拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

81 / 85
第81話

 後日、全ての謎を解明すべくセシリアは自家用ジェットを走らせイギリスへと向かっていた。あのレーザーは衛星軌道上からのものだと判明し、一体何者によるものなのか。そしてチェルシーとの関係は。何故開発中のBT第三号機が完成しているのか。セシリアの中で謎は深まるばかり。

 憂鬱な表情が乗る自家用ジェットにはラウラ、デュノア、篠ノ之箒、凰鈴音、更識姉妹に一夏。+山田先生に千冬と言うメンツが乗っていた。

 全ては一緒に乗る一夏が知っている事だがセシリアがそれを知っている筈も無く、一夏は窓の外を見ていた。憂鬱な表情のセシリアにデュノアは声をかけセシリアの不安を少しでも和らげようと無駄な努力をする。

 

「セシリア、大丈夫?」

 

「ありがとうございます、デュノアさん。ですが、暫く一人にして頂けませんか?」

 

 セシリアのその言葉にデュノアは千冬に助けの視線を向けるが千冬は首を横に振り構うなと言う意思表示をした。

 

「……解った。それじゃあ、何かあったら声をかけて。僕にできる事なら何でもするから」

 

 セシリアから離れるとデュノアは千冬の傍を通る。

 

「デュノア、今のオルコットには状況を整理するための時間が必要だ。ましてや近しい者からの裏切りとなるとその傷は大きい。助けが必要な時もあるだろうが一人の時間も必要だ」

 

「……解りました」

 

「それに私や山田先生も引率できているのだからいざとなれば全力でサポートするさ」

 

「織斑先生ありがとうございます」

 

しかし、その時突然窓を見ていたラウラがセシリアに問う。

 

「おい、セシリア。この飛行機に対赤外センサーは付いているか?」

 

「?何でですの――」

 

だがセシリアはラウラの後ろの窓に映る影を見て言葉を失う。

 

「ああ、つまり――こういう事だ!」

 

「み、ミサイル!?」

 

 爆音が機内に鳴り響き飛行機は翼をミサイルによってやられてしまう。制御不能となった飛行機を必死に制御しようとするパイロット。だが、その頑張りも空しく飛行機はどんどん高度が下がっていく。グルグルと機体を回転させ地面に落ちていく飛行機。

 セシリアはパイロットを、一夏は千冬を抱きかかえ各人ISを展開した。

 翼をやられたジェット機から全員が脱出する。無人となった飛行機から外に出るとロケットランチャーを捨てた女が専用機持ち達を待っていた。

 

「おう、糞が!さっきの攻撃は手前か!!」

 

 空中に飛翔していたのは専用IS『ロシアの深い霧』零号機を身に纏ったかつてのロシア代表ログナー・カリーニチェだった。彼女に食って掛かるのは勿論一夏。ドイツで一時燃料補給してイギリスまでのフライトを予定していたのに飛行機を攻撃されたのだ。予定が全部狂い、一歩間違えれば千冬が飛行機諸共墜落していたかもしれない事実は怒るに十分な理由だった。

 

「ああ゛、死ぬ覚悟はできてんのか!?楽に死ねると思うなよ!」

 

 千冬を抱きかかえている以上は両手は使えない。だが、片手だけでも目の前の敵を殴り殺す事は出来る。

 片手で千冬を抱きかかえたまま今にも攻撃しそうになった時一夏とログナーの間に割って入る者がいた。

 

「ここは私に。彼女の目的は恐らく私。皆はこのまま当初の予定であった補給予定だったドイツ軍施設に向かって下さい」

 

「解った。織斑、ここは更識に任せて私達はドイツに向かうぞ」

 

「……了解。生徒会長、そいつを後悔するまで痛めつけとけや。でなきゃあ俺が手前をそいつの代わりにいたぶってやるからよお」

 

「手加減一切しないから安心して」

 

 刀奈の言葉に一夏はフンと鼻を鳴らしながらその場を後にする。

 他の専用機持ち達も一夏に続いてその場を離脱し、戦場に残ったのは刀奈とログナーの二人だけ。

 

二人になったログナーと刀奈だが、突如ログナーに異変が起こった。

 

「会いたかったです。御姉様~」

 

 泣きじゃくりながら刀奈に全力ハグをしようと刀奈に突進する。

 その突進をさらりと躱すと刀奈は深い溜息を吐いた。

 

「私にその気は無いって言ってるでしょう!まあ、簪ちゃんならば考えなくもないけれども……兎に角!私は貴方にみじんも興味なんてないの!!」

 

「酷い!」

 

 ガーンとショックを受けた表情をするログナーに刀奈はランスを展開してこめかみに青筋を立てた怒りの笑みを浮かべる。

 

「それとねえ、私は貴女よりも5つも年下なの。なのに、年上の貴女に御姉様と呼ばれる道理は……無いわ!彼に貴女を痛めつけておくって言っちゃったし、今までの事も含めてここで全部清算させて貰うわ!」

 

 一夏にそう宣言したのだ。彼が満足する結果でなければ自分の命はおろか簪の命も危ない。故に全力を出さねばならない。相手はかつての元ロシア代表。全力を出さねば負けるだろう。

 もし、宣言した刀奈が敗北という事実を知れば一夏の怒りは収まる所を知らず確実に簪に危害が及ぶ。

 

「全力でいかせてもらうわ!」

 

「愛は激しく!時に爆発を!!」

 

 ログナーが乗るのは専用IS「ロシアの深い霧」零号機。

 同型機による激しい戦闘が始まる。互いに起爆性ナノマシンを振りまき爆発を繰り広げる。

 

 現ロシア代表の刀奈の爆発について来ている元ロシア代表。元と言うだけでロシアがログナーのその実力を腐らせるわけがない。代表の座を刀奈に奪われてからと言うもの薬物による身体能力の向上及びISとの親和性研究やISの武装開発に協力させられていた。

 今戦っているログナーは刀奈が知っているかつてのログナーとは違った。

 互いの爆発で涼しい顔をするログナー。これまでの実験と試験で得たその能力は刀奈に引けを取らない。互いに同じタイミングで爆発しその威力を相殺する。

 

「……ここまで強くなるなんて。一体何をしたの!?」

 

「思いの力です!ですが、御姉様への思いはこんなものではありません!!私の愛を、愛を受け止めて!!」

 

 更にログナーは起爆性ナノマシンを振りまく。周囲に振られたその量は今までの2倍以上。

 単純に計算して起爆範囲が先程の倍以上。更に範囲を絞って濃密な状態で起爆すればその威力は……

 

「くっ!」

 

 苦虫を噛み潰したかのような表情でログナーから距離をとる楯無。ログナーから距離をとる際に牽制と言わんばかりに大型ランス『蒼流旋(そうりゅうせん)』に内装されている四連装ガトリングガンを連射するがログナーは軽やかに銃弾を避けてしまう。

 そんなログナーに楯無は蛇腹剣 ラスティー・ネイルを展開させるとその矛先をログナーに向ける。

 鞭のようにしなり、蛇の様な軌道を描きながらログナーに迫るラスティー・ネイルは水を纏いその切断力はすさまじいものとなっている。

 

ログナーは回避に専念するがそれでもログナーを追う蛇腹剣 ラスティー・ネイルの矛先は未だログナーに向いたまま。ログナーが回避に専念しすぎて更識刀奈から意識を逸らしてしまう。それが刀奈に反撃を許すきっかけとなってしまう。

 

「ミストルティンの槍 発動!!」

 

 背後にはミストルティンの槍を発動した刀奈がいつの間にかいてその槍の矛先は勿論無防備なログナーの背中に向けられる。

 

「!?」

 

 初めて驚きの表情を見せるログナー。

 ミストルティンの槍はログナーの専用機のシールドエネルギーを大幅に削り槍が命中した反動でログナーは前に飛ばされる。

 

「ついでよ!」

 

 追い打ちと言わんばかりにログナーにアクアクリスタルを付け、更に起爆性ナノマシーンを大量散布する。

 ログナーも飛ばされながらも刀奈に向けて起爆性ナノマシーンを振りまく。

 

「「!!」」

 

 臆する事も無く同時に爆発する二つの機体。その激しい戦闘の様子は戦闘が始まってしばらく時間が経っていたため周辺諸国に知れ渡る事となる。

 

            ●                 ●

 

 一夏達は超低空飛行で東欧境界線からドイツを目指していた。

 もしIS操縦者だけならばイギリスへと向かう事が出来るがジェットパイロットの操縦者と千冬はそうもいかない。平然とした表情の千冬はともかくジェットパイロットの操縦者は少し顔色が悪い。

 原因はISを使用しての移動。その素早い機動力でシールドエネルギーに守られているとはいえ風を防ぐ事は出来ず、生身の人間が風に当たり続けているのだ。体が低温にさらされ続けている状況は普通に考えて体に宜しくない。

 

「少し急ぐぞ。織斑先生、もう少し強く抱きしめておいてくれ」

 

「あ、ああ。解った」

 

 他の専用機持ち達の視線を集中的に浴びて顔を赤らめる千冬。

 

「あー、そのなんだ。一夏、私の事は置いて先にイギリス入りしたらどうだ?」

 

「なら、馬鹿な事をぬかす前にさっさと強く抱きしめて離れない様にしといてくれや。少し移動速度を速めるからよぉ」

 

 千冬は一夏の首に手を回した手に少しだけ力を込める。

 それを感じた一夏は更に移動速度をあげ、他の専用機持ち達もその後に続く。

 

 

 ドイツ軍特殊空軍基地。

 その滑走路でラウラの部隊黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)のメンバーが勢ぞろいし千冬達の到着を今か今かと首を長くして待っていた。

 

「隊長、遅いですね。予定時刻を30分も過ぎていますが」

 

 ざわめく隊員達だが、その制服は赤いラインの入った黒塗りのもので全員左目に眼帯をしている。しかし、そんな隊員の中で一番年長の隊員がキッと他の隊員を睨みつける。

 彼女はクラリッサ・ハルフォーク。副官でラウラの次に部隊で偉い人物だ。

 

「馬鹿者!何時でも織斑教官、ラウラ隊長一行をお迎えするつもりでいろ!」

 

「ああ、その言葉に痺れます~クラリッサ御姉様~」

 

「厳しく、時に厳しく、激しく躾けて下さ~い」

 

 女性と言うのは群れれば煩いを通り越して姦しい存在となるのが世の道理だが、それは何もIS学園だけではなくどうやら軍の中でも同じであった。そんな彼女らに七つの機影が現れる。

 

「総員整列!」

 

 舞い降りてくる機影にクラリッサ達黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)のメンバーは敬礼をして迎える。相手は隊長であるラウラは勿論、元教官である千冬を迎える為に。

 

「織斑教官の事だ。小娘共を引き連れて颯爽と威風堂々と現れるに違いない」

 

 期待を込めてその機影を見た瞬間クラリッサは固まった。

 期待した千冬と反対にクラリッサの前に現れたのはお姫様抱っこされた千冬。

 

「――」

 

 敬礼したまま絶句するクラリッサに檻って来る機影の中から声をかける人物がいた。

 

「出迎えご苦労。クラリッサ」

 

「た、隊長!あ、あれは!?」

 

 余りの衝撃的な光景にプルプルと敬礼したまま腕が震えるクラリッサ。

 だが、そんな彼女の耳に追撃と言わんばかりの言葉が飛び込んできた。

 

「うむ、教官だ。あんな教官もまた素敵だ……狗になった甲斐があった。織斑一夏、彼様様だな」

 

 ピシリとクラリッサの中で亀裂が走る。

 やがて千冬を下す一夏にキッと睨みつける視線を向けた。が、そんな視線に興味も臆する事も無くISを待機状態にした幼児状態の姿の一夏がクラリッサのもとにのこのことやって来た。

 

「あんたが副隊長さんか?織斑一夏だ。理由あって今はこんな幼児体系だがよろしく頼む」

 

 すっとクラリッサに友好的に握手を求める一夏。その光景に驚いたのはラウラは勿論他の専用機持ち達と千冬だった。特に千冬は目を丸くしておりその驚き様が窺い知れる。が、クラリッサはそれに気づく事は無かった。

 

(ふん、どうせ男など。思いっきり力を入れて最初の気持ちをくじいてやる!)

 

 一夏と同じように笑顔を作ってみせ力を思いっきり籠める。大の大人が全力で子供の手を握るのだ。すぐに音を上げるだろうと思ったクラリッサだがそれは直ぐに後悔する事となる。握手を行って数秒が経過した。全力で一夏の手を握り潰そうと力を込めて込めて込めまくるクラリッサだったが、その表情はやがて引きつり始める。力を入れて全力で握っても一夏は一向に笑顔を笑顔を崩さずぶんぶんと上下に宜しくと握手した手を振っている。

 だが、やがて笑顔の表情の一夏は眼がゆっくりと開くと同時にまるでそれが何かのスイッチであるかの如く連動し握手していたクラリッサの手を思いっきり握りしめる。

 

「ミギャアアアア!!!」

 

 

 まるで尻尾を踏まれた猫の悲鳴のような絶叫をあげるクラリッサ。笑顔でクラリッサの手を握り続ける一夏。

 千冬が一夏のしたことに気づいてパコーンと一夏の後頭部をはたいた時に一夏のクラリッサの手を握る力が緩みクラリッサは万力の様な一夏の握手から解放されるが少し遅かった。一夏の手から解放されたクラリッサの手はピリピリと痺れており若干関節が外れていた。

 

 その光景に他の黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)のメンバーは全員目を逸らし、クラリッサは驚きで痛みの感覚が麻痺したまま。関節が外れたクラリッサの手を取ると一夏はクラリッサの手を思いっきりはたく。

 

「おやおや、部隊の副隊長さんがこの程度で音をあげていてはいけませんよ」

 

 叩かれた衝撃で外れていた関節が入りクラリッサの手は元通りになった。

 クスクスと笑う一夏に一夏に警戒の視線を向けたまま手を摩るクラリッサ。

 

「あー、もうその辺にしておけ。クラリッサ、時刻は過ぎてしまったが予定通りオペレーション・ルームへと案内してくれ」

 

「うう、解りました」

 

 千冬がそんな状況を見かねて打破しクラリッサは一同を黒ウサギ隊のオペレーション・ルームへと案内する。

 一同がオペレーション・ルームに到着すると千冬は空中投影ディスプレイを広げた。

 

「更識は現在ロシア領から独自のルートでイギリスを目指す。そして我々だがドイツからの海路とフランス経由の空路に分かれて行くとしよう」

 

 千冬の言葉に何故二手に分かれる必要があるのか解らないと言った表情で千冬を見るデュノア、鈴、箒、簪。

 ラウラは黙って千冬の作戦を聞いており、一夏は「ほう」と千冬の考えに納得がいった様子だ。

 空中投影ディスプレイには千冬が述べた作戦ルートが表示され一同はその進路を確認しながら千冬の作戦に耳を傾ける。

 

「戦力を一つにまとめるといざという時に身動きが取れなくなる可能性がある。それに、フランスのデュノア社から最新装備の受領命令があった。よってドイツルートは山田先生を引率にセシリア、鈴、箒、一夏。フランスルートでは私とラウラにデュノア、簪だ。フランスで装備を受領次第、デュノア社のジェット機でイギリスを目指す予定だ。以上、何か質問はあるか?」

 

 千冬の作戦からデュノア社の名前が出た時点でデュノアは顔を蒼くし、一夏はピクリと反応して手をあげる。

 

「異議あり。ドイツルートなのにこの餓鬼を外すのか?」

 

 一夏がこの餓鬼と言って指したのはラウラでその事にクラリッサは腹を立てて一夏に食って掛かろうとしたが千冬に制止させられた。

 

「既に本作戦用の重装パッケージは受領済みだ。それに、デュノアにとってラウラは友達であろう?こういう時は傍にいさせてやるべきだ」

 

「はい!」

 

 大きな声で返事をするラウラはデュノアの手を握る。

 その様子を尻目で見ていた一夏はもう一度手をあげた。

 

「もう一点。俺もドイツからの海路では無くフランスからの空路に変更してくれ」

 

 一夏は千冬の口からデュノア社の名前が出た時にデュノアが顔を蒼くして自然に震えだしている姿を見てデュノア社の社長が気にくわなかった。前に一度こっぴどく黒歴史を刻んでやったのにまだ懲りてないのかと。どれだけ娘を苦しめれば気が済むんだと同じ父親としても同じ漢としても同じ人間としてもデュノア社の社長のやることなす事全てが気にくわなかった。

 

 突然の一夏の申し出に一同は驚くはその申し出に激怒した者がいた。

 

「貴様、いい加減にしろ!」

 

クラリッサだ。先の隊長であるラウラを餓鬼呼ばわりした件について腸が煮えくり返っていたが今回の一夏の申し出が決定的な決め手となった。

 

「教官の弟だか知らないが教官は戦力の温存やその他諸々のお考えがあって今回の作戦を立案なされたのだ!それを貴様の様な素人が自分の都合勝手に変えるなど何を考えているんだ!!」

 

 クラリッサの指摘は正しく全員の視線が一夏に向けられる。

 だが、そんな中一夏はクラリッサに笑顔を向けてこう言った。

 

だ か ら ?」 

 

 一瞬、一夏以外の全員が思考を停止してしまう。

 そして、一夏は追い打ちをかける様にクラリッサに笑顔で詰め寄る。

 

「だから何?どうした?勝手に変えて何が悪い?いや、むしろまだ変えてすら出来ていない!それに要は戦力が温存された状態で目的地のイギリスまで無事でいれば良いのだろう?」

 

 まるで何かを閃いた様にクラリッサの前でポンと手を叩き、そうして今度は千冬に体ごと向けてクラリッサを指さしながら千冬に進言する。

 

「織斑先生、自分の代わりにこのクラリッサさんをドイツからイギリスまで海路の護衛として配置いたしましょう!!」

 

「な!?」

 

 あまりにも勝手な進言にクラリッサはもう今まで以上に激怒しそうになった。

 だが、再び一夏はクラリッサの方を向くと尋ねる。

 

「成程、ご自身が僕よりも無能で役立たずなので出来ないのですか?」

 

「――」

 

 言葉を失うクラリッサだが、そんなクラリッサを見て一夏はわざとらしい演技をして見せる。

 

「ああ、それならば納得です。ご自身の力量を把握されてしっかりとした分析をなされている。自分の力量以上の仕事は請け負わない。成程、確かに軍隊と言う死亡リスクの高い仕事の中で生き残る為に磨き抜かれたその直感。大変素晴らしいものです。その直感、大切になさってください。ええ、無能で役立たずと言えども軍に入った以上は上の命令は絶対。何時散らすと知れぬ命を無駄に散らす事も無いでしょうしね。自分より無能の貴女に無理強いをさせようとした僕をどうかお許しください!」 

 

 わざとらしく首を垂れ全く心が籠っていない謝罪を述べる一夏。そんな一夏にクラリッサがぶちぎれるのに5秒もかからなかった。

 

「教官!私にドイツルートの護衛をお任せください!織斑一夏、貴殿は申し出通りフランス空路で行かれるが良いでしょう。ですが、その前に私の実力を貴殿に知って貰い、私も貴殿の実力を知りたい!あれだけの大口を私に叩いたのだ。拒否はすまい?」

 

 ニヤリと嫌味たらしく唇を歪めるクラリッサに千冬が確認をする。

 

「……そうか。だが、お前の専用機は完成したのか?」

 

「はっ。先日最終調整を終えた所です!」

 

「解った。それではこれよりお互いの実力を確認する模擬戦を開催する事とする」

 

これが狙いだったのではないかと千冬は思わず溜め息を吐き、代わりに黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)のラウラとクラリッサ以外の他のメンバーがキャーキャー騒ぎ始める。

 

「これが日本で言う、きってはったなのね!?」

 

「凄いわ!世界で唯一の男性IS操縦者と副部隊長の真剣勝負よ!!」

 

 だが、そんな状況に一夏は手をあげて待ったをかける。全員が一夏に視線を向ける中特に千冬は訝しげに一夏を見た。

 

「織斑先生、一つ提案があります!」

 

「……なんだ織斑?言ってみろ」

 

「クラリッサさんとの模擬戦に山田先生も加えて貰いたいのですが…」

 

 その言葉に全員がクラリッサとの戦闘で山田先生に救援を頼むものだと思い驚いた。特にクラリッサはその言葉を聞いてやはり男とは軟弱だと軽蔑の微笑を浮かべる始末。

 千冬もてっきりそうだと思い確認をしてみる。

 

「織斑、それは山田先生に応援を頼むという事か?」

 

 その言葉にきょとんとした表情をする一夏。ますます怪しく腹の内が読めない。

 だが、次第に千冬の言葉を理解したのかプルプルと肩を震わせ遂には大爆笑をしてしまう。

 

「ククク……カカカ!!俺が、この俺が救援?それは何のギャグですか織斑先生?いやはや、そんなわけじゃないですかwww何で脅威でもない相手と戦うのにわざわざ救援しなければいけないんです?3人のバトルロワイヤル形式での模擬戦を希望するに決まってんじゃないですかwwマジ笑えますわ~~」

 

「「――」」

 

 その言葉で全員が絶句し、クラリッサは俯いたままプルプルと肩を震わせる。そして、顔をあげると一夏の胸元を掴んで食って掛かる。

 

「貴様、教官の弟だからって調子に乗るのもいい加減にしろ!」

 

 胸元を掴まれた一夏は笑顔のまま顔を俯く様に下に向ける。そして、再び顔をあげると同時に気を開放し周囲にぶつける。一夏の眼が光ると同時に放たれる気は周囲にいる全ての者に当たり、黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)ではラウラとクラリッサ以外は全員卒倒し、IS学園では千冬と山田先生以外の専用機持ちも卒倒した。

 

「へえ、あの気当たりで意識を辛うじて保ったのは4人か。その内、動けるのは織斑先生ただ一人。ねえ、クラリッサさん。これが俺とあんたの差だよ。お分かり?」

 

 そう言って笑みを浮かべる一夏の顔は軽蔑の微笑を浮かべる一方、クラリッサは地面に片膝をつき額に珠の様な脂汗をびっしりと掻いていた。先程の気当たりで意識を保った4人だがラウラ、クラリッサ、山田先生は地面に膝をつけ顔から脂汗を流して辛うじて意識を保っているが動ける様子がない。ただ唯一自分以外に動けるのは涼しい顔をした織斑千冬のみで一夏は改めて千冬の実力に満足する。

 

「この程度で動けなくなるぐらいなら世界最強になってなどおらん」

 

「ですよね~、いやはや、うちのお姉さまが遥か高みにいるって事の確認が取れましたわ」

 

「そうか」と静かに呟いた千冬はコツコツと足音を鳴らしながら一夏に近づくとパーンと思いっきりその後頭部をはたいた。その衝撃で一夏は地面に頭からのめり込む。

 

「お前は毎度毎度問題を起こさねば気が済まないのか!?」

 

 地面にのめり込んだ一夏の首根っこを掴んで一夏を地面から引っこ抜くと怒鳴り散らす千冬。

 次に千冬は卒倒したメンバー全員を指さす。

 

「それにこいつ等はどうする!?」

 

「いてて。まあ、あれだ。しばらく放置しとけばそのうち目を覚ますだろう。それに丁度良いじゃねえか。ここまでの移動で幾らISを使用したとはいえ本人達も気づかずにいるだろうが飛行機を撃墜されたんだ。確実に疲労はたまっていた筈だ。気を失ったとはいえ何れ休息は必要だった筈だぜ?」

 

「…まあ、お前の言い分も一理ある。それで、クラリッサとの模擬戦に山田先生を参戦させてのバトルロワイヤルをやる理由はなんだ?」

 

「ああ、それに関しては俺がそうしたいからそうするっていうのが理由の半分」

 

 ほほう!と千冬は一夏の首根っこを掴む力が強くなる。

 少し青筋をたてる千冬に一夏はまじめな表情を向けた。

 

「んで、後は山田先生の実力を他の専用機持ち達に理解させるっていう魂胆がある。織斑先生、あんたも気づいてんだろう?山田先生が学園の生徒達になめられてるって。本当にそれで良いのか?」

 

「……」

 

 一夏の真剣な表情で述べる言葉に千冬は息をのんだ。

 

「んでだ。専用機持ち達が少しでも山田先生に向ける視線を変えれば自然と学園の生徒達の態度も変わっていくんじゃないかっていう思惑よ。万が一不測の事態に山田先生の指示を聞けなくて最悪の事態にでもなってみろ。目も当てられねえぞ?」

 

「……そうだな。確かに良し。織斑、他の専用機持ちの意識が戻り山田先生、クラリッサが動けるようになり次第直ちに模擬戦を開始しろ。クラリッサ、山田先生もそれで良いか?」

 

「はっ!私はそれで構いません。教官!!」

 

「はい、私もそれで大丈夫です織斑先生」

 

「良し、各員模擬戦の準備に移れ」

 

 パンと千冬が手を叩き指示を出すと全員了解と返事した。

 千冬の指示が終わるとクラリッサは動けない状態のまま一夏を睨みつける。

 

「私はお前を認めない!教官の弟など断じて認めない!!」

 

 クラリッサのその親の仇を撃たんと言わんばかりの視線を受けて一夏は愉快そうに唇を歪め、クラリッサをビシッと指さしながら宣言する。

 

「クク、ならば俺はお前に宣言してやる。お前は絶対に負ける。本来は俺がISを使うまでも無く負けるがまあ今回は模擬戦だ。俺は武装を一切使う事無くお前を相手し、お前は自ら敗北する事を今ここに宣言してやる。己が実力すら把握できない馬鹿には丁度良い薬だろうよ」

 

 憎悪をこめた視線を一夏に向けるクラリッサとそんなクラリッサを面白そうなおもちゃを見つけたような視線を向ける一夏。まるで蚊帳の外の様な扱いの山田先生は自分の存在が薄いのではないかと真剣に悩む。

 そんな3人の戦いの幕が開かれる。その戦いで他の専用機持ちは山田先生の実力を再認識する羽目になるのだった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。