しかし理想郷復旧しそうですが、どうしたものでしょうか?
すでにここに投稿しておりますし、かといって向こうもほったらかしにするのもあれですし…。
まあまだ見れませんから見れるようになってからでも遅くないでしょうけど…。
あの魔女を一瞬で倒した黄金聖闘士、アルバフィカの姿に、三人の少女は驚きのあまり声が出なかった。彼は地面に落ちたグリーフシードを拾い上げると、そのまま少女達の所へ近づいてきた。
やがて三人から約2メートルほど離れた場所で足を止めると、相も変わらず無表情で三人に声をかける。
「終わった。これは君達にあげよう。私には必要無い」
アルバフィカはそう言うと、マミに向かってグリーフシードを投げ渡した。
マミは両手でグリーフシードをキャッチすると、真っ赤な顔でアルバフィカに礼を言う。
「あっ、ありがとうございます、あの、アルバフィカさん!!貴方が居なかったら私、きっと死んでいたと思います!!貴方は命の恩人です!!」
「そうか・・・。それにしても君達にはシジフォスが付いていたはずなんだが・・・。彼は一体何をやってるんだ・・・「まどか!!さやか!!マミ!!無事か!?」・・・丁度到着、か・・・」
アルバフィカは少し顔を顰めながらまどか達の背後に視線を向ける。まどか達もつられて背後を向くと、そこにはシジフォスが肩で息をしながら額に汗をかいて立っていた。
「・・・!アルバフィカ!お前が彼女達を・・・」
「一体何をしていたんだシジフォス。危うくそこの彼女は魔女に食いちぎられるところだったぞ。私が居なければどうなっていたか・・・」
「そうか・・・。すまない・・・。魔女二体を倒すのに手間取っていて・・・。連絡さえあれば直ぐにでも行けたんだが・・・」
アルバフィカの言葉にシジフォスは沈痛な表情を浮かべる。それを見てアルバフィカも溜息を吐いた。
「まあ、三人は助かったから良いとしよう。これからは気をつけてくれ」
「ああ、本当にすまなかったな、アルバフィカ」
「構いはしない」
アルバフィカはそっけなくそう言うとさっさとその場を立ち去ろうとした。
「あ、ま、待って下さい!!」
と、突然マミがアルバフィカに向かって声をかけた。アルバフィカはそれを聞いて、何処か煩わしげな表情でマミの方を向く。
「あ、その、アルバフィカさん!!ど、どうか助けてもらったお礼をさせて下さい!!」
「必要無い。私は別に見返りが欲しくて君を助けたわけではない。君の気持だけで十分だ」
「そ、それじゃあ私の気が済みません!!私、私、あの時本当に死んじゃうかと思ったんです・・!折角助かった命を、また失ってしまうって・・・。そんなときに、アルバフィカさんに助けていただいて、本当に、本当に嬉しかったんです・・・!そ、それに・・・・、貴方みたいに綺麗な人にあったのは・・・、初めてですから・・・」
最後の方でマミの顔はトマトのように真っ赤になっていた。
が、マミの言葉を聞いたアルバフィカの表情は、かなり嫌そうに歪んだ。マミの言葉を聞くや否や、右手で顔を隠しながら顔を背ける。
「・・・・・」
それを見たシジフォスは「まずい・・・」と言いたげな表情を浮かべていた。それに構わずアルバフィカはマミ達から背を向けた。
「・・・何度言われようと要らない物は要らない・・・。それに、私は容姿で人を見る人間は好かん。もう二度とそのようなことは口にしないことだ」
「・・・え!?」
アルバフィカは不機嫌な表情を隠すことなく早歩きでその場から去ろうとする。一方のマミは、自身の言葉で不機嫌になってしまったアルバフィカに、驚いた表情を浮かべていた。まどかとさやかは訳が分からないといった表情であり、シジフォスは、額を押さえて溜息を吐いている。
「あっ、ご、ごめんなさい!!わ、私何か失礼な事を言ってしまいましたか!?もしそうなら謝りますから・・・」
マミはそう言いながらアルバフィカに駆け寄った、そして彼の腕を掴もうとしたが・・・。
「・・・!!」
アルバフィカは血相を変えるとマントを振るってマミを後ろに突き飛ばした。マミは抵抗できずに地面に尻もちをつき、突然突き飛ばされたことに驚きの表情を浮かべていた。
アルバフィカは一瞬しまった、と言いたげな表情を浮かべたが、直ぐに無表情になると、
「・・・私に、触るな・・・!!」
と、マミに言い捨てて、そのままマントを翻して去って行った。
マミはあまりにも突然の事に呆然として、ただ去っていくアルバフィカの背を見ていることしかできなかった。
「な、何だよあの態度!!いくらマミさんを助けたからってあの態度は無いだろ!!大丈夫っすか!?マミさん」
「え、ええ・・・、何とか・・・」
さやかに助けられてマミはなんとか立ち上がる。アルバフィカの態度に怒り狂っているさやかに対して、マミはアルバフィカが一瞬、ほんの一瞬見せたあのすまなさそうな表情が気になっていた。
「・・・三人とも、無事か」
「・・・!し、シジフォスさん・・!!」
突然降って来た声に、マミは思考を中断して背後を振り向く。シジフォスの表情はどこまでも心配そうであり、彼女達が無事な様子を見て安堵しているのが分かった。
「・・・・・・」
その表情を見てマミの心は申し訳なさで一杯になった。
もしあの状況でアルバフィカが助けてくれなかったら自分はあの魔女に殺されて、彼女達も魔女の餌食になっていただろう。
シジフォスさえいれば、少なくとも彼女達を護ってくれて、もしかしたら自分も命の危険に晒されずに済んだかもしれない。
それを自分は、自分の見柄だけで、シジフォスを呼ばずに、自分を仲間と呼んでくれた彼女達を危険にさらして・・・。
「・・・うっ、ううっ・・・・・」
マミの目から涙が零れ落ちる。そして地面に膝を突き、ボロボロと涙を流しながら泣き始めた。
「ま、マミさん?」「ど、どうしたんですか?」
突然泣き始めたマミに、まどかとさやかは戸惑った表情を浮かべる。一方のシジフォスは、ただマミが泣いている姿を、じっと眺めているだけだった。
「・・・ご、ごめん、なさい・・・、私の、私の、せいで・・・、二人、危険に・・・、鹿目さん・・・美樹さん・・・シジフォスさん・・・ごめんなさい・・・・、ごめんなさい・・・!」
マミは泣きながら、三人に対して謝り続ける。二人を危険に巻き込んで、自分の勝手で行動してごめんなさいと詫び続ける。
三人はマミのその姿を、ただじっと見ているしかなかった。
アルバフィカSIDE
アルバフィカは装着していた聖衣を脱ぎ、若干地味なねずみ色なコートと赤いストールに身を包んで魔女が出現した病院から出ていこうとした。
が、病院の正門を出た時、物陰から突然顔見知りの男が黒い長髪の少女と共に彼の前に姿を露わした。
「ようアルバフィカ。お仕事御苦労さん」
「・・・マニゴルドか。見ての通り魔女は倒した。もうここには用が無いはずだが?」
「そりゃそうなんだがよ・・・、アルバフィカ・・・」
マニゴルドはどこか不満げな表情を浮かべながらアルバフィカをじっと睨む。
「お前なぁ、もう少し女に優しく出来ねえのかよ・・・。いくらテメエの毒の血が危険だからとか言っても、突き飛ばすか普通・・・」
「・・・これで彼女が私を避けるのなら、それでいい。それで彼女が私の毒に巻き込まれることは無いのだから・・・」
「はあ・・・、前にも言ったと思うけどよ、お前もう少し気楽に生きろよ、気楽に」
お手上げと言わんばかりの表情で、マニゴルドは大きく溜息を吐いた。アルバフィカはそれを無視し、マニゴルドの隣に立つ少女に視線を向ける。
「君が暁美ほむら、かな?」
「そうよ、そして貴方も彼と同じ、黄金聖闘士ね?」
「そのとおりだ。魚座のアルバフィカ、それが私の名だ。握手は出来ないが、悪く思わないでくれ」
「貴方の事はマニゴルドに聞いているわ。気にしないで」
アルバフィカの言葉にほむらは気を悪くした様子も無く頷いた。アルバフィカのことはマニゴルドから事前に聞いており、ほむらは出来る限りアルバフィカから距離をとって話をしている。
「そうか、ならほむら、少し頼みがあるんだが・・・」
と、アルバフィカは何処から取り出したのか、黄色い花弁の薔薇をほむらに向けて放り投げた。ほむらはそれを表情を変えずに受け取った。
「すまないがそれを巴マミに渡しておいてくれないか?先ほどの侘びと言っておいてくれれば分かる」
「・・・そうね、貴方にはまどかを助けてもらった借りもあるし、引き受けるわ」
「・・・頼んだ。では私はもう帰る。何かあったら連絡をくれ。マニゴルド、ほむら」
アルバフィカはそう言うと二人に背を向けてさっさとその場を立ち去った。マニゴルドとほむらはその後姿を黙って見送った。
「・・・もう少し愛想よくなんねぇかな。あいつも」
「仕方がないでしょ、彼の体質の問題なんだから。他人を危険に晒したくないって気持ち、私にも少し分かるから・・・」
「まあそりゃそうだけどよ・・・」
マニゴルドはぼそりと、ほむらは少し感情を滲ませた声でそう呟いた。
まどかSIDE
あの後、何とかマミを泣きやませたまどか達は、いつまでも外にいるわけにも行かないため、病院内のレストランで休んでいた。
「・・・すまなかった。嫌な予感がしたから急いでいたんだが、魔女が二体出てきたから放って置くわけにもいかずに相手をしていたら、ここまで遅れてしまった・・・」
「気にしないでくださいシジフォスさん。みんな無事だったんですし・・・」
「そうっすよ。シジフォスさんは悪くないですよ」
レストランで飲み物を注文した後、シジフォスは再び三人に向かって謝る。そんなシジフォスをまどかとさやかは気にしていないと謝る。一方マミは、泣いてはいないもののその表情は暗く、沈痛そうであった。
「そうか・・・、だが一体何故今回はマミ一人で魔女と闘おうとしたんだ?前は俺に連絡をよこしたと言うのに・・・」
「ッ!!」
シジフォスの言葉にマミは体を震わせた。その表情は、まるで親に叱られた子供のようであり、普段のお淑やかな雰囲気はほとんど無かった。
それを見てシジフォスはばつの悪そうな表情を浮かべる。
「いや、まあ、話したくないのなら話さなくてもいいが・・・「・・・・証明、したかったんです・・・」・・・え?」
ポツリと呟いたマミの言葉にシジフォスはキョトンとした表情を浮かべる。それに構わずマミはポツリポツリと話し出す。
「最初、魔女の結界に侵入した時は、呼ぼうって思ったんです・・・。でも、暁美さんに『どうせシジフォスが居るから』って言われて・・・。まるで私がシジフォスさんのおまけみたいに言われて・・・。私だって、ちゃんと闘えるのに・・・、ずっと、ずっと魔女と戦ってこの街を守り続けてきたのに・・・。だから、今回は魔女を一人で倒そうって、二人は私一人でも守れるって・・・、証明したくて・・・」
「・・・・ほむら・・・・」
マミの言葉にシジフォスは頭を押さえて呻いた。
恐らくほむらに悪気は無かったのだろう。シジフォスが居るのならマミに何かあってもまどかは大丈夫だと考えてそんなことを言ったのだろう・・・。
ほむらにとってまどかが何よりも大事な存在だと言うのは分かる。何しろ彼女を救うために何度も世界をループし続けているのだ。並大抵の覚悟ではない。
(・・・だが、もう少し他の魔法少女のことも考えてやったらいいだろうに・・・)
シジフォスは心の中で溜息をついた。どうも彼女はまどか以外はどうでもいいと思っている節がある。無論見捨てるようなことはしないだろうが基本的にこちら側から協力関係を結ぶようなことはしてこない。この世界の正史では佐倉杏子と同盟を結んでいたが、それもワルプルギスを倒すためにしぶしぶといった感じであったし・・・。
「・・・でも、結局、二人を守るどころか、自分が油断して、魔女に殺されかけて・・・・。本当に、駄目ですね、私って・・・」
「そ、そんなことないです!!マミさんは凄いと思います!!」
「そうですよ!!あんな冷血男に比べたらマミさんの方がずっと正義の味方に見えますよ!!」
完全に落ち込んでいるマミを、まどかとさやかは必死で元気づけようとしている。一方シジフォスは、先程さやかが言った言葉に反応する。
「・・・・なあさやか、その冷血男とは、まさかアルバフィカのことか?」
「え?だってそうでしょ~!!助けてもらったお礼を言っただけなのに機嫌悪くしたり、謝ろうとしたマミさんを突き飛ばしたりするなんて、性格悪すぎますよ~!!ね!まどか?」
「え?う、う~ん・・・、冷血かどうか分かりませんけど、突き飛ばすのは酷いと思います・・・」
「・・・・・」
二人の返答にシジフォスは頭が痛そうな表情を浮かべた。
確かにアルバフィカがマミにした行動は、彼のことを知らない人間からしたら間違いなく誤解される。
彼ももう少し人付き合いが上手くなればそんな心配も無いのだが・・・・。と、言うより薬師の島の任務以降は人との関わり方もそれなりに上手くなったはずなのだが・・・。
まさか死んだせいでリセットされた訳ではあるまいし・・・。
「はあ・・・、誤解しないように言っておくがアルバフィカは冷血な人間ではない。むしろ彼は聖闘士の鑑ともいえる人格の持ち主だ」
「え!?そ、そうなんですか!?」
「マミさん突き飛ばしたのに!?」
「・・・・・」
シジフォスの言葉に三人の少女は反応してシジフォスの顔を見る。シジフォスは頭を掻きながら説明を始めた。
「以前話したと思うが聖闘士の統率をなされるのはアテナとその代行者の教皇と呼ばれるお方だ。教皇とアテナはギリシャに存在する聖闘士発祥の地、聖域と呼ばれる場所で聖闘士達の指揮をとっておられるんだ。
聖闘士の頂点である黄金聖闘士には、教皇とアテナの守護という役割がある。聖域の最奥に存在する教皇のおられる教皇の間、そしてそのさらに奥に存在するアテナのいらっしゃるアテナ神殿、そこを守護するためにその道筋には十二宮というのが置かれている」
「十二宮、ですか?」
まどかの言葉にシジフォスはコクリと頷く。
「君達も知っているだろう?黄道十二星座を。もうすでに説明したが私達黄金聖闘士の聖衣はその十二星座を象っている。そして、教皇の間への唯一の道には私達黄金聖闘士が守護を務める宮が十二置かれているんだ。第一の宮、白羊宮から第十二の宮、双魚宮までな。ちなみに俺が守護するのは九番目の宮、人馬宮だ。そしてマニゴルドは第四の宮、巨蟹宮の守護者だ」
「へー・・・、じゃああのアルバフィカって黄金聖闘士は・・・」
「双魚宮。十二宮最後の宮。教皇の間への最後の砦と言ってもいい宮だ」
シジフォスは運ばれてきたコーヒーを啜りながらそう答える。まどか達はへー、と感嘆したような声を上げる。シジフォスはカップを下ろすと話を続ける。
「万が一にもこの宮を突破されれば教皇の間は目の前だ。その為双魚宮から教皇の間までの道は、デモンローズによって防備されている」
「デモンローズ・・・、って何ですか?」
今度はマミからの質問が来る。どうやら彼女もシジフォスの話に引き込まれているようだ。シジフォスもそんなマミの様子に安心しながら彼女の質問に答える。
「かつて王宮で、侵入者撃退のために植えられていたと伝えられる薔薇だ。見た目は普通の紅い薔薇だが、その香気には猛毒が含まれていて、僅かな香気でも人間を殺せるという恐ろしい薔薇だ」
「ええ・・・」
「猛毒の、薔薇・・・・・」
「そんなものが、あったんですね・・・・」
デモンローズの説明に、まどか達は呆然とした。
猛毒の薔薇。そんなものがあるなんて全然知らなかった・・・。
そう言えばアルバフィカが魔女に向かってはなった薔薇を、デモンローズと呼んでいた。
あの巨大な魔女を倒してしまうなんて、とんでもない猛毒だ。
そう考えた三人の少女はぞっとした。
「魚座の黄金聖闘士はデモンローズを扱うために、その毒に耐えれる耐毒体質を身に付けなければならない。どういう修練かは俺も知らないが、命を懸けるほど過酷な修練であるらしい。そして、たとえその試練に耐えられ、魚座の黄金聖闘士になれたとしても、一生孤独に過ごさねばならないという運命がある」
「え・・・・・」
「一生・・・、孤独・・・?」
「それって・・・、どういうことですか・・・?」
「魚座の黄金聖闘士は、長い間毒薔薇と共に過ごし、耐毒性を高める修練を行うことで、完璧ともいえる耐毒体質を身に付ける。だが、その代償としてその者の血肉はデモンローズと同じ、或いはそれ以上の猛毒と化してしまう。当然他人と触れ合うことも、交わることも出来ない。下手をすればその人間を自身の毒で殺してしまいかねないからな。だから魚座の黄金聖闘士は孤独であり続ける。決して他者を傷つけないように・・・。
魚座の黄金聖闘士は、他者と関わり合うことの出来ない、孤独な聖闘士なのだ」
シジフォスの話を聞いて、まどか達は絶句した。
一生孤独、誰とも関われない。
つまり一生友達も作ることが出来ず、家族と一緒に食事をすることも出来ず、恋愛も出来ないという事・・・。
そんな生き方、自分には耐えられない。
大事な家族達、さやかと仁美、そしてマミ・・・。
その人達ともう関わっちゃいけないなんて・・・・。
まどかとさやかは余りにショックな内容に黙り込んでいたが、やがてマミが恐る恐るシジフォスに尋ねる。
「・・・あの、アルバフィカさんは、どんな聖闘士なんですか・・・?」
シジフォスはマミの質問を聞くと、一度コーヒーで口を潤し、カップを置くと口を開いた。
「アルバフィカは歴代の魚座の黄金聖闘士の中でも最高の耐毒体質の持ち主だ。もはや全身の血が猛毒と言ってもいい。それゆえに彼は自分から人とは関わりたがらない。そして他人を自分に近寄らせない。自分の血で他者に害を与えないためにね。マミが突き飛ばされたのもその為だ。
本当は他人を思いやることの出来る優しい男なんだが、他人を寄せ付けない態度を取り続けているせいでよく誤解されてしまう。まあ本人にしてみれば人と関わらないためにわざとやっているのかもしれないが・・・」
「「「・・・・・・」」」
シジフォスの言葉に、まどか達は再び黙り込んだ。
三人とも沈痛な表情を浮かべており、特にさやかは先ほどアルバフィカのことを知らなかったとはいえ冷血男と呼んでしまった自身の短慮を恥じていた。
そんな少女達の様子にシジフォスは溜息を吐き、再びコーヒーを口に含む。
「それから彼は自分の容姿を褒められるのを非常に嫌っていてな、もしそんな事を口にしたらたとえ仲間であっても一週間は口も利いてくれなくなる。これが敵だったらまず間違いなく殺されるだろうな・・・」
「・・・・だから私に対してあんなに不機嫌になったんですね・・・」
「ん、まあ、そうだな」
シジフォスはマミの言葉に曖昧な返事を返した。それを聞いたマミは少し落ち込んだような表情をする。その隣に座っていたさやかは、辛そうな表情で口を開いた。
「あたし・・・、自分が恥かしいです・・・。アルバフィカさんのことを何も知らないのに冷血男だなんていって・・・。あたしって、本当に馬鹿っすね・・・・」
「まあまあ、アルバフィカ本人の前で言ったんじゃないんだ。あまり気にするな。いきなりマミが突き飛ばされるのを見れば誰だってそう思う」
「私も・・・、酷い人って・・・。本当はマミさんを心配してあんな事をしたのに・・・」
「まどか・・・、全く、どうしたものか・・・・」
一気に暗い雰囲気になった三人の少女を見て、シジフォスはどうしたものかとコーヒーを啜りながら考える。やがてコーヒーを全部飲み干してしまったシジフォスは、とりあえずおかわりを頼むためにウェイトレスを呼ぼうとした。
「んあ?シジフォス、お前らこんな所に居たのかよ?」
「・・・・・」
「む?マニゴルドにほむら。君たちこそこんな所で何をやっている?」
と、レストランの入り口から同僚の黄金聖闘士、マニゴルドとそのパートナーである魔法少女暁美ほむらが入ってきた。シジフォス達を見つけたマニゴルドはシジフォスに向かって片手を上げて合図し、一方のほむらはマミの方を見たまま黙っていた。
「いやな、ちょっとアルバフィカの奴に頼まれごとをしてな。お前の小宇宙を探っていたんだが、まさかまだ病院にいるなんてな」
「アルバフィカから?一体何を・・・」
シジフォスの質問にマニゴルドは黙ってほむらに視線を投げる。ほむらは黙ってマミの居る席に近づいていく。敵対しているはずの相手が自分に近づいてきたことで、マミの体が強張り、側にいたまどか、さやかも思わず身構えた。
「巴マミ、アルバフィカが貴女にって」
が、ほむらはマミに何をするでもなく、左手に持っていたものを彼女に差し出した。
それは彼女の髪の毛の色と同じ、黄色い花弁の薔薇だった。
マミは薔薇を受け取ると、その薔薇をじっと見ていた。
「なんで、アルバフィカさんが、これを・・・・」
「貴女へのお詫びらしいわ。突き飛ばした件じゃないの?」
「・・・・っ!!」
ほむらの言葉を聞いたマミは顔を赤く染めて薔薇の茎を両手で握り締め、俯いた。
その表情は何処か申し訳なさそうであり、少しだけ嬉しそうであった。
「・・・・あいつも妙なところで紳士だからな。ったく、普通に自分で渡せっての」
「彼にそれは酷だろう。私達ですら近付きたがらないんだ。マミのような少女では、なおさらだ」
そんなマミを見ながら二人の黄金聖闘士はボソボソとそんな事を話していた。
ほむらは相変わらず無関心な表情で、まどかとさやかは興味深々な表情でマミを見ている。
「・・・アルバフィカさん・・・・」
マミはそんな周囲の人間には構わず、目の前の薔薇をじっと眺めていた。