魔法聖闘士セイント☆マギカ   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 なんとか4月終了間際に最新話投稿出来ました。とはいってもまだあまり進展はないのですが…。
 連休中ということで最後におまけも用意しました。…ちょいとキャラ崩壊しているかも…。


第30話 魔法少女の想いと葛藤

 影の魔女を撃破し、無事結界から現実世界の路地裏へと帰還した一同、だが、一同の雰囲気、特に魔法少女達三人の雰囲気は魔女を倒した後とは思えない程重苦しい。

 暗い表情で顔を俯かせるまどかとさやか、気まずい表情で顔を背ける杏子を、デジェルは厳しい表情でジッと見つめている。

 

 「…それで、何がどうなってああなったんだ?」

 

 「………」

 

 「えっと、それは、その……」

 

 デジェルの問い掛けに対して俯いて黙りこくったままのさやかと視線を揺らしながら口ごもるまどか。聞き取れないと判断したデジェルは視線を佐倉杏子に移す。杏子は

忌々しげに舌打ちをするとゆっくりと口を開いた。

 

 「…あたしが魔女の結界に侵入した時にな、そこの新人が魔女にボコボコにされてたんだよ。それでまあ何かの縁だから助けてやろうかと思ったら、人の好意を断った挙句あんな特攻を始めやがった、てな訳だ」

 

 「君はアルデバランが世話をしている…、確か、佐倉杏子君、だったな…。なるほど、それではさやか君、何故君はあんな無謀な突撃をしたんだい?怒ったりはしない、話してごらん」

 

 優しげな口調でさやかに問いかけるデジェル。だが、さやかは顔を俯かせたまま背け、一向に口を開こうとしない。そんなさやかの態度に流石のデジェルも困惑した様子で頬を掻いた。と、彼の背後の路地から誰かがこちらに走ってくる足音が聞こえてくる。デジェルは何気なく後ろに顔を向けた。

 

 「はあ…、はあ…、み、皆無事かしら…。魔女は…もう退治しちゃったみたいね。で、出遅れちゃったわ、ふう…」

 

 そこには全速力で走ってきたのかゼエゼエと息を荒げる巴マミの姿があった。こちらを見て唖然としている少女達の姿を確認し、マミは安心したように笑顔を浮かべる。魔女の反応を感じて此処に全力疾走してきたものの、既に魔女は倒され、かつ全員無事だと分かったので安心したのだろう。

 

 「君は…、確か巴マミ君、と言ったか」

 

 「…へ!?あ、は、はい。あの、そう言う貴方は…」

 

 デジェルから声を掛けられたマミは初めて彼に気がついた様子で少し驚いた様子でデジェルへと視線を変える。そんな彼女の様子にデジェルもフッと柔らかい笑みを浮かべる。

 

 「そんなに気を張る必要はない。私の名前はデジェル。アルバフィカ達の同僚…とでも言えば分かりやすい、かな?」

 

 「アルバフィカさんの同僚……っていうことは、貴方も黄金聖闘士ですか?」

 

 「ああ、水瓶座の…、と、その話はまた後でということで…」

 

 デジェルは視線をさやかに戻すと真剣な表情に戻る。

 

 「さやか君、答えてくれないか。何であのような無謀な特攻をしたのかを」

 

 「無謀な…、特攻!?さ、さやかさん!い、一体どういう事なの!?まどかさん!佐倉さん!!さやかさんが何を…」

 

 デジェルの言葉にマミは驚愕の表情を浮かべてさやか、そしてまどかと杏子を見つめる。

 さやかはマミの視線から目をそらし、まどかと杏子はしばらく沈黙していたが、やがてまどかがゆっくりと口を開く。

 

 「あの…、ここで、魔女の結界を発見して、マミさんやシジフォスさん達を待とうってさやかちゃんに言ったんですけど、さやかちゃんが早く倒さないとって結界の中に入っていって、それで魔女と戦いになっちゃって…」

 

 「んで、やばそうだからあたしが助太刀に入ろうとしやがったら、コイツ何をトチ狂ったんだか魔女に真正面から万歳突撃しやがったんだよ。魔女の攻撃で受けた傷は自分の魔法で回復しながらな。んでまあ魔女をバッサバッサと切り刻みだして、たぶんそこの兄ちゃんが来なかったら魔女が死ぬまでやってただろうぜ?」

 

 「な…!なんですって…!さ、さやかさん、それは本当なの!?そんな、そんな危険な事を何で…!!!」

 

 まどかと杏子の話を聞いてマミは驚愕と激情の入り混じった表情でさやかの肩を鷲掴みにする。マミに問い詰められたさやかは、視線をマミに向けると、疲れきったような、それでいて諦めに満ちた笑顔を浮かべて、ゆっくりと口を開いた。

 

 「ああでもしなきゃ、勝てないんですよ…。あたし、才能無いから、マミさんや杏子みたいに魔女と上手く戦えないから…。でも、もう大丈夫ですよ…。この戦い方なら、これならどんな魔女とだって戦える…!だってこの身体は死体なんだ…、あたしはゾンビなんだから痛みも感じない、痛くないならどんな攻撃だって怖くない…!!どんなに傷を負っても直ぐ治せる、あたしは、あたしはもう無敵なんだ!!どんな魔女だって敵じゃないんだ!!この力で見滝原を、街の人達を守るんだ!!」

 

 「さやか、さん……」

 

 狂ったような笑い声を上げるさやかに、マミは戸惑い、そしてどこか悲しみを含んだ表情を浮かべた。

 さやかが魔法少女を正義の味方だと盲信する理由…。それは自分のせいだ。

 自分が魔法少女の研修などといって魔女との戦いに彼女達を連れ回したから、まどかもさやかも自分に対して妙な憧れを抱いてしまっている。

 本当の自分は、ただの淋しがり屋だというのに…。

 彼女達の前ではお姉さんぶって、単に意地を張っていただけだと言うのに…。

 目の前の壊れたように笑うさやかを痛々しげに見つめながらマミは内心で歯を食いしばる。…と。

 

 「全く…、痛々しくて見ていられないな…」

 

 こちらをジッと傍観していたデジェルがマミとさやかの間に入ってくる。デジェルはこちらに意識を向けたさやかを、冷静な視線でジッと見つめる。

 

 「さやか君、何があったかは知らないが、今の君は誰かの為に戦っているのではなく、ただ己の鬱憤を爆発させてそれを魔女にぶつけている、駄々をこねて物に八つ当たりする子供のようにしか見えない。先程の戦い方も、ただ闇雲に自分を傷つけ、痛めつけて何か別の痛みを紛らわしているようにしか見えなかった。とてもじゃないがこれ以上君を魔女との戦いに出すわけにはいかない」

 

 「何ですか?デジェルさんも見ていたでしょ?あたしはもう痛みを感じないんですよ?無敵なんですよ?痛みを紛らわす?そんな必要なんてない。だってあたしはもう死体なんだ、もう生きてないんだ、もう……死ぬ事だって無いんだから!」

 

 デジェルの言葉にさやかは心外だとばかりに嫌悪感を滲ませる。憎々しげに歪んだ顔に、まどかはビクリと身を震わせ、マミは口元を押さえた。杏子は何か嫌な過去を思い出したのか、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。

 

 「無敵、本当にそう思うか。…なら仕方が無い」

 

 目の前の少女の変貌にデジェルは苦しげな顔で溜息を吐くと、軽く指を弾いた。

 瞬間、デジェルの凍気が足元のアスファルトを凍結させて、最終的にデジェルを囲むように半径40センチ程度の氷の円を作り出した。

 突然の行動に呆然としているさやか達を尻目に、デジェルは氷の円の中からさやかに向かって手招きする。

 

 「かかってきたまえ、少し相手になろう」

 

 「えっ!?か、かかってこいって…」

 

デジェルからかけられた言葉にさやかは思わずギョッとする。かかってこい…、それが意味する事はただ一つ、彼はさやかに自分と戦えと言っているのだ。あまりに突然の宣戦布告にさやかの思考は混乱してしまい、先程の怒りも何処かへ行ってしまう。そんな彼女の反応に構わず、デジェルは話を続ける。

 

 「君が本当に無敵なのかどうか、この私が試してみよう。ルールは単純、私をこの円から出すか、傷を一つでもつけたら君の勝ちだ。君が勝ったのならば魔女を狩るなりなんなり君の好きにするがいい。負けたら大人しく魔女退治は中断だ。どうだ?分かりやすいだろう?」

 

 「で、でも…聖闘士のデジェルさんとさやかちゃんじゃあ…、その、正直言って勝ち目が無いような…」

 

 まどかの不安げな声にマミと杏子、そして若干不満そうながらもさやかも頷く。

 無理もない。彼等黄金聖闘士の実力は彼女達自身近くで嫌という程見せつけられている。そして彼等が自分達魔法少女がたとえ束になってかかっても勝ち目が無い超人である事等とっくの昔に承知の上だ。

 その超人相手に戦いを挑む等、無謀というよりももはや自殺行為に等しい、万に一つも勝ち目が無い。流石のさやかも今回ばかりはそう判断せざるを得ない。

 そんな彼女達の反応を分かりきっていたのか、デジェルは軽く肩を竦めた。

 

 「無論ハンデはもちろんある。この勝負で私は一切小宇宙を使わないし使うのはこの右腕一本のみ、ついでにこの円の中から一歩も外へ出ない。君は魔法なり剣なり何なりと使って構わない。それで私に掠り傷の一つでもつけるなり円の中から出すなりすれば、君の勝ちだ」

 

 デジェルの提案したハンデに、さやかはようやく頭が冷静になる。

 …小宇宙を使わない、それはつまり今のデジェルは普通の大人の男性と変わらないと言う事だ。シジフォス達の話では、聖闘士の超人的な身体能力、そしてあの技の源は小宇宙と聞いている。それを封じる上に右腕以外は使わないのであれば、魔法少女としては新入りの自分でも、まだチャンスはあるはず…!さやかはそう判断する。

 

 「……本当に、本当に小宇宙を使わないんですね?それで、その円から出たり、掠り傷一つつければあたしの勝ち、それでいいんですね…?」

 

 「無論、二言はない」

 

 「……分かりました、その勝負、受けます…!デジェルさんにもあたしの力、見せてあげますから…!!」

 

 さやかは瞬時に魔法少女へと変身すると、鋭い視線でデジェルを見据える。一方のデジェルはさやかの視線を冷静に受け止めていた。

 

 「さ、さやかちゃん!そ、そんな、あの人は魔女じゃないんだよ!?」

 

 「心配しなくてもいいよまどか。重症にならないように手加減するからさっ!」

 

 まどかの制止を振り切り、さやかはデジェルに向かって殴りかかる。武器のサーベルを持たず、素手で殴りかかる…。明らかに今のデジェルを、小宇宙を使わないデジェルを下に見ているが故であった。その油断に満ちたさやかをデジェルは無表情で眺めながら…、

 

 「…いや、手加減は、しない方が良いと思うぞ、私は」

 

 ボソリと一言呟くとさやかの腕を右腕でつかみ取り、地面へと投げ飛ばした。

 

 「…ガッ!?」

 

 地面に背中を強打し、その衝撃で肺の空気全てが口から吐き出される。デジェルはせき込むさやかのバックル、そこに嵌めこまれた青い宝石、ソウルジェムに人差し指を突き立てる。

 

 「…まず一回」

 

 さやかは治癒魔法を使って強引に痛覚を遮断、息苦しさに耐えながら地面から跳ね起きてデジェルから距離を取る。その顔には明らかに戸惑いが浮かんでいた。

 小宇宙を使えないデジェルならば傷一つ程度ならば一瞬でつける事が出来ると思われたのに、逆に何も出来ずに地面に叩き伏せられた事が理解できないのだ。

 一方のデジェルは何でもなさそうにさやかをジッと眺めている。

 

 「私達聖闘士は己の肉体を武器とする。小宇宙は肉体を鍛え上げていく事によって徐々に目覚めていくものだ。故にたとえ小宇宙が無くても、並みの相手ならば己の肉体の身で充分相手にできる。……それがたとえ魔法少女でも」

 

 デジェルはまるでさやかの心の中の疑問に答えるようにそう言った。

 そもそも聖闘士は掟によって基本的に武器の使用を許されていない。例外として青銅、白銀聖闘士は聖衣に付属している補助武器を、聖闘士を補助する役割の雑兵、掟の範囲外の鋼鉄聖闘士は武器を使う事を認められているが、基本的に聖闘士は素手での戦いが基本。それは聖闘士最高峰の黄金聖闘士とて例外ではない。いわば聖闘士は格闘戦のスペシャリストでもあるのだ。

 無論デジェルも小宇宙を得る過程で数々の修練を積んでおり、そこには素手での戦い、各種武芸も当然含まれている。流石に格闘戦が専門である牡牛座や獅子座といった同僚には若干遅れはとるものの、それでも白銀レベルの敵では到底相手にならないレベルの戦闘能力を持っているのだ。ましてや今まで戦いとは無縁の世界で過ごしてきた魔法少女では、たとえ右腕一本だとしてもあしらうには充分すぎる程だ。 

 

 「分かったのなら本気で来たまえ。さもなければ私を円から出すことも、傷をつける事も出来はしない」

 

 「くっ…!あまり……、舐めるんじゃないっての!!」

 

 デジェルの余裕な態度に激昂したさやかは、自身の武器であるサーベルを両手に握り、デジェル目がけて突進する。もはや先程のような油断、慢心は無い。が、直線的な攻撃にデジェルは余裕を崩さずにそのまま待ち構える。

 と、さやかの顔に薄らと会心の笑みが浮かんだ。

 

 「…そこだあ!!」

 

 さやかはサーベルの柄のトリガーを引き、双剣のブレードをデジェル目がけて発射する。ブレードはデジェル目がけて飛んでいくが、デジェルは表情を変えることなく右腕を振るって難なくブレードを受け止める。しかし、この一瞬、この一瞬デジェルの右腕が塞がった。

 

 「もらったあ!!」

 

 さやかは新しく作り出した刃をデジェルに向かって振りあげる。刃は二本、そしてデジェルの右腕は塞がっている…、さやかは勝利を確信した、が…。

 

 「残念だが、君の負けだよさやか君」

 

 「え…?なっ!?」

 

 デジェルの言葉と同時にさやかの持っていたサーベルの刃が同時に砕け散った。驚愕の表情を浮かべるさやかに、デジェルは黙って右手に握られたブレード、さやかが飛ばしてきた刃の内の一本をさやかのソウルジェムに軽く近づける。ソウルジェムを砕かれる…、そう感じたさやかは反射的にデジェルから離れた。

 デジェルは背後に後退したさやかを眺めながら、先程さやかのサーベルを砕いたブレードを地面に投げ捨て、軽く息を吐く。

 

 「……これで、二回目。さやか君、もしこれが実戦なら君はもう既に二回死んでいる事になる」

 

 「なっ…、何を、言って、あたしは、不死身…」

 

 「忘れたのか?魔法少女のソウルジェムは文字通り魂そのもの、それを砕かれれば問答無用に命を落とすと言うことを。今回私がその気ならば、ソウルジェムを砕かれて君は為すすべもなく絶命しているところだったんだ。違うか?」

 

 デジェルの言葉にさやかは言葉に詰まったように口を閉じる。

 デジェルの言うとおり、ソウルジェムは魔法少女の魂。コレが砕かれれば身体がどれだけ無事であったとしても、魔法少女は一瞬で死んでしまう。

 先程の勝負で、デジェルは一回目では指でさやかのソウルジェムに触れ、二回目ではブレードをさやかのソウルジェムすれすれに近づけている。つまりデジェルがその気ならばさやかのソウルジェムは木端微塵に砕かれ、さやかも文字通りただの死体となっていたのだ。

 その事実に呆然とするさやかに、デジェルは表情を変えぬまま話を続ける。

 

 「これで分かっただろう?幾ら君の身体が不死身だろうと抜け殻だろうと、勝てる勝てないは別問題だ。もしも肉体ではなく魔法少女の本体であるソウルジェムを狙われたらまず間違いなく即死だ。身体の状態がどうであろうとね。

 先程の戦いだってそうだ。今回はたまたまソウルジェムに命中しなかったからよかったものの、もしもソウルジェムに触手が命中、破壊していたなら君はまず間違いなく死んでいた。あんな無謀な特攻戦法を続けていたら何時かそうなるのは目に見えている。さらに言わせて貰うのなら…」

 

デジェルはさやかに歩み寄ると、変身を解除していたさやかのソウルジェムを軽くつまみ上げると、さやか達に見えるように掲げる。さやかのソウルジェムの青い宝玉のような部分、本来海のような青い輝きを放っていたそこは、黒い穢れによって汚れきっている。そんなさやかのソウルジェムの状態にマミと杏子は眉を顰め、まどかは驚いた様子で口を押さえ、さやかはばつが悪そうに顔を背けた。

 

 「見たまえ、このソウルジェムの穢れを。僅か二回の戦闘でここまで濁っている。回復魔法を使うと言うのはそれだけ魔力を消耗してソウルジェムを濁らせると言う事なんだ。      

 魔法を使うと言う事はそれだけ大量の回復用グリーフシードが必要だ。もしもソウルジェムが完全に濁りきったら君はもう魔法少女として死んだも同然だ。仮に魔女との戦闘中にそうなったら…、君はもう回復も、否、魔法少女としていられなくなる…。分かるね?」

 

 「……」

 

 本当は魔法が使えなくなる等という生易しいものではないのだが、と心の中で呟きながら、デジェルはさやかのソウルジェムをいつの間にか回収したグリーフシードで浄化し、さやかに返却する。浄化されて青い輝きを放つソウルジェムを無表情で見つめるさやかに、マミがおずおずと背後から近づいた。

 

 「さやかさん…。貴女はしばらく魔法少女としての活動を休むべきよ。そんな精神状態で戦ったら、いつか必ず魔女に殺されてしまうわ…。だから、ね?」

 

 「………!!マミさん…」

 

 弾かれたようにマミの顔を凝視するさやか。その顔はマミの言葉が信じられないという思いがありありと浮かんでいた。マミは構わずさやかに説き続ける。

 

 「貴女が何を思いつめているのかは私も分からない。ただ、魔法少女の魂が外に抉りだされているって事だけじゃないのはわかるわ。だから、しばらくは魔法少女としての活動を休んで気持ちを整理する時間を作った方が良いわ。グリーフシードは私が届けてあげるから安心して…」

 

 「…………やめてよ」

 

 と、マミの言葉を遮るようにさやかが小さな声で呟いた。え?と眉を顰めるマミに対して、さやかは寒さに震える子供のように身体を震わし、恐怖に顔を歪ませながら絶叫する。

 

 「やめてよ、やめてよ、やめてよ、やめてよ!!あたしからそれを取らないで!!それが無くなったら、それが無くなったらあたしはあたしじゃなくなっちゃう!!あたしは本当に何も無くなっちゃう!!お願いだから邪魔しないでよォ!!」

 

 「!?さ、さやかさん!!」

 

 マミの手を振り切ったさやかは脱兎のごとくその場から逃げ出した。あわてて後を追いかけるマミ達だが、路地裏から出たさやかの姿は、行きかう人混みの中に紛れ込んでしまい、見えなくなってしまっていた。

 

 「…!こうしてはいられないわ!皆で手分けしてさやかさんを探しましょう!佐倉さん、貴方も手伝って!!」

 

 「何であたしまで…って言いてえ所だけど、しょうがねえか。わーったよ。乗りかかった船だ。付き合ってやる」

 

 マミの指示に杏子は悪態を吐きながら、杏子は人混みの中に分け入って姿を消す。それに遅れながらマミもさやかを探して人混みの中に消えていく。

 

 「わ、私もほむらちゃんに連絡して…」

 

 「まどか君、その前に少しいいかな?」

 

 「え…?」

 

 まどかがいそいそと携帯でほむらに連絡しようとした時、デジェルがまどかに話しかけてくる。彼の言葉にまどかが顔を上げるとデジェルは真剣な目つきでまどかをジッと見ている。

 

 「君に少し、聞きたい事があるんだが、何故さやか君がああなってしまったか、君には心当たりがあるんじゃないのか?」

 

 「え?えっと…、それは…」

 

 デジェルの言葉にまどかは思わず口ごもる。確かに知ってはいるものの、みだらに口に出来るような話題ではないのか話そうとしない。

 デジェルはそんなまどかの顔を見下ろしながら言葉を続けた。

 

 「すまないが、話してはくれないか?それが彼女を、さやか君を助ける手がかりになるかもしれない」

 

 「………」

 

 デジェルの言葉にまどかはしばらく迷っているかのように視線を彷徨わせる、が、最終的に納得したのかデジェルの顔を見上げ、コクリと頷いた。

 

 

 美樹さやかSIDE

 

 さやかは逃げていた、マミから、デジェルから、杏子から、まどかから。

 …そして、己が魔女と戦えないと言う事実から。

 

 (あたしが…、あたしの戦い方が、間違っていた…?あたしじゃ魔女と戦えない…?)

 

 人混みを走り抜けながらさやかは己の心の中で自問自答を繰り返す。

 己の長所である回復魔法、そして魔法少女だからこそできる痛覚遮断、それを利用して受けた傷を治癒させながら突撃する…。先程の魔女戦でたまたま思いついた戦法ではあったが、それでも魔女戦では有効な戦法だと考えた、これならどんな魔女にも負ける事はないと思った。…だけど…。

 

 (…あんな無謀な特攻戦法を使っていては、いずれ君は死ぬ)

 

 デジェルに言われた言葉が胸の奥に突き刺さる。

 確かにソウルジェムは魔法少女の本体だ。これを砕かれたら幾ら肉体が無事でもその時点で死んでしまう事はさやか自身も分かっている。そして、デジェルと勝負したことで今回の魔女との戦いでソウルジェムが砕かれなかったのは、本当にたまたまだったからというのも嫌という程理解できた。そして、回復魔法の乱発で魔力の消耗が尋常でなくなるということも…。

 

 (…分かってる、分かってるよ…!あんな戦い方何度も出来るようなものじゃないってことも…。でも…!でも…!!)

 

 だからって魔女退治を止めることなんてできるはずがない…!!さやかは心の中で絶叫する。

 この身体は抜け殻、魂は石ころ、生きる屍の自分に残されたモノは、もはや魔女と使い魔を狩り続ける事しかないのだ。正義の魔法少女として、街の人達を守るために魔女を狩り続ける…、それしか自分の存在意義は無いのだ。

 

 (それを無くしたら…、それが無くなったら…、あたしは、あたしは、どうやって生きていけばいいのよ!!)

 

 走り続けるさやかの脳裏で、昨日の仁美との会話がフラッシュバックする。

 

 

 

 

 それは昨日の放課後、とある喫茶店で待ち合わせをしていたさやかと仁美は、窓際の席で向かい合って座っていた。

 

 「んで…、話ってなんなのさ仁美。ていうか今日習い事どうしたのさ習い事。休みなの?」

 

 さやかは運ばれてきたカフェオレをストローで啜りながら仁美に促した。一方の仁美は何か悩んでいるような、それと同時に何かを決意しているかのような表情でさやかを見つめている。

 さやかも流石に仁美の表情が真剣である事に気がつき、笑顔を引っ込める。やがて仁美は真剣な表情でさやかをジッと見据えながら、口を開く。

 

 「さやかさん、私、さやかさんにお話しがあって…」

 

 「うんうん、分かってるからさ~、もったいぶらずに早くいいなよ~」

 

 仁美は一度視線を伏せて、改めて決意の籠った視線をさやかに向ける。

 

 「単刀直入に言いますわ、私、上条恭介君の事を、お慕いしていますの」

 

 「え……?」

 

 さやかは、仁美が何を言ったのか一瞬理解できなかった。

 慕っている…?好き…?だれが…?だれを…?

 

 仁美が…、恭介の事を…、好き…?

 

 「え…えと…、それって、どういう…」

 

 「言葉どおりの意味ですわ、私もさやかさん同様、上条君に恋心を抱いていますの」

 

 はっきりとした口調で仁美の口から放たれた言葉に、さやかの思考が停止する。

 聞き間違いではないその言葉に、さやかは否応なしに理解せざるを、認識せざるを得なかった。

 仁美が、自分の親友が、恭介のことを、自分が恋している男のことを好きだということに…。

 

 「え?あ、あはは!そ、そっか、そうなんだ~!仁美も恭介の事が好きね~!あ、あいつも隅に置けないな~!あははははは!」

 

 「……さやかさん」

 

 誰が見ても強がっているようにしか見えない空笑いをするさやかに、仁美は憂いの籠った口調で彼女の言葉を遮る。

 

 「さやかさんは私よりずっと長い間上条君と過ごしてきました、そして長い間お慕いしていた事も知っています。だから、さやかさんには私より先に上条君に告白する権利がありますわ、いえ、そうでなくてはなりません」

 

 「ひ、仁美……?」

 

 「明日の放課後、私は上条君に告白します。私の告白まで一日猶予があります。ですからどうか、ご自身の後悔のない選択をしてください。…そして出来たら、上条君に告白して下さい。さやかさんになら、上条君をとられても後悔しませんから…」

 

 最後の方は蚊が鳴くような声になりながら、仁美はそこまで言うと自分の代金をテーブルにおいて、席を立った。

 背を向けて店から出ていく仁美を、さやかはただ呆然と眺めるしかなかった。やがて仁美の姿が見えなくなると、さやかはテーブルの上に突っ伏した。どうしたらいいか分からず、顔を苦悩によって歪めながら…。

 

 

 

 (結局、結局あたしは告白できなかった…!そりゃそうだよ…、あたしはもう人間じゃないもん、ゾンビだもん…!こんな体で、恭介に好きだなんて言えない…!抱きしめてもらえない…!キスしてなんて言えない…!)

 

 走りながらさやかは泣いた。息が切れるのも構わず、人にぶつかることも構わず、走りながら泣いて泣いて泣き叫んだ。

 走り続けているといつの間にか人気のない公園に辿りついていた。さやかは呆然と公園を見回す。人気はない。猫一匹すら居はしない。安心からかホッと息を吐くとさやかは公園のベンチにもたれかかるようにして座り込んだ。

 

 (あたし…何やってるんだろ…)

 

 空を見上げながら、さやかは呆然と心の中で呟いた。

 

 (あんな自殺まがいな戦い方して、デジェルさんやマミさんに駄目押しされて、まどかと杏子を心配させて…、あたしって本当に駄目な奴…)

 

 路地裏での魔女との戦い、そしてデジェル、マミの叱責を思い出し、さやかは一人自己嫌悪を覚える。

 あの時の自分には、もはや魔女退治しかないと思っていた。もう自分は人間じゃない、生きている意味は魔女を狩り続ける事しかない、そうしなければ生きている価値はない、今でもそう思っている。

 それをやめたのなら、自分はこれからどう生きていけばいい?何を支えにすればいい?その恐怖が、さやかはデジェル達の前から逃げ出すと言う選択を選ばせる事となってしまった。

 夕焼けに赤く染まる空、さやかはぼんやりとそれを眺める。

 

 (もう…、仁美は恭介に告白しているだろうな…、そして恭介も…)

 

 仁美の告白を受け入れて、晴れて恋人同士に…。そう考えた瞬間、さやかの胸の奥がズキリと疼いた。

 もう、この身体に魂は無い、この身体はただの肉人形、心が痛むはずもないと言うのに…。恭介と仁美、まどかとマミと杏子の事を考えれば考える程…。

 

 「胸が…痛いな…」

 

 自嘲するように、さやかはポツリとつぶやいた。…と、

 

 「やっと…、見つけたよ…。さやかちゃん…」

 

 聞き覚えのある声に、さやかは思わず視線を向けた。

 さやかの視線の先には、自分が心配を掛けてしまった親友、鹿目まどかが息を切らしながら立っていた。

 

  

 おまけ

 

 別外史、北郷邸にて…。

 

セージ「さてとアルデバランよ、後輩の教皇就任、まずはおめでとう。いや、まさか牡牛座が教皇就任とは私も予想できなんだ」

 

アルデバラン「うう…、あ、ありがとうございます…。お、俺もまさか牡牛座が教皇に選ばれる日が来るとは、全く思いもせず…」

 

ハクレイ「まあ確かにあ奴は幼いころから修行を受けた正規の聖闘士というわけではないが、心根のまっすぐな弱者を思いやる熱い心を持っておる。あの時代では教皇にもっともふさわしかろう」

 

アルバフィカ「まあ正規の聖闘士と言うのでないのならば私の後輩も同じですが。…結局マルスの戦乱で途中退場してしまいましたけどね」

 

シジフォス「俺は星矢という素晴らしい後継者に射手座が受け継がれたから、個人的に満足だ。お互い素晴らしい後継者を得れた事を喜びあおう、アルデバラン」

 

アルデバラン「…ああ!お前も素晴らしい後継者を持ったな、シジフォス!!」

 

デフテロス「お前ら俺を忘れるな。まあ俺は一応臨時だが天秤座だからな…。取りあえず紫龍、そして今は亡き玄武の二人の後継者に恵まれた事を……俺の弟子ではないから今あの世に居るこいつ等の師にでも線香代わりに報告してやるか」

 

アスミタ「フム、まあそれはいいがデフテロスよ。本来の担当の双子座についてはどう思うのかね?君自身は」

 

デフテロス「そんなことはアスプロスに聞け…、といいたいところだが兄貴は今どこぞの外史で東西統一したドイツの統治で忙しいらしいからな、ここしばらく帰ってこない。…まあ個人的に最初女だからと色々と不満だったが最後姉妹で分かりあえたのは何よりだった。…まあ残念だったのは和解してすぐに姉のパラドクスが死んでしまった事、か…」

 

アスミタ「…思えば君達双子座は、片割れの死の直前、あるいは死した後になってからようやく和解する例ばかりだったな。君達然り、後輩のサガとカノン然り…」

 

デフテロス「結局文字通り馬鹿は死なねば治らないと言う事だ。まあ今はこうして新しい生を謳歌しているわけだがな。…それはそうとアスミタ、お前の後輩への感想はどうなんだ」

 

アスミタ「む…?ああフドウのことか。感想と言われても…、まあ悪くはないと言ったところか。アレも世を憂い世の衆生を救うため、まずは友のマルスに与し、その後オリオン座との戦いの末に人間の行く末を見極めるためにアテナの下に就いた。取りあえずアテナだからと盲信せぬ点はまず及第点と言ったところ、か…」

 

セージ「そなたも最初はサーシャ様に不審を抱いておったからな」

 

アスミタ「あの頃の女神は神と呼ぶにはあまりに普通の少女過ぎていましたからね。まあ生まれてから貧民街で過ごしておりましたから当然と言えば当然ですが…」

 

ハクレイ「そうじゃの、カルディアの奴めが何処ぞに連れ出してから何処か変わったような印象が見受けられたが……、と、そう言えばカルディアは何処行きおった?」

 

アルバフィカ「マニゴルドにエルシドの奴もいませんね…。酒でも買いに行ったんでしょうか?」

 

シジフォス「…そういえばデジェルとレグルスも居ない。…レグルスの奴、テストが赤点すれすれだと言うのに大丈夫なのかあいつは…」

 

アルデバラン「一刀の奴が言う事には月に行ってストレスを発散させてくる、とか言ってたそうだ」

 

デフテロス「月だと?そんな所でどうやってストレスなんぞ………、ん?」

 

セージ「どうしたデフテロス?」

 

デフテロス「いや……、まさか、な…」

 

 

 別外史、月面 サクラボスコオリジナルハイヴ

 

マニゴルド「チクショオオオオオ!!!クソBETA共死に晒せやあああ!!俺の怒りを喰らいやがれええええ!!!二期に期待した俺がアホだったァ!!Ωでも蟹はネタ枠なのかよおおおおお!!!積尸気魂葬波ァ!!!」

 

デジェル「結局、結局水瓶座は装着者無し…!!結局氷河は白鳥座のままっ!!時貞は刻闘士に転向…!!オーロラエクスキューショオオオオオオオオン!!」

 

カルディア「うおおおおおお何故蠍は装着者がいねえ!!何故(仮)の装着者だけしか出てこねえんだ畜生ォォォォォォ!!!スカーレットニードル15連打ァ!!」

 

レグルス「あんまりにあっさりやられたから…!!ひょっとしたら生きてるんじゃないかって…!!第二期に味方になって活躍するって、信じて、いたって、いうのに…!!ライトニングプラズマアアアアアアア!!!」

 

エルシド「…山羊座はイオニアで終わり…、他に装着者は無し…、せめて…、死した後に改心する…、その希望すらも無し…!!山羊座が…!山羊座が一体何をしたああああ!!!」

 

マニゴルド「それに比べて他の連中はどいつもこいつも成り上がりやがって…!!特に牛は教皇射手座は美味しいとこ取り…!!こうなったらこの鬱憤全部このムシ共ぶっ殺して発散すっぞ!!月に派手な打ち上げ花火を上げてやらあ!!」

 

デジェル「いいだろう…、こうなったら月面全てを永久凍土と化すまで暴れるとしようか…!!」

 

カルディア「月面のBETA共は軽く億越えか…。ストレス発散にゃ少々物足りねェレベルだ畜生が!!」

 

レグルス「もーなんでもいいじゃん。とにかくこいつらぶっ潰してストレス発散させようぜ?これも一種の世直しなんだからさあ!」

 

エルシド「なんでもかまわん…、とりあえずこいつらを聖剣の錆にしてくれる…!!」

 

 

同時刻 ドイツ連邦共和国 首都 ベルリン 総統執務室にて…。

 

アスプロス「…ああ、ああ、分かった。とりあえずソ連の連中にはそう伝えておけ。俺もあとで向かう。…では後は任せたぞ」

 

アスプロス「全く、適当にハイヴ潰して帰ろうと思ったら成り行きで東西ドイツの統一を手伝った挙句総統に推挙されるとは…。結局引き受けてしまったが、こうなったらさっさとオリジナルハイヴ叩き潰して総統引退して適当な奴に引き継がせるか…。…と、こうしてはいられん、新型戦術機の開発、新兵の育成、インフラの整備、食料の増産及び失業者の再就職、ついでにシュタージ残党の阿呆共の一掃…、やることは山ほどある。これは今日も徹夜か…」

 

兵士「そ、総統閣下!!アスプロス閣下!!一大事です!!」

 

アスプロス「…ん?何だアイリスディーナ大尉か騒々しい。今仕事で忙しいんだ、要件は出来る限り手短に頼む」

 

兵士「はっ…も、申し訳ありません!!で、ですが緊急事態です!!に、にわかには信じられない話なのですが…」

 

アスプロス「だから…、何だと言うのだそれは…。まさかシュタージの残党共が反乱でも起こしたのか。だったら君達で軽く鎮圧…」

 

兵士「さ、先程観測所から入った情報なのですが…、げ、月面オリジナルハイヴが突如、謎の消滅を致しました!!」

 

アスプロス「……は?」

 




 さやかちゃん少しいじめすぎたかな…。とはいえ実際に影の魔女への特攻戦法は下手したら自分のソウルジェム壊しかねませんからね。ついでに魔女化の危険性もあると文字通り自殺行為な戦法ですから、デジェルさんから釘刺しておかないとまたやりかねない…。
 仁美ちゃん色々言われていますけど彼女も彼女なりにさやかの事を考えての行動だと思うんですよね。仮にさやかが恭介と付き合っても心から祝福したでしょうし。…ただ今回は間とキュゥべえが悪すぎた(笑)だけで。
 おまけはΩ最終回を記念して。本当に今更ですけど。
 ではみなさまよい連休を。

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