魔法聖闘士セイント☆マギカ   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 どうも投稿遅れて申し訳ありません!!休み明けから仕事が忙しく書いてる暇がありませんでした!!
 どうにか九月終わる前に投稿出来ましたけど、次はいつ投稿出来ることやら、見通しがつきません…。


第39話 一夜明けて

さやかが魔女と化し、まどか達が魔法少女の真実と、キュゥべえの正体について知った日の翌日の事…。

 

「…じゃあパパ、ママ、行ってきます」

 

まどかはいつも通り我が家の玄関で家族に出発の挨拶をする、が、その声はいつもと違って沈んでおり、顔色もあまりよくない。

いつもと娘の様子が違う事に流石に家族も娘に心配そうな眼差しを向ける。

 

 「ああ…、まどか、本当に大丈夫かい?何なら今日は休んでも良いんだよ?」

 

 「そうそう、何ならあたしから和子の奴に連絡しておいてやるからさ、今日はゆっくり休んだ方がいいんじゃないか?」

 

 まどかを気遣って父親の知久と母親の詢子は学校を休むように勧めるが、まどかは

 

 「パパ、ママ…。ううん大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから平気だよ。授業だって普通に受けられると思うから…」

 

 「…そっか、それなら良いんだけど…」

 

 なおも心配そうな顔をする両親にまどかは無理に作った笑顔を浮かべるとそのまま学校への道を駆け足で走っていく。しばらく走ったまどかは一度後ろを振り向き、自宅から大分離れた事を確認すると軽く溜息を吐いた。

 

 聖闘士達から魔法少女と魔女の真実、そしてキュゥべえの正体と目的を聞いたまどか達は、その後ほむらのマンションで一夜を明かした後一度自宅に戻り、新しい制服に着替えてそのまま学校へと登校することになった。流石に昨日と同じ服を着て登校するなどと言うわけにもいかなかった為止むをえなかったが、やはりわざわざ自宅に戻るのは流石に面倒だったとまどかは一人ごちた。

 通学路を歩き、いつもさやかと仁美が待ち合わせている場所に向かうまどか。だが、その足どりはいつもとは違って重い。

 昨日知ってしまったさやかの末路、そして魔法少女が魔女になると言う運命…。それは漠然と魔法少女に憧れを抱いていたまどかにとって何よりもショックな事実であった。

 なによりもまどかにとって心配だったのは魔女となってしまったさやかの事。本来魔法少女が倒すべき敵だと今の今まで考えていた魔女へと変貌してしまった事はもちろんだが、魔女と化したさやかが他の魔法少女に倒されてしまわないか、はたまたさやかが街の人を襲ってしまったりはしないか等と他にも心配なことは山ほどある。

 一応そのようなことが無いように聖闘士達がさやかを監視してくれてはいるが、それでもまどかにとって大切な親友であるさやかの事、心配にならないはずがない。

 そんな物思いに耽っているうちにまどかはいつの間にか待ち合わせ場所に到着していた。

 そこでまどかを待っていたのは志筑仁美と暁美ほむらの二人、さやかの姿は、無い…。

 まどか自身既に予想していた事ではあったが、やはりあの太陽のような明るい笑顔、聞いているこちらまで元気になってしまいそうな元気いっぱいな声が聞こえないのは彼女にとって寂しい。それは目の前の仁美も同様であるらしい。

 

 「おはよう、仁美ちゃん、ほむらちゃん…、あの…」

 

 「おはようございます、まどかさん…。…早く、学校に行きましょう」

 

 「……うん」

 

 「………」

 

 ほんの2、3言葉を交わしてまどかと仁美は通学路を歩きだす。ほむらは何も言わずに二人の後についていく。 

学校へと向かう道中、三人は一言も会話を交わさなかった。いつもならばさやかを含めて三人、色々と雑談しながら歩いていたのだが、さやかが行方不明でその安否も分かっておらず、二人共とてもではないがおしゃべりが出来るような気分ではない。

 仁美の顔には昨晩あまり寝ていなかったせいなのか目の下に隈が浮かんでおり、顔色もあまり優れない。たとえ恋のライバルだったとはいえ、仁美にとってもさやかは掛け替えのない親友なのだ。その親友が行方不明ともなれば心配するのも無理も無い話である。

 その後学校に到着した三人は、無言のまま教室に入って席に座る。結局三人は何一つ話をする事も無かった。

 それからホームルームの後に授業、そして休み時間を挟んで別の授業と学校での日常はいつも通り、何事も無く進んでいった。

 最もまどかと仁美の二人はさやかへの心配からか終始呆然としており、授業中には先生や隣の席のクラスメイトに何度も注意されてしまっていた。

 そしてあっという間に時間が過ぎ去り昼休み、まどかはお弁当を取り出すと席から立ち上がり、既に準備を終えているほむらと一緒にマミが待っている屋上へ向かおうとする。

 

 「あ、あの…、まどかさん…」

 

 と、背後から仁美が話しかけてくる。まどかがチラリと仁美に視線を向けると、仁美が弁当箱を抱えながら物言いたげにこちらをチラチラと視線を送ってくる。彼女の表情から何を言いたいのか理解出来たまどかは仁美に向かってニコリと微笑んだ。

 

 「仁美ちゃんもよかったら、一緒にお昼食べよう?ねえ、ほむらちゃんも良いよね?」

 

 「私は別に構わないけど……」

 

 ほむらは無表情で仁美をジッと見る。仁美はしばらく視線を彷徨わせて迷っている様子だったが、やがて「…ありがとうございます」と頭を下げて二人の後から着いてきた。

 三人が屋上に到着すると、そこには既に先客が居た。まどか達の先輩である巴マミ、そして…。

 

 「か、上条君…」

 

 「え!?し、志筑さん、何で…」

 

 何故か志筑仁美がかつて想いを寄せていた相手、上条恭介が居たのである。てっきり巴マミしかいないと考えていたまどかと仁美、特に恋心を抱いていたものの結果的に恭介に振られてしまった仁美は硬直して動けなくなってしまっている。

 一方ほむらは二人の様子に一度溜息を吐くと視線を恭介に向ける。

 

 「…それで、何で貴方が此処に居るの?まさか美樹さやかが行方不明だからって巴マミに鞍替えしようなんて魂胆じゃ…」

 

 「ちっ、違うよ!!僕はあくまでさやか一筋で巴さんはあくまで僕の相談に乗って貰っていただけで………あ」

 

 さやか一筋、と口にしてしまった事で恥ずかしくなったのか顔を赤らめる恭介、そんな恭介の姿に少々あきれ顔で肩を竦めるマミ。二人の様子からみて本当に相談していただけらしいと、まどかとほむらは納得する。

 一方の仁美は恭介が居る事が予想できなかったのか顔を俯かせて黙って立ち尽くしている。そんな彼女の姿にようやく気が付いた恭介は、気まずそうに仁美に視線を向ける。

 

 「あ、その、志筑さん…」

 

 「まどかさん、ごめんなさい、私用事を思い出しまして、昼食は一人でとらせていただきますわ。巴先輩、暁美さん、ごきげんよう」

 

 仁美は軽く一礼すると何か言おうとしている恭介を無視してそのまま屋上から去って逝ってしまった。仁美に何か言おうとしていた恭介と彼女を連れてきたまどかは呆気にとられて仁美の後姿を見送るしかなかった。

 

 「ひ、仁美ちゃん…」

 

 「…まあ一度失恋した相手だから、顔を合わせづらいんでしょうね。仕方がないと言えば仕方がないわ」

 

 「女の子の心中って、複雑だからね…」

 

 一方ほむらとマミは特に取り乱した様子も無く何やら色々と話をしている。やはり魔法少女とは言っても年頃の少女、こういう色恋沙汰には多少なりとも興味があるのだろう。

 一方恭介はばつの悪そうな顔で仁美が去って行ったドアの向こうを眺めている。彼女の事を振ったのは彼自身なのだから、少なからず罪悪感はある。無論さやかを選んだ事に対する後悔は微塵も無いのだが。

 

 「…ま、これに関しては時間が解決するのを待つしかないわね。取りあえずお昼ごはん食べましょ?上条君もどう?」

 

 「…え?あ、は、はい…」

 

 マミに促されて恭介は改めてコンクリートの地べたに座り込む。まどかとほむらもマミの隣に座り、弁当箱を広げる。一方の恭介はビニール袋から購買で購入したらしい焼きそばパンとあんパンを取り出した。そしてマミも今日に限って自作の弁当ではなくサンドイッチとジャムパンを購入していた。

 

 「あれ?マミさん今日はお弁当じゃないんですか?てっきり手作りのお弁当持ってくると思っていたんですけど…」

 

 「そうしたかったんだけどね、一度家に戻ったらお弁当作る時間が無くなっちゃって、しょうがないから久しぶりに購買でパンを買って来たのよ」

 

 「僕も、いつもは母さんに作って貰ってるんだけど暁美さんのマンションから帰ったら遅くなっちゃってさ、母さんは作ってくれるって言ってたんだけどそこまで無理をさせちゃったら流石に悪いし…」

 

 二人はそんな事を言いながらパンを齧っている。まどかはふーん、と相槌を打ちながら、ほむらは特に何の反応も無く弁当を口に運ぶ。

 ちなみにまどかの弁当はいつも食事を作ってくれる父親のお手製、ほむらの弁当はマニゴルドのお手製の物である。

 それからしばらくは四人とも黙って弁当を食べていたが、真っ先にパンを食べ終えたマミが何を思ったのかふと恭介に視線を向ける。

 

 「そう言えば上条君、昨日、デジェルさんに言われた事なんだけど…」

 

 「…ん、ああ、あの事ですか…。それが何か…」

 

 黙々とパンを齧っていた恭介は、マミの言葉に反応して顔を上げる。見るとまどかとほむらも箸を止めて恭介の方を向いている。

 

 「あの…、やっぱり私達も行った方がいいんじゃないかって…。だって、私達もさやかさんの事が心配だし、それに…、いくら聖闘士の人が護衛につくって言っても戦う力の無い上に足がまだ不自由な上条君じゃあ…」

 

 マミは心配そうな表情で恭介に言葉を掛けてくる、が、恭介は苦笑いを浮かべながら彼女の言葉を遮るように口を開く。

 

 「…心配してくれてありがとうございます。でも、でも出来れば今回は僕だけに任せてくれませんか…?元々は僕が招いてしまった事だから、僕の手で決着をつけたいんです…。

 それに、デジェルさん達も巴さん達が来たら逆に興奮して暴走する可能性があるって言ってましたし」

 

 「それは…、そうだけど……」

 

 マミはなおも釈然としない表情をしている。まどかもまたマミと同じく納得がいかなさそうである。なにしろ今日は魔女と化したさやかを元の人間に戻す作戦の実行日…。それに関わる事が出来ないのは彼女達にとって歯痒くて仕方がないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は遡り、暁美ほむらの部屋…。

 

 「さて、此処に居る皆はもう魔法少女が魔女になるメカニズムとインキュベーターの目的については全部分かってくれただろう。次は魔女を元の人間に戻す手段についてなのだが…、これについては二通りの手段が存在する」

 

 デジェルの説明をまどか達は真剣な面持ちで聞いている。魔女となってしまったさやかを救うためなのだから

 

 「第一の方法は…、少々特殊で問題もあるのだが…。マニゴルド、なぎさ君は何処に?」

 

 「あ~?べべ~?あいつなら今自分の部屋に居るはずだけどよ……、おーい!べべー!!ちょっとこっちこーい!!」

 

 「んあ~?何なのですか大声で~。なぎさはもうチーズを摘み食いなんか……」

 

 マニゴルドが大声を上げると玄関とは反対側のドアが勢いよく開かれ、小学生程度の年齢であろう少女が不満そうに頬を膨らませて現れる。と、少女が何気なくマミの方を向いた瞬間、蛇を見た蛙のようにビクッと固まって動かなくなってしまった。一方のマミは全く見覚えの無い少女が愕然とこちらを見ているのできょとんとしている。

 と、突然少女はぐるりと身体を半回転させ、自分の出てきたドアに向かって走り出そうとした。

 …が、

 

 「こーらべべ~?な~に勝手に逃げようとしてんだコラ。後ろめたい事が無いなら逃げんじゃねえよ」

 

 いつの間にか彼女の背後に移動していたマニゴルドに肩を掴まれ、動きを止められてしまう。べべと呼ばれた少女は必死にマニゴルドから逃げようとジタバタ暴れていた。

 

 「うう~!!放して欲しいのです!!そこのお姉さんはなぎさが食べちゃおうとしたヒトです!!きっと怒ってるに違いないです~!!」

 

 「怒ってるわけねえだろうが、あの嬢ちゃんは魔女になる前のお前の姿知らねえんだし。ま、それも含めて全部話すんだがな」

 

 「にゃ~!!それじゃばれちゃうじゃないですか~!!嫌なのです嫌なのです!!お部屋に籠らせて下さい~!!」

 

 涙目で必死にマニゴルドの手から逃れようとするべべと呼ばれた少女、そんな彼女を逃すまいとべべを羽交い絞めにするマニゴルド…。その姿に何も知らない少女達、特に何故かべべに怖がられているマミは目を白黒させていた。

 

 「あ、あのマニゴルドさん…、何でその子に怖がられているのかは分かりませんけど…、怖がっている子を無理矢理羽交い絞めにするのは、その、可哀想だと思うんですけど…」

 

 おずおずと言った感じでマニゴルドを窘めるマミ。他の人間も口には出さないもののマミと同じ意見の様子である。

 周りから文句を言われたマニゴルドは、不機嫌そうにべべを睨みつける。

 

 「ったく、見ろ!お前が我がまま言うせいで俺まで誤解されちまったじゃねえか!反省しろよコラ」

 

 「にゃっ!?なぎさが悪い!?なぎさが悪いんですか!?り、理不尽です~!!」

 

 理不尽に責任転嫁されたべべは頬を膨らませてマニゴルドに抗議する。

 それからぎゃあぎゃあ口喧嘩を始める二人を、聖闘士と魔法少女達はただ呆然と眺めていた、が、このままではらちが明かないと考えたアルデバランは二人に聞こえるように大きな咳払いをする。

 

 「…あ~、とりあえずお前達、口喧嘩はそこまでにしてそろそろ話をしないか?彼女達は明日も学校があるから寝不足で遅刻させるわけにも行くまいに」

 

 アルデバランに窘められたマニゴルドは、流石に年長者に逆らう気は無いのか肩を竦めて口喧嘩を中断する。

 

 「…ん、ま、そりゃそうか。そんじゃべべ、こいつらに自己紹介しろや」

 

 「むう…、何だか上手くはぐらかされた気がしてならないのです…」

 

 なおも不満そうなべべは、半眼でマニゴルドを睨みながら、恐る恐るといった様子でマミ達の方へ振り向くと、一度ペコリと頭を下げた。

 

 「え、えと…、も、百江なぎさと言うのです!よろしくなのです!」

 

 「あ、ええと、私の名前は巴マミ、よろしくね、なぎさちゃん」

 

 何故かこちらを見て恐縮する少女、百江なぎさ見て訝しげに眉を顰めながら、マミは彼女を安心させるように笑顔を浮かべる。なぎさはマミの笑顔に一瞬戸惑った表情を浮かべるものの、直ぐにペコリと申し訳なさそうに頭を下げてしまう。これには流石にマミも困った表情を浮かべて、助けを求めるようにまどか達に視線を向ける。

 

 「さて、と…。んじゃべべ、ご挨拶はそこまでにして、そろそろお前の正体をこのお嬢ちゃん達に見せてやんな」

 

 「ふえっ!?」

 

 マニゴルドにそう促された瞬間、なぎさはギョッとしてマニゴルドへと視線を向ける。そんななぎさをマニゴルドはニヤニヤと面白そうに笑いながら眺めていた。

 

 「しょ、正体!?正体ってアレになれってことですか!?そ、そんなの見せたら本当に殺され…」

 

 「だーから大丈夫だっての。もしもの時の為にほれ、こうしてソウルジェムは預かってるんだからよ」

 

 マニゴルドはそう言ってヒラヒラとマミのソウルジェムを見せびらかす。宝石化されているとはいえ自分の魂が他人の手の中にあると言うのはソウルジェムの持ち主であるマミからすればあまり気分のいい物ではないが、元はと言えば暴走してしまった自分自身の責任であるため、面と向かって抗議する事は流石にできない。

 

 「うう~…し、仕方無いのです。でしたら、お見せいたしますのですッ!」

 

 観念したのかなぎさは今にも泣き出しそうな表情で気合を入れた。その瞬間、なぎさを中心に突如として巨大な魔力の渦が発生した。

 

「な、なあっ!?」

 

「な、何よこの魔力は!?まさかこの子は魔法少女………で、でも魔法少女でもこんな魔力は……あり得ない…!!」

 

「え!?え!?い、一体何が起きてるんですか!?」

 

 「い、いや、そんな事僕に言われても!?」

 

魔法少女でも無い一般人でも視認出来てしまいそうなほど膨大な魔力に杏子とマミは思わずソファーから立ちあがって後ずさり、まどかも目を白黒させながらソファーから転げ落ち、恭介は訳が分からないと言いたげな表情で腰を抜かしていた。

杏子とマミが驚いたのはその魔力の強力さだけではない。魔法少女とは似て異なる魔力の『質』だった。一種の禍々しさすら覚えるその魔力を、マミと杏子は知っていた。何しろそれは彼女達が、否、魔法少女であるならば“何回も戦った事のある相手”の発するものと同じであったのだから…。

 

 「こ、これって…」

 

 「まさか……」

 

 この場で感じるはずの無い“ソレ”に慄く二人の魔法少女と一般人二人、一方のほむらと黄金聖闘士一同は表情一つ動かさず、冷静な表情で魔力の渦を眺めている。

 やがて、彼女達の目の前で魔力の渦は段々と薄れ、小さくなって消えていく。そして、魔力が完全に消え去った瞬間…。

 

 「ヒッ!?」

 

 目の前に現れた“ソレ”を目にした瞬間、マミの表情が一瞬で恐怖に歪み、杏子は魔法少女へと変身して得物を構え、まどかと恭介は悲鳴を上げて後ずさりする。

 先程までなぎさが立っていた場所、魔力の発生源であったそこには既に彼女の姿は存在せず、そこには一体の“化け物”が存在していた。

 蛇のように長大な身体、その先端にあるまるでピエロのようなファンシーな顔、一見すると愛らしくも見える姿であるが、目の前の少女達からすればそんな生易しいものではない。何しろコレは、自分達魔法少女にとって、倒すべき敵ともいえる存在なのであるから…。

 

 「こ、これって……あの時の…」

 

 マミはガチガチ歯を鳴らしながら怯えた目つきで目の前の化け物を見つめる。そう、この怪物はかつてマミが戦った存在、そして魔法少女として契約する発端となった事故以来、自分が再び“死”を体感する事となった、彼女にとってトラウマとも呼べる存在…。

 

 「そ、こいつはお前さんが食われそうになったお菓子の魔女その人…『ヒト』っつうべきかどうかは分からねえけど、百江なぎさってのはコイツが魔女になる前の名前だよ」

 

 「……!!」

 

 マニゴルドの口から明かされた答えを聞いて、マミはビクリと身体を震わせる。

 お菓子の魔女シャルロッテ。かつてマミは彼女によって危うく首を食いちぎられて殺されそうになった事がある。幸いアルバフィカによって間一髪助けられたものの、あの時の恐怖はトラウマとして彼女の心の中に今でも残っている。だからこそ彼女は、そのトラウマの象徴に過剰なまでの恐怖心を抱いてしまっているのだ。

 恐怖で震えるマミ、そして突然現れた魔女に腰を抜かすまどかと恭介、そしてそんな彼女達を護るように槍を構えて魔女を睨みつける杏子…。お菓子の魔女は彼女達に襲い掛かる様子も無くしばらくジッとマミ達を眺めていた、が、急に不機嫌そうに頬を膨らませると隣に立つマニゴルドへと首を向けた。

 

 『んも~!!蟹のお兄さん!!やっぱりなぎさ警戒されちゃってるじゃないですか~!!特にお姉さん何か怯えちゃってますよ~!!』

 

 瞬間、魔女の口からあの少女の、なぎさの声が響き渡る。口から鋭いきばをむき出しながら、先程までその場に居た少女の声でマニゴルドに向けて文句を言っている。今の今まで見たことも無い人間の言葉を話す魔女の姿に身構えていた杏子とまどかと恭介は唖然としてしまう。

 一方魔女に文句を言われた当のマニゴルドは、一度ガタガタ震えているマミに視線を向けると何か思案するように顎に手を当てる。

 

 「あ~、しまったなァ。確かに嬢ちゃんがこんな状態じゃおちおち話も出来ねえわな。よっしゃ、もう人間に戻っていいぜ~」

 

 『はいですのッ!』

 

 お菓子の魔女が返事をした瞬間、今度は魔女の全身が光に包まれて一瞬で目の前から消え失せる。そして、光が晴れると先程まで魔女が居た場所には、魔女が出現した時にはいなかった少女、百江なぎさが立っていた。

 

 「あ…?ああっ!?」

 

 「な、なぎさちゃんが消えたら魔女が出てきて、魔女が消えたらなぎさちゃんが出てきちゃった!?い、一体どうなってるの!?」

 

 「え、えっと、コレって俗にいう手品か何かなのかな!?ほら、よくマジックショーでやるじゃない!?あれってよくトリックとか使って……」

 

 「トリックでも何でもないわ。現実よ。いい加減受け入れなさい、上条恭介」

 

 突然出現したなぎさにギャアギャア騒ぎだすまどか達に対し、ほむらは冷静な態度を崩さない。この程度の事は慣れているかのような雰囲気である。

 一方のマミもお菓子の魔女が消えた事で段々と恐怖心も収まって来たようで、身体の震えも既に治まっていた。それでもまだ不安なのか何かを探すように視線を左右に動かしている。

 マミを怯えさせてしまった事、そして彼女にトラウマを刻み込んでしまった事に罪悪感があるのか、なぎさは何処かバツの悪そうな表情を浮かべている。マニゴルドはそんな彼女の頭を軽く叩きながら、ゆっくりと口を開いた。

 

 「お分かり頂けたか?こいつは元魔女、即ち元魔法少女だったわけだ。…まあ今も完全に人間ってわけじゃあ無いんだけどよ、色々やって何とか人間として生活できるようになっているわけよ」

 

 「はう…、魔女だった頃は色々とごめんなさいです…。特にクルクル髪のお姉さんは食べようとしちゃってごめんなさいです…」

 

 しょぼんとした様子でマミに頭を下げるなぎさ。そこにはマミを食い殺そうとした魔女の面影が微塵も無い、ただの歳相応に幼い少女でしかなかった。かつて殺されかけたとはいえ流石にマミもこのような幼い少女を怒鳴りつけたり、ましてや攻撃しようなどと言う気にはなれない。そもそも魔女は元は魔法少女、ならば彼女もまたキュゥべえの甘言の犠牲者でもあるのだから、ある意味自分達と同じ仲間と言えるのだからそう考えたら怒るに怒れない。

 

 「気にしなくていいわ。まああの時は本当に死ぬかと思ったけど結果的にこうして生きているし。貴女だってなりたくて魔女になったわけじゃないんでしょ?だったら私も怒れないわ」

 

 マミは優しく微笑みながらなぎさの頭を撫でる。頭を撫でられてなぎさは擽ったそうにしながらも無邪気な笑顔を浮かべている。そんな彼女達の姿を、黄金聖闘士達はほのぼのとした様子で眺めている。杏子達も最初はなぎさがマミを襲った魔女だと言う事で不安そうにしていたが、結果的に両者とも和気藹々としていることからホッとしていた。

 

 「そう言えばなぎさ君、君に一つ聞きたいのだが君はどういう願いで魔法少女になったんだい?まあ多分知らなかったんだろうけれども魔女化のリスクを背負って魔法少女になったんだ、どんな願いをかなえたかしりたくて、ね…」

 

 「ふにゃ?なぎさが、何を願ったか、ですか…?」

 

 と、唐突にデジェルがなぎさに優しい口調でそんな事を問いかけた。いきなりそのようなことを質問されてなぎさは思わずキョトンとした表情を浮かべてしまう。何を答えたものかと思案していると、突然マニゴルドが口を開いた。

 

 「なんでも病気の母親の為にチーズケーキが欲しいって願ったらしいぜ?それも店に残ったたった一つだけの物を、よ。だけど願いどおり『たった一つだけ』しかチーズケーキが手に入んなかったわけだ。お陰さまで魔女になってからも他の菓子は作れてもチーズだけは作れなかったらしいぜ?」

 

 「むきゅ…、そ、そうなのです…。お母さんがチーズケーキが食べたいって言ってたからついキュゥべえに願っちゃったのです…。今思えば勿体ない事をしたと思っているのです…」

 

 なぎさ自身も自身の願った内容に少なからず後悔しているのかがっくりと項垂れてしまう。確かに魂抉りだされて命懸けの戦いに放り込まれ、挙句の果てにはエネルギー絞りとられて魔女にされる破目になるのであれば、到底チーズケーキ一個では割に合わないだろう。せめて母親の病気を治せと願えばよかった、となぎさはブツブツと独り言を呟いていた。

 

 「まあまあそう落ち込むななぎさ。親孝行な良い子じゃないか、俺は感心したぞ?なあ杏子」

 

 「いやあたしに振るんじゃねえよ。…まあ、結構なことなんじゃねえか?つうか航行できるなんてお前結構幸せ者だぜ?あたしなんか親孝行したくても親がいねえんだから」

 

 「それを言ったら私もそうよ?親孝行をしたいと思った時には、もう既に親はいなくなってるものなのよね…」

 

 しょぼんとしているなぎさを慰めるアルデバラン、一方杏子とマミは何処か遠くを見つめるかのような目つきで何事かを呟いている。両人とも経緯は違えども両親が他界している身の上であるのでなぎさの親孝行発言に少なからず思うところがあったようである。マニゴルドは構わずに話を進める

 

 「…んでもってそれからは他の魔法少女と同じ、魔法少女で魔女と戦い、グリーフシードで穢れを取って、しまいにゃ魔女全部狩りつくしちまってソウルジェム浄化できなくなってめでたく魔女化、ってなわけだ。ちなみに魔女結界ン中に病院に似た場所があったと思うけどよ、アレはおふくろの見舞いで何度も病院通ってたからその影響だろうねェ…」

 

 「全然めでたくないです…」

 

 マニゴルドの飄々とした態度になぎさは不満そうに頬を膨らませる。話しているマニゴルドは気楽かもしれないが、当のなぎさからすれば下らない願いの為に斬った張ったの世界に放り込まれるわ挙句の果てに狩る側だったはずの化け物にされるわとまさに踏んだり蹴ったりである。この気持ちは同じ魔法少女にしか分からない、そんな思いを込めてなぎさは涙目でほむらに杏子、そしてマミに視線を送る。そんな彼女の姿に流石にマミ達も苦笑せざるを得ない。

 

 「ついでに言わせてもらうと魔女になっちまったせいで肉体は抜け殻状態、その後どうなっちまったのかは知らねえけど、まあ多分もう燃やされてるか腐ってるか…、どちらにせよ原型留めてねェだろうぜ?うん」

 

 ソウルジェムからグリーフシードが生まれ、魔女へと転生した瞬間魔法少女の肉体は正真正銘魂の無いただの死体同然になり下がる。今のさやかがそうであるように当時のなぎさの肉体も魔女になった瞬間ただの死体として扱われたのだろう。その後彼女の遺体がどうなったかは分からない。ホルマリン漬けになったか、あるいは家族の手で火葬されたか…、いずれにしろもはやこの世には存在しないのだろう。

 

 「で、でもこの子の魔女はもうアルバフィカさんが倒してしまいましたよね?それじゃあこの子は…」

 

 「だから言ってるだろ?ちょいと工夫したって。コイツの今の身体は人間のモノじゃねえ。まあ外も内も似せちゃあいるが、“材料”は全く違うモノだ」

 

 マミの不安げな問い掛けにマニゴルドは軽い調子で反論し、解説する。

 

 「こいつははっきり言っちまうと魔女と人間の中間体みてえなモンだ。ご覧のように魔女になったり人間の姿になったりとまあ器用なことができる。意識は人間のままなんだがな、身体が魔女のモノ使って構成されているから厳密には人間とはまた違う存在っつったところだな」

 

 「魔女の肉体、そりゃ一体どういう…」

 

 杏子は訳が分からないと言いたげな表情でジロジロなぎさを眺めている。流石に見世物同然にされるのは気分が悪いのかなぎさも少し嫌そうに顔を顰めている。そんな彼女達に構わずマニゴルドの説明は続く。

 

 「魔女の肉詰めっつってな、俺の師匠の知り合いの魔法少女チーム…、ほら杏子ちゃんとアルデバランは知ってるだろ?プレアデスなんたらとかいう…」

 

 「プレイアデス聖団だ。ああそういえば彼女達が何かの実験でそんな物を作っていると教皇が仰っていたが…」

 

 アルデバランの突っ込みにマニゴルドは「そうそうそれそれ」と相槌を打つ。

 

 「簡単に言っちまうと魔女の肉体から人間の身体を再構成して、ンでもってその身体にコイツの魂をぶち込んだわけだ。魔女の肉使って身体構成してやがるから厳密にはこいつははっきり言って魔女のまんまだ。人間の意識を宿した魔女…つったところか…。

メリットとして言えばたとえ人間の肉体が無くても取りあえずは復活できる事、デメリットとしちゃあ…、魔女の肉で構成されてるっつうわけだから暴走の危険性があるっつうことだ。以前別の魔法少女集団でも同じモノ作ってたらしいけどよ、結果として幾ら作っても暴走した挙句に殆ど魔女同然の化け物になっちまう失敗作しか作れなかったっつう話だ。 

 まあこいつは本人の肉体同然だから今のところは馴染んでいるみたいだが…」

 

 魔女の肉詰め、本来はプレイアデス聖団のメンバーが各々の魔法を用いて魔女の肉体から創りだした魔法少女、和紗ミチルのクローンの名前。

 本来ならば和紗ミチル本人の記憶をクローンに移植し、和紗ミチルその人を復活させるのが目的であったのだが、クローンに無理矢理記憶を移植したのが原因なのか、それとも魔女の肉体を使った事が原因なのかクローンはたびたび暴走、結局聖団はクローンに記憶を移植すると言う事を諦め、全く記憶を持たないクローンを和紗ミチルに変わる“親友”として創りだす事となった。そしてその結果創りだされたのが13番目のクローン、かずみである。とはいえそのかずみですらも度々暴走の危機に直面しているところを見ると、到底完全とは言えないのが現状である。

 百江なぎさは聖団の助力を得てシャルロッテの死骸から創りだしたクローン、そこに百江なぎさ自身の魂を移植した物である。先述の『かずみシリーズ』とは異なり本人の魂を肉体に入れている。記憶のみの移植ではなく本人の魂ごと移植した為か、今のところなぎさが暴走するような事は無いが、かずみシリーズの失敗例もあるため今でも油断は出来ない。

 

「ま、これはあくまでさやかちゃんの身体が無くなっちまった時の最終手段みてえなもんだ。だから今は取りあえず保留にしておいてらあね」

 

 「確かにな、さやか君の身体はこうして冷凍保存されている。わざわざ苦労して代わりの肉体を創る必要は、今のところ無いだろう」

 

 マニゴルドに続いてデジェルも氷の棺に封印されたさやかの肉体に視線を向けながら同意する。

 そもそも『魔女の肉詰め』というのは、万が一魔女から抜き取った魂を入れる器である『本人の肉体』を消失してしまった場合に対処するための策であり、『本人の肉体』が残っているさやかに関しては今のところ関係の無い話である。

 

 「そしてこちらが本命なのだが、第二の手段というのは……、もう説明しただろうが積尸気冥界波だ」

 

 「ん?それって確かあたしとほむらのソウルジェムを身体に戻した技だったよな?うろ覚えだけど…」

 

 杏子は以前教会で自分のソウルジェムを戻した、マニゴルドの技を思い出す。確か本人曰く、本来は魂を身体から引きずり出し、あの世へと送ってしまう即死技との事、さらにそれを応用すれば外に取りだされた魂も元に戻せると言うことらしい。

 杏子の言葉にデジェルはコクリと頷く。

 

 「そうだ、元の人間の肉体が残っていればと言う条件付きだが、魔女の肉体から魔法少女の魂を引きずり出し、元の肉体に戻す事が出来れば魔女を元の人間に戻す事が出来る」

 

 デジェルがそう言った瞬間、ほむらを除く少女達の顔色が変わる。魔女と化したさやかを元に戻せると断定されたのだから、喜ばしいに決まっている。

 

 「そ、それって本当なんですか!?」

 

 「こんな時に嘘など言うはずがないだろう?」

 

 「じゃ、じゃあさやかちゃんは助かるんですね!?」

 

 「なんだよンな方法あるならあるとちゃんと言えっての!心配したこっちがアホみてえじゃねえかよ!」

 

 まどか、恭介、マミは口々に喜びの声を上げ、杏子も少し不満そうながらも安堵の表情を浮かべていた。何だかんだ言いながらも仲間を助けられると言う事がうれしいと言う事がその表情に表れていた。

 一方マニゴルドは杏子の文句に少しばかり弱った様子で頭を掻いている。

 

 「ンな事言われてもよォ、もし“魔女になっても直ぐ戻せますよ~”なんて口にしてみやがれ、そこのお嬢ちゃんなんかホイホイ契約しかねねェじゃんか。それによ、コレだって本体が残ってなきゃ使えねえからな。もしも本人の肉体が修復不能なレベルで欠損していたり腐敗していたら……諦めるしかねえ訳よ」

 

 「わ、私はもう契約する気なんてありません!!確かに前は憧れてましたけど、今じゃもうなりたいなんて思いません!!」

 

 マニゴルドに視線を向けられて、まどかは頬を膨らませて怒りだす。自分がまだ魔法少女になりたいなどと考えていると思われて心外だと感じているらしい。実際魔法少女の正体と末路を知ってしまった今のまどかには、魔法少女への憧れに関してはもはや無いに等しい。魔女に変貌して他者を傷つけると言う行為は、まどかが何よりも嫌うモノであり、そんな結末が待ち受けているのならばどんな事があっても魔法少女になろうとは考えないだろう。ほむらもまどかの発言を聞き、何処か安堵の表情を浮かべている。

 

 「…それでは今後の事を話そう。明日我々はさやか君を元の人間に戻すために彼女の魔女結界に突入する。それまでの監視は……アルデバラン、頼む」

 

 「承知した、が、俺は明日の6時頃にゆまの奴を迎えに行かなければならないが…。それまでに間に合うか?」

 

 アルデバランの質問を聞いたデジェルは、少し考えるような素振りをすると大きく頷いた。

 

 「大丈夫だ、場所さえ伝えてくれれば5時頃までにはそこに向かう。その後貴方はゆま君を迎えに行ってあげればいい、後は私達が何とかする。確かにあの魔女はそこそこ強いが……、まあマニゴルドと私だけでも充分だろう。寧ろ二人だけでも過剰戦力と言うモノだ。とは言っても倒しに行くわけではないが」

 

 デジェルは優雅に笑みを浮かべながらそのような言葉を口にした。と、まどか達が真剣な表情でデジェルに向かって身を乗り出してくる。

 

 「あ、あのっ!その時には私達も連れて行って下さい!さやかちゃんを、さやかちゃんを助けたいのは私達も同じですから!!」

 

 「ぼ、僕も一緒に行きます!!戦う役には立てないかもしれないけれど、そ、それでもさやかを救うための役に立てるんなら…」

 

 必死な表情で訴えてくるまどかと恭介、隣のマミと杏子も言葉には出さないが表情を見る限り二人と意見は同じ、聖闘士達に同行したいのだろう。

 デジェルは黙って四人をジッと見る。恭介、まどか、マミ、杏子と視線を移していき、やがて眼を伏せて口を開いた。

 

 「……恭介君は連れていく、だが、残り三人は、駄目だ。自宅にて待機していてくれ」

 

 「「「!?」」」

 

 デジェルの言葉に恭介以外の三人は驚愕し、一斉にほむら、マニゴルド、アルデバランを凝視する。が、三人とも少女達の視線に気が付いていないかのように沈黙している。その沈黙が、デジェルの意見を肯定していると言う事を何よりも示していた。

 

 「ど、どうしてですか!!確かに聖闘士の皆さんから見たら頼り無いかもしれないですけど…」

 

 「ダメなモノはダメ、ならぬことはならぬのです、ってか?とにかくそこの坊ちゃん以外はダメなの。下手にお前さんらが着いてきたらさやかちゃん暴走するかもしれねえだろうが」

 

 マミの抗議の声を遮るように、マニゴルドが言葉を挟んでくる。そして彼の言葉を引き継ぐように、アルデバランが口を開いた。

 

 「…魔女は元は人間だった存在、人間としての記憶もある程度は受け継いでいることもたまにある。だがな、魔女は基本的に結界内に侵入してきた他者は即排除にかかってくる。特にお前達魔法少女等は魔女と似たような魔力を発しているからな。縄張りを侵害してきたと判断して優先的に排除にかかってくる。…言っておくが説得は無理だぞ?魔女になってしまったら完全に己の心に入り込んでしまう。だから誰の声も届かん、それがたとえ親友であろうとな」

 

 「…だからまどか君も止めた方がいいだろう。恭介君と二人護りきれる自信はあるが…、万が一ということもある。君が死んだらさやか君はきっと、自責の念で苦しみ続ける。それはキミも望んではいないだろう…?」

 

 「……」

 

 アルデバランとデジェルの言葉に、少女達は黙りこむ。とはいえまだ釈然としない様子ではあったが。

 

 「あの…、鹿目さん達がダメなのは分かりましたけど…、何で僕は連れて行ってくれるんですか…?足手纏いだったら、僕の方が足手纏いな気が…」

 

 恭介はデジェルに疑問げに問いかける。

 事実、恭介の両足は未だに完治してはいない。確かに骨折その他の怪我は治ったものの、未だ完全に歩けるようになってはいないし、走るのもまだ無理だ。こんな状態の自分を連れていく方が、彼等にとっては正直お荷物なのではないか、と、恭介自身は考えていた。

 そんな不安そうな恭介を見て、デジェルは彼を安心させるように微笑んだ。

 

 「君にはやって貰わなくてはならない事がある。それはさやか君の為にも、そして君自身の為にもやらなくてはならない事だ」

 

 

 

 

 

 




 ちなみになぎさの過去については公式の設定に多少の脚色を加えさせていただきました。
 なんだかどこかでお菓子の魔女は小児ガンだったという説があったような気がしましたがそれは無視させていただいておりますのでどうか悪しからず。

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