魔法聖闘士セイント☆マギカ   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 エピG打ち切り…残念極まりない…。
 新連載も良いけど、長期連載していたんだからちゃんと決着をつけて欲しかった…。せっかく盛り上がってきたところだったのに…。
 次の『セインティア翔』は…期待しても良いんでしょうかね。




第17話 一夜明けた後の魔法少女達

 まどかが魔女に襲われ、さやかが魔法少女になった日の翌日…。

 あの工場で自殺しようとしていた人々は、やはりというべきか自分達が何をしようとしていたのかを全く覚えていなかった。無論のことながら仁美も何も覚えておらず、「気が付いたらあの工場で眠っていた」、と眠そうな、そして訳が分からなさそうな表情をしていた。

 そしてその日の昼休み、マミは昨日の件について二人から詳しく事情を聞く為、屋上で一緒に昼食を食べることになった。

 

 「でも驚いちゃった。私が知らない間にさやかちゃん契約してたんだもん」

 

 「えへへ~、ごめんね、何も知らせなくって!ま、本当は怖くて契約する気は無かったんだけどね、ちょっと心境の変化があってさ」

 

 さやかはご機嫌な表情で弁当をガツガツと頬張る。まどかはそんなさやかをどこか羨ましそうな表情で眺めていた。

 一方のマミがさやかに向ける視線は何処か心配そうであった。

 

 「でも美樹さん、本当に後悔してないの?どういう願いを叶えたかは知らないけれど、これからはさやかさんは魔女との過酷な戦いに挑まなくちゃいけなくなるのよ?契約を解除する方法は、キュゥべえが言うには他の魔法少女の契約以外に無いって言うし…」

 

 「んも~、マミさんは心配性だな~。大丈夫ですよ、あたし、後悔なんてしてません。そ・れ・に!危険って言ってもマミさんや聖闘士の皆さんがついているんだから大丈夫っしょ!!」

 

 「ん、まあ…。頼りにしてくれるのは、嬉しいんだけど、ね…」

 

 さやかへの心配と、自分を頼りにしてくれることへの嬉しさからか、マミは何処か複雑そうな笑みを浮かべる。さやかもへへ~、と笑っていた。その表情は真上に広がる青空のように晴れやかで、明るかった。

 

 「あー、舞い上がっちゃってますね~、あたし♪これからの見滝原市の平和はこの魔法少女さやかちゃんががんがん守ってっちゃいますからね~♪」

 

 「うふふ、私っていう先輩の事も忘れないでね、さやかさん」

 

 「もっちろーん!あと聖闘士の皆さんのことも忘れてませんよー!」

 

 さやかは自分の願いを叶え、マミや聖闘士達と一緒に街や友達を護る為に戦える事がなによりも嬉しくてたまらないせいか、立ち上がってガッツポーズをしている。そんなさやかをマミは微笑ましげに、まどかは羨ましそうな、そして何処かすまなさそうな表情を浮かべていた。

 

 「どうかしたのまどかさん?どこか浮かない顔をしているけど、何か悩みでもあるの?」

 

 「あ、マミさん…、えっと…」

 

 「さーてーは!また変な事考えてるなー!このー」

 

 自分の背中に覆いかぶさってくるさやかにまどかはくすぐったそうに悲鳴を上げる。が、直ぐにその表情は何かを思い悩むような表情に変わる。まどかの表情に、さやかもちょっかいを出すのを止めて、床に座りなおす。

 

 「あのね、私も、魔法少女になれたらって…思って。…私も、さやかちゃんやマミさんみたいに、戦えたらって…」

 

 俯いたまま、まどかはボソボソと蚊の鳴くような声で呟く。魔女との戦いの恐ろしさで、魔法少女になる契約をすることが出来ない…、まどかは二人にそう独白した。

 最初はこんな自分でも誰かの為になれる、と喜び勇んでいたが、あの病院での戦いの後から、まどかの心の中には戦いに対する恐れというものが生まれていた。まどかが魔法少女にならないのは、シジフォス達の警告だけでなく、この恐れも原因であったのだ。

 無論戦いの恐れを抱いていたのはさやかも一緒であった。だが彼女は結果的に願いの代償として魔法少女となった。

戦いへの恐れを乗り越え、希望を叶えて魔法少女になったさやか…、まどかは彼女が羨ましくてたまらなかった。

まどかの告白を聞いたさやかは、呆れたと言わんばかりの表情で盛大な溜息を吐いた。

 

 「…あのさあまどか。あたしがこんなこと言えるのはね、なっちゃった後だからこそ言えるわけ。見つけたんだよ、命を懸けても叶えたい願いっていうものを。あたしは魔法少女になるべくしてなったんだよ。だから、まどかは別に引け目に感じる必要は無いんだよ」

 

 「さやかさんの言う通りよ、まどかさん。無理に願いを見つけて魔法少女になったとしても、まどかさんは後悔しないかしら?命を懸けても、戦いの日々を送る事になっても構わない…、そう思える願いを見つけてからでも契約は遅くないと思うわ?早ければいいってわけじゃないんだし」

 

 「マミさん、さやかちゃん…」

 

 さやかとマミの言葉を聞いて、まどかも少し気が晴れて笑顔を見せる。まどかの笑顔にマミとさやかも安心してニコッと笑みを浮かべた。が、さやかは突然何かを思い出したのか笑顔から一転、少し悲しげな表情に変わる。

 

 「…でもシジフォスさん、もうちょっと言い方ってもの有るんじゃないかな~…。いくらなんでもあんなこと言われたらさやかちゃん傷ついちゃうぞ~…」

 

 「?シジフォスさんに何か言われたの?」

 

 さやかの物憂げな表情にマミは気になり少し身を乗り出す。と、さやかの代わりにまどかが口を開いた。

 

 「はい…『魔法少女になるべきじゃなかった、魔法少女になったのは大きな間違いだ』って言われちゃって…。いくら魔法少女にさせたくないからって…、あんなこと言わなくても…」

 

 「…そんなことを…」

 

 まどかの返事を聞いて、マミは少し驚いた。

 確かにシジフォスは彼女達が契約する事を嫌っていたが、まさかそこまでいうとは思っていなかった。

 魔法少女が危険なのはマミも重々承知しているが、シジフォス、否、アルバフィカやマニゴルドはそれ以外にも魔法少女に対して、何かを警戒しているように感じた。

 

 (…そういえば聖闘士の人達って何故かキュゥべえの事をやけに毛嫌いしてたけど…)

 

 マミの知っている限り、シジフォス、マニゴルドだけでなくアルバフィカも、何故かキュゥべえを異様に嫌っていた。まだ年若い少女を死地に送り出すのが気に入らないのかも知れないと考えたが、彼等の様子を見ているとそれ以外にも何かあるような気がしてならない。

 考え込むマミを尻目に、さやかは昨日の事を思い出してがっくり来ている様子であった。

 

 「…あたしってそんな頼りないかな~…。そりゃ確かになりたてほやほやの新米魔法少女だけどね~…」

 

 「…きっとシジフォスさんは貴女に危険な目にあって欲しくなかったのよ。魔法少女は幾らベテランでも油断をすれば命を落とす世界だから。病院での私のように、ね…」

 

 若干落ち込み気味のさやかを、マミはなんとか思いついた言葉でフォローする。

 シジフォス達が何故キュゥべえを毛嫌いするかは分からないものの、彼女達を心配しているのは間違いないため、嘘は言っていないはずだ。

 さやかも納得したのか弱弱しくも笑みを浮かべる。

 

 「…そーっすね。あの時は本当にマミさん死ぬかと思いましたし…」

 

 「私も…、もしアルバフィカさんがマミさんを助けなかったらって思うと…」

 

 「二人共…、心配してくれるのは嬉しいけどあまり不吉な事言わないで?」

 

 確かにあの病院の魔女は強敵であった。まどかの言うとおり、アルバフィカが助けてくれなかったら自分の首と胴体は離れ離れになっていただろう。

 魔法少女の戦いは文字通り命懸け、いかに熟練であっても一瞬の油断が死に至る…。マミの場合はやむを得ない事情でなってしまい、魔女と戦う運命になってしまったが、まどかとさやかには平穏な日常を過ごして貰いたい…、シジフォス、否、黄金聖闘士達はそう願っているのだろう。そうするつもりは無かったとはいえ、まどかとさやかに魔法少女に対する妙な憧れを抱かせてしまった事にマミは罪悪感を感じてしまう。

 

 「あら巴さん、もう昼食は済ませてしまわれたのでしょうか?」

 

 と、屋上に続くドアが開かれて、そこから流れるような銀髪が特徴的な少女が屋上に姿を現した。

 少女は最近マミのクラスに転入してきた少女、美国織莉子。どうやら昼食を食べに来たらしく、両手には弁当と思われる包みを持っていた。

 

 「あ、織莉子さん、今日は屋上でお昼を?」

 

 「はい、たまにはキリカと二人で食べたいと思って、皆さんのお誘いはお断りしてきたんです。巴さんもこちらで?」

 

 「はい、たまには友達と一緒にご飯を食べたいと思って…」

 

 一度一緒に食事をした仲であるため、マミは笑顔で織莉子と会話をする。同じクラスという事もあり、一緒に昼食を食べた後もマミは織莉子としばしばノートを見せ合ったり会話をしたりとそれなりに交流していた。

 まどかとさやかはマミと談笑している全く面識のない少女を呆然と眺めていた。

 

 「あの、マミさん、この人は…」

 

 思い切ってまどかが問いかけると、マミは今頃二人に気がついたのかハッとした表情になる。

 

 「ああ、まどかさんとさやかさんは初対面だったわね。彼女は美国織莉子さん。最近私のクラスに編入してきた人なの。織莉子さん、彼女達は私のお友達で、彼女が鹿目まどかさん、こちらが美樹さやかさんです」

 

 「あ、あの、鹿目まどか、二年生です、初めまして」

 

 「えっと、同じく二年の美樹さやかです!どうかお見知りおきを」

 

 「ご丁寧にありがとうございます。私は美国織莉子、数日前にこの学校に転入してきた者です。どうかよろしくお願いしますね」

 

 マミに紹介されてまどかとさやかが挨拶をすると、織莉子も優雅に一礼する。そんな織莉子を横目に見ながら、マミはまどかとさやかにテレパシーを送る。

 

 『まどかさん、さやかさん、無関係な彼女の前で魔法少女の事を話すわけにはいかないわ。場所を変えましょう?』

 

 『え?あ、はい…』

 

 『わ、分かりました、マミさん』

 

 二人の返事を受け取ると、マミは既に空になっている弁当箱を包むと、織莉子に向かって一礼する。

 

 「ごめんなさい織莉子さん、私達はもう昼食を食べてしまいましたからこれで…」

 

 「あらそうなんですの?何だかお話していらっしゃったところを邪魔してしまったみたいですけれど…」

 

 「気にしないでください、邪魔にならないように私達は退散させていただきますわ♪さ、いきましょまどかさん、さやかさん」

 

 「は、はいマミさん!」「あ~、んじゃそういうことで失礼しまーす…」

 

 「あら、では皆様ごきげんよう、またいずれ一緒にお食事でも…」

 

 マミ達はこちらに礼をしてくる織莉子に礼を返し、そのまま屋上を後にした。

 

 

 織莉子SIDE

 

 「織莉子~」

 

 マミ達三人が屋上から居なくなると、物陰から織莉子の親友であるキリカが姿を現した。

 織莉子は突然現れた親友に驚く様子もなく、ニコリと優雅な笑みを浮かべる。

 

 「お疲れ様キリカ、…どうだったかしら?」

 

 「神様のお告げ通りだよ。あの青い子、淫獣と契約してた」

 

 「そう…、やっぱり、ね…」

 

 キリカの報告を聞き、織莉子の表情から笑みが消える。

 昨日、織莉子とキリカはアスミタからこの学園の生徒、美樹さやかが魔法少女として契約した事を告げられた。織莉子はとりあえず親友のキリカにさやかとマミ、そして魔法少女になった場合、最悪の魔女と化す可能性のある鹿目まどかの監視を依頼したのだ。

 

 「どうする織莉子?あの青い子、神様の所に連れていく?」

 

 「まだいいわ、アスミタ様もまだ時期ではないって言っていたし…。今はまだ様子を見ましょう」

 

 「イエッサー…、でも何だか可哀想だねーあの子も。自分があの淫獣に踊らされてると知らずに、さ」

 

 「ある意味知らない方が幸せかもしれないけど、ね。もし知ったらそれこそ自分の存在意義そのものが崩されかねないから。特に…」

 

 キリカの気の無い言葉に、織莉子は何処か憂いを秘めた瞳でドアを見つめる。

 

 「…巴さんとあの子、美樹さんは、ね…」

 

 織莉子の呟きは、キリカと二人きりの屋上で空しく響き渡った。

 

 

 暁美ほむらSIDE

 

 その日の授業が終わった放課後、まどかとマミはほむらと一緒にファミレスにいた。

 ちなみに本当はさやかも誘いたかったのだが、さやかは用事があると言って先に帰ってしまった。

 

 「それで、何か用かしら?鹿目まどか、巴マミ」

 

 ほむらは注文したコーヒーを啜りながら、何を考えているのか分からない表情でまどかとマミをジッと見つめている。まどかはほむらの視線に少し緊張気味になり、思わず隣に座っているマミに一瞬視線を向ける。マミはまどかを安心させるようにニコリと笑みを見せる。

 

 「あ、あのね、さやかちゃんの事なんだけど…。さやかちゃん、思い込みが激しくて、意地っ張りで、直ぐに喧嘩しちゃったりする所もあるけど、本当は友達思いですごくいい子なんだ…」

 

 まどかの話を、ほむらは黙って聞いている。まどかはそのまま話を続ける。

 

 「…優しくて、勇気があって、誰かのためにと思ったら頑張りすぎちゃう、私の自慢の友達なの…」

 

 「…でも、度を越した優しさは甘さに繋がるし、蛮勇は油断に繋がる…。正直言って、魔法少女としては致命的よ?巴マミ、貴女もそう思うでしょ?」

 

 話を振られたマミは、少し顔を強張らせると、注文した紅茶に口をつける。紅茶をソーサーの上に戻したマミは、真剣な、それでいて難しい表情でほむらを見る。

 

 「…正直言って、私もさやかさんには危うさを感じてはいるわ。彼女は魔法少女になる危険性は知っているはずなんだろうけど、どうもまっすぐ過ぎるというか、前しか見えていないというか…」

 

 「…要するに、単細胞って事ね」

 

 「…それは言いすぎじゃないかしら。まあとにかく、そういうわけで若干不安なのは確かね。願いについても分からないし…。…間違った事を願ってなければいいけど…」

 

 ほむらの容赦ない言葉に頬を引き攣らせながら、マミは深い溜息を吐いた。

 彼女は自分自身の命を助ける対価として魔法少女になり戦いに身を投じる事になったが、それは自分で選んだ道であり、結果的に命は助かったため後悔は無い。だが、さやかはどうなのだろうか?

 自分の生涯を懸けた願いに、後悔を抱かずにいれるだろうか。自分の願いが間違いじゃなかったと、最後まで胸を張っていられるだろうか?それがマミにとって不安な事であった。

 マミが難しい表情で考え込んでいるのをみて、まどかは慌てて口を開く。

 

 「そ、それでね!ほむらちゃんにお願いなんだけど、マミさんとさやかちゃんと仲良くなってくれないかな?魔女をやっつける時だって、ほむらちゃんも一緒ならずっと安全なはずだよね?」

 

 「魔女狩りなんてシジフォス達に任せればいいじゃない。グリーフシードも彼らに集めてもらえば…」

 

 「いつも聖闘士の皆さんに任せるわけにはいかないでしょ?私だって魔法少女として今の今まで魔女と戦っていたんだから、少しは役に立たないと」

 

 「…貴女はしばらく魔女狩りは休むんじゃなかったの?」

 

 「最近現役復帰したばかりよ」

 

 「…そっ」

 

 ほむらは表情を変えないまま、砂糖も牛乳も入っていないブラックのコーヒーを黙って啜る。

 そんな彼女の反応にマミとまどかは顔を見合わせ、まどかはジュースを、マミは紅茶をそれぞれ啜りだす。

 各々飲み物を飲み終えると、まずほむらが口を開いた。

 

 「最初に言うけど、私は出来ない約束はしないし、嘘もつきたくは無いわ」

 

 「え…、それって…」

 

 「…暁美さん…?」

 

 呆然とするまどかとマミを尻目にほむらは言葉を続ける。

 

 「美樹さやかは契約するべきじゃなかった。本当ならまどか、貴女と一緒に監視しておくべきだったけど、黄金聖闘士が上手くやってくれていると思って怠ってしまったわ。それは私のミスだけど…」

 

 ほむらはそこで言葉を一度区切ると、鋭い目つきでまどかとマミを見つめる。

 

 「…一度魔法少女になってしまったら、もう後戻りはできない。死人が生き返らないのと同じように、たった一つの希望の対価に、絶望という名の坂道を転げ落ちていく、それが魔法少女というものなのよ」

 

 「…暁美さん、それって、どういうことなの…?貴女は、魔法少女について何か知っているの…?」

 

 マミは疑念に満ちた目で、ほむらを睨みつける。まどかも困惑した表情でほむらをジッと見ていた。

 が、ほむらはマミとまどかの視線もどこ吹く風といった様子で平然としている。

 

 「…さあ?一つだけ言うのなら、魔法少女っていうのは、決して憧れるようなものじゃないってことだけかしら…?もしも真実を知ったら、ソウルジェムを粉々に砕きたくなるでしょうね…」

 

 ほむらは返事を返すと、カップに残ったコーヒーを飲みほした。まどかとマミはあまりに魔法少女に対して否定的なほむらの言葉に戸惑いを隠せなかった。

 ほむらは空になったカップを置くと、軽く肩を竦める。

 

 「まあ、とはいっても絶望的というわけでもないし…、そうね。もしも何かあった時には、彼女を助けるつもりよ」

 

 「!?ほ、本当に!?」

 

 「もっとも、彼女が嫌がったらどうしようもないけどね」

 

 少しばかり気の無い返事であったが、さやかを助けてくれると言うほむらの言葉にまどかは嬉しそうに目を輝かせる。そんな彼女の表情を見て、僅かだがほむらの表情が変化する。マミはそれに気がついたものの、直に元の無表情に戻ってしまったため、見間違いかしらと首をかしげた。

 ほむらはコーヒーの代金をテーブルに置くと、ポケットからメモ用紙を取り出してまどかに渡した。

 

 「私の携帯の番号とアドレスよ。何かあったら呼びなさい」

 

 「え…、あ、ありがとうほむらちゃん!!そ、それじゃあ私もアドレス教えるから!!」

 

 「あの…よかったら私も暁美さんのアドレス教えてもらってもいいかしら?」

 

 「…分かったわ。別に教えて減るものじゃないし…」

 

 ほむらは携帯を取り出すと、マミとまどかとアドレスを交換する。

 アドレスの交換が終わると、今度こそほむらはそのまま店から外に出ていこうとする。

 

 「あ、あのほむらちゃん!!」

 

 と、出ていこうとするほむらに、まどかが突然声をかける。思わず足を止めてこちらを振り向いたほむらに、まどかは思い切ったように口を開く。

 

 「…また明日、学校で、ね!」

 

 まどかの言葉にほむらは驚いたような表情を浮かべる。が、直ぐに元の無表情に戻ると、そのまま店を後にした。

 ほむらが店の外に出て、左側に視線を向けると、店の壁に寄りかかって缶ビールを煽っているマニゴルドの姿があった。足元に空の缶が数本転がっている所を見ると、ほむらが出てくるのを待っていたのだろうか。

 

 「ようほむら、愛しのまどかちゃんとのお話はいかがでしたかな?」

 

 「…変な事言わないでマニゴルド、それに、今日はまどかだけじゃなくて巴マミも居たのよ」

 

 「ほーう?それにしちゃ嬉しそうに顔にやけてやがるじゃねえの?」

 

 「……」

 

 マニゴルドに指摘されたほむらは、直ぐに表情を引き締めて、いつもの無表情に戻る。いつもの表情に戻ってしまったほむらを見て、マニゴルドは少し残念そうな表情を浮かべる。

 

 「んだよ残念。折角笑顔は可愛らしくて俺好みだってのによ。もう一度見せてくれや、オイ」

 

 「見世物じゃないの。はやく帰りましょう」

 

 マニゴルドのお願いを切って捨てると、ほむらは家路を急ぐ。背後でマニゴルドがブツブツと文句を言っているが、ほむらはあえて無視する。

 マニゴルドは地面に落ちている空き缶を拾い上げると、近くのゴミかごに放り込み、ほむらの後ろからついていく。

 

 「ところで、やっぱしあのさやかってガキは契約したみたいだな」

 

 「ええ、恐らく上条恭介の腕の治癒を対価にしたんでしょうね」

 

 「だろうな。ま、大体これは予定通りだ。例え魔女化しようが俺が冥界波でなんとかすりゃあ問題ねえ」

 

 「そうね…。でも、彼女が魔女化していくのを見るのは、流石に気分が良くないけど…」

 

 ほむらは以前の時間軸でのさやかの末路を思い出し、悲痛な表情を浮かべる。

 魔法少女となったさやかは、ほぼ確実に魔女となっている。例え魔女にならなかったとしても、魔女との戦いで力尽きて死んでしまっている。

 本来ならば契約させないのが一番だったが、してしまった以上どうしようもない。

 幸いこの時間軸ではまどか、マミ、さやかが自分に抱いている印象はそこまで悪いものではなさそうなので、出来る限りさやかが魔女化しない様に誘導していくことも不可能ではないだろう。いざとなればマニゴルドの冥界波がある…。

 

 「ま、そりゃ知り合いが化け物になるのは気分良くねえわな。だけどよ、そのさやかってのが絶望スンのは、確か親友に惚れた男横恋慕されたからだろうが?」

 

 「…そうね、まどかと美樹さやかの親友の志筑仁美っている子なんだけど…。美樹さやかに上条恭介に告白するって宣言して、それで美樹さやかは告白できずに…、って事」

 

 「んだよ。要はそんなのテメエの問題だろうが?そりゃ告白する意気地の無かったさやかってガキの責任だわな、うん」

 

 「…告白の宣言を受けた時、美樹さやかは自分の身体の事で悩んでいた時だったのよ。自分はもう人間じゃない、ゾンビだ。だから恭介と付き合えない、ってね」

 

 実際さやかはああ見えて意外と繊細な所がある。

 実際自分の悩みや苦しみ等の負の感情を溜めこみ、その感情全てを魔女退治にぶつけてしまった結果、グリーフシードを濁らせてしまい、魔女化してしまう…。おもえば、自分が今まで出会った魔法少女の中でも彼女が一番魔女化する危険性が高いような気がする。

 自分が人間じゃなくなったと思いつめている所へ志筑仁美が上条恭介が好きだったと告白してきたのが完全な止めとなってしまった。仁美としては抜け駆けをしたくなかったのが本音だったようだが、皮肉にもこれが、彼女の親友を殺す破目になってしまった。

 

 「んだよ、そんじゃあ解決法簡単じゃねえか?」

 

 ほむらの話を聞いたマニゴルドはあっけらかんと笑顔を浮かべる。…が、その笑顔を見たほむらは、何故か嫌な予感がした。何やら碌でもない案が出てきそうな気がする。

 マニゴルドは人差し指をほむらにつきたてると、より一層笑みを深める。が、何処か邪悪そうに見えるのは気のせいだろうか…?

 

 「…消すか?その仁美ってのを」

 

 …予想通り、やはり碌な案ではなかった。

 

 「却下。腐っても一応まどかと美樹さやかの親友なのよ?彼女は。もし死んだら彼女達が悲しむでしょ?」

 

 「分かってる分かってる、冗談だっての」

 

 マニゴルドはヘラヘラと笑いしながら肩を竦める。ほむらは疲れたように溜息を吐いた。

 幾ら冗談とはいえ流石に心臓に悪い。幾つもの時間軸を渡り歩いてきたほむらでも、流石に見知った人間に死なれては良い気持ちはしない。

 

 「ま、あいつらの事はデジェルに任せときゃ問題ねえだろ。あいつの事だ、もう手は打ってるだろ」

 

 「…だと良いんだけど…。それよりも、早く佐倉杏子と接触したいところね」

 

 ワルプルギスの夜を倒すのに、人員は多ければ多いほどいい。

 マニゴルド曰く、黄金聖闘士の力ならばワルプルギスどころかまどかが魔女化した存在『救済の魔女』も一人でも倒せるとの事らしいが、それでも周囲の被害を最小限にするためにも、何より自身の邪魔をされない為にも佐倉杏子を味方に引き入れておいて損は無い。

 

 「牛とは接触できた。多分今日明日中にゃ会えるだろ?」

 

 「そうね。巴マミとも協力を取り付けられる目処は立ったし、後は佐倉杏子を引き入れて、美樹さやかをなんとかすれば…」

 

 最良の結末を迎えようと頭を巡らせるほむらを、マニゴルドは横目でジッと眺めている。

 

 「…なんだかな、お前、何だかんだ言って、甘いな」

 

 「何よ、甘いってどういう事なの?マニゴルド」

 

 マニゴルドが何気なく呟いた一言に、ほむらは少しムッとした表情になる。そんなほむらをマニゴルドは意地悪げな、そして少しだけ優しげな表情で笑っている。

 

 「お前まどか以外興味ないだの何だの言っておきながら、結局他の魔法少女も救おうとしてんじゃねえか。結局お前、性格は変わっちゃあいるけど根っこは元のまんま、甘ちゃんのままだよ」

 

 マニゴルドはほむらの横を歩きながら、言葉を続ける。

 

 「あの病院でマミの代わりに魔女狩ろうとしたのも、結局はマミに死んでほしくなかったからだろうが。確か最初の時間軸でまどかと一緒にお前を救ってくれたんだっけ?ま、そりゃ恩に着て当然だわな」

 

 「なっ!?わ、私は別に…。ただ、彼女達が死んだらまどかが悲しむって思ったから…」

 

 「へいへいツンデレツンデレ」

 

 「だ、誰がツンデレよ…ってちょっとマニゴルド!?待ちなさい!!待ちなさいってば~!!」

 

 背後で上がるほむらの叫び声に、マニゴルドは爆笑しながら逃げていく。そんなマニゴルドをほむらは顔を真っ赤にして全速力で追いかけるのだった。

 もしもこの場にまどかとマミがいたら、いつものほむらとのギャップに驚いたことだろう。もっとも、逆に面白がって大笑いするかもしれないだろうが。

 




 エピソードG…、打ち切りエンドで完全に不完全燃焼です…。結構楽しみにしていたのに…。カミュとの決着付けられなかったオケアノスさんマジ不憫…。
 今回はかなり短めですが、さやかが魔法少女になった後の話という事で。杏子との出会いは次回という事で。
 にしても新連載の「セインティア翔」って…。仮面の掟とか色々突っ込みどころ満載ですが、まあ読んでいればそのうち面白くなるんでしょうか?
 ΩやエピGも最初は微妙かと思いましたけど見ている内に面白くなってきましたしね。


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