魔法聖闘士セイント☆マギカ   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 長らくお待たせして申し訳ありません!
 最近購入したMH4Gに夢中になってしまい投稿が遅れてしまいました!
 何とか11月終わる前に投稿出来ましたけど、次はいつ投稿出来ることやら。出来るだけ早くやるようにはしたいですけど…。


第42話 さやか救出作戦 第3楽章

 魔女が倒れ、同時に使い魔も消え去り静寂に包まれた大ホール。水を打ったような静けさの中で恭介とさやかはずっと抱き合っていた。

 最初は氷の棺に閉じ込められていた影響で冷たかったさやかの身体も、恭介の体温で温められたからか、今では僅かながら温もりを取り戻していた。

 抱き合ってお互いの温もりを感じ合っていたさやかと恭介は、一度身体を離すと互いの顔を見つめ合う。

 

 「恭介…」

 

 「さやか…」

 

 互いの名を呼びあい、お互いに視線を交わすと、ゆっくりと瞳を閉じて再び唇を重ねようとした、が………。 

 

 「…お取り込み中の所失礼するよ?あ~、再会の喜びと愛の告白で盛り上がっているところ悪いのだが…、まだやる事が残っているからお楽しみは後にしてもらえるかな?」

 

 「おーおー、他人の居る所でやるねーお二人さん。しかもあっついキッスとハグしやがって、爆発しやがれこんちくしょーが、ってか?」

 

 「「!?」」

 

 突然すぐ傍で聞こえたばつの悪そうな声とはやし立てるような声に恭介とさやかはギョッとして声のした方向へと勢いよく振り向いた。

 二人の振り向いた方向には何処か居心地が悪そうな表情を浮かべたデジェルと面白いものを見た、と言いたげなにやけた表情のマニゴルドがこちらを眺めていた。

 

 「で、ででででででデジェルさん!?ま、マニゴルドさん!?い、何時の間に!?て言うか何時から見てたんですか!?」

 

 「何時の間にって俺達はさっきからずーっと此処に居ましたけどね、あと俺達は最初っからずーっと君達がイチャコラするのを見てましたよ?いやいやお二方、お熱い事で、ってか?」

 

 「~~~~!!!」

 

 あの思い出しただけでも恥ずかしい告白を、それだけではなく自分達が抱き合ってキスしたところまで見られたと言う事に、恭介は顔を真っ赤にしてガクリと俯き、さやかは叫び声を上げながらパニックを起こしていた。

 そんな二人の姿を困った顔で眺めていたデジェルは一度咳払いをすると目の前で悶えてるさやかへと視線を向ける。

 

 「さてとさやか君、無事帰って来た事は良かったとしても、だ…、親御さんや友達、先生方に心配を掛けた事に関しては感心できないな。灸をすえられる覚悟は出来ているかな?」

 

 「うっ…は、はい、それはもう…」

 

 デジェルの一見にこやかだが何処か凄味を感じる笑顔にさやかは引き攣った笑顔でコクコクと頷いた。

 さやかとしても、自分が勝手に行方不明になってしまったせいで多くの人を心配させてしまった事には責任を感じているし反省もしている。帰ったら親や先生に絞られることも覚悟はしているが、先程まで恭介と甘い雰囲気だった所でそんな現実を直視させられてしまうと流石にさやかといえども気後れしてしまう。

 さやかの様子に流石に脅し過ぎたかと感じたのかデジェルは頬を掻きながら軽く溜息を吐いた。

 

 「…まあ、分かったのなら良い。さて、それでは後はこの結界から出るだけなのだが…」

 

 「ってああ!!そうだった!!僕達まだ魔女の結界の中に居たんだ!!さやか、早く逃げないと!!」

 

 「…いやいや坊ちゃん、それは一番忘れちゃいけん事でしょうが。幾ら色ボケしていようとも」

 

 今更ながら自分達が今敵地に居る事に気が付いて焦る恭介に軽く突っ込みを入れるマニゴルド。一方さやかは慌てる恭介の姿にようやく自分が魔女の結界に居る事に気が付いたのかキョロキョロと周囲を見回している。だがその顔に浮かんでいるのは今自分が魔女の結界に居る事への恐怖ではなく、自分が結界に居る事への違和感があった。

 

 「あの…、マニゴルド、さん…?」

 

 「んあ?どうしたよ嬢ちゃん?」

 

 さやかが恐る恐る質問するとマニゴルドは恭介の時とは打って変わってフレンドリーな笑顔をさやかに向けてくる。さやかはマニゴルドのにこやかな笑みに少し戸惑いながらも思いきって口を開いた。

 

 「あの…、あたしの魂を身体に戻してくれたの、マニゴルドさんですよね?」

 

 「ん?ああそうだけど?」

 

 「それじゃああの、もう魔女は死んだんですよね?だったら何でまだ結界があるんですか?魔女が死んだら結界も解除されるはずじゃあ…」

 

 そう、さやかが気になっていたのは主である魔女が死んだにもかかわらず未だに存在する魔女の結界であった。

 通常魔女の結界は生み出した魔女が死ねば自動的に解除されてしまう。結界は魔女の心象世界であり、魔女の心の内を投影した空間。主である魔女が死ねばそのまま霧消してしまうのが魔法少女達にとって常識であった。

 なのにこの結界は未だに存在している。主である人魚の魔女、即ち魔女化した自分自身が死んだにもかかわらず…。

 そんなさやかの素朴な疑問に対してマニゴルドは、何故か何を言っているんだ?とでも言いたげにキョトンとしていた。

 

 「は?魔女?何言ってんだ?まだ死んでねえぜコイツ」

 

 「……え?」

 

 突如マニゴルドの口から放たれた突拍子もない返答にさやかは思わず唖然としてしまう。

 魔女が生きている…?いや、結界は確かに魔女が生きていなければ展開できないものだと言うのは分かる。だが、確か魔女の魂は…。

 

 「あの~…、あたしの記憶が正しければもう魔女の魂引き抜かれてあたしの身体にあるんですよね?で、魂無くなった魔女はもう死んだんじゃ…」

 

 恐る恐る問いかけるさやか、そんなさやかの質問にマニゴルドは納得した様子でポンと手を打った。

 

 「あ、なーるほどそういうことね?いやいやお嬢ちゃん、あんた少し勘違いしてるぜ?確かに魔女からアンタの魂摘出したけどよ、別に魔女は死んだわけじゃねえのよ?」

 

 「え?そ、それってどういう……!?」

 

 さやかがマニゴルドに聞き返そうとした瞬間、結界が大きく振動する。まるで地震でも起きたかのように揺れる結界でさやかは派手に尻もちをつき、恭介は地面に這いつくばってしまう。

 

 「な、ななな何だこの揺れ!?地震でも起きたの!?」

 

 「きょ、恭介大丈夫!?っとと、あ、危な~…」

 

 「あらら、どうやらこちらのお嬢様はもうお目ざめになられたようだなデジェルさんよ」

 

 「の、ようだな。二人共下がっていたまえ。巻き込まれても知らないぞ?」

 

 突然の自身に恐慌状態の二人に対して冷静そのもののデジェルとマニゴルドは己の背後へと振り向いた。恭介とさやかは平然とした様子の彼等の発言を訝しく思いながら、デジェルとマニゴルドに釣られて彼等の背後へと視線を向けた。

 瞬間、さやかと恭介の表情が信じられないものを見たかのように驚愕で歪んだ。まるで目の前で死人が立っているのを見たかのように…。

 二人の視線の先にあったもの、それは地面からゆっくりと立ちあがる人魚の魔女の姿であった。

 

 「ちょっ、ええ!?ど、どうなってるのよ恭介!?た、確かコイツもう死んだはずじゃ!?ていうかコイツって魔女になったあたし、でもあたしは此処に居る、じゃあコイツはもう一人のあたしってことで…」

 

 「ちょ、ちょっとさやか訳の分からない事言ってないで落ち着いて!!僕だって訳が分からないよ!!この魔女もう死んだと思ってたんだし!!」

 

 死んだと思っていた魔女が突然生き返った事にさやかと恭介はパニックを起こしている。

 そんな二人の様子を眺めるデジェルは呆れた様子で肩を竦めた。

 

 「…ふむ、まあ確かにこの人魚の魔女は君の魂、すなわちソウルジェムの濁りが生み出した代物であり、君の分身と言えなくもない。この魔女が先程まで君の魂のみで動いていたと言うのも事実だ、が…」

 

 デジェルはまるで動物園の檻の中の象かキリンでも見るように起き上がった人魚の魔女を見上げる。

 

 「極稀に、だが…、強力な魔女には魔法少女の魂とは別に己独自の自我、すなわち魂を持つ者が出現する事がある。そうなるとたとえ元の魔法少女の魂を引き抜かれたとしても魔女は死なない。新たなる魂を得て再び魔女として復活し、暴れ出すと言うわけだ」

 

 「ま、戦隊物やらで言うところの再生怪人みてえなモンだって思っときゃあ大丈夫だ。最もコイツの場合は主義主張関係なく暴れまくる理性の無い正真正銘の化け物になっちまうからオリジナルの魔女よかよっぽど性質が悪いが、な」

 

 デジェルの言葉に続けるように言いながらマニゴルドは指をポキポキ鳴らしながら目の前の魔女を見上げる。魔女は目の前の敵四人、特に自分のオリジナルである美樹さやかへと殺気の籠った視線を向け、獰猛な唸り声を上げる。

 まるで親の仇でも見るかのような凶暴な視線を直に浴びるさやかは、恐怖で震えあがりながらも目の前の人魚の魔女、己の負の感情の象徴とも言える存在から目を離せなかった。

 

 「こいつが……あたしの魔女……。こんな、こんな化け物が、あたしの分身…」

 

 「今更そのようなショックを受けても仕方がないだろう?まあ確かにショックなのは分かるがそもそも魔女というモノはソウルジェムの穢れ、いわば魔法少女の負の感情が具現化したものなのだから多少なりとも怪物染みた姿になるのは避けられないだろう?ま、どんな姿になるかは人それぞれだろうが…」

 

 「……」

 

 デジェルの言葉を黙って聞きながら、さやかは目の前の人魚も魔女を呆然と見上げる。

 上半身は鎧をまとった人間、下半身は魚の尾とシルエットだけならば人魚に見えるであろう。だが、そのビルの如き巨体、胸にリボンが結ばれた鎧にまるで蓄音機のような形状の三つの穴が開いた鉄仮面といった異様な姿は、到底おとぎ話に出てくる美しい人魚姫とは程遠い、異形の化け物としか言いようがない。

 こんなものを自分が生み出した、等と言われたならば多少なりとも現実逃避したくなってしまう。最も、幾ら現実逃避したとしても目の前の魔女を見てしまえば嫌でも現実へと引き戻されてしまうのだが。

 

 「ちなみに、だ…。復活した魔女の行動パターンなのだが、大抵の場合オリジナルの魂の持主、あるいはそれに近しい人間を襲う傾向がある。どうやら元の自分の存在そのものを完全に消し去りたいという自壊衝動の一種のようなものらしいのだが、まあそういうわけだからさやか君、恭介君と一緒に下がっていたまえ。変身は出来るだろうが今までのように傷をおったら回復すればいい、というわけにもいかなくなっているからね」

 

 「そういうこった、後は大人に任せてお子様はそっちで見学してろや。ま、こんな雑魚なら直ぐに片付くわ、黄金二人もいらねえだろ。おうデジェル、テメエはそこでガキのお守でもしてろや。こいつは俺がやる」

 

 そう言って指を鳴らしながら前へ出るマニゴルド。その口元にはさながら猛獣のような獰猛な笑みが浮かんでいる。事実目の前の魔女は目の前のマニゴルドとの力量差で考えれば、魔女には無残に殺される以外の未来は無い。先程の戦いではさやかの魂を摘出するためにデジェル共々あえて手を抜いていたが、今はもうそのような枷はない為存分に戦える。

 魔女とマニゴルドとの戦いの余波から恭介とさやかを守る為、デジェルはさやかと恭介の壁になるように二人の前に立つ。と、先程まで人魚の魔女を黙って見ていたさやかが、突然何かを決意した表情でデジェルへと詰め寄って来た。

 

 「待って下さい…!あ、あの、あたしって今でも魔法少女に変身できるんですか!?」

 

 「ん?何だいきなり…。魔法少女への変身ならばキュゥべえに魂を弄られた影響でソウルジェムが身体に戻ってからでも使用可能だが…、それがどうかしたのかい?」

 

 さやかのあまりにも真剣な表情に少し気圧されながらもデジェルは彼女の質問に答える。

 魔法少女への変身能力は、ソウルジェムが元の肉体に戻ったとしても魂そのものがある限り可能ではある。

 そもそも魂そのものの物質化、及び魔法少女変身能力の付与等といったインキュベーターが行ってきた魂の改造については未だにセージ、ハクレイといった魂を扱う事に長けた聖闘士達でも完全には解明できておらず、精々が魂を肉体に戻して物質化した魂を元の姿に戻し、物質化と同時に付与された『穢れ』の機能を除去する程度の事しか出来ない。

 だから魔法少女への変身と、魔力生産機能については魂に未だに備わっており、さやかは魔法少女へ『一応』変身する事は可能である。ただ変身し戦うことで本人にどのような影響があるか分からず、出来れば自粛してもらいたいのが聖闘士全員の総意であるが。

 デジェルの返答を、さやかは黙って聞いていたが、デジェルの言葉が終わるや否や

 

 「お、お願いです!あの魔女はあたしに倒させて下さい!!あいつとはあたしが決着付けなくちゃならないんです!!」

 

 「さ、さやか!?いきなり何言ってるのさ君は!!」

 

 突然のさやかの爆弾発言に恭介は驚愕のあまり絶叫しながらさやかに詰め寄った。一方のデジェルはさやかの発言を半ば予想していたのか少し呆れた様子で溜息を吐いた。

 

 「…やっぱりそうきたか。だが分かっているのか?今の君の魂はもうソウルジェムではなく生身の肉体の中、即ち君はもう普通の人間と同じだ。万が一致命傷を負いでもしたら、否、それ以前に出血多量や腕や足を切断されたショックだけでも死に至る可能性もある。 インキュベーターの言葉ではないが安全性でいえば魂がソウルジェムであった頃よりも下がっているんだ。文字通り一歩間違えれば死、それでも行くと言うのか?」

 

 デジェルの言うとおり、今のさやかの魂はソウルジェムではなく肉体にあり、今の状態で魔女の攻撃を受ければまず間違いなく致命傷になる。痛覚を消す事は出来るだろうが下手をすれば回復する前にダメージで死にかねず、影の魔女との戦いのような特攻戦法はもう使えない。それ以前に定期的に穢れを除去し続ける事が出来れば常時変身状態を維持できたソウルジェムとは違い、今のさやかは魔法少女に変身していられる時間が限られている。何もせずにいるとしても精々一時間、戦闘するとしたならば下手をすれば10、20分程度で魔力切れして強制的に変身解除されてしまう。そうなってしまったらもはや普通の人間と変わらず、直ぐに魔女に嬲り殺しにされてしまうだろう。

 このように、ソウルジェムを肉体に戻してことによって生ずるのはメリットばかりではない。寧ろ戦闘面では上記のように大きくデメリットが生じる事となる。ならば魔女との戦闘は出来る限り聖闘士達に任せるのが得策ではある、デジェルはさやかにその事を教え聞かせながら説得する。

 しかし、デジェルの説得を聞いてもなお、さやかの決意は変わらなかった。

 

 「わかってます。もう、もうあんな無茶な戦い方出来ないって…。もう魂はソウルジェムじゃないから、もし戦って傷をおったら、今度は本当に死ぬかもしれないって…!!

 でも、でもあいつは、あの魔女はあたしが生み出したものだから…、昔の絶望に染まったあたし自身だから…!!あたし自身の手で決着をつけたいんです!!あいつを倒して、自分自身の過去に決着をつけたいんです!!まどか達に謝る為にも!!恭介と一緒に過ごす為にも!!」

 

 「さやか……」

 

 さやかの必死の訴えに、流石に恭介も黙らざるを得なかった。デジェルはさやかの心からの決意を聞き終えると、自分の背後で魔女と対峙しているマニゴルドへと視線を向けた。

 

 「…との事らしいが、どうするマニゴルド?さやか君にバトンタッチするか?」

 

 「ま、そこの嬢ちゃんもどうやら覚悟は出来てるらしいしな、ヤバくなったら俺らが助けりゃいいだけだしよ。しゃあねえ、バトンタッチしてやらァ」

 

 マニゴルドはやれやれと肩をすくめながら後ろへと下がる。魔女に背を向けてあからさまに隙を見せるマニゴルドであった、が、人魚の魔女は自らに背を向けるマニゴルドに向けて剣を振り下ろすことも、車輪を雨あられと降らせることもしない、いや、できなかった。

 人魚の魔女の全身には、青白い炎がまるで縄か鎖のように纏わりつき、彼女の全身を拘束していたのだ。魔女は拘束を振りほどこうとするが、炎の鎖は魔女が暴れれば暴れる程強く食いこんでその身を炙り、結果的に魔女は苦痛で身もだえる羽目になってしまっている。

 炎で焼かれ悲鳴を上げる魔女を見上げながら、マニゴルドはクックッと笑い声を上げる。

 

 「鬼蒼焔の応用でカリツォーのモノマネしてみたんだが、案外効果あるじゃねえか、なあ?まあどうせ直ぐに消えて拘束解除されんだろうけど、ま、変身する時間ぐらいはあるぜ?さ、戦うんだったらとっとと変身しなよ嬢ちゃん?」

 

 「へ?あ、は、はい!!そ、それじゃあ早速………」

 

 マニゴルドに促されて早速変身しようとするさやか、……だったが突然そのまま硬直してしまった。気合を入れて変身しようとした矢先に硬直してしまったさやかの姿に、聖闘士二人は不思議そうに彼女を眺め、地面に座ったまま彼女を眺めていた恭介は何処か拍子抜けしたかのようにポカンとしている。

 

 「えっと、どうしたのさやか?へ、変身するんじゃなかったの?」

 

 恐る恐るさやかに問いかける恭介、するとさやかはまるで油が切れた機械のようにゆっくりと恭介に向かって振り向いた。その顔にはまるで貼り付けたかのような笑顔を浮かべながら、たどたどしく口を開いた。

 

 「………ソウルジェム無い時、どうやって変身するんでしたっけ?」

 

 「「……あ」」

 

 さやかの言葉にデジェルとマニゴルドは『しまった』とでもいいたそうな表情に変化する。一方の恭介は何が何だか分からないと言いたげに三人へとキョロキョロ視線を向けている。

 

 「…そういえば、まだ教えていなかったな。いやすまない、マニゴルドに魔女を片付けさせて終わらせようと考えていたものだから…」

 

 「おいこらちょっと待て。俺は便利屋か何かかオイ。ちったあテメエも魔女と戦ったらどうなんだコラ」

 

 「悪かった悪かった。今度埋め合わせに何かおごるから……っと、話が逸れたな。確かソウルジェムが無い時の魔法少女の変身のし方だった、な…」

 

 こちらをジト目で睨みつけてくるマニゴルドを適当にあしらいながら、デジェルはさやかへ説明を始める。

 

 「やり方自体は簡単だ。掌にソウルジェムがあるというイメージを浮かべればそれで変身できる。とはいえ私は魔法少女ではないからソウルジェムがある時にどうやって変身するのかは分からないが、取りあえず掌にソウルジェムがあるとイメージしてみてくれないか?そうすれば変身できるはずだ」

 

 「イメージ…?えっと、それだけ、ですか?」

 

 「まあ半信半疑なのも分かるがやって見てくれ。佐倉杏子君もそうやって変身しているから、君でも効果はあるはずだ」

 

 デジェルの説明を聞いてもなお、さやかは疑わしげに眉を顰めている。とはいえそういう方法なのだとデジェルが言っている上に、あまり時間を無駄にするわけにもいかない為、とりあえず目を閉じて、デジェルの言うとおり掌の上にソウルジェムが乗っているところをイメージする。

 すると、さやかは己の身体の奥底から、何か熱いモノが沸き出してくるかのような感覚を覚えた。何だ、とさやかが違和感を感じた瞬間、さやかの全身から青い光が放たれた。

 

 「え!?な、何が起こって…、さ、さやか!?」

 

 「落ち着け恭介君、やれやれどうやら成功のようだ」

 

 あまりにも突然なさやかの異変に恭介はパニックを起こすがデジェルは苦笑いを浮かべながら彼を宥める。そうこうしている内に青い光は完全に消え去った。

 さやかは何事も無かったかのように立っていた。が、その服装は先程まで着ていた見滝原中学の制服とは全く異なる、白いマントが特徴的な青い衣装へと変化していた。

 恭介はその服装に見覚えがあった。それは以前廃工場で呉キリカと戦っていた時に着ていた衣装…、さやかの魔法少女としての姿だ。

 一方のさやかも、デジェルの言うとおりにしたら本当に変身できたことに戸惑っている様子だった。

 

 「え?え?う、うそ!?ほ、本当にイメージしたら変身出来ちゃった!?」

 

 「ほら、言った通り変身できただろう?まさに案ずるより産むがやすし、だ」

 

 さやかは感心したように頷いていたが、直ぐに魔女と戦うと言う事を思い出すと魔力で己の獲物のサーベルを作り出し、目の前の人魚の魔女へと駆け出そうとした。が、脱兎のごとく駆け出そうとするさやかを、デジェルが肩を掴んで押しとどめた。

 

 「待ちたまえ、魔女を倒すのも大事だがその前にだ、君に渡すものがある。恭介君、あのお守りを出してくれないか?」

 

 「え?あ、は、はい!!」

 

 デジェルに声をかけられた恭介は、慌てて懐からあの緑色に輝く宝石を取りだした。恭介から宝石を受け取ったデジェルはそれをさやかへと差し出した。

 いきなり恭介に渡された緑色の宝石を、さやかは不思議そうに眺めている。

 

 「えと…、何ですかコレ?ただの緑色の石に見えますけど…」

 

 「おいおいただの石はないだろう?…ま、見てもらえば分かるか。それでは…『水瓶座聖衣・装着(アクエリアス・クロス)』」

 

 デジェルが苦笑いをしながら緑色の石に指を当てて一言呟いた瞬間、緑色の宝石から黄金の光が放たれてさやかの両腕、両足、そして上半身を包み込んだ。やがて黄金の光が収まると、さやかの掌にあった石は消えており、代わりに黄金の光に包まれていた腕と足と上半身には黄金のプロテクターのような装甲が装着されていた。

 

 「な、なな、なんじゃこりゃああああ!?何?な、なんであたし何時の間にこんな金ぴかアーマーつけちゃってるの!?で、デジェルさん!!あたしに一体何したんですか!?」

 

 いきなり自分に装備させられた黄金のプロテクターを見て仰天して絶叫するさやか。恭介もさやかが突然黄金のプロテクターを装着した姿へと変身したのをみて呆気にとられている。一方のデジェルは何処か満足げに頷き、マニゴルドは感心した様子で口笛を吹きながらさやかを眺めている。

 

 「へー、この聖衣は身体に合わせて形状変えんのか。なんとも便利な代物じゃねえか、なあ?」

 

 「私達のもある程度はその機能を有しているが、うむ、無事装着出来て何よりだよさやか君」

 

 「ちょっ!?何なんですかそののんきな態度!!ていうか恭介もボーっとしてないで何か言ってよ!?」

 

 「い、いやごめん…。何だか今日一日で色々あってもう頭が混乱しててさ…。今更何か起こってももう驚く気力も無いよ、ハハハ…」

 

 引き攣った笑顔で無気力に笑う幼馴染に掴みかかるさやか。そんな二人を面白そうに眺めていたデジェルとマニゴルドであったが、ふと人魚の魔女へと視線を向けると既にマニゴルドの拘束はあと少し暴れでもしたら無理矢理引き千切られるまでに弱まっている。

 これ以上時間を無駄にするわけにもいかない為、デジェルは二人の間に割って入った。

 

 「あーさやか君、口喧嘩は結構だが今目の前に魔女が居る事を忘れてないかな?魔法少女でいられる時間も聖衣石で黄金聖衣を纏える時間も限りがある。早く戦った方がいいと思うのだが…」

 

 「……!?そ、そうだった!!で、で、い、今魔女は!?」

 

 「まだ拘束されてっけどもう少しで解けるな、オラ、お膳立てしてやってんだからとっとと片付けてきてくれや。じゃねえと何時まで経っても此処から出れねえじゃねえか。それとも、やっぱし俺達がやってやろうか?」

 

 「い、いえ!!あの魔女とはあたしが決着つけるって決めたんです!!あたしがやりますから!!…てな訳で恭介、ちょっと魔女狩ってくるからここで待っててね」

 

 「ちょ、ちょっとさやか、そんな『ちょっと買い物行ってくるから♪』なんて調子で言わないでよ!!あんな化け物と戦ってもしさやかが死んだら…!!」

 

 魔女へと挑みかかろうとする想い人を、恭介は必死に止めようとする。元はと言えば自分が原因で生きるか死ぬかの戦いに巻き込まれたのだ、もうこれ以上さやかが傷つくところを見たくない…、恭介はそんな思いを込めてさやかを制止する。が、さやかは焦りと恐怖で顔を歪める恭介を安心させるかのように、彼に笑顔を向ける。

 

 「大丈夫だよ恭介!!恭介があたしを見ていてくれれば、恭介がいてくれればあたしはあいつなんかに負けない!初恋実ったさやかちゃんが恋愛破れて闇落ちした根暗女に負けるわけ無いのだ~!!」

 

 「…いや、その闇落ちした根暗女ってのは昔のお前なんだけどな、そうじゃなかったか?オイ」

 

 「…まあまあマニゴルド、そこは突っ込まずに黙って見守るのが無酒というものだろう?」

 

 すぐ後ろでボソボソと何やら会話しているデジェルとマニゴルド、さやかはそんな二人など眼中に無い様子でいきなり恭介に抱きつくと耳元でボソリと一言呟いた。

 

 「ねえ恭介、この戦い終わったら、さ…。デートしよ?」

 

 「え…?さやか?」

 

 突然抱きつかれてデートのお誘いを受けた恭介は顔を真っ赤にして呆然としてしまう。

 さやかはそんな恭介から離れると彼から背を向け、己の分身であり心の闇の象徴である存在、人魚の魔女と向き合った。

 鬼蒼焔による拘束は既に魔女によって無理矢理引き千切られ、自由の身となった魔女は目の前に立つ美樹さやかへと憎悪に満ちた視線を浴びせ、怨嗟に満ちた唸り声を上げる。 そんな自分自身の生み出した魔女の姿をさやかは、目を逸らすことなくただただジッと見上げている。

 

 「元はと言えば、アンタが生まれたのも、アンタが苦しんでいるのもあたしが情けなかったせいなんだよね…。あたしが独りよがりに、誰の言葉にも耳を傾けないで勝手に突っ走って、勝手に絶望したからアンタが生まれた…、うん、あたしを憎む気持ちも分かるよ…」

 

 さやかは目の前の魔女に、何の感情も籠らない言葉で語りかける。人魚の魔女はさやかの言葉に耳を傾けずにさやかの持つものと同じ意匠の、だが桁違いに巨大なサーベルをさやか目がけて振り下ろした。さやかに向けて振り下ろされる凶刃に恭介は思わず叫び声を上げた。が、そのままさやかを一刀両断するかと思われた刃はさやかの頭部をかち割る寸前で突然静止した。否、止められていた。

 魔女のサーベルの刃はさやかの腕、正確に言うならばさやかの腕に装着された黄金のプロテクターに遮られてその内側の身体へと届かなかったのだ。魔女はプロテクターごとさやかを叩き切ろうとサーベルを再び振りあげて叩きつけるものの黄金のプロテクターには傷一つつける事が出来ず、逆にサーベルを跳ね返されて魔女はその衝撃で地面に倒れ込んでしまう。

 巨碗と巨大な尾を使って地面から急いで立ち上がろうとする魔女、さやかは彼女から目を離さずに左手に握ったサーベルを向ける。

 

 「だから…あたしはもう逃げない!!恭介と、まどか達と一緒に生きていく為にも、アンタから逃げたりはしない!!今此処で、アンタとは決着をつけてやる!!」

 

 勇ましく啖呵を切り、魔女へと斬りかかるさやか。地面から立ちあがり、咆哮と共にさやかを迎え撃つ人魚の魔女…。

 魔女となった魔法少女と魔法少女であった魔女のなれの果て…。元は同じ存在でありながら別々の存在となった二人の死闘が、此処に幕を開けた。

 


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