架物語   作:藍鳥

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彼等の行方 another_world

   壱、

 

 「あああああああぁぁぁぁぁぁぁ!! 不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 「待ちなさい! この変態がっ!!」

 

 上条当麻は今日も今日とて自己生産性不幸に見舞われていた。

 状況を簡単に説明すると、学生寮にいたはずなのになんか突然空中に飛ばされたと思ったら下に女の子がいて以下略なのだった。

 さらに上条にとって不幸だったのは、彼女の脚が結構速かったことだ。

 

 「なんっ、なんだよ!!」

 

 第三次世界大戦ではロシアの雪原を駆け抜け、グレムリンの時には何億もの世界を繰り返した異常な経験を持つ上条の走り込んだ距離と言ったら相当な物のはずだ。(しかし、オティヌスの時は毎回リセットされている可能性もないとは言い切れない)

 それなのに、彼女は上条に追い付かんとしていた。

 

 「今のうちなら土下座百年で許してあげるわ」

 

 「それ終身刑よりキツくね!?」

 

 上条は知らない街を走る走る。

 ああ、言い忘れていたが、上条は異世界にいる。それは上条自身も薄々気付いてはいるが、まぁ、もう、どうせいつもとおんなじだろ、ドラゴンとか神様とか球形の次世代兵器とか妖怪とか平気でバンバン出てくんだろ、みたいな感じで正直諦めちゃっている上条なのだった。

 ようは、女の子とラッキースケベを巡る取っ掛かり合いなど、経験豊富な上条にとってはただの準備体操なのだ。

 さっさと体を温めて、招来するめんどくさい設定付きボスキャラ的なヤツとの戦闘に備えなければならない。のだが。

 

 「はっ、ひっ、速すぎ......」

 

 「あまり私を見くびると、よろしくないことになってしまうわよ」

 

 ......追い付かれてしまった。

 これでは球形次世代兵器とは戦えないな、今回は辞退しよう。と謎の決意をする上条。 

 彼女は言う。

 

 「で、あなたは私に犯したことについてどう釈明するつもりなの、ウニ頭君」

 

 「ウニ頭って言うな、俺の名前は上条だ!」

 

 「ああごめんなさい。ウニ条君ね、ちゃんと覚えたわ。私ってえ・ら・い」

 

 ウニ頭、ウニ条、上条以前の問題で、この女の子はちょっとヤバいタイプなんじゃないかとかなり不安になる上条。

 そしてその考えは全くもって間違ってはいない。

 

 「私、戦場ヶ原ひたぎ」

 

 「え? あ、そうなの?」

 

 「フルネーム晒してあげたのだから、あなたの悪行はお巡りさんに曝しても良いわよね?」

 

 「良くねぇよ!! ていうか事故だ!!」

 

 戦場ヶ原の毒性は羽川翼の人格矯正プログラムと阿良々木暦の愛情によって多少は改善されたものの、まだ完治には至ってない。

 閑静な住宅街のど真ん中で、上条と戦場ヶ原の声だけが青空に響いていた。 

 

 「というかウニ条君、あなたはこの街の人じゃないわよね? テリトリーに侵入する前にはきちんとこの戦場ヶ原ひたぎに許可をいただく、というのがこの街の掟よ。覚えておきなさい」

 

 「......ここはお前の街なのか......?」

 

 「違うわ。ここは私と阿良々木君だけの街......、きゃっ、はずかし」

 

 ここまで棒読みかよ。あと誰だよ阿良々木君。様々な疑問が上条の頭をもたげるが、ここは一旦スルーしておく。異世界には異世界の事情があるのだろう。 

 

 「それで? あなたは一体どこから何をしに来たのかしら、ウニ条君?」

 

 「ああ、異世界から来た」

 

 上条は何の躊躇いもなく言った。そして戦場ヶ原も驚いたりしなかった。

 

 「そう、異世界から......。そして異世界の女の子を片っ端からなぶっていく異世界侵略者なのね」

 

 「違うんだけど......」

 

 「まったく、私はこれから阿良々木君の家に行かなければならないというのに、こんな所でウニみたいなエイリアンに時間を割いてしまったわ。残念」

 

 さっさとこの世界から脱出してしまいたい上条としてもこんな所で時間を割きたくなかったのだが。

 しかし異世界から脱出する方法がわからない。毎度のことである。

 戦場ヶ原は上条をおいて一人カツカツと歩き出す。

 

 「なぁ、戦場ヶ原」

 

 「何?」

 

 「お前、この辺でこういう......超常現象的な? のに詳しいヤツとか知らないか?」

 

 戦場ヶ原は振り返りもせずに、前を向いたまま言う。

 

 「そうね、じゃあついてきなさい」

 

 「ん? 何か知っているのか?」

 

 「阿良々木暦。私の彼氏の所へ連れていってあげる」

 

 

 

 

 

   貮、

 

 インデックス、オティヌス、スフィンクスの上条宅の居候組は完全に迷っていた。

 

 「ここはどこだ?」

 

 「わたしの知識でもわからないかも......」

 

 「にゃー(家主のことは心配しないんだな)」

 

 ともかく、二人と一匹。

 彼女らもまた、異世界の迷い混んだのであった。

 そして右も左もわからない。お先真っ暗である。

 

 「とりあえず、とーまを探そ!」

 

 「そうだな。どうせまたあいつが持ち込んできた厄介事に違いない」

 

 「人に訊くのが一番早いかも」

 

 というわけで、一人と一体と一匹は閑静な住宅街で家主探しを始めた。

 

 「あ!」

 

 そしてすぐに見つかった通行人第一号。

 インデックスはダッシュで駆けよる。

 

 「あのー!」

 

 「ん、なんだ......、って超かわいい!!!」

 

 部活帰りの高校二年生、神原駿河はインデックスの頬をむにゅむにゅし出す。反射反応だ。

 

 「ぬわわわ!? ちょ、ちょっと止めてほしいかも!」

 

 「おお! これは失礼した!」

 

 神原はようやくインデックスから手を離した。

 しかし続いて......。

 

 「うわぉ!! なんだこのぷりちーなお人形さんは!?」

 

 「人形じゃないっ!!」

 

 今度はオティヌスを持ちあげ、あれやこれやと全長十五センチメートルの身体を弄りまくる。

 

 「のわっ!? やめろ! 変なとこ触るな!!」

 

 「いやーすごいなー、この世界にはこんな不思議な物があったとは! 喋る人形!! しかも喘ぐッ!!!」

 

 一人駄目な方向へどんどんヒートアップしていく神原。こりゃあ駄目だ、と一人まともな思考をしている猫一匹が神原の暴走を止めにかかる。

 

 「にゃあああああああああああ!!!」

 

 「おおおッ! にゃんこかわいい!!」

 

 スフィンクス撃沈。神原にもふもふアタックを喰らう。

 

 「で、君たち、ここら辺では見ない顔だけど、道に迷ったのか? 迷ったのなら我が家で休んで行くと良い!!」

 

 「え、え......?」

 

 「禁書目録、私が説明する。実はだな.....」

 

 オティヌスが神原に一連の経緯を説明する。

 説明と言っても、オティヌスやインデックスにも細かい事情は完全には分かっていないので、なんとも抽象的な物になってしまう。

 逆に言えば、今回はそれほどの事態なのだ。魔神オティヌス、そして十万三千冊の禁じられし魔導書をその頭脳に叩きこまれた少女、禁書目録(インデックス)。魔術に関しては彼女ら二人に分からないことはない。......はずだったのだが、現在もこうして学園都市に帰れないでいる。考えられる可能性は、異世界ダイブの原因が魔術ではなく、超能力の類だった場合や、『原石』の力、例えば幻想殺し(イマジンブレイカー)など特異極まる異能だった場合。

 

 「___なるほど。で、君たちは今現在元の世界に帰る方法を探しているということなんだな?」

 

 「うん......」

 

 「そう落ち込むことはない!! この私、神原駿河が異世界に繋がるワームホールを見つけてしんぜよう!!」

 

 ばん! と胸を叩きながら神原は高らかに宣言する。

 がしかし、神原がそんな怪異的な存在を知っている訳がなく。

 

 「ついて来い! 私の新愛なる阿良々木先輩の下へ連れて行ってやろう!」

 

 結局は阿良々木暦を頼るのであった。

 

 

 

 

 

 

   参、

 

 「超困りましたね」

 

 『そうですね。一体何がどうなったのやら。他の垣根帝督の反応も途絶えましたし......。異世界か過去か未来かそのどれかでしょう、今私たちがいるのは』

 

 「異世界なんて、ほんとにあるんですかね」

 

 こちらは絹旗最愛と垣根帝督。

 他の『消失者(ロスト)』たちと同じく、異世界をさまよっていた。

 

 「どうします? 誰か人に訊いてみますか? 私たちの他にここに誰か来ている可能性が超無いとは言い切れませんけど、まぁ超低いでしょうし」

 

 そういう訳で、絹旗と垣根(カブトムシ)は閑静な住宅街の一角を再び歩き出す。

 他の二組___上条と戦場ヶ原、インデックスとオティヌス、猫、神原の組み合わせとは違ってこの二人は至って冷静だった。

 大能力者(レベル4)超能力者(レベル5)、しかも両者共に暗部を経験していることを考えれば、これは別に不思議なことではないのかもしれない。

 そんなこんなで。

 

 「あ、人がいますね。ちょっと行ってみましょう」

 

 絹旗はカブトムシと共に一人の高校生の元へ駆けよった。

 

 「すみませーん、ちょっと道に迷ってしまいまして、ここはどこなんでしょうか?」

 

 「んん? ここ? ここは私立直江津高校だよ?」

 

 少女___羽川翼。

 委員長の中の委員長、神に選ばれし委員長と話題沸騰中の羽川、その人であった。

 戦場ヶ原でもなく、神原でもなく、羽川。

 これは絹旗組の勝利だろう。羽川は他の二人とは訳が違う。絹旗が真っ先に学園都市に帰れるのは火を見るよりも明らかだった。

 絹旗は言う。

 

 「超すみませんが、異世界から何かの手違いで飛ばされてしまったんです」

 

 「は、はぁ?」

 

 「という訳で、私たちを帰してください。学園都市に」

 

 「ちょっと言ってることがよくわからないんだけど!? さすがに私にも異世界うんぬんはわからないというか......」

 

 「そうですか? あなた、超何でも知ってそうな顔してますけど」

 

 羽川は一つ大きなため息を吐いて、

 

 「何でもは知らないわ、知ってることだけ」

 

 そう言い放ったのであった。

 

 

 

 

 

 


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