ミサカネットワークとかいう単語についてはスルーしよう。
ともあれ一方通行。
彼の能力は簡単に言えば『全く攻撃が効かない』ということだ。
しかし先程の魔術師の攻撃は彼に効いていた。
絶対に効かないはずの攻撃が効いた。
一体それはどういうことなんだ?
と、そこで。
「あ、いた」
忍がこちらに手を振っていた。打ち止めちゃんも一緒だ。
そして......。
「お、金髪、保護者が来たみたいだぞ!」
忍と同じ金髪に、フワフワのドレスみたいな服を着た、明らかに外国人の少女。
次いで。
「ああ、一方通行に......お前は?」
さらに同じく金髪___こちらは染めているのだろう___の高校生らしき人物が。
「久しぶりだなァ、浜面」
「おお、あなた無事だったの! ってミサカはミサカは駆け寄ってみる!」
ひとまずこれで無事に合流できた。
忍と打ち止めの面倒を見てくれていたらしい、浜面とかいうこの不良っぽいヤツには礼を言っとかないとな。
「ええと、浜面、でいいのか? 悪いな、こいつら見てもらっちゃって」
「いや、別に構わないけど、お前、誰だ? 一方通行の知り合い?」
「僕は阿良々木暦。阿良々木でいいぜ」
浜面によると、フワフワドレスの金髪少女はフレメア=セイヴェルンというらしい。
この少女も忍と打ち解けたらしく、かなり仲良さげに何やら話込んでいるようだ。
「で、阿良々木。この金髪少女は何者なんだ? なんかすっげぇ話し方するんだけど?」
「あ、ああ。気にしないでくれ、元からなんだ」
何百年と生きた忍特有の話し方だ。
僕も最初はおかしな喋り方だな、って思ったし。
「お前様よ、それでどうなったのじゃ? さっきの不審者は蹴散らせたみたいじゃがのう」
「ああ、『心渡』は使わせてもらったよ。あの妖刀、魔術も斬れるみたいだぜ」
その後少し浜面と一方通行は何やら話し、
「なるほど、そう言うことか。じゃあ阿良々木、俺が学園都市を案内してやるよ」
という浜面の提案に甘えさせてもらうことにした。
018
僕たちがいた第七学区には中等教育を行う学校が集中していて、教師たちの生活圏も主にここだそうだ。
学区は全部で二十四あり、虚数学区なんていう都市伝説もあるらしい。
ちなみにこの学園都市、治安は主に警察ではなく『
すごいな、それ。
しかしそれも超能力なんていう力があるからだろう。
さっきすれ違ったツインテールの女の子なんて明らかに『
「そういや浜面、お前も超能力を使えるのか?」
「いや、俺は『
「そう、なのか......」
なんか悪いこと訊いちゃったな。
超能力を使えない人間もいるんだな、この街には。
無能力の浜面が最強の一方通行と一緒に並んで歩いているというのは、実は結構スゴいことなんじゃないかって思う。
僕もこの街にいれば能力を使えるのだろうか?
浜面に学園都市のいろいろをレクチャーされつつ、僕たちが向かったのはとあるレストランだった。
そして、僕たちに先客がいたようだ。
「よぉ浜面ァ、随分と遅かったわねぇ。とりあえずドリンクバー係決定」
何やら怖い系の女と、
「大丈夫。私はそんなはまづらを応援してる」
ジャージを着た少女。
「悪い、麦野、滝壺。ちょっとヤブ用ができちゃってな」
「で、なんで第一位様もいるのかしら? あとそいつ誰」
麦野と呼ばれた彼女は僕と一方通行をそれぞれ睨みながら言う。
ここは一応自己紹介が必要か、と思ったが、
「阿良々木暦」
浜面が先に言ってしまった。
「多分こいつが『穴』の鍵だ」
『穴』。
この世界に開いてしまった空洞。
その『穴』に落ちてしまい、消えてしまった人間がいる。
例えば上条当麻。
「でぇ? 何か新しい情報は手に入ったの、浜面。いい加減記憶に齟齬があるのが気持ち悪くて仕方ないんだけど」
「きぬはた......。やっぱり思いだせない......」
「いや、絹旗に関しては特に収穫はない。一つわかったのが『
『消失者』。
どうやら『穴』に落ちた者はそう定義付けられたらしい。
新情報ということは、上条当麻の他に、誰かいるのだろうか。
「今わかってるのは、上条当麻、一方通行とこの
麦野が反応する。
「第二位のヤツが? でもまだフレメアにくっついてるじゃないの、ほら」
麦野が指さした先にあったのは、フレメアの首からネックレスみたいにしてぶら下がっている白いカブトムシ。
......カブトムシ??
『はい。私はちゃんとここにいます』
カブトムシが、喋った......!?
『ですが、私の中の一体の消息が絶ったのは事実です。何の前触れもなく、突然に』
たまらず僕は口を挟む。
「ええと、このカブトムシ、何者?」
『これは。自己紹介を省いてしまって申し訳ありません。私は学園都市第二位、垣根帝督、その一部です』
「だ、第二位!?」
このカブトムシが超能力を使うだって!? 何それめっちゃ見てみたい!
「で、垣根。わからないんだよな、消えた先が」
『そうですね。あれから一度も反応がありませんし、私自身の力でどうにかなるのならとっくに戻ってきているはずです』
全然ついていけない。
学園都市の最強、それに次ぐ第二位。
そして何やら怖い麦野に滝壺。不良っぽい浜面。
小さい組が忍に打ち止めちゃんに、フレメア。
最後に僕、阿良々木暦。
そうそうたるメンバーだ。いつの間にかめっちゃ増えた。
九人で一つのテーブルに座るというのは不可能なので、忍、フレメア、打ち止めちゃん、滝壺には隣のテーブルに座ってもらっている状態だ。
一方通行がここで初めて口を開いた。
「土御門からの情報だが、『穴』の影響は学園都市内に留まっているらしィぞ。向こうのヤツらも動き出したみてェだなァ」
「魔術ねぇ......。で、具体的な動きは?」
「さっき魔術師のクソッたれ共に襲われた。あれは幻覚か何かだったらしいィがなァ」
幻覚、だったのか、あれ。
まぁ、なにやら映像っぽい感じのノイズが走ってたけど......。あの火の玉や電流も映像だったのか?
「そう言えば、ヤツらは『新世界』なンつゥーことも言ってたなァ」
『「新世界」、ですか......。何かの組織名ですかね』
「まったく、第三次世界大戦で学園都市にめっちゃくちゃにされたって言うのに、懲りないわね。向こう側のヤツらは」
「......また、始まっちまうのか、戦争が」
浜面は下を向いて言った。
第三次世界大戦。
僕らの世界ではなかった大問題。
科学と魔術の戦争。
「まぁ、すぐに何か大事が起きる訳ない、って考えれるほど楽観はしてないけど、その時はその時よ」
『学園都市側で、こうやって第一位、第二位、第四位が駆りだされていますから。ある程度の魔術師ならこちらで対応できます』
第四位?
ここに第四位もいるのか?
今ここにいる中に、もう一人『
「阿良々木。私が麦野沈利。一応『超能力者』よ」
「やっぱり......」
「やっぱりって何よ」
僕の予想どおりだった。
彼女が学園都市第四位か。
納得した。めっちゃ睨まれてるけど。
「でぇ、阿良々木。自分がどうしてこんな腐ったとこに来ちゃったのかわからないの?」
麦野が睨んだまま訊いてきた。
「え、あ......うん、わかってない」
声が裏返った。
超恥ずかしい。
「じゃあそろそろ本題に入りたいんだけど、いいか?」
浜面が言うなり、
「あ? 何仕切ってんのよ、浜面。こういうのは一番頭のキレるヤツがやるって決まってるでしょ」
「そ、そうなの?」
「めンどくせェ。俺ァやンねェぞ」
「私もめんどくさい。パス」
言い出した本人がパスしやがった。
なんたる適当振り。
「第二位は......却下。カブトムシだし」
『ええ......?』
超能力者全員がパスしやがった。
これじゃもう頭キレるヤツとか関係ない。
「やっぱ俺やろうか?」
「いや、それだけは無理」
「なんでだよ! ていうか俺にやらせたくねぇんなら自分でやりゃいいじゃねぇか!!」
「うるっさいわね......。浜面のくせに」
「.....(涙)」
「大丈夫。私はそんなはまづらを応援してる」
『私がやりましょうか......?』
「いや、カブトムシだし」
『......』
......。
無駄すぎる争いが繰り広げられている。
誰かまとめ役はいないのか?
こういう時、羽川か扇ちゃんがいてくれれば助かるのだが......。
「しょうがないのう、儂が請け負ってやろう」
忍が我こそはと立候補した。
確かに忍はこの中で最年長だし、頭も結構キレるはずだ。
しかし。
「やっぱ一方通行、お前がやれよな。学園都市一の頭持ってんだろ?」
「うるせェな。俺が向いてるとでも思ってンのか。だとすりゃァ相当頭沸いてンぞ」
「いいんじゃないか? 学級委員みたいで」
「第一位が......学級委員......ぶはっ!」
爆笑する浜面と麦野。
駄目だ。忍完全に無視されちゃってる!
ちなみにジャージ少女滝壺はフレメア、打ち止めちゃんと遊んでいるようだ。
「忍......」
「儂はもう知らん!! 勝手にせい!!」
拗ねて影に戻ってしまった。
あーあ。これでまたドーナツ追加だ。何個買ってやったら機嫌直すだろうか。
「あ、あのさ、お前ら......」
なんとか僕は声を出した。
忍の仇を取らなければ。
「何、新入り」
「新入りってなんだよ!? いやそうじゃなくて、この際ジャンケンでいいんじゃないか?」
「ジャンケン、か。ま、いいんじゃね?」
「浜面がならないなら、私は別に構わないけど」
「......ダリィ」
「よし。じゃあ決まりだな。滝壺は......、別にいいか。遊んでいるし。勝ったヤツがまとめ役だ」
という訳で。
僕らは右腕を突き出した。
決戦が、始まる。
「「「『「ジャンケン、ポン!!」』」」」
浜面、グー。
麦野、グー。
一方通行、グー。
僕、パー。
カブトムシ、......カブトムシ!?
「おい第二位、お前は何を出したんだ?」
『あー......これはえーと......』
頼むから、チョキだと言ってくれ! さもなくば僕がまとめ役になっちゃうじゃないか!!
この濃すぎる面々を仕切ることなど、僕にできる訳がない。
できるとすれば、委員長の中の委員長、羽川翼くらいだ。
そして。
カブトムシの第二位は、己の選択を告げる。
『......グー、です』
おぉぉぉぉい!!!
マジか、マジかこのカブトムシ!
「んじゃま、よろしく、阿良々木」
「いや待てよ。僕にどうしろって言うんだ? 全然情報持ってなんだけど??」
「ま、普通に考えりゃァ、そォだな」
「じゃあ先に言ってよぉ! 嫌だぜ、まとめ役なんて!」
ヤバい。口調がおかしくなってきた。
このままでは僕のアイデンティティーが崩壊してしまう!
と、そこで。
「まったく、こんなんじゃ進まないよ。まとめ役は私がやる」
ジャージ・滝壺が名乗り出てきてくれた。
満場一致の賛成。
ようやくこれで、話を進められる......。
『アイテム』のメンバーを追加しました。
とりあえず、『消失者』は上条さん一家、ワースト、絹旗、垣根帝督です。