魔法聖闘士セイント☆マギカ   作:天秤座の暗黒聖闘士

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第3話 黄金の射手座は憧れを否定し、天球より2星は舞い降りる

 第三話 黄金の射手座は憧れを否定し、天球より2星は舞い降りる

 

 「うっわー…」

 

 「素敵なお部屋…」

 

 「俺はなんだか場違いな感じがするが…」

 

 「一人暮らしだから遠慮しないで。碌におもてなしの準備も無いんだけどね」

 

 あの後、まどか、さやか、シジフォスの三人はマミの部屋に招かれた。

キュゥべえに魔法少女になるよう頼まれた時、マミが契約の前に、魔法少女について説明したいと言い、立ち話もなんだから自分の家に来てくれるよう三人に言ったのである。

シジフォス自身は「俺は契約する気は無い」と言って断ろうとしたのだが、マミが「貴方が何者なのか話して貰いたい」と言われ、まどかとさやか、そしてキュゥべえからも話してくれるように頼まれたためにしぶしぶ付いて来たのだった。

ちなみに今のシジフォスは射手座の黄金聖衣を着ていない、まどかと出会ったときのあの茶色いコートをまとった姿である。聖衣の姿はさすがに目立つのでマミの部屋に向かう際に脱いでパンドラボックスに収納してある。

 

 マミの部屋は清潔感に溢れており、様々な女の子らしい小物が置かれている。

まどかとさやかは部屋を見て目を輝かせているが、シジフォスは何処か居心地が悪そうな表情を浮かべていた。

 そして、三人はマミからお茶とケーキを御馳走になりながら、魔法少女についての説明をマミから受ける予定、であった、が、…。

 

 「その前にシジフォスさん、貴方について知りたいのですが」

 

 「…何故俺が先に…?」

 

 「私自身も貴方のことが知りたいと思ってますし、彼女達も貴方の事を知りたがっていますから」

 

 マミの言葉にまどかとさやかは同時にコクコクと頷く。

 視線がこちらに集中している事にシジフォスは眉を顰めて嫌そうな表情をしていたが、やがて観念したのか口から大きなため息を吐いた。

 

 「…分かった、が、言っておくがあまりにも突拍子の無い話だからな。信じられるか分からないぞ」

 

 「何をいまさら。魔女や魔法少女が居るんですからもう何が来ても驚きませんよ」

 

 「そうです!!シジフォスさんが何であっても私は絶対信じますから!!ね!さやかちゃん!!」

 

 「ちょっ!?まどか!!あたしに振るなっての!!」

 

 マミは穏やかに笑ったままであったもののまどかはどこか必死な表情でシジフォスを

見ている。隣のさやかもまどかに抗議する物のその目は好奇心で輝いており、いかにも話を聞きたそうだ。

 そんな三人を見て(キュゥべえは意識の外)、シジフォスは溜息を吐きつつ話し始めた。

 

 「なら話すとしよう。まず、俺、というよりも俺達は聖闘士、厳密に言うならアテナの聖闘士と呼ばれている」

 

 「アテナの聖闘士?アテナってあのギリシャ神話の戦いの女神ですか?」

 

 「その通りだ。ローマ神話ではミネルヴァと呼ばれているな」

 

 シジフォスはマミの質問に答えるとマミが用意してくれた紅茶を一口飲んで口を湿らせる。

 

 「アテナは戦いの女神ではあったが、その戦いとは防御的な、つまりこの地上を護るための戦いだった。ギリシャ神話で語られる軍神アレスとの戦い、ポセイドンとの争い、ギガスとの戦いであるギガントマキアも、アテナが地上の平和を護るために行った戦いだったわけだ」

 

 「「「……」」」

 

 シジフォスの話しを、三人は真面目な表情で、一匹は相変わらず何を考えているのか分からない表情で聞いていた。

 

 「そして神々との戦いの中で、アテナに従って共に闘う戦士達が居た。

それが、アテナの聖闘士、というわけだ。

彼らは己の内にある小宇宙(コスモ)というエネルギーを燃焼させることで、圧倒的な力を引き出すことが出来た。実際に、一人の聖闘士の力は、拳で天を裂き、蹴りで地を割るほどだと伝えられている」

 

 「へえ…」

 

 「すごい…」

 

 「拳で天を、蹴りで地を…、かっけー…」

 

 シジフォスの語る聖闘士の話しに三人は、特にまどかとさやかは呆けたような表情を浮かべる。

 実際、あの時魔女と使い魔を彼が拳の一撃で倒したのを見てしまえば、シジフォスの言葉も全然誇張じゃないと思えてしまう。

 

 「続けるが、アテナの聖闘士は戦いの際には聖衣(クロス)という鎧を纏っていた。聖衣は夜空に浮かぶ星座をモチーフとして作られ、合計で88の聖衣が存在するとされている。聖闘士の数もまた、聖衣と同じく88人という訳だ。まあ同じ時代に88の聖闘士が集まる事は、殆ど無いのだがな…」

 

 「へえ…、ということは白鳥座やアンドロメダ座の聖衣というのもあるのですか?」

 

 「ああ、ある。これ以外にもわし座、ペガサス座、蛇使い座、竜座の聖衣も存在する」

 

 「うっわー!!すっげー!!あたし魔法少女より聖闘士になろっかなー…」

 

 「さやかちゃん…」

 

 目をキラキラ輝かせたさやかの言葉にまどかは呆れた表情を、シジフォスは困った表情を浮かべた。

 

 「あー…、まあ、女性も聖闘士には、なれないことはないんだが、な…」

 

 「え?なんすか?何か問題でもあるんすか?」

 

 「あ、いや、問題というかなんというか、な…」

 

 「???なんですか?教えてください!」

 

 「……」

 

 (言えない、女性が聖闘士になった時は仮面をつけなければならない等とは、言えない…!!)

 

 シジフォスは内心冷や汗をかきながら心の中で呟いた。

 確かに女性も聖闘士になる事が出来る、出来るのだが聖闘士は男しかなれないのが原則であることから、女が聖闘士になった時、女を捨てた証として仮面をつけなくてはならないという掟がある。

 こんな掟のことを知ろうものなら

 

 「ありえねえ!!」「人権侵害です!!」「女性蔑視もいいところね」

 

 等々非難轟々になるのは目に見えている。こんなことで聖闘士のイメージを下げるのはかなりまずい。

 ちなみにハクレイは聖戦の前に、こんな掟は時代遅れだと廃止を呼び掛けたのだが、結局却下されたらしい。

 

 「…聖闘士になるためには、小宇宙というものを燃やせるかどうかで適性が決まる。小宇宙というのは人間の中に存在する特殊な力で、聖闘士はそれを燃焼させる事によって超人的な力を発揮することが出来、原子を砕くという究極の破壊を行うことが出来る。だが、これを極めるには長い年月修行しなければならない」

 

 「え、えっと、ちなみにその修業の期間って…」

 

 さやかが恐る恐るシジフォスに質問をする。その質問を聞いたシジフォスはしばらくじっとさやかとまどか、そしてマミを見ると、結論を下した。

 

 「聖衣を手に入れるには…、君たちならば最低7、8年は必要だな…」

 

 「うえ!?し、7、8年!?あたしもう大学生になってんじゃん!!

 

 「うう…、私そんなに修行出来ないよ…」

 

 「さすがに、無茶があるわね…」

 

 シジフォスの言葉にさすがにまどか、さやか、マミは仰天した。いくらなんでも7年修行するなど自分達には無理だ。いかんせん一介の中学生がそんなことに時間を費やせるはずがない。さやかとまどかはかなりがっかりした様子であった

 

 「そんな顔をするな。別に聖闘士になるのが幸せという訳じゃあない。修行も常に命の危険と隣り合わせだし、任務も死と隣り合わせのものばかりだからな」

 

 そう言ってシジフォスはまどかとさやかを慰めてくる。と、すかさずキュゥべえが勧誘をしてくる。

 

 「でも魔法少女になれば聖闘士になる事も夢じゃ…」

 

 「貴様は黙っていろ」

 

 全部言う前にシジフォスが遮り、鋭い眼光でキュゥべえを睨みつけ黙らせる。その視線にはさすがにキュゥべえも黙らざるを得ず、キュゥべえを抱いていたマミも背筋にゾクリと寒気が走った。流石にやりすぎたと感じたのかシジフォスはマミにすまないと詫びを入れて紅茶を口に含む。

 

 「…話が途切れたな。あと、聖闘士には階級が存在する。最下位の位である青銅聖闘士、第二位の位である白銀聖闘士、そして、黄道十二星座を象った聖衣を纏う最高位の黄金聖闘士の三つだ。この階級に含まれない例外的な聖衣も存在しないわけではないが、おおむねこんな感じだ」

 

 「へえ、そういえばシジフォスさんは黄金聖闘士っていってましたね!じゃあ聖闘士の中で一番偉いんですか?」

 

 まどかが目を輝かせながらシジフォスに質問をしてくる。と、シジフォスは首を左右に振って否定する。

 

 「いや、平時に聖闘士を束ねるのはアテナの代行者である教皇と呼ばれる地位の方だ。私達が一番偉いという訳ではないよ」

 

 「でもでも!聖闘士の中では最強なんですよね!?」

 

 「ん、まあ聖闘士の強さは聖衣によって決まるわけではないが、まあ概ねそうだな」

 

 「「おおー!!」」

 

 シジフォスの言葉にまどかとさやかは感激の声を上げる。と、マミが何か思い出したのかシジフォスに質問した。

 

 「あの、シジフォスさんは暁美ほむらさんと一緒にいた人と知り合いみたいでしたけど…」

 

 「ん?ああマニゴルドか。それは知ってて当然だ。彼もまた黄金聖闘士だからな」

 

 

 

「「えええええええええええええ~!!!」」

 

 

 

 シジフォスの返事にまどかとさやかが大声で絶叫を上げる。そのあまりの音量にシジフォスとマミは耳を塞いだ。

 

 「いや、何で君達が驚くんだ」

 

 「だ、だってあんな怖い顔をした人がシジフォスさんと同じ黄金聖闘士だなんて!!」

 

 「そうっすよ!!あんなどっからみてもマフィアにしか見えない目つきの悪いオッサンが…」

 

 「いや、そこまで言うか。…もう一度言うが彼、マニゴルドは蟹座の黄金聖闘士だ。実力は教皇の直弟子だけあって相当なものだし、口はアレだが中々面倒見のいい奴だぞ」

 

 シジフォスの言葉に、三人とも信じられないと言いたげな目つきでシジフォスを見やる。

シジフォスは少しマニゴルドが憐れになってきた。

 

 (…まあ、あいつももう少し言葉遣いがよければ、な…)

 

 シジフォスは内心ボソリと呟いた。

 

 「…さて、俺の話しはこんな所だ。次はマミ、君の話を聞かせてくれないか?」

 

 「へ、あ、はい。すいません。すっかり忘れていました」

 

 マミは照れ笑いしながらシジフォスに謝罪する。あまりにシジフォスの話しが凄過ぎて魔法少女について説明するという目的をすっかり忘れてしまっていたのだ。

 そして、マミはキュゥべえと一緒に魔法少女について話し始めた。

 

 曰く、魔法少女とはキュゥべえと契約したものであるということ。

 魔法少女はどんな願いでも叶えられる代わりに魔女と戦う使命を課せられること。

 魔女とは呪いから生まれた存在であり、世界に災いの種をまき散らす存在であること。

 魔女は常に結界の中に潜んでいるため、決して人前に姿を現すことはなく、結界に飲み込まれた人間は、大抵生きて帰れないこと。

 

 マミとキュゥべえが話したのは大体そんなところだった。

 まどかとさやかは真面目な表情で聞いていたが、シジフォスは既に知っていることであるため、お茶とケーキに舌鼓を打ちつつ聞き流していた。

 

 (希望を振りまく存在が…、絶望を振りまく存在に変わる、か。知っているとはいえ、どこまでも皮肉なものだな…)

 

 まるでどこぞの魔術師殺しみたいだ、とシジフォスは思っていたが、突然マミの言葉が耳に入ってきた。

 

 「…だから魔法少女になるのは命懸けよ、そこで一つ提案なんだけど、二人ともしばらく私の魔女退治につき合ってみない?」

 

と、突然マミが一つ提案を出す。その提案にまどかとさやかは疑問符を浮かべた。一方のシジフォスは黙ってマミを見ながらティーカップを傾ける。

 

 「魔女との戦いがどういうものかその目で確かめて、その上で魔法少女になるかどうか判断すればいいと思うわ。その上で、危険を冒しても叶えたい願いがあるかどうか、じっくり考えるといいと思うわ」

 

 「うーん、そうだね、そうしようよさやかちゃん」

 

 「まあ、アタシも今のところ叶えたい願いもないけど、もしできたときの為にやっとこっかな…」

 

 マミの提案にまどかとさやかも同意しようとした。が…、

 

 「…俺は反対だ」

 

 と、今まで黙って聞いていたシジフォスが突然口を開いた。

その口調は固く、どこか冷たかった。

 

 「えっと、シジフォス、さん…?」

 

 助けてくれたときと正反対な雰囲気に、まどかは戸惑った。シジフォスはティーカップを下ろすとまどかとさやかに視線を向けた。

 

 「まどか、さやか。君達は何でも願いが叶う、マミのように人のために戦えると言う考えから魔法少女に憧れているようだが…、逆に聞くが魔法少女とはそんなに良いものなのか?」

 

 「え…?」

 

 シジフォスの言葉にまどかとさやかは茫然とした表情になる。シジフォスは構わず話し続ける。

 

 「確かに魔法少女は人々に害をなす魔女と戦い、人を守る。憧れるのも分からないわけではない。だがな、魔女と戦うと言うのは、一歩間違えれば魔女との戦いで戦死する可能性もあるということだ。そこを分かっているのか?」

 

 「そ、それは・・・・」

 

 「……」

 

 シジフォスの言葉にまどかもさやかも二の句が告げられなくなる。シジフォスはそんな彼女達を見ながら、再びカップに口をつけると、息を吐いて少し悲しげな表情を浮かべた。

 

 「…俺達聖闘士も、地上の人々に害をなす多くの敵と戦ってきた。どの戦いも熾烈で、安易な敵など誰一人としていなかった。

そして、その戦いの中で、多くの同志達が犠牲となった。そして、その犠牲となった者達の中には、君達と同年代の子供達もいた…」

 

 「「「…!!」」」

 

 シジフォスの言葉に、まどか、さやか、そしてマミの表情が強張った。一方のキュゥべえは相変わらず無表情であった…。

 

 「俺は、彼らのことを誇りに思っている。彼らの死が犬死だとも考えたことはない。だが、俺は見たくはないんだ。まだ未来のある君達が、戦場で命を落とすところを、な…」

 

 「…シジフォスさん…」

 

 「まどか、さやか、君達には愛する家族がいるだろう?大切な友達も、いるはずだ。

君達が魔法少女になれば、その人たちとは今までと同じ関係ではいられないだろう。

 

 

 そして恐らく、いや、絶対に引き返すことは叶わない、その道を、行く覚悟があるのか?」

 

 「……」

 

 シジフォスの言葉にまどかとさやかは言葉も出なかった。そんなこと、全く考えてなかった。戦場に出るということも、死ぬということも。

 

もし死んだら、家族は、友達はどう思うだろう。

 きっと、悲しむだろう。パパも、ママも、達也も、仁美も。

 

 そして、さやかも、きっと悲しむ。

 

 どんな願いが叶っても、どんなに強くなったとしても、死んでしまうのは怖い、嫌だ。

 

 人の役に立てるから、どんな願いでも叶うから…。

 

 そんな安易な考えで踏み込んじゃいけないんだ…。

 

 まどかは沈痛な表情で俯き、さやかも同様な表情を浮かべていた。

 そんな二人の様子を見たシジフォスは、今度はマミに視線を向けた。

 

 「君も少し軽率すぎるぞ、マミ。君一人ならまだしも、二人の一般人を魔女との戦いに連れて行くなど危険すぎる。弱い魔女や使い魔ならまだしも、強力な魔女との戦いになったら、彼女たちを守りながら戦うことができると思っているのか?」

 

 「!?そ、それは、その…」

 

 「彼女達にも彼女達の生活がある。万が一彼女達に何かあったら、君は彼女達の家族に、友達にどうやって詫びるつもりなんだ?君に悪気がなかったとしても、周りはそうは思わないだろう。君は、彼女達に親しい人々から恨まれ、罵倒され続けることになるかもしれない。その覚悟は、君にあるのか…?」

 

 「…私は…」

 

 シジフォスの言葉に、マミは今にも泣きそうな表情で俯いた。

 

 そうだ、彼女達は自分とは違う。

 

 自分達を心配し、愛してくれる家族もいる。

 

 何でも相談できる友達もいるのだ。

 

 もしも彼女達が自分と一緒に行動しているときに使い魔に襲われたら…。あるいは魔女の攻撃を受けて死んでしまったら…。

 

 彼の言うとおり、魔女にも強いものと弱いものが存在する。

 

 万が一にも強力な魔女と戦闘になったら、彼女達を守りながら戦うのは難しいだろう。

 

 その間に彼女達が使い魔に襲われたら…。

 

 マミの表情を見て、シジフォスは言い過ぎたと感じたのか、ばつの悪い表情を浮かべる。

そしてティーカップに残っている紅茶を飲み干すと、クロスボックスを持ち上げて床から立ち上がる。

 

 「まあそういうことだから俺は君達が魔法少女を志すのには反対だ。…もうなってしまったマミは仕方ないかもしれないが。

君達は日常の、もとの生活に帰るんだ。魔女も、使い魔も俺達黄金聖闘士が何とかする。マミ、君もできることなら魔法少女の力は自衛の為に使うほうがいい。心配しなくても手に入ったグリーフシードはすべて君に譲るから安心してくれていい。

 俺が言いたいことは以上だ。ご馳走様、マミ。まどか達ももう夜遅いから気をつけて帰るんだよ」

 

 シジフォスは最後にニコリと彼女達に笑みを向けるとクロスボックスを背負って玄関まで歩いていき、玄関のドアを開けてそのままマミの部屋から出て行った。一方まどか達はその後ろ姿を呆然と見送るしかなかった。

 

 

 シジフォスSIDE

 

 「ふう…、少し言い過ぎたかな…」

 

 シジフォスは夜風を浴びながら自分が住居としているマンションに向かって歩いていた。

そして、歩きながら今日出会った少女達、まどか、さやか、マミについて考えていた。

魔法少女になるのをためらわせるためとはいえ、少し言い方が厳しかったかもしれないとシジフォスは若干反省していた。

 魔法少女はいずれ魔女になる事、そしてキュゥべえの本当の目的を洗いざらい言ってしまえば彼女達も魔法少女になりたいなどと思わなくなるだろうが、それを伝えるのは出来る限り終盤の方が望ましい。

 今言ったとしてもあのインキュベーターに言いくるめられるだろうし、下手をすれば全く信じない可能性もある。

 そしてたとえ信じたとしても、最悪巴マミが暴走して魔法少女達を殺して回り、最後は自分も死ぬという結末になる可能性もあるのだ。

 だから伝えるのは出来る限り後、少なくともさやかが魔女化した時にするべきだと依頼主は言っていた。

 

 「しかし…、俺ももう少し言い方を考えるべきだったか…」

 

 だが今回の言い方は少し厳しすぎたかもしれない、シジフォスは少し反省しながら夜空を眺める。

 

 空には幾つもの星が煌めき、それぞれの星が空に星座を形作っている。それらの星座の中には、自分が聖戦の折りに共に戦った戦友達の星座もあった。

 

 (あの聖戦の時、俺は、いや、俺達は一度死んだ…、しかし、『彼』によって我々は新しい生命を与えられ、この世界に来た…)

 

 シジフォスは感慨深げに夜空に輝く星座達を眺める。

 

 自分達の時代よりも後の聖戦については『彼』の話しで知っている。

 

 自分の知っている天馬星座の聖闘士によく似た、次世代の天馬星座の聖闘士、星矢。そして、彼らと共に闘う青銅の少年達。

 

 彼らは幾多の激戦の中で多くの奇跡を起こし、遂には神にも勝利した。

 

 その時彼は、いや、かつての黄金聖闘士達は確信した。

 

 もう、大丈夫だと。自分達の願いも、思いも、全て次代へ受け継がれたのだと。

 

 (ならば、俺達も新しい役目に励まなくてはな)

 

 彼ら後輩が戦っているのならば、先輩である自分達もうかうかしていられない。

 

 自分達も新しい命を再び世界の為に使おう。そして、絶望にあえぎ、希望を失った人々を救いあげよう。

 

 「未来の後輩に、かっこ悪いところは見せられない、か…。確かにその通りだ」

 

 此処とは違う世界でマミが口にした言葉を呟きながらシジフォスは笑った。

 

 と、その瞬間…、

 

 「!この小宇宙は…」

 

 シジフォスは足を止めると、周囲を見渡した。まるで、何かの気配を探るかのように。

 彼が足を止めた理由、それは、この世界では感じとれないはずの小宇宙を二つ、感じ取ったからである。無論、マニゴルドやアルデバラン、ましてやシジフォスのものではない。

 だが、シジフォスはその二つの小宇宙を知っていた。なぜならその小宇宙は、彼が共に戦った戦友達のものであったのだから…。

 シジフォスの表情に、笑みが浮かぶ。それは、旧来の友との再会を喜ぶ笑み。

 

 「ふっ、別に来ると言っていたが、まさかお前達とはな。これは、少し面白くなってきたか」

 

 シジフォスは笑みを浮かべながら、再び夜道を歩き始めた。そんな彼の頭上では、気のせいか二つの星座が一際強い輝きを放っていた。

 




 ちなみにシジフォス達はこの世界に来る前に漫画版星矢を全巻読破、及びΩも見ている設定です。無論反応はそれぞれ一喜一憂。
 特に扱いの悪かった蟹、魚、ついでに教皇はブチ切れ、かませにされた牛は慟哭し、本人が活躍しなかった射手座は若干がっかりしたとか…。
 そして、この任務が終わったら星矢時代の聖域に殴りこみでもかけようかと相談したとかしなかったとか…、そういう裏設定があります。

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