キャラは禁書中心に増やしていくと思います。
011
翌朝。
「う、ってー......。やっぱりきついな......」
僕が今朝目覚めたのは部屋のバスタブの中だった。
いろいろ自分の寝床について思案した結果、たどり着いたのがここ、バスタブの中だった。
ここなら扇ちゃんも安全だ。僕に襲われる心配はない。
けどやはりバスタブは固くて寒かった。
「うう......」
さて、今日はどうするか。
まず土御門に超能力について説明をしてもらう。そしてそこからこの世界の一般常識などを知っておくため、街を散策するとしよう。
僕は狭苦しいバスタブを出、扇ちゃんが寝ているはずのリビングへ向かった。
「おや、お目覚めですか、阿良々木先輩」
「もう起きてたのか扇ちゃん。君は僕と違って早起きできるタイプなのか?」
頭をぽりぽり掻きながら扇ちゃんの方を向いた。
「え......」
そこで僕が目にしたのは。
「どうかしましたか、阿良々木先輩」
「いや、どうかしましたか、じゃなくて。君は一体何をしているんだ?」
「何って、朝ご飯ですよ、朝ご飯。恐縮ながら、私が阿良々木先輩の朝ご飯をつくらせてもらっているのです」
そう。
流し台の前に立っていたのは、どこから引っ張りだしてきたのか、制服の上からエプロンを纏いなんとも家庭的な姿で朝ご飯をつくっている扇ちゃんの姿だった。
なんというか、どうリアクションすべきなのかわからない。
「ではどうぞ」
「ど、どうも......」
献立は目玉焼きウィンナー付きに、ご飯に、シンプルなお味噌汁。
僕はお味噌汁に箸をつける。
「......」
扇ちゃんは遠慮なく自分の料理を口に運んでいた。
自分のつくった料理なのだから普通なのか。
僕もお味噌汁を啜った。
「......おいしい」
「そうですか、ありがとうございます」
普通においしかった。
扇ちゃん、料理もできるんだな......。
「ところで阿良々木先輩。今日はこれからどうするつもりですか?」
「うーん、そうだな。とりあえず隣の土御門の所に行って、超能力についてレクチャーを受けたいと思う。で、その後学園都市を散策して、この世界の一般常識を取り入れるよ」
あと、土御門が言っていた魔術というワードについても聞いておこう。超能力よりも不穏な響きがする。
「なるほど、それも良いですね。ですが阿良々木先輩。それよりまず先にすべきことがあります」
扇ちゃんは依然散らかったままの部屋を指さしながら言った。
そうだ。
僕たちはまだこの部屋の事情をわかっていない。
ここは一体誰の部屋なのか。
なぜこの部屋の住人がいないのか。
あるいはただ捨てられただけの部屋なのか。
「私、朝少しこの部屋の物を適当に手に取って調べたんですよ。そこでコレを見つけました」
扇ちゃんが懐から取り出したそれは、携帯電話だった。
見つけた、ということは扇ちゃんの物ではないのだろう。おそらくはこの部屋の本来の住民の携帯電話だ。
「今時珍しいですが、この携帯、ロックが掛かってなかったので色々調べさせていただきましたよ」
「大丈夫なのかそれ。確か人の携帯の中身って見ただけでも訴えられるって聞いたことがあるぜ?」
「何を言っているのですかあなたは。今はそんなことを気にしている時じゃないでしょう。まったく、本当に愚か者ですね」
そう僕を罵倒しつつ、扇ちゃんは他人の携帯電話を弄って、ある画面を僕に突きつけてきた。
「この人がこの携帯の持ち主で、この部屋の住人ってことで間違いないでしょう」
そこに書いてあったのは。
「上条......当麻.......?」
「ええ、どんな人間なのかは知りませんが、おそらく彼___彼女かもしれませんが___その上条当麻さんがこの部屋の住人ですね」
そうだ。そこで生じる問題がある。
「このことを土御門たちは知っているのか?」
「知ってると思いますよ、多分」
上条当麻という人間。
僕の脳にまた一つ謎が増えた。
自分の携帯も持たずして、彼は今どこにいるのか。
それも土御門に聞く必要があるだろう。
012
「上条当麻」
隣の土御門の部屋に集まった僕と扇ちゃんと土御門はテーブルを挟んで向かい合って座っていた。忍は僕の影の中で寝ている。一方通行は今日はいないらしい。
「上条当麻が隣の部屋の持ち主だ。それで合ってるぜよ」
「で、何で僕はその上条ってヤツの部屋にいないといけないんだ? それに一体誰なんだ、上条当麻って」
「それを説明するとちょっとばかし長くなるが、構わないか?」
僕と扇ちゃんは、別に構わないと答えた。
そして土御門による問題の説明が始まる。
今この街、学園都市で一体何が起きているのか。そして僕や忍、扇ちゃんの身に何が起こってしまったのか。
上条当麻とは、何者なのか。
「突然の事だったぜよ。街から何人かの人間が消えた」
「人間が、消えた?」
「ああ、そしてその人間そのものだけでなく、その人間に関する情報、記憶が全て俺たちから消えてしまった。まるで世界に『穴』が開いて、そこに落っこちたみたいにな」
そして、その穴が一体どこに続いているのかはわからない。そう土御門は言う。
「だがな、その記憶消去もテキトウで、消えたのは本当にその人間自体とその人間に関する記憶だけだった。だから部屋には持ち物は残ったままだし、記憶の辻褄が全く合わないことにもすぐに気付いたって訳だ。中でも上条当麻の記憶の『穴』は大きかった」
つまり、その上条ってヤツは土御門に深く関わっていたということだ。
まぁ、隣に住んでいる人間だからな、それも当然か。
「で、上条当麻が消えてしまったというのがとりあえずマズい。ヤツはこの学園都市に大きく影響を及ぼし過ぎていたようだからな。記憶に欠陥ができた人間がかなり多いんだ」
「そんなにスゴいヤツだったのか? その上条ってヤツは」
「まぁおそらくな。俺たちからヤツの功績に関する記憶が消えてしまっているからはっきりとはしないが......」
その時、プルル、プルル、と誰かの携帯に着信があった。
「悪い、俺だ。ちょっといいか?」
「ああ、別に構わないぜ」
そう言って、土御門は廊下の方に消えた。
「どう思う、扇ちゃん」
「そうですね、彼が言っていることを信じるなら、これは私たちには手出しできないでしょう。私たちは怪異こそ少しは耐性がありますから、それなりに対応はできたかもしれませんが、超能力などが関わってくるともうちんぷんかんぷんです」
「僕も同意見だな。怪異でさえ忍野や忍に助けてもらわないといけないってのに、忍の専門分野外にもなるともうどうしようもねぇな」
「この世界に出来た虚構を埋められるのはこの世界の人間だけですからね」
虚構。
穴。
それがどうやってできたのかは僕たちには知りようのないことだし、もしそれが超能力なり魔術なりによってもたらされた物だって言うのなら、それは超能力者や魔術師に任せるべきだ。僕みたいな素人なんかが無理に関わろうとすればかえって現状が悪化する可能性も十分にある。
ただでさえ異世界などというイレギュラーすぎる状況下にあるのだから、これ以上現状を悪化させたくはない。
「けど私たちはずっと受け身でいる訳にもいきませんしねぇ。その境界を見極めるのが今一番の課題でしょう」
「そうかもな......」
扇ちゃんの考えに賛成はする。
だけど、周りに置いてけぼりにされて、自分の周りで起きていることに着いていけないことを嫌う自分がいることもまた事実だ。
いい加減、人間強度が下がり過ぎだ。春休み以前の僕では考えられない行動だろう。
しばらくすると、土御門が戻って来た。その表情からは一体どんな通話だったのかはうかがい知れない。
「イギリスから新しい情報が入ったぜよ」
「い、イギリス!?」
「ああ。どうやら『穴』の効果範囲は学園都市に限定されているらしい。イギリスにいる俺の仲間は上条当麻に関する記憶をちゃんと保っているみたいだ」
と、言われても僕にはどう反応すればいいのかわからない。記憶が消えているのは学園都市の住民だけだとわかっても今の現状は変わらない。
「もう一つ新しい情報だ。どうやら上条当麻以外も住んでいたらしいな、あの部屋」
答えたのは扇ちゃんだった。
「そうですね。明らかに女物の服がありましたから」
そうなのか? 全然気付かなかった。
「そう。どうやらあの部屋には上条当麻と禁書目録と呼ばれる少女、あと魔神とスフィンクスが住んでいたらしい。魔神クラスが巻き込まれたとなると、相当レベルの災厄だぜ。相手も魔神クラスだって可能性も否定できない」
目次? 魔神? スフィンクス?
一気に話に着いていけなくなった。
目次と魔神とスフィンクスと同居してるって、何者なんだ上条当麻。
「そしてその全員が『穴』に落ちた、ということですね」
「そういうことだ」
「で、どこまで話したっけ?」
「『穴』の説明じゃなかったか?」
「ああ、そうだったな」
そこから土御門は僕たちにこの世界の一般常識を教えてくれた。
この世界は科学サイドと魔術サイドにわかれていて、その科学サイドに属し、超能力の開発を行っているのが学園都市なんだ、とか。
ついこの前第三次世界大戦があって、それは科学サイドの勝利で終わったこと、とか。
科学サイドの最強は一方通行なんだ、とか。
あとは魔術と超能力の違いがうんぬんかんぬん。
ここから僕はもうほとんどついていけなかった。
扇ちゃんはどうなのかはわからないが、少なくとも僕よりは多くのことを理解しているのだろう。
必要な時は扇ちゃんに聞けばいい。
こういう時は他力本願な僕だが、それでも一つ気になっていることがあった。
『穴』と僕たちの関係性である。
この世界に開いた『穴』は僕たちの世界につながっていて、僕たちは『穴』の向こう側からこの世界に落ちてきたのではないか、という仮説。
もしこの仮説が正しければ、『穴』に落ちた上条たちは、僕たちの世界にいるというのもまた、道理ではないだろうか。