魔法聖闘士セイント☆マギカ   作:天秤座の暗黒聖闘士

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もう知っている方もいらっしゃるかもしれませんが、今回の話は杏子とアルデバランの出会いの話です。
 しかしΩでは水瓶座と山羊座が不憫なこと不憫なこと・・・。特に山羊座はロリコン、ストーカーって・・・。シュラとエルシドが草葉の陰で血涙を流しているのが目に浮かびます・・・。


プロローグ2 孤独な少女と黄金の野牛

 佐倉杏子は一人だった。

 

彼女には家族も、帰るべき家もない。

 

 もう全て、失われてしまった。

 

 自分が魔法などというものに頼ったせいで…。

 

 だから彼女は決めた。

 

 もう他人の為には魔法を使わないと。

 

 …もう魔法は自分の為にしか使わないと……。

 

 

プロローグ2 孤独な少女と黄金の野牛

 

 太陽も傾き、空も少し赤くなり始めている頃、スーパーは客でごった返していた。

 スーパーの中の客の大半は、夕飯の食材を買い求める人々であり、あちこちのカウンターは客でごった返しており、店員達もその対応に追われていた。

 そんなスーパーの喧噪のなか、赤いポニーテールの少女、佐倉杏子が棚の間を、人垣を通り抜けるように移動していた。

 杏子はさり気なく棚を見て、商品を物色しながら移動をする。その様子は一見すると買い物客が目当ての商品を探しているようにしか見えない。

 やがて菓子の陳列してある棚に移動し、ポテトチップスの置かれている棚の前に立つとポテトチップスの袋を掴み取ろうとした。

 

 「金も払わずに、物を盗っていくのは感心せんな」

 

 と、いきなり隣で何者かの声が聞こえた。杏子はギョッとした顔で隣に顔を向けた。

 

 そこには一人の巨漢が腕を組んで立っていた。

 モスグリーンのジャンパーに青いジーンズを着込み、2メートル以上はあるであろう体は隆々の筋肉で覆われている。髪の毛は肩にかかるほどの長髪で、その眉毛は両方とも繋がっていた。

 杏子はこれほどの巨漢の接近に気がつかなかった事に驚きながらも、何とか表情を平静に戻す。

 

 「…んだよオッサン。あたしを万引き犯呼ばわりしようってのかよ。今からこの菓子買おうとしてたってのによ、言いがかりもいいところだぜ」

 

 そう言って杏子は目の前の巨漢を睨みつける。男はその視線を平然と受け止めつつ、にやりと笑みを浮かべる。

 

 「ふん、どう見ても仕草が買い物客と言うより盗人に見えたのでな。少々つけさせてもらった。しかし俺以外だったなら誰も気がつかなかっただろうが。相当やりこんでいるようだな?」

 

 男の言葉に杏子は警戒心を露わにして後ろに後ずさる。それを見た男は突然後ろを向くとスーパーの出入口に向かって歩き始めた。が、数歩歩くと杏子の方を振り向いて片手で着いてくるようにジェスチャーをした。

 

 「…んだよ、あたしに何か用かよ」

 

 「少しお前と話したくてな。話が終わったら飯でも奢ってやろう」

 

 男はそう言ってニッと笑みを浮かべる。その笑顔は何故か杏子を安心させるような雰囲気を漂わせていた。

 

 「…分かったよ、約束は守れよ」

 

 杏子はそのまま男の後ろから着いてきた。

 やがて男と杏子はデパートを出た。そしてそのまま市街地を歩き、やがて路地裏に入ると男は足をとめた。

 

 「…さて、では質問だが…、お前の名前は佐倉杏子、でいいな?」

 

 「!?……何で知ってやがる…!!」

 

 突如自分の名前を言い当てた男に、杏子は再び警戒感を露わにする。だが男はそれでもなお涼しげな表情をしていた。

 

 「俺の依頼主から教えられた。お前の名前も、そしてお前が魔法少女とか言うのであることもな」

 

 「……!!!」

 

 杏子は無意識に指輪型になったソウルジェムを撫でる。

 この男は自分の名前だけじゃなく自分が魔法少女であることも知っている。

 自分が魔法少女だってことはマミ以外は知らないはずだ…。

 何でこいつが知ってるんだ…!?

 

 「てめえ…、一体何者だ!!」

 

 「安心しろ、少なくともお前の敵ではない」

 

 「んなこと言って信用できるか!!」

 

 杏子は激昂の言葉と共に瞬時に魔法少女の姿に変身する。それを見た男は溜息を吐いた。

 

 「やれやれ、俺は話をしたいだけなのだがな。まあ仕方がない。お前の気が済むまで相手をしてやろう」

 

 男はそう言うと右手の中指と親指を合わせる、いわゆる「デコピン」の形にすると右腕を杏子に突き付けた。

 

 「さあ、かかってこい」

 

 「オッサン、てめえ、舐めてるのかよ!!」

 

 「何を言っている。子供の躾にはこれで十分だ」

 

 「上等だ!!!」

 

 さらに激昂した杏子は手に持った槍を突き出し、男に突撃する。

そして槍の射程圏内に入った…、と思った瞬間、

 

 「!?なあっ!?」

 

 杏子の体が弾き飛ばされ地面に叩きつけられた。地面に叩きつけられた衝撃で背中に痛みが走るものの、杏子はそれを抑え込んで立ち上がる。

 一方の男は合いも変わらず右手をデコピンの形にしたまま平然と立っていた。

 

 (…何だ!?)

 

 杏子は警戒しながら男を見る。男は涼しい表情で杏子を眺めていた。

 

 (…ムカつくぜ…。ならこれでどうだ!!)

 

 杏子は空中に飛び、槍の柄を幾つも分割し、多節棍状にする。

 

 「ほう、中々面白い技を使うな」

 

 「粋がってんのも今のうちだオッサン!!」

 

 杏子から放たれる多節棍は、不規則な動きをしながら男に迫りくる。その槍の先端は、確実に男の背中を狙っている。避けられるはずがない。そう、杏子は確信していた。

 

 …が、

 

 「なっ!?また!?」

 

 槍は再び何かに弾かれ、男には届かない。

 杏子は地面に着地すると、男をじっと見る。

 

 (どうなってやがる。確かにあたしの槍は何かに弾かれたような感覚だった。だがあの野郎は全然動いた様子がねえ。いったい何が起こってやがる!!)

 

 杏子は男を睨みつけながらジリジリと距離を保ちながら周囲を回る。

 

 「てめえ…、まさか魔法を…」

 

 「残念だが俺はお前と違って魔法は使えん。お前の槍を弾いたのは、これだ」

 

 男はそう言って右手の中指を何度か親指に引っ掛けながら弾いた。それを見た杏子は、怒りのあまり顔が真っ赤になった。

 

 「ふざけたこといってんじゃねえ!!あたしの槍をデコピンで弾いたって言いてえのかよ!!」

 

 「ふざけてはいない、事実だ。お前の槍は俺のデコピン程の威力もない。そんな程度の槍では、俺は倒せん」

 

 「舐めんじゃねえ!!だったら今度はその指を削ぎ落してやる」

 

 杏子は槍を構え中空を滑空しつつ、男に突進する。

 

 「小細工が通じぬからまっすぐ突撃してきたか、だが、その程度では…」

 

 男は再びデコピンで弾き飛ばそうと中指に力を込める、が…、

 

 「甘えんだよ!!」

 

 瞬間、男の体が鎖のようなもので拘束された。杏子の魔法によって作られた鎖だろう。相当な頑丈さを持っており、並みの人間では指一本動かせなくなるであろう。

 

 「これで、終わりだ!!」

 

 杏子の槍が、男の心臓を突き破ろうと、迫る。勝利を確信した杏子の顔に笑みが浮かぶ。

 

 

 

 

 …が、

 

 

 

 

 ベッチイイイイイイン!!!「うぎゃあああああ!!!」

 

 悲鳴を上げて吹き飛ばされたのは杏子の方であった。杏子は地面を転がって、仰向けになって倒れ伏した。槍は地面を転がった時に落としてしまい、男の足元に転がっている。

 

 「…な、何で、何で動けるんだよ…、あたしは、確かにてめえを拘束…」

 

 杏子が顔をあげて困惑の表情で男を見る。その額には真っ赤なあざが出来ており、目は痛みで涙が滲んでいた。

 

 「ふ、この程度の拘束で、俺は縛られはせん!!」

 

 男はそう言ってまるで紙でできた紐を引き千切るかのごとく、彼女の鎖を引き千切ったのである。

 そして男は、足元に落ちていた槍を足で踏みつけ、真ん中からボキッと圧し折った。

 

 「さて、もうお前の獲物は無くなった。どうする。これ以上続けても意味はないと思うが…」

 

 「な、舐めんじゃねえよ…、あたしが、あたしがこんな程度でやられるわけねえだろうがあ!!!」

 

 杏子は瞬時に新しい槍を作り出すと、構えて敵を睨みつける。男は杏子を感慨深そうに見ていた。まるで、かつての友を思い出すかのように…。

 

 「…似ているな」

 

 「ああ!?」

 

 「お前の眼、そして殺気も。俺が以前出会った男によく似ている」

 

 その男は、何処までも孤独だった。

 

 その瞳には凶暴さと哀しさを宿し、

 

 誰とも交わらず、敵も、味方も無く、

 

 ただ、己が主と認めた少年を護るためだけに戦う孤独な男。

 

 「だからであろうな。俺は、お前を捨ててはおけん」

 

 「…だったら、あたしをどうしようって言うんだよ…!!」

 

 「決まっている」

 

 男は好戦的な笑みを浮かべた

 

 「お前の曲がりきった性根を、俺が叩きなおす!!」

 

 「ッッッ!ざけんじゃねえぞテメエ!!!」

 

 杏子は持っていた槍をさらに分割し、先程のような多節棍状にする、が、その長さは先ほどとは桁違いに長い。その長大さはもはや多節棍というよりも鞭と言ったほうがいい。

 

 「テメエみたいな、テメエみたいな偽善者が!!あたしン中に土足で踏み込んでくるんじゃねえ!!!」

 

 杏子は絶叫を上げて多節棍を思いっきり男に叩きつける。男は防御をするでもなく、避けるのでもなく、その一撃を受け止めた。その拍子に男の着ていたジャンパーが裂ける。

 だが、攻撃はそれで終わらない。杏子は何度も何度も多節棍を叩きつけ、斬りつけ、殴りつける。そのたびに男のジャンパーは裂け、常人ならば悶絶し、ショック死してしまうであろう痛みが走る。しかし、男は何もせず、ただ杏子の攻撃を受け続ける。

 

 (ちくしょう!!ちくしょう!!何が放っておけないだ!!何が叩きなおすだ!!ふざけんな!!ふざけんな!!ふざけんな!!)

 

 お前に何が分かる!!希望も何もかも打ち砕かれた気持ちが!!

 

 お前に何が分かる!!父親に拒絶されて、罵倒された時の気持ちが!!

 

 そして…、家族が居なくなって、自分ひとりだけ残された時の気持ちが…、

 

 

 

 

 お前に、分かるのかよ!!!!

 

 「ああああああああああああああ!!!!!」

 

 多節棍で殴りつけながら、杏子は絶叫を上げる。まるで、溜めこんだ怒りを、憎悪を吐きだすかのように・・・。

 

 が、次の瞬間、彼女の振るっていた槍の穂先が、弾け飛んだ。

 

 「なっ……」

 

 「言ったろう。お前の攻撃は、一切効かんと!!」

 

 杏子が驚愕のあまり動きを止めた瞬間、男は一瞬で杏子のすぐ前に接近し、杏子の顎にデコピンを打ち込んだ。

 

 「が……あ……」

 

 顎に喰らった衝撃で、杏子の脳が頭蓋骨のなかで大きく揺れる。

 

 (ち…く…しょ…お…)

 

 杏子は悔しげな表情で、地面に倒れ、意識を失った。

 

 

 

 

 

 「全く、大したじゃじゃ馬だな。あいつもとんだ奴の護衛をしろといったものだ。まあ、確かに俺向きかも知れんが」

 

 男は意識を失った杏子を片手で持ち上げると、肩に背負う。

 

 「さて、いつまでも此処にいるわけにもいかんし、近くの公園にでも向かうか。ついでに何か飲み物と食い物でも買っておくか…」

 

 男はそう呟きながら路地裏から歩き去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 「……ん、うう…、こ、此処は…」

 

 杏子が目を覚ますと、目の前には満天の星空が広がっていた。そのまま周囲を見渡してみると、どうやらここは公園であるらしい。あの路地裏から誰かに此処まで運んでもらったのだろう。

 

 「…!!そうだ!!あいつは…」

 

 杏子は瞬時に起き上がると、自分の体を覆っていたモスグリーンの布が体から滑り落ちる。 よくよく見るとあちこちが破れ、裂けている。杏子はそれに見おぼえがあった。これは杏子を魔法も使わず倒したあの男のジャンパーだ。

 

 「お!起きたか。随分長い間寝込んでいたな。少々手加減が足りなかったか…」

 

 「っ!!テメエ…」

 

 と、自分が寝ていたベンチの隣で、あの男が朗らかな笑みを浮かべて座り込んでいた。着ている上着は黒いワイシャツ一枚、随分と寒々しい格好だ。

 

 「いやすまんな。さすがに路地裏にそのまま放っておくわけにもいかずにここまで連れてきたんだが、中々目を覚まさんから弱っていたのだ。先程は手加減が足りなくてな、すまんすまん」

 

 「ざけんじゃねえ!!今ここで決着を…」

 

 杏子は起き上がって男に襲いかかろうとした瞬間、杏子の目の前に何かが突き出された。

突き出されたそれは……、たこ焼き。

 

 「腹が減っているだろう。食え」

 

 たこ焼きを突きだしながら、男はニヤリと嫌みの欠片も無い笑みを浮かべる。

 

 「…何のつもりだよ」

 

 「ん?なに、長い間寝ていたのだ、腹も減っているだろうと思ってな。飲み物も用意してある」

 

 男はそう言ってもう片方の手に缶ジュースを持って、杏子に突き出す。

 

 「……」

 

 杏子は無言でその二つを受け取ると、ジュースはベンチにおいて、たこ焼きのパックの蓋をあけ、付属していた爪楊枝を指につまみ、たこ焼きに突き刺して、口の中に放り込んだ。

 

 「!?あ、あひっ!あふっ、あふっ!!」

 

 「あー、全く…。熱いものを急いで食うからだ。ゆっくり食え、ゆっくり」

 

 「う、うるへー!!」

 

 アツアツのたこ焼きを口に放り込んだせいで、その熱さに悲鳴を上げる杏子を男は呆れた表情でたしなめ、杏子はそんな男の言葉で顔が真っ赤になる、主に羞恥心で、だが。

 

 「まあ落ち着け。先ほど言ったように俺はお前に危害を加える気はない。さっきの戦闘はまあ、正当防衛と言ったところだ、悪く思うなよ」

 

 「…ん、まあ、アタシも少し早とちりだった、けど・・・」

 

 男の言葉に杏子はバツの悪そうな表情でたこ焼きを口に入れる。今度はちゃんと冷めていたので口をやけどするようなことはなかった。

 

 「…ところで、アンタ一体何者だよ。何でアタシの名前とアタシが魔法少女だってこと知ってんだよ」

 

 杏子は思い出したように男に向かって爪楊枝を突き付け、質問をぶつける。男は頭を欠きながら困ったような表情を浮かべた。

 

 「やれやれ、人にものを聞くときは自分の名前から名乗るのが礼儀だろうに…、まあいい。俺がお前の事を知っているのは俺の依頼人からの依頼でお前の事を聞いたからだ。そして俺の受けた依頼は、お前を護ることだ」

 

 男の言葉に、杏子はきょとんとした表情を浮かべた。が、直ぐにその表情を引っ込めると馬鹿にしたような表情で再びたこ焼きを口に入れ、咀嚼する。

 

 「ハッ、アタシを護る?訳がわかんねえ。アタシなんか護ってどうすんだよ。それにアタシは護衛なんて必要ねえ、一人で十分だ」

 

 「その割には俺に負けてたな」

 

 「う、うるせえ!!あんときは…、その…、ちょ、調子が悪かっただけだ!!」

 

 焦った表情で男に反論を返す杏子に、男は豪快な笑い声を上げる。

 

 「ハッハッハッハッハ!!まあいい。だが生憎とこちらも仕事でな。それにお前の事がどうにも放っておけなくてな」

 

 「例の知り合いに似てるって話かよ…」

 

 「…まあそれもあるな」

 

 男は苦笑いをしながら何処からか取り出した缶コーヒーを開け、煽る。それを見ながら杏子は傍に置いてあったジュースに口をつける。

 

 「…いいよ別に、アタシなんか護らなくても。どうせ死んでも悲しむ人なんざいねえんだし…」

 

 「あまりそんな風に自分を卑下することを言うな」

 

 杏子の自嘲気味な言葉に、男は厳しい表情で杏子をたしなめる。が、それを聞いた杏子は乾いた笑い声をあげながら、何処か寂しげな笑みを浮かべた。

 

 「本当だって…。アタシの家族も、アタシを置いて先に死んじまったんだしさ…」

 

 そして杏子は語り始めた。自分の父親がとある教会の神父であったこと、人々を救うために教義に無い教えを説き始めたこと、そのせいで破門され、人々がどんどん離れて行ってしまったこと、それが許せず、魔法少女として契約し、全ての人々が父の話に耳を傾けてくれるように願い、それが叶ったこと、

 …そして、自分が魔法少女になったことと、人々が自分の話を聞くようになったことが杏子の願いによる事だと知った父が、杏子を魔女と呼び、最後には杏子一人を残して母、妹と共に心中してしまったこと…。

 

 「結局、アタシは間違ってたんだよ…。魔法で他人を救っちゃいけなかった。魔法なんかに頼ったからこんなことになっちまったんだ。だからアタシは誓った。自分の為にしか魔法を使わないってさ…」

 

 杏子は自嘲気味な笑みを浮かべながら、近くのゴミかごにたこ焼きの空き容器と空き缶を放り込んだ。男は、ただ黙ったまま、杏子の話を聞いていた。

 

 「…てなわけだ。アタシは一人で勝手に生きて、勝手に死ぬ。それだけだ。護られる必要も、その資格もねえんだよ」

 

 杏子の言葉を聞き終えた男は、黙って立ち上がると、杏子の額にデコピンを喰らわした。

 

 「っあっだ~!!!」

 

 「馬鹿な事を言うな。自分で勝手に生きるだの勝手に死ぬだのほざきおって…。

これは相当な躾が必要なようだな…」

 

 「はあ!?テメエ何言って…「とりあえずここでは冷える。まずは何処かで飯でも食いに行くぞ」…ちょ、ちょっと待て!!さっきたこ焼き食ったじゃねえか!!」

 

 杏子の言葉に男は振り向くとニヤリと笑みを浮かべた。

 

 「あんなものでは腹一分目にもならんだろう?それに言っただろうが。話をしたら飯を奢ってやると。約束は守ってやる」

 

 「ま、まあ何か食えるんなら良いけど…」

 

 「なら行くぞ。俺がきっちりと食事のマナーというものについて叩きこんでやろう」

 

 「ふざけんな!!食事のマナーなんざ既に極めてらあ!!オッサンこそどうなんだよ!!」

 

 杏子の挑発に男はニヤリと笑みを浮かべた。

 

 「ほう、面白い。ならお前のマナーとやら、しっかり見せてもらおうか。後俺はオッサンではない!!」

 

 「ああ!?んじゃあ何て名前なんだよ?」

 

 

 

 「俺の名前はアルデバラン。牡牛座のアルデバランだ」

 

 男、アルデバランは夜空に光輝く星を見上げながら、自らの名を名乗った。

 

 

 

 

 

 黄金の野牛との出会い、これが杏子の人生、そして運命を大きく変えていくことになるのだった。

 

 


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