架物語   作:藍鳥

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おうぎボイド 003

   013

 

 「本当に学生が多いな、ここは」

 

 「ちょうど登校時間みたいですからねぇ。昨日よりも多く感じます」

 

 僕と扇ちゃんは朝の学園都市を散策中だ。

 扇ちゃんの言うとおり、ちょうど登校中の学生が多く、直江津高校周辺ではあり得ないくらいだ。

 

 土御門から今この街で何が起きているのかをある程度聞きだした後、僕と扇ちゃんは当初の予定どおり学園都市探検をすることにした。

 僕が住んでいる街とは風景が全然違って、過去へタイムスリップした時よりもおもしろい。まぁ、言ってしまえば、来たことのない街を歩いている、それだけなのだけど。

 

 「ところで阿良々木先輩。お土産は何を買っていくかはもう決めましたか?」

 

 「いや、お土産ってなんだよ扇ちゃん。僕たちはまだ無事に帰れるかどうかすらわからないんだぜ? まぁ戦場ヶ原にはさすがに何か買って行ってあげないとマズいけどな。異世界まで行って何も買ってきてないなんて言ったらそれこそ愛想を尽かされるかもしれない」

 

 「その時は私が代わりにあなたを愛してあげますよ? さもなくば間違いなくあの巨乳にとられてしまいますしねぇ」

 

 なんとも微妙な発言だった。

 愛してくれる分には嬉しいのだが、扇ちゃんの場合、それは羽川に対抗するため、と言った感じがすごいする。

 ともあれ、僕と扇ちゃんはこんな風にどうでもいい会話をまったりとしながら学園都市を散策している訳だ。

 

 「お土産の話に戻るけど、学園都市って何かそういう名産品みたいなの、ってあるのか? お土産屋さんみたいな所も途中に何軒かあったけど、学園都市限定ってのは無いみたいだぜ?」

 

 「どうでしょうか。私はこの街の全てを知り尽くしている訳ではありませんから確定的なことは言えませんが、この街、科学の匂いしかしませんからねぇ。そういう類の物は少ないんじゃないですか」

 

 掃除ロボットが名産品、ってトコか。

 それもどうかと思うけどな。

 

 「あ、阿良々木先輩、見てくださいよこれ」

 

 「ん、なんだ? 何か名産品があったのか?」

 

 「名産品、って訳じゃないでしょうけど......」

 

 扇ちゃんが指さしていたのは、『自転車屋 サイクルアーチ』だった。

 そう言えば扇ちゃん、自転車が好きなんだっけ。僕もそうだけど。

 

 「サイクリング好きとして、学園都市の自転車っていうのは見逃せませんねぇ。一体どんな風に科学が応用されているのか、気になります」

 

 「科学を応用って言っても、精々電チャリのバッテリーが長く持つ、くらいじゃないのか?」

 

 そう思っていた僕だったが、甘かった。

 そう。

 僕は学園都市を完全に舐め切っていたのだ。

 当たり前のように掃除ロボットが闊歩する街なのだから、これくらいは予想できたはずなのに。

 学園都市は僕の思考の何段も上を行っていた。

 

 「アクロバイク、っていうらしいですね、これ」

 

 扇ちゃんにつられて、店頭に置いてあった何やら近未来的なボディをしたものスゴく魅力的な車体と、その説明書きに目を向ける。

 

   サイクルアーツ話題沸騰! アクロバイク!!

 

 いわゆる電動補助自転車なのだが、最高速度は時速五十キロ。さらに電子制御式のサスペンションによってあらゆる衝撃を緩和、前輪と後輪をそれぞれ左右からはさみこむ巨大な円盤型ジャイロは、車体が七十度以上傾いていても決して倒れることはなく、姿勢の自動回復を可能とする。サスペンションの力を借りれば垂直に二メートル以上跳ぶことも可能である。

 

 「すごいな、これ......」

 

 「私、これ買いますね」

 

 「ええっ!? 決断速っ! いいのか扇ちゃん、コレ結構の値段だぜ?」

 

 「いえ、大丈夫です。これでも結構懐は暖かいんですよ、私」

 

 言うと、扇ちゃんはさっさと店の中へ入って行ってしまった。

 このアクロバイク? はどうやら色々派手な技が可能らしい。

 僕もこの超ハイスペック自転車がほしいのだが、残念ながらそこまでの残金は無かった。

 日々のドーナツ代で買えたのだが。

 

 

 

 

 

 

   014

 

 「おおー、すごいですよこれ」

 

 扇ちゃんは見事にアクロバイクを乗りこなしていた。

 車体を滑らせて『スライティング』なんていう技までやって見せた。

 

 「よ、っと」

 

 グルン!! と今度は後輪を上げて一回転した。

 これは『フレイルターン』。

 扇ちゃんが店で貰って来た『サイクルアーツ 全集』に載っていた。

 

 「すごいな、扇ちゃん。そんな大技僕には到底無理だぜ」

 

 「いえいえ、結構簡単ですよこれ。ジャイロとサスペンションが補正してくれます」

 

 いや、それにしても上手い気がする。

 

 「では阿良々木先輩。ちょっとこれからひとっ走りしてきますね。ちゃんと夜には部屋に戻るので心配しないでください」

 

 そう言って『フレイルターン』から跳躍し横一回転して着地する『フライングD』を成功させつつ去って行った。

 扇ちゃんは行ってしまった。

 ......。

 ......。

 

 「一人、だな......」

 

 今までは扇ちゃんに連れられるがまま行動していたので、これからどこに行けばいいのか全くわからない。

 どこにでも行けるのだが、どこを優先的に周るべきかわからない。

 本当に人間強度下がり過ぎだろ、僕。

 ふと周囲を見回す。

 と、そこには......。

 

 「ドーナツ屋か......」

 

 僕の街にあるの(忍店)とはまた違うドーナツ屋があった。

 しょうがない。

 何個か忍に買って、話相手になってもらうか。

 

 「やったー! これでやっとドーナツが食べれるの、お前様よ! 何個!? 何個までOK!?」

 

 「忍!? お前寝てたんじゃないのかよ! ていうかお前にはドーナツ探知能力でもあんのか!?」

 

 ものすごい反応スピードだ。

 どんだけドーナツ好きなんだよ。

 

 「ドーナツ、ドーナツ!」

 

 「予定通り四つまでだ」

 

 さてと、これで忍が出てきて話相手ができた。

 この世界から脱出するため、彼女の助言も聞きたいところだ。

 店内に入ると、忍はすぐにドーナツが並んでいるショーウィンドウの方へ駆けて行った。

 

 「おおーっ! 何これ!? いつものヤツと違うじゃん! ポテトリング!? これホントにドーナツなの? マジ食べたい!」

 

 「し、忍、ちょっと声抑えて......」

 

 周りには何人か他の客がいた。

 すぐ近くには忍と同じくらいの少女が......、て、あっ。

 

 「お前、一方通行か?」

 

 「あァ? なンだ、オマエ......」

 

 「阿良々木暦だ。昨日僕を助けてくれただろ?」

 

 「あァそォ。で、なンだ? 俺に用でもあンのか?」

 

 相変わらず冷淡な反応をしてくる一方通行。

 しかし今日は少しだけ様子が違っていた。

 なぜなら。

 

 「ねぇあなた、今日は二つ買っていいんだよねっ、てミサカはミサカはあなたに再確認してみる!!」

 

 先程言った、忍と同じくらい小さい少女と一緒にいたのだ。

 

 「うっせェな、イイっつったろォが」

 

 「イェーイ! 今日はラッキーデイだぜってミサカはミサカは大喜び!」

 

 ミサカ、と言うのだろうか。

 そう言えば昨日この街についていろいろとレクチャーしてくれた女子中学生の名も確かミサカだったような気がするが、偶然だろう。

 

 「おい、お前様よ。早く買わんか?」

 

 「ああ、悪いな忍」

 

 急かす忍をなだめる。

 

 「お? あなたの髪、スゴイ金髪だね、ってミサカはミサカは物珍しさに近づいてみる」

 

 「なんじゃ、うぬのアホ毛の方が珍しい気がするぞ」

 

 アホ毛の女の子が忍に絡んできた。ちなみに一方通行はそれを見ても無反応だ。

 

 「すごいねーっ、あの人の白髪もすごいけど、あなたの金髪もすごく綺麗、ってミサカはミサカは感心感心!」

 

 「ぬなっ!? 別にただの金髪じゃ!」

 

 「ええー?」

 

 なんだか仲良くなってきているので、僕も放っておくことにした。

 

 「なぁ一方通行、あのアホ毛の子はお前の妹か何かなのか?」

 

 「あァ? オマエには関係ねェ話だろォが」

 

 「いや別に言いたくないならいいけど......」

 

 つまり、妹ではない、ということか?

 顔も全然似てないしな。それよりどっちかというと......。

 

 「で、見っかったのか、帰る方法は」

 

 以外なことに僕の事を気にかけるようなことを言ってきた。実際気にかけているのかどうかは知らない。

 

 「いいや、全然だ。まぁ昨日今日の話だからな。まったくもって進展してないよ」

 

 「そォかい......」

 

 僕と一方通行の静かな空気とは裏腹にミサカ? と忍は、

 

 「うぬのアホ毛は動かせるのか?」

 

 「ミサカの特技の一つなんだぜっ!」

 

 みたいな感じで完全に打ち解けていた。

 忍にしては珍しい展開である。

 

 「オイ、行くぞ、打ち止め(ラストオーダー)

 

 一方通行がアホ毛の子に言った。

 なるほど、ラストオーダーと言うのか。いや、百パーセント本名じゃないだろ。じゃなかったらあだ名か? ラストオーダーってあだ名か?

 

 「ええー、もう行っちゃうの? ミサカはもうちょっと金髪とおしゃべりしたかったー、ってミサカはミサカは肩を落としてみたり......」

 

 「そうじゃの。儂も残念じゃ。久しぶりに話の合うヤツと巡り合えたと言うのに」

 

 話の合うって、今のでかよ。

 

 「ん、あなたのお名前は、ってミサカはミサカは別れ間際に聞いてみる」

 

 「儂は忍野忍じゃ。うぬは特別に忍と呼んでよいぞ」

 

 なんと言うか、僕の時とは大違いだな、対応が。

 まぁ見た目一緒な二人だから、やはり何か通じるところがあるのだろうか? 実年齢は全然違うんだけど。

 微笑ましい風景を眺めながら、そんな事を考えていた時だった。

 ふと。

 一方通行が言った。

 

 「なァ、阿良々木。オマエ確か吸血鬼だっつってたよなァ」

 

 「ああ、完全な吸血鬼には及ばないけど、一応はそうだぜ」

 

 「なら教えろ。オマエのその吸血鬼の力っつゥのは一体どンだけのモンなのか」

 

 奇妙な質問だ。

 別に質問の内容が奇妙な訳ではなく、今の状況。

 一方通行はなぜ、今わざわざそんなことを聞いてきたのだろうか。

 それにこいつは積極的に問題に関わりたがらない人間のはずだ___少なくとも僕はそういう印象を受けた。

 

 「そうだな......。今の僕なら四肢断裂くらいなら元通りに回復できるし、かなりのスピードで走れたりジャンプできる。あと動体視力も強化されてるな」

 

 昨日忍に血を吸ってもらったばかりなのだ。

 今の僕は普段の僕より吸血鬼。

 

 「......」

 

 「で、なんでそんなことを今聞くんだ?」

 

 僕が逆に訊いてみたが、一方通行は完全に無視するつもりらしく、何やら自分の思考に耽っているようだ。

 

 「ならアイツ、あの金髪も吸血鬼なんだろ? アイツはどォなンだ?」

 

 金髪のアイツ、忍野忍は純粋な吸血鬼だった。

 鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼だった。

 最強の吸血鬼であり怪異の王だった。

 しかしそれは忍がキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードだった時の話だ。

 今の忍に当初のあの膨大な力は残っていない。

 欠片も残っちゃいない。

 

 「そうだな、忍は僕よりも強いけど、戦闘面じゃあ僕とそう変わらない。まぁ忍の場合、物質形成能力があったり、怪異を喰ったりできるんだけどな。ああ、あと飛べるぜ、忍」

 

 「じゃあついて来い。あの金髪も連れてなァ」

 

 「ん? ついて来いって、別に構わないけどどうしてだ?」

 

 さっきから一方通行の目的が全くわからない。

 ただその真っ赤な瞳が僕を睨んでいる。

 

 「黙ってついて来いっつってンだろォが。これ以上言わせンならブッ飛ばすぞ」

 

 「お、おう」

 

 すごい脅された。

 どうしよう、超怖ぇ。

 別に脅されなくてもついて行くつもりだったんだけど、問題は忍だ。まだドーナツを買えていない。ここで忍が事情を言わなくても理解してくれるかどうかだ。

 相手は学園都市最強。

 何されるかわかったもんじゃない。

 

 「なぁ忍、悪いんだけどさ......」

 

 「わかっておる、お前様よ」

 

 わかってる......?

 どういうことだ? 忍には一方通行の目的がわかるのか?

 ともかく、僕と忍、それに打ち止めは一方通行に先導される形で外に出る。

 そして。

 そこで僕は理解した。

 一方通行が一体何を考えていたのか。忍は何に気付いたのか。

 

 空気がおかしい。

 人がいない。

 先程までの学生で賑わっていた学園都市が異常に変化している。

 

 「......!?」

 

 この空気には覚えがある。

 かつて僕が幾度となく感じた、怪異的な空気。逢魔ヶ時、怪異が現れるあの雰囲気がそこにはあった。

 そして、来た。

 

 突如、虚空から浮かび上がるように現れた、ローブの五人の集団。

 

 僕が何か考えるよりも先に一方通行が動く。

 

 「失せろ、三下共が」

 

 ガッ!! と地面が抉れた。

 一方通行からローブの集団まで一直線に地が爆ぜる。

 これが超能力、か。

 この規格外の攻撃なら、あの集団もひとたまりもないだろう。

 しかし......。

 

 「おい、なんで今の喰らっても無傷なんだ!?」

 

 ヤツらは一歩も動かず、そこに立っている。

 真ん中のローブが言った。

 

 「......『新世界』へようこそ。科学の子供たち」

 




 禁書にも物語にも、敵らしい敵がいないので、すみませんが敵さんは完全オリジナルです。

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