魔法聖闘士セイント☆マギカ   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 八月ももうすぐ終わりの今日この頃、ようやく最新話投稿出来ました…。本当はもう少し長めになる予定だったんですけどね…。早く先に進めたいと思ってはいるんですけど、中々文章が纏まらずに…。


第38話 移動中の車内の中で

 

 ほむらのマンションへ移動するワゴンの車内で、デジェルは恭介と杏子にキュゥべえ、インキュベーターの正体とその目的について話していた。ついでに恭介には自分達聖闘士についても一から教える事となった。

 

 「…つまり、奴等の目的は君達魔法少女が絶望するときに発生させる感情エネルギーを回収し、宇宙の延命に当てる事。契約して願いを叶えると言うのは、魔法少女に最高の希望を与えて、最終的に最大の絶望へと突き落とすための要因、そして少女を魔法少女にするための“餌”ということだ」

 

 「そ、そんな……。それじゃあ、さやかが、さやかが魔法少女になったのも……!!」

 

 あまりにも過酷な真実に恭介は愕然とする。その瞳に浮かぶのは悲嘆、そして憤激。その怒りはさやかを口車に乗せて契約させたインキュベーターに対するものか、それともさやかの契約を止める事が出来なかった自分に対する怒りか…。

 

 「…ふざけんじゃねえ!!」

 

 杏子は絶叫して拳をドアに叩きつける。思い切り拳を叩きつけられドアに僅かな凹みが出来たが、杏子はそんな事に構わず奥歯を砕けんばかりに食い縛り、憤怒で顔を歪ませている。

 

 「人の魂抉りだして魔女と戦わせた挙句、最後には絶望させてエネルギー絞り出した挙句魔女にするだと!?ふざけんな!!あいつ等が全ての元凶じゃねえか!!」

 

 「全くだ、本人達は余彼と思ってやっているんだろうが、そのやり口がえげつなさすぎる。……いや、もはや『最悪』と言っても過言ではないな」

 

 杏子の激昂にアルデバランも淡々とした声で応じる。確かに連中にも宇宙を延命させるという大義名分があるのだろうが、だからと言って詐欺同然の手口で化け物にされる少女達からすれば堪ったものではない。

 そもそも『宇宙の熱量死』自体、宇宙全体のスケールからして一体何千、何万年…下手をすれば何億年後の未来に起こるか分かったものではない現象だ。少なくともそれが起こる頃には今この地上に住まう人間は既に死滅している頃だろう。そんな気の遠くなるような歳月を経た先に起こる災害に備えるために命を差し出せ、等と言われても今の人間達には到底理解が及ばないだろう。…もっとも、インキュベーターもそれを承知しているからこそあえて願いと言う餌で釣っているのかもしれないが…。

 

 「今怒っても仕方がない。今此処にインキュベーターはいないからな。それに…、たとえ奴らに怒りをぶつけても無駄だ。そもそも奴らに君達の『怒り』や『嘆き』を理解できるだけの感情があったのなら……この星に魔法少女なんてものは誕生することすらなかったんだからね」

 

 「くっ!!」

 

 デジェルに諭された杏子は悔しげに唇を噛みしめる。

 確かに、そもそもインキュベーターに感情があったのならば奴等はこの星に来なかった。魔法少女も魔女も生まれる事は無く、魔法少女となった少女達も魔女の被害にあい死んでいった人間達も生き延びる事が出来たかもしれない。

 が、そんな推測は今は何の役にも立たない。現に今こうしている間も日本、否世界中で多くの少女が願いに釣られて魔法少女に契約し、そして魔女になっていることだろう。それは遥か昔から、有史以前から続けられてきた少女達に課される過酷な運命…。

 

 「だ、だけどアンタらならあいつらぶっ潰せるよな!?あいつら全滅させてこれ以上魔法少女が生まれない様に…」

 

 杏子は何処か期待に満ちた表情でデジェルに問いかける。しかし、デジェルとアルデバランはそんな杏子の言葉に難しそうに顔を顰めていた

 

 「それができたらどれだけいいか…。奴等の本体はこの宇宙のどこかにある惑星、君達がいつも見ているあの白い動物のような姿はあくまで仮の姿、地球人と交渉するための端末のようなものだ。だから連中に取って見れば幾ら潰されても痛くも痒くもない、何の影響も無いと言うわけだ」

 

 「故に奴を叩くには母星の本体を叩く以外に無いんだが…、その母星が一体何処にあるのやら、地球から何光年離れているのかも全く持って見当がつかない…。よしんば分かったとしてしても行けるかどうかは別問題、むしろ行けない可能性の方が高いな」

 

 デジェルとアルデバラン両者の口から出されたのは何とも悲観的な返答。幾ら天を割り地を砕く力を持つ聖闘士であったとしても、この広大極まりない大宇宙の中からそれこそ芥子粒一つに等しいであろうインキュベーターの母星を探す事等殆ど不可能と言ってもいい。そしてたとえ発見したとしても恐らく母星は太陽系から何光年も離れた場所、たとえ黄金12人の力を結集したとしてもそこに向かう事は不可能と言ってもいい。

 

 「…って、ことは…」

 

 「奴らを駆逐するのは我らでも不可能、と言うわけだ。そもそもすぐ傍の月にまで行くのも難しいレベルなのだから、何光年何十光年離れた惑星に行くことなどはっきりいって今の人間の技術を結集しても不可能だ。だから残念ながら、君の言うインキュベーターの駆逐というのは……出来ないな」

 

 「…んだよクソ!!存外役に立たねえんだな…」

 

 杏子は悪態をついて座席を思い切り殴りつける。にっくきキュゥべえを全滅させる事が出来ないと言う事に腹を立てる杏子の姿をバックミラーで眺めながら、アルデバランは苦笑いを浮かべる。

 

 「まあそう言うな。俺達聖闘士だって一介の人間だ、全知全能の神ではない。出来る事と出来ない事があるんだ。精々契約を思いとどまらせるか契約させようとするインキュベーターを駆除する事しか出来んよ」

 

 「…チッ」

 

 アルデバランに宥められてソッポを向く杏子。その横で俯いていた恭介は、おずおずと口を開いた。

 

 「あの…、魔法少女になって、元に戻る事は出来るんですか…?ほら確か契約を解除できるっていう…、クーリング・オフのように願い返上して契約解除、とか…」

 

 恭介の素朴な疑問を聞いたデジェルは、恭介の方に顔を向けるとゆっくり左右に首を振った。

 

 「…無理だ。一度魔法少女として契約を結んでしまったらもう契約を解除する事は出来ない。一度叶えた願いは返上できず、ソウルジェムももう元の魂に戻す事は出来ない。連中の事だ、元から契約解除のシステムそのものを作っていなかった可能性もあるな。

 無論他の誰かが魔法少女を元の人間に戻して欲しい、と願ったのならば戻せる可能性があるが…、そうなったらそうなったで今度はその少女が魔女になる運命を背負わされる…」

 

 「そ、そんな……」

 

 デジェルの無情な返答に恭介は愕然とする。無理も無い、デジェルの言葉は恭介からすればもはやさやかを救う手段は無いという死刑宣告を受けたも同然であったのだから。

 デジェルはすっかり沈んでしまった恭介の姿に嘆息する。

 

 「…落ち込むのはまだ早い。確かにインキュベーターにも魔法少女にも魔法少女を元の人間に戻す手段は無い。だが……私達はそれを知っている」

 

 「……え?」

 

 デジェルの言葉に杏子と恭介はキョトンとした表情を浮かべる。二人の反応をデジェルは面白そうに笑いながら杏子に質問を投げかける。

 

 「杏子君、君は気になりはしなかったか?君とほむら君はソウルジェムを持っていない、魂は自分の身体の中だ。魂が身体の中にあるのならばソウルジェムの濁りや魔女化はどうなるのか…と考えはしなかったか?」

 

 「ふえッ!?い、いやまあそりゃあちっとは疑問に思ってたけど……今の今まですっかり忘れてたと言うか…」

 

 確かに杏子は己の魂がどうなったのか疑問を抱いてはいた。

 マニゴルド曰く普通の人間と同じ肉体となり、魔力の精製量もソウルジェムの時に比べて悪くなると聞いてはいたが、それ以外の事はさっぱり分からなかった。

 それでも今までは精々グリーフシードを苦労して狩らずに済むからラッキー、程度にしか考えておらず特に気にも留めていなかったのだが、魔法少女のソウルジェムが完全に濁る切ると魔女になる、と言う真実を知り、ならばソウルジェムを持たない自分は一体どうなのか、と言う考えが頭をもたげてきたのだ。とはいえそれに関してもデジェルに聞かれるまで忘れていたのだが。

 

 「…まあいい。魔法少女が魔女化する要因の一つはソウルジェムの穢れだ。ソウルジェムは魔法少女の魂であると同時に魔力を生み出す源でもある。魔法少女の変身、魔法行使、そして魂の無い肉体の生命維持の魔力はソウルジェムから生み出される。とはいえ魔力も無限ではない。魂のエネルギーでもある魔力を消費すればするほど魂の消耗、疲労が起き、それが結果としてソウルジェムの穢れとなって現れる。さらに絶望に近い負の感情、怒り、憎しみ、嫉妬等と言ったものも魂を消耗させる、だから結果としてソウルジェムに穢れが生じるわけだ」

 

 「な、なるほど…、まあなんでソウルジェムが穢れるのかは分かったけど…、ってそれじゃあソウルジェムがそのまま身体に戻ったあたしはどうなるんだよ!?ま、まさか見た目は何とも無いけど実はソウルジェムが濁りきって魔女化寸前とか!?」

 

 もしもソウルジェムが穢れる機能までそのまま魂に組み込まれたままだったのなら自分のソウルジェム……と言うべきかどうかは知らないがとにかく魂は見る影も無い程濁っているはず…。だがもうソウルジェムでない以上たとえ穢れが発生してもグリーフシードで除去できない。除去できないと言う事はこのまま魔女化!?

 軽いパニックを起こす杏子に恭介は唖然とし、アルデバランは運転をしながら苦笑い、デジェルは面白そうに含み笑いをしている。

 

 「な、何が可笑しいんだよっ!!こっちは真剣なんだよ!!」

 

 ハッと我に返った杏子は顔を真っ赤にして笑い声を上げるデジェルに喰ってかかる。デジェルは笑いながら背もたれに掴みかかる杏子に詫びる。

 

 「クックッ、いやすまない。心配は無いよ杏子君。『穢れ』と『魔女化』のシステムはインキュベーターが魔法少女の魂を改造する際に付加させたものだ。マニゴルドが積尸気冥界波で君のソウルジェムから魂を取り出して君の肉体に戻した時には、既にそのシステムは魂には無い。だから君は魔女になる心配は無いんだよ」

 

 「な…、なんだよ…、そっか~…、助かったぜ~…」

 

 安堵の溜息を吐きながら杏子はドサリと背もたれに寄りかかった。

 デジェル曰く、穢れの機能と言うのはそもそもインキュベーターが魔力の精製機能と共に独自にソウルジェムに付属させた機能であり、ソウルジェムから魂が離れてしまえばもう穢れが溜まると言う事も無くなり、魔女化する前ならば魔女になる事は無いとの事だ。

 そこまでデジェルの説明を聞いた杏子は、ふとある事に気が付く。

 

 「……ん?ってことはマミもその積……何とかっつうのを使えば魔女にならずに済むのかよ?」

 

 「積尸気冥界波、だ。まあ…、魔女になる前ならそうなるな」

 

 「じゃ、じゃあさやかにもそれ使っていればさやかは魔女にならずにすんだんですか!?」

 

 杏子と同じ事に気が付いたのか今度は彼女の隣に座っていた恭介が必死な形相で背もたれに掴みかかる。まるで詰問するかのような問い掛けにデジェルは少し驚いていたが、直ぐにばつの悪そうな表情で顔を背後から前へ戻す。

 

 「……ん、結果論的にいえば、そうなるな…」

 

 「なっ…!?だ、だったらなんであいつにそれを使ってやらなかったんだよ!!そうすりゃあいつは魔女にならずに済んだんだぞ!!」

 

 デジェルの返答に今度は杏子が食ってかかる。魔法少女を魔女にせずに元の人間へと戻す手段があったにもかかわらず、それを使わずにさやかを魔女化させてしまった…。今まで自分達の味方をしていた人間だったとしても、少なからず不信感は抱いてしまう。

 こちらを問い詰めるように睨みつけてくる杏子と恭介に、デジェルとアルデバランは居心地悪そうに視線を見合わせる。

 

 「…確かに君の言うとおりだ。もしも彼女が魔女化する前に積尸気冥界波でソウルジェムを身体に戻して居れば彼女は魔女にならずに済んだかもしれない」

 

 「だ、だったら…!!」

 

 「だが、生憎と積尸気冥界波が使えるのは今のところ蟹座のマニゴルドのみ、私達は使う事が出来ない。だから実質マニゴルドしかさやか君のソウルジェムを肉体に戻す事が出来ないのだが…」

 

 デジェルはそこで言葉を区切ると重い溜息を吐き出した。

 

 「……私達の依頼主に、だ……、美樹さやかをそのまま放置しろという命令が下されたんだ」

 

 「なっ…!?」

 

 「ど、どうしてですか!!さやかが、さやかが化け物になってしまうのに!!

 

 デジェルの予想外の言葉に杏子と恭介は非難の声を上げる。二人の反応にデジェルとアルデバランは揃って苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。

 

 「…気持ちは分かる、私達もこの命令には正直不服だ。だがな…『一度魔法少女達に魔法少女が魔女になるところを見せろ』と言うのが理由でね…。直接魔女の正体やインキュベーターの目的を説明して納得してもらえれば一番だったのだが…、殆どの魔法少女は誰も信じてはくれなかったそうだ。まああまりにも突拍子もない上に受け入れがたい話だから当然と言えば当然だが…。

だから私達の依頼主曰く、百聞は一見にしかず、口で言っても信じそうにないなら直接見せるしかない、ということらしい。

鹿目まどかを魔法少女にする事を防ぐため、というのが理由らしいが…。薬と言うには少々荒療治過ぎる。…まったく一刀君ももう少し考えて貰いたいものだ。まあ結果的に了承してしまった私達も私達、だが…」

 

「…仕方がないだけでは済まんだろうに、当人達の立場からすれば納得いかんなどと言うものではないぞ…。一応教皇とハクレイ様の指示もあったから我々も従う事にしたんだが、な……」

 

事実ほむらは三度目のループでまどか達に自分の知り得た魔女化の事実を伝えたものの、誰も信じて聞いてくれず、結局そのループのさやかは魔女化、魔法少女が魔女になると知って暴走したマミは杏子を殺害、ほむらを殺そうとしたところでまどかに殺されるという惨憺たる結末を迎えてしまった。

以上の結果から聖闘士の依頼主は言葉で説明するのは困難と判断し、ソウルジェムの正体及び魔女への変化は『直接実例を見せてその後詳細を少女達に教えるように』と彼等に依頼した。

なお、両方とも『手段、方法は特に問わず、魔女化するのも美樹さやかで無くてもいい』と言われてはいたものの、今までの実例から判断して、魔法少女となった場合の魔女化の危険度が一番高いのは美樹さやかであると予想され、実際に多少事例は異なってしまったものの、ほぼ正史通りに魔女化する事となってしまったわけである。

 

「…納得いかねえ…。幾らあたしらに魔女化教えるためっつっても納得いかねえ…!!」

 

ほむらのループ云々を伏せて二人に説明をしたものの、やはりさやかを魔女にせずとも済む手段を使わずむざむざさやかを魔女化させてしまった事に納得いかないのか、杏子は奥歯をギリリと食い縛り、恭介も悔しげに肩を震わせている。そんな二人の反応に、デジェルとアルデバランは少なからず罪悪感を感じてしまう。

 

「落ち着きたまえ、さやか君はまだ死んでいない。死んだのならば遺体をわざわざ凍らせて持ち帰ったりはしない」

 

「……え?そ、それって、どういう…」

 

唐突なセリフに恭介はハッと顔を上げるがデジェルはそれに構わず話を続ける。

 

「さやか君を魔女から人間に戻す方法は、ある。詳しくはほむら君のマンションに着いてから……と、もうすぐ到着か」

 

杏子がふと窓の外を覗くと、デジェルの言葉通り車の前方には背の高いマンションがまるで影絵のようにそびえ建っていた。

 

 

 ほむらSIDE

 

 

 一方デジェル達がほむらのマンションに向かっている頃、ほむらとマニゴルドもまた、まどかとマミに魔女化を防ぐ手段について説明をしていた。

 

 「……と、まあそう言うわけで、ソウルジェムの魂肉体に戻せば魔女化しないで済むってわけだ。分かっていただけたか?」

 

 「私も佐倉杏子もその方法で魂を肉体に戻したの。だから魔女化する心配は無いのよ」

 

 マニゴルドはほむらと杏子に行った術について事細かに説明する。積尸気冥界波の効果、それを利用したソウルジェムの魂を肉体に戻す手段、そして、ソウルジェムが肉体に戻る事によって起きる影響等々、自分達が知り得る事を全てまどか達に明かした。

 が、魔法少女の魔女化を防ぐ真実を知ったにもかかわらず、まどかとマミの表情は晴れない。寧ろその顔には目の前の二人に対する疑念が浮かんでいる。

 

 「……なんで」

 

 「んあ?」

 

 「なんで、なんでさやかちゃんにそれを使ってあげなかったんですか…?もしも、もしもそれをさやかちゃんに使っていれば…、さやかちゃんは魔女にならずに済んだんじゃないんですか…!?」

 

 まどかの言うとおり、もしもマニゴルドが事前にさやかに積尸気冥界波を使い、美樹さやかの魂を元に戻していたならば、さやかは魔女になる事も無く自分達の親友で居られたはずなのだ。魔法少女が魔女になると言う真実を知っていただけでなく、それを予防する手段があったにもかかわらず、それをせずに放置しておいた。少なからず疑念をもたれるのも当然だろう。

 こちらに疑惑の籠った視線を向けてくるまどかとマミに、マニゴルドはまいった様子で頬を掻いており、一方のほむらは慣れた様子でコーヒーを啜っている。

 

 「まあ、そりゃなんつうか…、あれだ。誰かが魔女になるところ見せねえとお前さん等納得しねえだろ?それにソウルジェム戻せるような状況無かったし、なぁ…」

 

 「本当は美樹さやかで無くても良かったんだけどね、状況からみて彼女が魔女化の危険性が高かった、それだけの話よ」

 

 「それだけって…!!」

 

 ほむらのあんまりな言葉に二人は激昂してほむらに詰め寄るが、マニゴルドがまあまあと両手を突き出して二人を宥める。ほむらは相変わらずの無表情で何とも無さそうではあるが。

 

 「じゃあ逆に聞かせていただきますけどお嬢さん方、もしも仮に俺かほむらがお前さん達に魔法少女が魔女になるっつったら信じたか?はいそうですかと納得したか?」

 

 「え…?」

 

 「そ、それは……」

 

 マニゴルドの問い掛けに二人は口を噤んでしまう。そんな事、納得できるはずが、信じられるはずがない。今まで多くの魔女と戦い、倒してきたマミは特に…。

 

 「しねえよなァ。まあ当然だわな。そんな事実認めたら大概の魔法少女はソウルジェム砕いて自殺するわな。今まで自分の獲物と思って狩っていた魔女どもが実は自分と同じ魔法少女で自分達もいつかそうなります~、なんて、誰も信じたくねェもんなァ…」

 

 動揺する二人を見ながらマニゴルドは乾いた笑い声を上げる。すると今まで無表情でまどかとマミを眺めていたほむらが、コーヒーカップをテーブルに置いて、ゆっくりと口を開いた。

 

 「私もかつて、貴女達と同じ魔法少女達に魔女の真実を伝えようとしたわ。私はいちはやく魔女化の真実に気付いていたけど、彼女達は知らなかったから…。

 でも、誰も私の言う事を信じてくれなかった。ただの妄想、嘘だって言われて相手にすらされなかったわ…。だから私も今の今まで魔法少女の真実を話さなかったのよ」

 

 過去を語るほむらの顔に、段々と影が差してくる。何しろこの記憶はほむらにとってあまり良い記憶ではない。こんな結末を見たくないが為に彼女は今の今まで一人で戦ってきたのだ。もっとも、それを知っているのはこの場ではほむらを除けばマニゴルドしかいないが…。

 

 「ね、ねえほむらちゃん…。そ、その昔ほむらちゃんが組んでいた魔法少女達は、どうしちゃったの…?」

 

 まどかはほむらに恐る恐ると言った感じで問いかける。その表情には既に、ほむらに対する怒りは無い。

 ほむらはどこか疲れきったような表情でフウ…、と息を吐く。

 

 「…仲間の一人のソウルジェムが限界を超えて魔女化、もう一人の仲間がそれを見て暴走、私を殺そうとしてきたの。どうやら彼女は私を殺した後に自殺しようとしていたみたいだけど…。……やむなく彼女は殺したわ。私が、ソウルジェムを撃ち抜いて、ね」

 

 「……!!」

 

 「そ、そんな…」

 

 あまりにも凄惨過ぎる返答にマミとまどかは絶句する。特にマミなどほむらに殺された魔法少女の行動があまりにも自分自身と似通っていたが為に愕然としてしまう。

 なお、ほむらの言葉には若干嘘がある。ほむらが三回目にループした世界に置いて、ほむらの言っていた暴走した魔法少女、巴マミはまず佐倉杏子のソウルジェムを撃ち抜いて殺害、その後ほむらを殺そうとしたが、ほむらを殺す前にまどかにソウルジェムを砕かれて死亡した。そのため厳密にはほむらはマミを殺してはいない。

 もっともその後訳あって魔女化寸前の親友を殺す破目になってしまったため、どちらにせよほむらにとって後味の悪い結末に終わったわけなのだが…。まさかまどかがマミを殺した、と言う事を素直に言うわけにもいかず若干話を脚色したのだ。

 

 「……分かったでしょう?私が今までソウルジェムの真実を語らなかったのが。不用意に真実を伝えて魔法少女に殺されそうになるのは、もううんざりなのよ。魔女なら兎も角魔法少女と殺し合いをする趣味は、生憎と私には無いの。…無論向こうから向かってきたのなら殺す覚悟はあるけどね。実際巴マミ、もしもあの時デジェルが乱入してこなかったら、私が貴女を殺していたところよ。そうしないと私も殺されていたから」

 

 「そ、そうなの…。…あとでデジェルさんに感謝しないと」

 

 「彼に感謝したいのは私の方よ。実際殺されかかったのは私なのよ?お詫びといってはなんだけど今から貴女をハチの巣にしても構わないかしら?どうせソウルジェムさえ無事なら全身粉々にされても大丈夫なんだし」

 

 冗談なのか本気なのか分からない物騒な発言をしながらほむらは何処からか取り出したのかライフルを構えて銃口をマミに向ける。おもちゃでも何でもない本物の銃を見たまどかはギョッとしてソファーから飛び退き、銃口を直接向けられたマミはサッと青ざめて背後に後ずさった。

 

 「……!?い、嫌に決まってるでしょ!?確かに悪かったと思ってるけどだからといってハチの巣になるのは御免よ!!お、お願いだから罰なら体罰以外の物にして!!何でもするから!!」

 

 ソファーから立ちあがり両手を上げながらマミは今にも泣き出しそうな様子でガタガタ震えている。

 確かにソウルジェムが無事ならばマミは幾ら銃弾を撃ち込まれようとも死ぬ事は無い。

とはいえ全身に何発も弾丸を喰らえば傷も出来るし出血もする。さらに痛みもあるのだからいかに死なないと言ってもいい気分はしない。それにもし弾丸が逸れてソウルジェムに命中したら……。そう考えただけでマミはゾッとする。

 もとより己の命を繋ぎとめるために魔法少女になったマミにとって、死とは最大級のトラウマであり、何があっても避けたい要素であるため当然と言えば当然なのだが。

 そんなマミの姿を見て、ほむらは軽く溜息を吐くと銃口を下げた。

 

 「………ふう、冗談に決まってるじゃない。もういいわよ。どうせ殺されそうになった事なんて何度もあったし」

 

 「……最初のはともかく殺されそうになったのはお前の場合冗談じゃ無くてマジだからな。笑えねェな」

 

 呆れた表情でライフルを捨てるほむら、そんなほむらをマニゴルドはいつものように茶化す様子も無く何を考えているのか分からない無表情で眺めている。

 

 「あ、あのっ…!!それよりも魔女を元の魔法少女に戻す方法って…!!もしかしてキュゥべえの住んでる星に行って交渉するとか…?」

 

 まどかは表情に若干の希望を滲ませてマニゴルドとほむらに問いかける。が、マニゴルドはまどかの質問に肩を竦めて首を振る。

 

 「悪いがそりゃ無理だわ。まず第一に連中の本体がある惑星が何処にあるかすらもわからねえ。おそらくこの宇宙のどっかにある事は間違いないんだろうけどよ…。幾ら聖闘士で小宇宙扱えるっつっても俺達は生身の人間だ。そんな俺らがクッソ広い宇宙ン中から連中の母星見つけるなんざほぼ不可能と言っても良いな。つーか仮に見つけても行く手段がねえし」

 

 よしんば行けたとしても碌に交渉できねえだろうがな、とマニゴルドは付け足す。

 そもそもインキュベーターには感情だけではなく、己と言う“個”を持っていない。それ故に人間の持つ感情や他者への思いやり、友情や愛と言うモノを理解する事が出来ない。

 さらに性質の悪い事にインキュベーターは己の文明が人類のものよりも遥かに優れているからなのか、人類は自分達にとって消耗品、家畜と同類とまで考えている。本人達曰く曲がりなりにも知的生命体と認めているから家畜よりもずっと譲歩している、とのことだがそれでも人類を見下している事には変わりない。

 連中のこれらの点をどうにかしない限り、交渉などほぼ絶望的だろう。いくらこちらが意見を言っても暖簾に腕押し、正真正銘時間の無駄になりかねない。

 

 「そ、そんな…」

 

 「しょうがねえだろ?連中は所詮エイリアン、俺達地球人とは思考回路の作りがそもそも異なってやがるのよ。こいつらへの交渉は俺たちじゃ到底無理、それこそウルトラマンでも連れてこなきゃダメだな」

 

 「ウルトラマンなんてよく知ってるわね…。まあとにかくそういうわけだから、もうあいつ等の事は信用しない方がいいわ。連中は魔女と同じ、いえ、それ以上の敵だと心に刻んでおいて」

 

 ほむらはまどかとマミに少々厳しめな口調で言い放つ。まどかはコクコク頷いてはいたものの一方のマミは何処か複雑そうな顔でほむらから目を逸らしている。

 まどか達と出会う以前のマミにとって、キュゥべえは命の恩人であると同時に孤独な毎日の中で唯一の話相手であり、姿形は違っても親友だと思っていた。それがキュゥべえにとっては自分達魔法少女は単なる消耗品、魔女に育ててエネルギーを刈り取るための単なる家畜程度にしかみられていなかったという事実はあまりにも衝撃的すぎた。そう簡単に受け入れられないだろう。

 

 「…ま、そういうわけで連中との交渉はまず不可能だ。だけど安心しな。ちょいとばかし難儀な方法だがあの嬢ちゃんを元に戻す手段はちゃあんとあるからよ」

 

 「……え!?」

 

 「ほ、本当ですか!?」

 

 「こんな事で嘘ついてどうするんだよ。だいたい俺達が何の対策も練らずに魔法少女放置しておくわけがねえだろうが」

 

 驚愕して詰め寄ってくるまどかとマミに、マニゴルドは自信ありげな笑みを向ける。

 

 「そ、その方法って一体…、お、教えてください!!」

 

 「まてまてそう慌てんなって。まずは残りのメンバーがそろってから……っと、どうやらおいでなすったようだぜ」

 

 マニゴルドの言葉が終わると同時に玄関から来客を知らせるチャイムが鳴る。マニゴルドは家主のほむらに視線を向けるとドアを開けてくるように無言で促す。ほむらは無言で立ち上がると玄関まで歩いていきドアを開けた。

 

 「遅いわよ…、待ちくたびれてたところだったわ」

 

 「ああほむら君、すまないな大所帯で」

 

 「ここがテメエの家か~…。何かどっかの秘密基地みてえだな」

 

 「こらこら杏子、人の家をあまりじろじろ見るんじゃない」

 

 「あはは…、何だか僕場違い?」

 

 ほむらがドアを開けると同時に遅れてやってきたメンバー、デジェル、アルデバラン、杏子、恭介の四人が部屋へと入ってくる。杏子は始めてみるほむらの部屋を興味深々でジロジロ眺め、恭介は自分と同年代の男子が居ないせいか少し遠慮気味にしている。

 そんな恭介の姿を見て、マミはどこか不安そうに彼の側に立つデジェルに視線を向ける。

 

 「あ、あの…、確か上条君は一般人です、よね…?彼を魔女との戦いに巻き込むのは…」

 

 「もう既に巻き込まれている。それにこれは彼自身が望んだ事だ。私達がどうこう言う事は出来ないよ」

 

 「それは……まあ…そうなんでしょうけど…」

 

 デジェルの言葉を聞いてもマミはまだ何処か納得のいかなそうな顔で恭介をじろじろと眺めている。マミの視線に恭介はますます居心地が悪そうに縮こまってしまった。

 

 「まあその坊ちゃんの事はおいといて……、まず座れや」

 

 そう言ってマニゴルドが指差した方向には、何時の間に出現したのか四脚の椅子がその場に置かれている。突然目の前に出現した椅子四脚に魔法少女二人と一般人二名は呆気にとられていたが、アルデバランとデジェル、そしてほむらは特に気にした様子も無く椅子に座る。残された二人も慌てて残った二脚の椅子に各々腰掛ける。

 

 「さてと、それじゃあシジフォスやらアルバフィカやらはいねえけどまあ時間も勿体ねえし、始めようかね」

 

 そう言ってマニゴルド達は、少女達に語り始めた。さやかを元に戻す方法を。

 

 そして、その為に必要な“条件”というものを。

 


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