ここからようやく本編が開始します。
話の展開はまあARCADIAと同じです。
違うのはシジフォスの一人称が「私」から「俺」になっているくらいでしょうか。
ではどうか楽しんでご覧ください。
夢を見た。
辺り一帯が焼け野原となった街の夢を。
そこで一人の黒い服装の少女が『何か』と戦っていた。
『彼女だけでは、荷が重すぎたんだ』
目の前の白い動物がしゃべる。
『 !! !!!』
向こうで黒い少女が焦った表情で何かを叫んでいる。でも、よく聞こえない。
『・・・だから』
僕と契約して、魔法少女になってよ
その言葉で一度、目の前の映像は途切れた。
そして再び目の前に広がる映像。
自分は何故か地面に倒れている。
周囲は相変わらずがれきの山。いや、先ほどよりも遥かに荒廃している。
そして目の前には、黒い少女が戦っていた『何か』よりもより巨大な『化け物』が存在していた。
よく見るとあの白い動物も黒い少女もいない。あの化け物に食べられてしまったのだろうか・・・?
『・・・大丈夫だ』
と、声が聞こえる。その声は、とても優しくて、暖かくて・・・。
『必ず、護る・・・。この世界も、君も・・・・・』
目の前には・・・まるで太陽のような黄金の輝きが、まぶしく煌めいていた。
その輝きの一つに、光り輝く翼を見たような気がした。
第一話 変革する日常、黄金の翼との出会い
「・・・う、うーん・・・・」
窓からこぼれる朝日を浴びて、鹿目まどかは目を覚ました。ベッドから上半身を起こしたまどかは、大きく伸びをした。
「ふぁ、あーあ・・・、何だか変な夢見ちゃったなー・・・」
まどかは着替えながら寝ているときに見た夢を思い出していた。
全く見た覚えのない光景と少女、そして白い動物。だが、どれもが何故かなつかしさを感じてしまう。
そして、最後に現れた黄金の光。特に、その中の一つに見えた黄金の翼が、未だに目に焼き付いて離れなかった。
「あれ、何だったのかなー・・・。天使様?なんちゃって♪」
まどかはくすくすと笑いながら着替え終えると、洗面所で顔を洗い、未だに寝ている母を起こしに行った。
変な夢を見た以外は、全く変わらない朝だった。
鏡の前で今日つけていくリボンを選び、父親の作った朝食を家族一緒に食べて、父と弟に見送られて自宅を出る。
そしてさやかと仁美との待ち合わせの場所に向かう途中、曲がり角に差し掛かった時、昨日のあの出会いが思い出された。
(結局あの人の名前も聞けなかったな・・・)
それがまどかの心残りだった。
昨日曲がり角でぶつかった名も知らない男性。
彼のことがあれからずっと頭から離れなかった。
(もう一度会いたいな・・・・)
まどかは心の中で密かにそう思った。
ふと気がついたらまどかは待ち合わせの場所に到着していた。
「おっはよ~!!まどか!!」「まどかさん、おはようございます」
「さやかちゃん!、仁美ちゃん!おはよう!!」
目の前の親友達に挨拶を返した時には、既にあの人物の事は頭から消えていた。
暁美ほむらSIDE
「じゃあ、私は行くから」
「おうよ、まあ俺もどうせ後で行かせてもらうんだけどな」
「出かけるのは良いけど戸締りはちゃんとしてね」
「わぁってらぁ。ガキじゃあるまいし・・・」
ほむらは制服に着替え、荷物を持つと部屋に残っている同居人に出かける旨を伝え、返答を聞くと直ぐにドアから外に出て行こうとした。
「お、そういや思い出したけどよ。体の調子はどうだ?なんせソウルジェムの魂を無理矢理お前の体に戻したんだ。不具合の一つでもあんじゃねえの?」
マニゴルドは思い出したかのようにほむらに問う。その質問に対し、ほむらは表情一つ変えずに答える。
「問題ないわ。体には何も不具合無し、そして魔法も試してみた限りでは問題なく使えるわ。ただ、痛みは通常通り感じるから、ソウルジェムがある状態とは違って不死身ってわけにはいかないわね」
今のほむらはソウルジェムを保持していない。その理由は、昨日マニゴルドに頼んでソウルジェムの魂を自身の肉体に戻してもらったからである。
その方法は単純。積尸気冥界波をソウルジェムに打ち込み、その内部の魂を引きずり出して元の魂の入れものである肉体に戻す、というやり方である。魂を肉体から抜き取り、黄泉比良坂に送るという特殊な性質の技である積尸気冥界波だからこそできた芸当であり、こんなことを出来るのは、マニゴルド以外では師であるセージとその兄であるハクレイ位なものであろう。
ソウルジェムは魂を肉体から切り離し、持ち歩くことでソウルジェムが破壊されない限り肉体をいくら攻撃されても死ぬことが無いという一種の不死身とも言える状態に肉体を作り替えるメリットがある。反面、ソウルジェムによる変身を繰り返す、若しくは負の感情の高まりによってソウルジェムが濁っていくと、最終的にソウルジェムはグリーフシードに変化し、魔法少女は魔女と化してしまうという致命的なデメリットがある。
ほむらはこのデメリットを克服し、より効率的に目的を遂行するためにマニゴルドに頼んでソウルジェムから肉体に魂を戻してもらったのである。これによって、魔法少女としての能力は個人差はあるもののそのままに、魔女になるというデメリットを無くすことが出来る。ただし、魂は肉体に存在しているため、ダメージは通常の人間と同じように受けてしまう。よって、魔法少女だったころは平気だったダメージが一気に致命傷になるというデメリットも出てきてしまう。
「ま、そりゃ仕方無いわな。むしろそれ位で済んだことをありがたく思いな」
「そうね、そうさせてもらうわ」
ほむらは相変わらず無表情のまま、ドアから外に出て行った。
ドアが空しく閉じる音が響く部屋の中で、マニゴルドは溜息を吐いた。
「もうちっと笑えばあいつも可愛げがあるんだがね。・・・ま、それでもやっぱり胸が足りねえけど」
本人が聞いたら間違いなく絶対零度の殺気を放ってくるであろう言葉を、ぽつりと呟いた。
まどかSIDE
「・・・変わった子、だったなー・・・」
「まどか~、まだそんなこと言ってる~。もういいじゃない」
「・・・そうだけど、どうしても気になっちゃって・・・」
まどかは今日転校してきた女子生徒、暁美ほむらのことが気になっていた。
今朝の夢に出てきた少女とそっくりな転校生。まるでまどかのことを知っていたかのような雰囲気。
そしてあの警告のような言葉・・・。
『・・・もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうとは思わないことね・・・』
『・・・・さもないと、全てを失うことになる・・・』
彼女の言葉が耳から離れない。
一体、彼女は何者なのだろう・・・。何故あんなことを言ったんだろう・・・。
「ほ~らまどか!いつまでもウジウジ悩んでないで。まどかも何か好きなCDでも買っていったら?」
「え、あ、う、うん!!」
まどかが若干どもりながら近付いてくるのを見て、さやかはニヤリと何やら悪戯を思いついたかのような笑みを浮かべた。
「はっはーん?さてはまどか、昨日出会った初恋の人の事でも考えてたんだろ~?うんうん、乙女だね~」
「な!?なななな何言ってるの!?そ、そんなんじゃないよ!!それにあの人は初恋の人なんかじゃ・・・」
「またまた~、曲がり角でイケメンな男とぶつかって恋に落ちるなんてギャルゲやエロゲの定番じゃ~ん?まどかも同じシチュエーションなんでしょ?さあ吐け!白状しろ~!」
「ち、ちょっとさやかちゃん!?大体ギャルゲにエロゲってさやかちゃん女の子でしょ!?何でそんなのやって・・・『・・・助けて・・・』・・・・え?」
顔を真っ赤にしながら必死でさやかの追及を逃れようとしていると、突然何かの声が聞こえた。それは、耳に入ってきたというよりも、まるで頭の中に直接入ってくるような・・・。
「何?どうしたのまどか?」
「・・・何だか、声が聞こえた気がして・・・『・・・助けて、まどか・・・』・・ほらまた!!」
「声?そんなの全然聞こえないけど・・・ってまどか!?」
さやかが返事をする前に、まどかは店から飛び出していった。
頭の中で響いてくる声を聞きながら、ただひたすらに声の主を探す。
探し続けるうちに、いつの間にかまどかは建物と建物の間の裏路地に迷い込んでしまった。
自身を呼ぶ声は徐々に、徐々に大きくなっていく。まるで、声の主に近付きつつあるかのように・・・。
やがてまどかは、扉に「立入禁止」と書かれた建物の前に立っていた。声は、どうやらその中から聞こえてきているみたいだ。
まどかは意を決して扉を開け、中に入る。
建物の中は薄暗く、中に何があるのかよく見えない。
だが、声はどんどん大きくなってくる。まどかは恐る恐る建物の内部を歩き始めた。
「・・・どこにいるの?」
しばらく通路を進んでいくと、床に何か白い物がある事に気がついた。
よくよく見ると、床の白い物体は微かに動いており、それが生き物であることが分かった。まどかはゆっくり、忍び足でその生き物に近付く。
その生き物は、一見すると白い猫に見える。が、よくよく見ると背中の赤い模様、長い耳、のようなもの等、猫とは似ても似つかない姿をしている。そして、生き物は全身にひどい傷を負っており息も絶え絶えの状態であった。
「・・助けて・・・」
「しゃ、喋った!?」
ただの動物かぬいぐるみにしか見えない動物が言葉を話したことに、まどかは一瞬驚くが、すぐにその動物が今にも死んでしまいそうな状態であることが分かり、自身の抱いていた疑問を引っ込める。
「ひどい怪我・・・、待っててね、直ぐに獣医さんの所へ・・・「そいつから離れてっ!!」
・・・えっ!?」
まどかが白い動物を抱き上げると、突然鋭い声が響いた。驚いたまどかが声の聞こえた方向に視線を向けると、そこには今日転校してきた転校生、暁美ほむらが拳銃を持って立っていた。
その服装は見滝原中学の制服とは違う、黒を基調とした物で、左手には何か円盤状の物が取り付けられている。そしてその視線は、まるで獲物を狙う狩人のごとく、鋭い。
「ほ、ほむら、ちゃん・・・?その格好は何?その銃は・・・本物?」
「・・・そいつを渡して」
ほむらは銃口をまどかに、いや、まどかが抱いている白い動物に向けながら淡々としゃべる。そんなほむらの様子にまどかは警戒感も露わに動物を抱きしめ、後ずさりする。
「この子を渡したらどうするっていうの!?この子を殺すの!?」
「貴女には関係のないことよ・・・」
「駄目だよ!!私はこの子に呼ばれたの!!助けてほしいって!!」
「そう・・・」
まどかの必死な訴えでも、ほむらは表情を動かそうとしない。
「姑息ね、助けを呼ぶふりをしてでも、目的を達しようとするんだから」
「目的!?目的って・・・「貴女には関係のないことよ。さあ、渡しなさい。渡さないなら、無理矢理でも引き剥がすしかないわ」・・・!!」
ほむらの言葉にまどかは沈黙し、ゆっくりと背後に下がる。しかし、ほむらは表情を変えることなくまどかに一歩一歩近づいてくる。銃口をこちらに向けたまま・・・。
「まどかっ!!」
と、突然さやかが現れて、手に持った消火器から高圧の液体を発射する。ほむらとまどかの間で白い煙が立ちこめ、煙幕のようにほむらの視界を遮る。
「まどかッ、こっち!!」
さやかは消火器を投げ捨てるとまどかの腕をつかんで通路めがけて駆け出した
「くっ・・・、っ!?」
ほむらは急いでまどかを追いかけようとしたが、突然足を止めて背後を向いた。その隙にさやかとまどかは急いでその場から逃げ去った。
ほむらSIDE
「くっ、こんな時に・・・・」
ほむらの目の前には、ひげの生えた目の無い人間の顔に、蝶の羽が生えたような化け物が、何十匹も漂っていた。化け物は口々に不気味な歌を歌いながら、ほむらに迫ってくる。
魔女が作り出した「使い魔」である。魔女に比べれば能力的に劣る物がほとんどであり、ふだんのほむらならば恐れるに足りない相手である。だが・・・、
(一発も攻撃を喰らう訳にはいかない・・・!!)
ソウルジェムの無い今の体では、たとえ使い魔の攻撃でも致命傷となりえる。ゆえに、より慎重に立ち回らなければ・・・。ほむらはそう考えて銃口を使い魔に向ける。
・・・と、その瞬間、
ドシュッ!!ドシュッ!!
ほむらに接近しようとしていた使い魔二体に竹串が突き刺さった。そして、次の瞬間、使い魔は青白い炎に包まれ、悲鳴と共に燃やしつくされた。
「んだよほむら。キュゥベエ追っかけて行きやがったと思ったら、ずいぶん楽しそうな事になってんな」
「・・・マニゴルド!!」
ほむらが振り向いた先にいたのは、彼女の護衛を務める蟹座の黄金聖闘士、マニゴルドであった。その服装は白いシャツの上に黒いジャケットを纏い、腕や指には金色のアクセサリーや指輪を身につけているといったチンピラ染みた服装であった。何処かで買ったのか焼き鳥を食べながらこちらに向かってのんびりと歩いてくる。あの竹串は恐らく焼き鳥のものだろう。
「なんとまあ随分と団体さんで・・・。おうほむらよ。こいつらの遊び相手は俺がしてやっからよ、てめえは愛しの彼氏・・・、いや彼女か?を追いかけな」
「なっ!?」
マニゴルドの言葉にほむらは顔を真っ赤にして動揺する。と、そこを狙ったのか、再び使い魔が二体ほむらに襲いかかる。
が、
「はい、ごくろうさんってか」
マニゴルドの繰り出したローキックを喰らい、壁に激突して二体とも絶命した。
「ほらほら行けって。こいつらは食後の運動代わりに俺がやっといてやっからよ」
「・・・分かったわ、マニゴルド。任せる」
ほむらはすぐにいつもの無表情に戻ると、まどかとさやかが逃げて行った通路に向かう。それを見ながらマニゴルドは溜息を吐いた。
「ちったあ人を心配するそぶりみせやがれよ。ま、別にいいけどよ」
マニゴルドは右手の人差し指と中指で竹串を回転させながらそうぼやいた。その余裕そうな雰囲気をチャンスとみたのか、使い魔十体がマニゴルドに襲いかかる。・・・・が。
「ん、ウゼエ」
マニゴルドの拳の一撃で、全て地面に叩き落とされた。
「さぁーてと、んじゃ、ストレス発散兼食後の運動と行きますか。オッサン達、ちょっと付き合ってくんな!!」
マニゴルドは、嬉々とした笑みを浮かべながら、大量の竹串を構えた。
まどかSIDE
「んも~!!なによアレ!!コスプレ通り魔なんてミステリアスなんてもんじゃないだろ!?」
「そ、そうだね・・・」
その頃まどかとさやかはほむらの追撃から逃れて廊下を走っていた。一刻も早くここから逃げ出したい、二人の心はそれで一致していた。
「・・つーか何それ。ぬいぐるみ・・・、じゃないよね。動物?」
「あー、うん。まあ、ね」
さやかの質問にまどかは曖昧な返事を返した。さやかはふーんと気の抜けた返事をしながらなおも走る。
「見たようだと怪我してるみたいだし、さっさと獣医にでも診せたほうがいいんじゃない?」
「う、うん!私もそう思う・・・って、あれ?」
と、まどかが突然足をとめた。足をとめたまどかにさやかは足を止めてまどかの方を向く。
「ちょっとまどか!こんな所で立ち止まったらあのコスプレ通り魔が・・・」
「分かってる、けど・・・、なんかおかしいよ。この道。さっき、通ったような・・・」
「へっ?あ、そういえば、もう非常口に着いてもいいはずなのに・・・」
そう、その場所は、まどかとさやかが通り過ぎた場所にそっくりだったのだ。それだけではない。なぜか、周囲がどんどん歪み、空間そのものが、何か別の物へと入れ替わっていく
「さやかちゃん!何か変だよ、ここ!!」
「な、何がどうなってるのよ!?」
やがてまどか達の周囲は、先程までとは異なる完全な異空間へと変貌していた。
空間の内部は暗く、空中にはひげの生えた目の無い人間の顔が、大量に飛び交っている。
それらの顔は、口々に不気味な歌を歌いながら、まどかとさやかの周囲を舞っている。
「い、いや!!何なのコレ!?ば、化け物!!」
「ま、まどか、私、悪い夢でも見てるのかな?ねえ!?まどか!?」
あまりにも異様な光景に、二人は地面に座り込んでしまった。それをみた化け物達は、次々とまどか達に迫ってくる。
・・・その瞬間。
黄金の閃光が、目の前の化け物達をなぎ払った。
「え!?」
「な、何!?」
その閃光のまぶしさに、まどかとさやかは思わず目を閉じた。だが、まどかはゆっくりと、徐々に目を開いていく。
何故か、まどかはその光を、輝きを見たことがあった。
そう、それはあの夢の中で、巨大な化け物から護るように立ちはだかる黄金の輝き・・・。
それと、よく似た輝きだった
「あ・・・・・」
まどかが目を開くと、目の前には、太陽のような輝きを放つ、黄金の翼が翻っていた。
「・・・わあ」
その翼は間違いなく、あの夢に出てきた翼だった。あの、太陽のような輝きの中でもはっきりと見ることが出来た黄金の翼・・・。
「危ないところだったな」
と、その翼の持ち主の声が聞こえた。
まどかは、その声を聞いてはっとした。
なぜならその声をまどかは、聞いたことがあったから・・・。
昨日、立った一度の出会いだったけど、記憶に残されていたのだから・・・。
そして、黄金の翼の持ち主は、ゆっくりとまどか達の方を向いた。
「・・・・あなたは・・・」
「君か、また会えるとは、本当に奇遇だ」
黄金の翼、それを宿す鎧を纏った彼の顔を見たまどかは、驚きで目を見開いた。それを見た黄金の翼の持ち主は、にこりと穏やかな笑みを浮かべた。
その顔は、間違いなく、昨日まどかが曲がり角で出会ったあの男性であった。
「もう大丈夫だ、ここは俺が引き受ける」
「あの、貴方は・・・」
「おっと、自己紹介がまだだったな。だが、それはこいつらを倒してからにするか」
黄金の鎧を纏った彼は、穏やかな表情を引き締めると、目の前の化け物達に目を向ける。
その姿は、まるでおとぎ話に出てくる勇者か騎士のようであった。
化け物達は、黄金の戦士目がけて、次々と襲いかかってくる。
が、
「ハッ!」
ただ一度、一筋の閃光が走ったと思いきや化け物の姿がかき消えていた。そして、それ以外の化け物も黄金の戦士目がけて突撃するものの、それらの事如くが、近付くことも出来ずにけし飛んでいく。
「・・・あれか」
黄金の戦士は、じっと黒い空間の空を見上げた。彼は拳を握ると背後の少女二人に指示を出す。
「二人とも、伏せていろ!!」
「え、ええ!?」
「な、何でですか!?」
いつの間にか目を開けていたのかさやかも返事を返す。その返事に黄金の戦士は笑みを浮かべる。
「この化け物達の親玉ごと、こいつらを吹き飛ばす」
そう言うや否や、右腕を引き、左腕を前に出した。その姿はまるで、矢を引絞っているかのような姿であった。
「あ、腕が・・・」
まどかは、彼の右腕を見て思わず声を上げた。彼の右の拳が、黄金に輝いている。それと同時に、大きく開かれた翼から淡い黄金色の輝きが迸る。
周囲を吹き荒れる黄金の光、それは、まるで・・・。
「黄金の、風・・・」
動かなくなった黄金の戦士にチャンスと見たのか化け物達が次々と襲いかかってくる。
が、彼はそれを不敵に見ながら、
「ケイロンズ・・・」
輝く右の拳を・・・
「ライトインパルス!!」
放った。
その瞬間、黄金の風が周囲を吹き荒れ、彼の周囲に集った化け物達を次々と吹き飛ばし、消滅させていく。やがて、黄金の風は漆黒の空間を切り裂きながら、空間の中心に存在する“何か”を貫いた。
形容しがたい悲鳴と共に、“何か”は消滅した。それと同時に、異空間は徐々に消えていき、最終的に異空間は元の廊下へと戻っていた。
「あ!、さ、さやかちゃん!!私達戻ってこれたよ!!」
「うわー、よかった~!なんだったのよあれ~!!訳が分からないわよ~!!」
元の場所に戻ってこれて嬉しげな二人を、黄金の戦士は微笑ましげに見ていた。
「・・・あ!そうだ!助けてくれてありがとうございます!!」
「構いはしないよ。困った時はお互い様だ」
「い、いえ!それでもありがとうございます!!・・・あの、私、鹿目まどかっていいます!!彼女は私の友達のさやかちゃんです!!」
「美樹さやかです!!えっと、助けてくれてありがとうございます、お兄さん!」
「いや、もうお兄さんという年ではないんだがな・・・・。そういえば自己紹介がまだだったね」
苦笑いをしていた黄金の戦士は、ふと思いついたかのように手を打った。そして少女二人に視線を向け、再び口を開く。
「俺の名前はシジフォス、射手座の黄金聖闘士、シジフォスだ」
黄金の鎧を纏った彼は、優しげな笑みを浮かべながら己の名を口にした。