架物語   作:藍鳥

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ちっとばかし忙しいこの頃。


一方通行
あいさブラッド 001


   026 @ 3rd person

 

 『窓のないビル』。

 学園都市第七学区に位置するその異様な建造物は、他ならぬ学園都市統括理事会、そのトップである理事長の居城である。

 そしてその中で一人漂う男の名は、アレイスター=クロウリー。

 

 「やぁ、久しぶりだな」

 

 そして、もう一人。

 

 「出来れば会いたくなかったんだがな、アレイスター」

 

 「そう悪く言うな。土御門」

 

 土御門元春。

 魔術と科学の二重スパイの男だ。

 彼らがこうして相対しているのは他でもない、『新世界』を巡る一件についてである。アレイスターは学園都市の状況を常時把握しており、エイザーやウィルヴァンとの戦闘もその目で映像を通して見ていた。

 

 「上条当麻の消失はこちらの『計画(プラン)』に多大な影響を与え得る。リスクの芽は早々に摘まなければならないのだ」

 

 「......で、俺にその話をするのはまた『グループ』への依頼なのか? だとすれば断るぞ。一方通行が黙っていないからな」

 

 「ああ、だから今回はそうではない。今回は『グループ』ではなく、『リムーブ』への依頼......、いや、情報提供だ」

 

 「情報提供、だと?」

 

 「『新世界』の連中は異邦人、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを探しているようだ」

 

 「ハートアンダーブレード? 誰だそれは」

 

 土御門は旧キスショット、つまり忍野忍には会っているものの、彼女のかつての名までは知らなかったようだ。

 

 「気にするな。ハートアンダーブレードに関しては、もう一人の異邦人である阿良々木暦に任せればいい。だから、君たちは『新世界』の方を追ってくれれば良い」

 

 「そう簡単に言うがな、イギリス清教の方でも結構手こずっているみたいだぞ。居場所すら掴めていない現状、こちらから攻撃するのは難しい」

 

 アレイスターはしばし沈黙する。

 そして。

 

 「『吸血殺し(ディープブラッド)』」

 

 「あ?」

 

 「あの『原石』の力を使う」

 

 「ちょっと待て。なぜここで『吸血殺し』何かが出てくるんだ?」

 

 「『新世界』の魔術師、少なくともエイザーとウィルヴァンには有効な手段となる」

 

 「つまり、あいつらは吸血鬼だってことか?」

 

 そういうことだ、アレイスターは瞼を閉じて言った。

 これで一応すべきことは分かった土御門だが、それでも疑問が残っていた。

 

 「なぜ『吸血殺し』の回収を俺たちに依頼する? お前の力を使えば簡単に行く話だろ?」

 

 「そうもいかない。『吸血殺し』が『新世界』によって回収、殺害される可能性がある」

 

 「なるほど......」

 

 土御門は納得がいった。

 『新世界』は強い。それは学園都市第一位、そして第二位、第四位をもってしても打ち勝てなかったことから分かる。

 

 「でなければ、再びヒューズ=カザキリ、もしくはエイワスを使わなければならなくなる」

 

 「お前......」

 

 つまりそれは、打ち止めが再び危険にさらされることを意味する。もしそうならば一方通行が黙っていないだろう。

 情報提供が脅しに変わった瞬間だった。

 

 「わかった。『リムーブ』のメンバーには伝えておく。一方通行に直接動いてもらうことにするよ」

 

 

 

 

 

   027

 

 浜面の命に別状は無かった。

 ただ、科学的、医学的にはあり得ない損傷を受けており、いまだ何かに縛られているような状況だそうだ。

 僕と麦野、垣根そして滝壺は病院の待合スペースで項垂れていた。

 

 「クソッ! どうすりゃいいのよ!!」

 

 「やめろ、麦野。ここは一応病院なんだ」

 

 僕が浜面の下へたどり着いた時にはもう魔術の発動は終わっていて、『心渡』で斬る必要もなく病院へ直行した。

 ファイブオーバーなどと言う怪物も投入したそうだが、それでも完全勝利はならなかった。こうして浜面がやられてしまったのだ。

 もうこれ以上打つ手はないのか。

 とそこへ。

 

 「よぉ、阿良々木」

 

 「......土御門か」

 

 「落ち込んでいる所悪いんだが、お前たちにも言っておかなければならないことがある」

 

 土御門はそれから『新世界』の正体に関する新情報を僕たちに教えた。

 そして『吸血殺し』なる人物を確保することが今現在の最優先目的なのだと。

 

 「だからお前たちにも少しばかりやってもらいたい事がある。一方通行が暴走を始める前にな」

 

 

 

 

   028 @ 3rd person

 

 一方通行は土御門から一件に関する情報を聞き、しばらく沈黙していた。

 周囲に人はいない。

 一瞬だけ、ありったけの力をぶつけたくなるが、今の一方通行は、そこまで幼稚ではなかった。

 怒りを内側へ抑え、それを行動力に変換する。

 

 「クソッタレが......」

 

 再び打ち止めが危険に晒されることを防ぐ。彼の今の目的はただそれだけだ。

 上条当麻や「消失者」については後回し。そこら辺の魔術的な事情は土御門ら専門家に任せた方が良い。

 では、打ち止めを救うために必要なものはなんだ?

 一方通行はメールの画面を見る。

 

 「......『吸血殺し』か」

 

 『吸血殺し』。

 本名、姫神愛沙。

 とある高校に所属している女子高校生である。

 しかし以前、とある魔術師によってその『血』が利用されようとしていた所、あの上条とかいうヤツと別の魔術師によって助けられた。その後はイギリス清教によって保護されたとか。

 そこら辺の所は一方通行にはよくわからないが、これだけじょうほうがあれば十分だ。

 

 「2時か......。直接乗り込んだ方が早ェだろォな」

 

 とそこへ。

 一人の少女が現れた。

 

 「あんた、こんな所で何やってんのよ」

 

 「あァ......? ンなモンは俺の勝手だろォが、オリジナル」

 

 御坂美琴。

 学園都市第三位、超電磁砲。

 とある実験に関して、彼女と一方通行はとてもじゃないがまともでない関係にあるのだ。

 

 「そういう意味じゃなくて。路地裏のせっまいトコでブツブツ言ってたから不審だったのよ」

 

 「あァそォ。俺ァ今忙しいンだよ、中学生はさっさと帰れ。ていうか今日平日じゃねェのか」

 

 「ええ。だから今の私には学校より優先すべき事案があるのよ......」

 

 おそらくは『消失者』関連の事だろうと推測する。

 彼女と接点のあるのは今のところ、上条、番外個体、絹旗だが、当然一方通行がそんなことまで知っているはずがなく。 

 

 「で、何なンだ」

 

 「姫神愛沙」

 

 「......何でオマエがソイツを知ってンだ」

 

 「情報提供......かな?」

 

 一方通行は不審に思う。

 土御門は姫神に関する話を統括理事長に直接聞いたと言っていた。

 であれば、土御門が彼女に話さない限りは姫神について知りようがないはずなのだ。

 

 「誰だ......、その情報提供ってのは」

 

 「それがわからないのよね。寮のポストに投函されてたし......」

 

 「防犯カメラは?」

 

 「映ってなかった。郵便局の人しかね」

 

 ということは、その機密情報は御坂へ普通に郵送されてきたことになる。

 それは危険極まる、不可解な手段だった。

 今のこの時代、しかもこの学園都市で郵便物がチェックされていないという保障はない。

 なのにそいつは郵送で寄越した。

 そいつはよっぽどの馬鹿か、とんでもなく強い権力を持つ者か、あるいは......。

 

 「ソイツの名を教えろ。郵便物に差出人は書いてなかったのかァ?」

 

 「いや書いてたけど......、こういうのっていくらなんでも偽名じゃないの?」

 

 「いいから教えろ」

 

 キッ、と御坂を赤い瞳で睨み付ける。

 

 「確か......臥煙伊豆湖......だったかしら?」

 

 「......!?」

 

 少しだけ、話が繋がった。

 臥煙伊豆湖。

 たしか浜面たちにファイブオーバー・ガトリング・レールガンの設計図と未元物質の応用という発送を与えた人物だったはずだ。

 しかし見えない。

 誰だ、臥煙伊豆湖とは?

 

 「オリジナル。オマエの力ァ使えば、ソレがどこから送られて来たかわかンのか?」

 

 「ま、まぁ一応は。で、それでどうする気なの?」

 

 「臥煙伊豆湖。どうしてもソイツの正体を突き止める必要がある」

 

 「わかった。今回は協力してあげる。今回限りよ、あんたと組むなんて」

 

 そんなことは一方通行にも分かっている。

 彼がかつて犯した罪を考えれば当然のことなのだ。ハワイで一度共闘したことがあったが、それは成り行きだった。

 一方通行と御坂美琴。

 第一位と第三位は再び交差する。

 ただし今回は敵としてではなく、仲間として。

 

 「俺は姫神愛沙を見つけ出す」

 

 「頼んだわよ」

 

 彼と彼女は別々の方向へと歩き出した。

 

 

 

 

   029 @ 3rd person

 

 阿良々木暦と忍野忍。

 一方通行は少し彼らについて考えていた。

 彼らの主張を信じるのなら、彼らは異世界からやってきたらしい。

 そして、吸血鬼。

 これは果たして偶然なのか、と一方通行は思う。

 吸血鬼が突然この世界に現れたことと、それを殺す者が必要というこの状況。

 『吸血殺し』が必要だとは言うが、それを一体どう利用するのか。

 阿良々木や浜面が遭遇した『新世界』の魔術師___吸血鬼たちに対して有効活用するのならそれでいい。

 

 ......本当にそれだけか?

 報告を聞いた限り、エイザーという魔術師は垣根帝督の数で押しきれるらしい。ウィルヴァンもガトリング・レールガン・ダークマターver.でダメージを与えられていた。

 つまり、わざわざ『吸血殺し』などという不確定因子をわざわざ引っ張り出してこなくとも、今ある『リムーブ』の力で何とかなるはずなのだ。

 狙いはなンだ?

 深読みのしすぎか。

 いいや、違う。

 これではまだ甘い。学園都市はこの程度では終わらない。___異世界をまるごと叩き潰すくらいはやってのける。

 もし学園都市が本気で異世界を侵略しようとしているのならば、また戦争が始まってしまう。

 科学vs.魔術ではなく、科学vs.未知。

 異世界にはきっと異世界の法則があり、それに学園都市の科学力、超能力が敵う保障はない。

 一方通行はその輪郭に少しだけ触れているのだ。

 阿良々木暦。彼が操った妖刀「心渡」。そして忍野忍。

 もし彼らの世界に他にも彼らレベルの人間が___吸血鬼がいるとすれば、学園都市が負ける可能性だってあるわけなのだ。

 なぜ、彼らは学園都市に現れたのか。

 それも調べなくてはならない。

 

 「......ここか」

 

 そして、一方通行はとある高校に足を運んでいた。

 姫神愛沙。彼女が在席する高校だ。

 運よく守衛が不在だったので素直に侵入する。

 

 「普通だなァ......」

 

 今は休み時間らしく、廊下は生徒たちで溢れている。そのなかには突然現れた一方通行を怪訝な目で見る者もいた。

 

 「ったく、どこだァ? 姫神ってのはァ......」

 

 教室がわからない。

 普通の高校とは言え、教室の数は相当ある。今はこうして堂々と振る舞っている一方通行ではあるが、あまり多くの人間に見られるのはよろしくない。

 そして、一方通行は認識する。

 

 一人、異様な雰囲気を撒き散らしている人間を。

 

 「誰だ、オマエ」

 

 そいつは明らかに派手でこの場に似合わない格好をしているのに、周囲の気に留まらない。

 明らかに異質。

 

 「よぉ、学園都市第一位」

 

 そいつはただ突っ立って、一方通行を待っていた。

 

 「......オマエ......『新世界』かァ?」

 

 そして、その男の目的は。

 

 「いやぁ、それは別にどうでもいいんだよな。俺にとっちゃあ」

 

 一方通行は首もとのチョーカーのスイッチを入れる。

 

 「なら、『新世界』ってことでイインだよなァ......」

 

 「そうだな、俺は別に()()()()()になればそれで良いし」

 

 チャイムが鳴る。

 

 「んじゃまぁ、一方通行。ここじゃなんだし、外でやろうぜ? こんな所で暴れちゃ後味悪い」

 

 「ふン......」

 

 黄色い少年と白い少年は一定の距離を保ったままグラウンドへと向かう。

 そして、黄色い少年は言った。

 

 「上条ちゃんくらいには期待してるぜ? 一方通行」

 

 雷神トールと一方通行。

 未曾有の破壊を生み出す両者が今、激突する。


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