003
「まったく、ここはどこなんだ......?」
突然のことだった。
僕と忍は確かにドーナツに向かって歩いていたはずなのに、気付けばこんな場所にいたのだ。
高層ビルが立ち並び、僕の住んでいる街ではありえないくらいビュンビュン車が走っている。
そして......。
「わわっ!? なんじゃこれは!?」
筒型のロボットみたいなヤツまでいやがる。本当に未来に来てしまったかのような感覚だ。
「いや、待てよ。本当に未来に来てしまった可能性もあるのか?」
かつて僕と忍は過去へ行って大変なことをやらかしたことがあるので、時間旅行が不可能ではないことは知っている。
そして、その答えはすぐに出た。
「......忍」
「......うん」
僕たちの向かいのビルの巨大なディスプレイに日付と時間が表示されていた。
十二月二日、午後三時。
「......十月、だったよな?」
「少なくとも昨日は十月じゃったの」
「つまりこれは、またタイムスリップしてしまった、ってことでいいのか?」
「わからんよ、お前様。少なくとも儂はゲートを開いた覚えはない」
となるとやっぱりなんらかの怪異現象なのか。
未来にタイムスリップさせる怪異なんているのか? それに扇ちゃんが言っていたじゃないか。怪異にはそれ相当の理由があるって。
「仕方ないな。元の時代に戻る方法わかるか、忍?」
しかし忍は横に首を振った。
「わからんよ。霊的エネルギーを使ってタイムスリップしたのではないとなると、やはりなんらかの怪異現象が絡んでいると考えてよかろう。おそらく、それがどんな怪異なのかわからん限りは帰れんじゃろ」
やっぱりな......。想定し得る最悪のパターンとして、永久に帰れないってのも考えておくべきか。
「ま、まぁ、そんな直ぐに解決策なんて見つからないだろうし、適当に見て回ろうぜ。折角未来だか異世界だかに来たんだからさ」
「それもそうじゃが、いいのか我が主様よ、あのツンデレ娘と午後から予定があると聞いていたが?」
「あ......」
ツンデレ娘。
今日は戦場ヶ原ひたぎ様がいらっしゃるのだった。
これはヤバい。なんとしても帰らないと殺されるか磔にされる!
「よし、忍! 霊的エネルギーが溜まっている場所を捜して、さっさと帰ろうぜ」
「いや、それなんじゃが......」
?
どうかしたのか?
「ない、のじゃ」
「え?」
「霊的エネルギーが全くと言っていいほどないのじゃ」
「ええっ!?」
つまり、帰れないのか?
「探索してみるしかなかろう、お前様よ」
「ああ、そうするしかないよな、やっぱり」
「で、お前様よ。ドーナツはどこへ行けば食えるのじゃ!?」
「まだ言ってるのかお前!」
という訳で。
僕たちはまずはこの街を探索してみることにした。
004
一時間経った。
どうやらこの街は科学的な面で発展しているらしい。そこらじゅうに風車が立っている。
近未来的雰囲気を醸し出しているのはそのせいで、コンビニやスーパーなどを覗いてみたところ、至って普通だった。
ただ。
「ヤシの実サイダー、だと!?」
「いちごおでん、じゃと!?」
やたら摩訶不思議な飲み物が自販機に並んでいた。
とりあえずヤシの実サイダーといちごおでんを買って僕と忍で飲んでみた。
「......なんというか、な」
「......うん」
これって本当に必要あるの? って味がした。
「にしても、研究所とか学校が多いよな、この街」
途中見つけた案内図ではそういった教育機関や研究機関ばかりのっていた。ちなみにここは第七学区らしい。
「ていうか、ドーナツが見当たらないー!」
爆発寸前の忍をなんとか押しとどめて一時間が経ったのだ。
もう四時で、日も傾いて来ている。
先程から下校する学生たちも目に付く。
「本当に、どうしちゃったんだ、僕たち」
右も左もわからない、お先真っ暗。
「ねぇ、あの子かわいくない!?」
「うわー、金髪かわいー!」
などと言う声もちらほら。この状況だと僕がロリコンに見られてしまってもおかしくないので困る。
そんな中。
「うわーっ! 何この子かわいい!」
「なっ!」
忍の頭をいきなり撫でてきた女子中学生が約一名いた。
「き、気安く触れるでないわ!」
「あっ、ごめんなさい。かわいくてつい.....」
僕のことなど視界に入っていないらしい茶髪で短髪の女子中学生はそう謝りながらも頭を撫で続ける。
いくら存在が希薄な吸血鬼モドキと言えど、僕もさすがに空気扱いは嫌だ。
「あの......」
「ああっ! ご、ごめんなさい......」
急にしおらしくなり、今度は僕に向かって頭を下げてきた。
「いや別にいいんだけど、君、この街に住んでるんだよね」
「え、あ、はい。そうですけど?」
「だったらちょっと教えてくれないかな、この街についてさ。僕たちちょっと迷っちゃって」
すると彼女は何故か少し僕たちを警戒するような目つきになった。
「......わかりました。近くにファミレスがあるので行きましょう」
「えーと、君、名前は?」
「......御坂美琴です」
こうして、なんとか僕たちはこの街について情報を得ることができたのだった。