拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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第68話

 全ての無人機を破壊・沈黙あるいは奪取したIS学園の専用機持ち達。無人機の襲来という非常事態で死者が出ること無く事を終えたのだが、その代償は大きかった。デュノア、セシリア、刀奈が負傷。刀奈に至っては意識不明の重体。すぐに更識の息がかかった病院に運ばれ3名の治療が行われた。デュノアは背中の火傷、セシリアに至っては全身の大火傷。刀奈は爆発に巻き込まれた影響で地面に叩きつけられ意識不明の重体。

 深刻な事態に同伴していた千冬はもちろんだが、簪は特に震えていた。

 手術室のランプが消え、中から緑の作業着を着た一夏が出てきた。

ゴム手袋を脱ぐ一夏に簪は駆け寄ると縋るように一夏の胸にしがみついた。

 

「織斑君、お姉ちゃんは!?」

 

眼鏡の奥の瞳がスッと鋭くなる。

真剣な目をした簪をフンッと鼻で笑う。

 

 

「お前、誰にものを言ってんだ?完璧に仕上げさせたに決まってんだろ!ヴェーダの恩恵は何も戦闘で勝利を導く事じゃないって事だ。こうやって医療にも応用できる。神の頭脳、それがヴェーダだ」

 

 病院に運ばれた3人を治療するにあたり、ヴェーダを使用した。火傷の痕を残せば国際問題になりかねない。他国に言い分を作らぬようにする必要があった。

 ヴェーダを用いて一夏が自分の体が小さくなった薬の解毒薬を作っていた時に生まれた副産物の細胞活性剤を用いて、火傷箇所の皮膚組織に注射した。デュノアの場合幸いな事に背中のみだったので処置が早くに終わったがセシリアの場合は全身なので処置に時間がかかった。そして、更に万が一を考慮してデュノア、セシリア、刀奈の皮膚組織を一部切り取りを指示した。

万が一の為の人工皮膚を作成するためだ。

 

 刀奈に関してもセシリア同様に全身を注射して細胞活性剤を用いたのだが、事態は刀奈の意識が戻らない限りは良い方向に転ばなかった。細胞活性剤を用いた治療だが、本来人間が持つ治癒能力をピンポイントで活性させる薬だ。

だが、細胞を活性させるにはエネルギーが必要だ。そのエネルギーを手に入れるにはバランスの取れた食事を行う事が一番なのだが意識を取り戻さない以上意識が戻るまで栄養チューブによる食事となるが、それでは筋肉を使わないため筋力の低下は免れない。

 

 

「ただ、意識が戻らない事には更識の件は改善しない。後はあいつの意識が戻れば、な」

 

 それだけ言うと一夏はその場を後にした。

 

「あ、おい、織斑!ちょっと待て」と千冬も一夏の後を追いかける。

 

 

 一夏と千冬が居なくなった後に手術室の扉が開き医者がぞろぞろと出てくる。

 その医者に詰め寄る簪。

 

「せ、先生!お姉ちゃんは!?」

 

「お姉さんは後は意識を回復するのみですよ。今はそれしか言えません。出来るだけの事はしましたから」

 

 執刀医の医者はそう言って簪の前を後にする。

 医者が居なくなると次に手術室からセシリア、デュノア、刀奈が寝かされた状態で看護師によって運ばれていく。運ばれていく道中看護師に簪は声をかけられ一緒に病室までついていく運びとなった。

 

 

 

手術室から出た一夏は千冬と共に屋上に来ていた。

空は夕暮れで赤く染まり、風は若干寒さを増していた。屋上で千冬と二人っきり。空を赤く染める夕暮れを見る一夏の背中から千冬は声をかける。

 

「おい、一夏!何がどうなっているんだ!?」

 

訳が解らなかった。更識家の息がかかった病院に一夏が一緒に来て手術室に入るという前代未聞の事態に千冬は理解できなかった。

夕暮れで赤く染まる空を見る事をやめ一夏は千冬に視線を向ける。

 

「何も知らなくて良い……そう言えば満足か?」

 

「納得できるわけないだろう!!」

 

「ですよね~」

 

「ハア」と一つ溜め息を吐き、内心『潮時って事か』と覚悟をするとキッと千冬を見据えた。

その目は真剣さを増しており、まるで心を見透かしている風貌さえ感じさせる。

 

 

「では、ヒントであり答えです。私の名前は織斑一夏であり、またの名を更識楯無と申します」

 

「何を言って………」

 

困惑する千冬をよそに一夏は言葉を続ける

 

「ゆえに、更識家の息がかかったこの病院にスムーズに運んだのも手術室に入れたのも納得して頂けるでしょう」

 

 風が吹く。

 二人に向かって強い風が吹いた。

 

「それが全ての答えですよ。姉さん」

 

 耳元でそう囁く様にすれ違いざまに呟くと一夏は千冬を屋上に置いたまま屋上から出て行った。

 屋上へと続く階段を下りていく。携帯端末の電源を入れようと思ったがここは病院。そう言うのは厳禁である。仕方ないと言わんばかりに一夏は階段を駆け下り一階に降りると自動ドアを抜けて外に出ると携帯端末の電源を入れる。

 

 

4機の無人機の回収を行った。無傷とは言い難いものもあったがそれでもかなりの戦力増加に成りえるだろう。後は夏休みに接触してきたIS企業に試作品のデータ採取協力をするという約束と共に無人機の武装開発協力をこじつければ完璧だ。破壊した無人機の残骸はすべて回収済みだ。ある程度損傷していてもスペアとなり得るのでは無いかという期待が持てる。

 

病院を出て携帯端末をいじる。画面に銀色の妖精MAKUBEXが現れ、命令をしようとすると非通知の表示で電話がかかって来た。如何にも怪しいのだが一夏はそのコールを出る。

 

『やあやあ、お久しぶりだね』

 

その声でギリギリと歯ぎしりを行い手は爪によって皮膚が裂けるほど握りしめ額には青筋を浮かべるほどの憤怒の表情となった。かつて聞いた声。以前の無人機襲撃の一件が終わった際にも聴いた声。

 

「よお、久しぶりだなクソ野郎!こうして話す事は二度とないと思っていたんだがな……まさか、手前の方から俺に接触してくるとは……どういう了見だ?」

 

『君に感謝をと思ってね』

 

「感謝だ?」

 

『ああ、未完成だったISを完成させてくれたんだ。そのお礼を、ね』

 

「ハッ!お礼代わりにあんなもんをこちらに寄越したと?」

 

『ああ、気に障ったなら謝るとしよう』

 

「二つ解った事がある。手前、今回の件も手前がやらかしたって事。そしてもう一つ!その口ぶりからしてISを完成させた事によってお前に利益が生じてしまった事!」

 

『鋭いね』

 

「否定無し…肯定って事か。まあ良いYESかNOでいいから幾つか教えろ!」

 

『強欲だね。まあ構わないよ』

 

 そんなやり取りをしている間に一夏はMAKUBEXに指示して逆探知を試みる。

 

「んじゃあ、一つ。お前はISが初めて登場した白騎士事件の関係者か?」

 

『……YES』

 

 その言葉で一夏の心臓の鼓動が高鳴る。心臓が体を突き破って出て行きそうな感触に陥った。

 その言葉で焦りが生まれMAKUBEX、早く逆探知に成功しろと念じる。

 

「お前、束……篠ノ之束の敵か?」

 

『………』

 

「沈黙は肯定だぜ」

 

『YESでもありNOでもある。敵だ味方だなんて、お互いの主義主張が合うか合わないかの違いでしかないのだから』

 

「……次、お前が白騎士事件を引き起こしたのか?」

 

 そう、この問いこそ一夏にとって最も重要なものだった。白騎士事件の関係者と言っても各国から派遣された戦艦やら戦闘機を操縦していたパイロットや指揮をしていた軍関係者も白騎士事件の関係者と言う括りに成るのだから。この問いが長年探し求めてきた相手へと繋がるかもしれないのだから。

 

『……YES』

 

 ギリギリと歯ぎしりをし、今にも電話の向こうにいる相手を殺したい気持ちになった。

 束を泣かした罪、それは一夏の中で最も重い重罪である。百回殺しても殺したりないほどの重罪であった。惚れた女を、愛した女を泣かした。ただその一点だけだが、それが最も許せない事だった。

 

「多くは問わない。だが、最後に一つだけ問う。手前の名は?」

 

『元々私に名前など無かった。だが、何時しかこう呼ばれるようになった……神と』

 

 神…人類が生み出した心の拠り所たる宗教の最重要ファクター。

 神と呼ばれたそれらは、崇め奉られる事で存在価値と認識される。例外的にそこにある大木をご神木として祀ったりする事はあるが、そういうのがこうして非通知で連絡してくる訳がなかった。

 

 考えられるとすれば何処かの国の国家プロジェクト的な何かで作られた神と名付けられた装置が自我を持って暴走した結果白騎士事件が起こったというのが最有力候補として考えられる考えだろう。

 

『そして、時は流れ人々の記憶が薄れ神と呼ばれなくなった時、私はある一人の人間と出会いそれ以降こう呼ばれるようになった。村正と』

 

 村正……かつて江戸時代を治めた徳川家初代将軍徳川家康に徳川家に仇名す妖刀として恐れられた村正という刀工の作品達。

 もしや、そのどれかに関係するものかと考えるも江戸時代とは今から400年以上も前の事。仮にその刀工だとしてもそんな人が現世に存在していれるわけなどいない。理解が出来ない。だが、電話の相手が真実を言っていると言う保証はどこにもない。

 

 

「まあ、神だか村正だか知らねえし、どうでも良い。だが、一つ言わせてもらおう。手前はいつか俺が裁く!織斑一夏の名の下に!!必ず裁く!!!あいつの涙を流させた罪で俺がお前を裁く。今ここでお前に宣戦布告を申し上げる!」

 

『……良いだろう。その時を楽しみにしているよ。織斑一夏君』

 

 それだけ言って通信は切れた。

 腸が煮えくり返りそうな一夏は傍にあった病院の植木に織斑流拳術 断空手刀斬りで横に一閃して切り倒した。それで煮えくり返りそうな腸が収まる訳では無いが、そうでもしないと気が狂いそうだったのだ。

 通信を終えて数秒が経過した後、MAKUBEXが携帯端末の画面に現れた。

 その表情は暗い表情で一夏に頭を下げた状態で口を開いた。

 

「すみませんマスター。ご指示を受けました逆探知ですが複数の一般家庭の電話回線を使用したバックドアによる通信だったために居場所を特定する事に時間を割かれ「時間切れで見つけられなかった。と」申し訳ございません」

 

「構わん。だが、これで俺の敵は解った。奴が男だろうが、女子供だろうが関係なく処断する。賽は投げられた。来たるべき日に備える。これは、奴と俺との戦争だ!」

 

 

「ハッ!」

 

 顔を上げ敬礼をするMAKUBEXに一夏は再度命令をする。

 

「これより接触してきたIS企業との連絡を行う。準備せよ」

 

「ハイ!」

 

 MAKUBEXは返事をすると画面から飛んで消えた。

 ギラリと鋭い眼光を放つ目をいったん瞼を閉じ、深呼吸をして再び開く。鼓動の高鳴りが治まりをみせた。手に握りしめていた携帯端末をポケットにしまい、これからの事を考える。

 

 奴の目的はなんだ?更識簪の専用機が完成して奴がどういう利益を得たと言うのだろうか?

 更識簪は日本の代表候補生である。利益が出たとすればそれは日本政府に、である。そういえば村正も日本刀で妖刀と呼ばれていた。日本神話に神も存在した。

 よくよく考えて見れば全てはここ、日本で行われていた事ではないか。となると、まさか奴はここ日本に潜伏しているのだろうか?MAKUBEXと再び合流し次第逆探知でどこまで突き止めたかを知る必要がある。

 

 電話をして時間が1時間ほど経過していた。

 夕暮れに紅く染まっていた空は月夜の晩へと移っていた。辺りが寒さを増しており満天の星が夜空に輝く。

 

      ☆          ★            ☆

 

 無人機襲撃から数日後の事である。

 簪は一夏から姉が意識が戻ったとの知らせを受けて姉の病室に駆けつけていた。ベッドで横たわる刀奈は首を動かして病室に入ってきた簪に視線を向ける。

 

「お姉ちゃん!」

 

 

 意識が戻った姉の姿を見て感無量で簪の目から自然と涙が零れた。

 姉のそばには一夏が居たが簪を見るなり「それじゃあ」と言って席を外す。

 

「意識が戻って良かった」

 

「お姉ちゃんか…簪ちゃんからそう言われるのも久しぶりだね」

 

「……」

 

 刀奈が横になっているベッドの傍まで寄ってボロボロ涙を流す簪。

 刀奈はもうしょうがないなと言いたげな表情で苦笑する。

 

「彼から聴いたよ。私が倒れた後に無人機を倒したんだってね。本当に強くなったね」

 

 その言葉が聞きたかった。その言葉を待っていた。

 ただ、姉に認めて欲しかった。たったそれだけ。

 

 やっとその願いが成就した。

 簪は刀奈の顔を見る事は出来なかった。涙で視界がぼやけ、拭いても拭いても溢れ出る涙を止める事は出来なかった。

 

「もう、泣き虫だな~簪ちゃんは」

 

「だって、だって」

 

 よしよしと簪の頭を撫でる刀奈。

 その優しい手つきはかつての幼い日の記憶を思い出す。

 

「あの人から言われたの。簪ちゃんが更識の名に負い目を感じていたんだって」

 

「……」

 

「でもね、もうその必要は無いの。簪ちゃんは簪ちゃんだし、それにもう私は更識楯無じゃないの」

 

「……え?」

 

「だからもう更識楯無じゃないの。私は更識刀奈。簪ちゃんの姉で、ただの更識刀奈になりさがったの」

 

「どういう事!?」

 

「今の更識楯無に勝負して負けちゃったの。あの人に更識の座を、全てを奪われたの」

 

 姉の話が信じられなかった。姉は完璧無欠で、だから自分は負い目を感じていたのに。

 IS学園の生徒の長まで上り詰めた。それはIS学園最強を意味した。なのに、その姉が負けたと言うことは現更識楯無が学園最強という事に他ならない。

 

「でも安心して簪ちゃん。貴女は私が守るから」

 

 簪が来るまでに、意識が戻った刀奈に一夏が命じた命令。簪と話せと対話しろとの命令。

 話さなければ解らない事もあるのだから。背中で語るは男の美学。女にそれは理解しがたい事だろう。現に一夏も何れは語らなければならないのだが、今はまだその時ではない。それは全てが終わった時。

 

 姉の覚悟。自分を守るという決意。だが、それでは駄目だった。

 涙を流していた簪の目が鋭くなった。赤く充血した眼は刀奈を見据え、その眼は決意の表れ。

 対暗部用暗部の当主 更識楯無として活動してきた姉は、その身に全ての責を追っていた。自分は汚い所は見てこなかった。優れた姉に負い目を感じていただけだった。

 だが、姉は違った。更識家当主として汚い部分を請け負っていた。

 

 ならば、どうするか?――決まっている

 

「違う!守られるだけじゃない。今度は私がお姉ちゃんを守る!!」

 

 そうだ。姉に認められたのだ。

 今まで姉に全部を任せていたのは誰だ?――自分だ。弱い自分だ

 

 だから変わるんだ。今日ここで。

 

 

 そんな簪を見て一瞬面食らった表情を浮かべる刀奈だが、微笑む。

 

「本当に強くなったね、簪ちゃん」

 

 自分が知らない間にいつの間にか強くなった簪。いつの間にか追い抜かれていた。

 更識楯無の名を奪わても残ったものがあった。簪の姉 更識刀奈の名が。

 だから、これからは簪の姉 更識刀奈として生きていこう。そうひっそりと己の心に誓うのだった。

 

■                   □                  ■

 

 刀奈の病室を出た一夏はその足どりで病院の玄関へと向かう。

 玄関には更識家の車が一夏を迎えに来ており、これから夏休みに接触したIS企業の連中と技術提供の交渉に向かう。

 車に乗り込もうとした瞬間にズボンのポケットに入れていた携帯端末のサイレンが鳴り響いた。

 このサイレンが鳴る時は、何かしらの緊急事態の時だ。

 

「……ったく、何だよ」

 

 けだるげにズボンのポケットから携帯端末を取り出すと画面にはMAKUBEXが待機していた。

 

「マスター、緊急事態です。現在IS学園がハッキングを受けており、学園のメインサーバーが停電。全ての電力の供給が断たれており侵入者の浸入を許してしまいました。現在監視カメラによる監視はどうにか出来ているのですが学園の防衛システムの殆どが電力不足による影響で麻痺に。監視カメラも何時までもつか解りません」

 

「ここでそう来たか。専用機持ちの人数が減少しているここでか……まあ構わん。やつ等の狙いはISかこの前の無人機だろう。ならば、会わせてやろう。GINJI、AKABANE、JUBEを無人機に搭載して侵入者を迎撃しろ。他の専用機持ち達は恐らく電脳ダイブによる学園のメインサーバーの復旧で使えないはずだ。教師達の殆ども他の生徒の避難でてこずっているだろう。侵入者の生死は問わない。全力で迎撃しろ」

 

「了解しました」

 

「俺も学園に急ぎ戻る」

 

 MAKUBEXが携帯端末の画面から消えると一夏は運転手にIS学園に戻るよう指示を出しIS企業に予定変更の一報に追われるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

研究室代わりに借りたホテルの一室で女性は機器を弄りながら呟いた。

 

「ん~、そっかそっか。あれはあそこにあるのか」

 

(お母)様、クッキーが焼けました」

 

 チンとレンジが鳴り、少女がレンジを開けると室内がクッキーの匂いに包まれる。 レンジから焼けたクッキーを皿に取り出しテーブルに置くと手馴れた手つきでお茶の用意を行う。

 

「りょうか~い。ん~、良い匂い」

 

 女性は少女に抱きつき、少女が用意したクッキーをつまむ。

 ココアパウダーを混ぜたチョコクッキーを齧った。口の中に香る出来たての香ばしい香り。

 

「うん、75点」

 

「中々手厳しいですね」

 

 そう苦笑しながら娘 クロエ・クロニクルはお盆に載せたティーカップを束にさし出しポットに入れた紅茶を注ぐ。

 注がれた紅茶に口をつけながら束はティーカップを机に置くとニッコリとクロエに微笑んだ。

 

「中々満点は上げれないよ。んでね、クーちゃん。おつかいに行ってきてくれるかな?」

 

「おつかい……ですか?」

 

「うん、IS学園に行って来て欲しいんだ」

 

「はぁ」

 

「いっくんも居るだろうし、会っておいでよ」

 

「……行ってきます!」

 

 

 

 

 

 停電したIS学園に侵入する侵入者達。その姿は特殊迷彩服で見えておらず、寧ろ姿を消していると言っても過言ではない。

 

「よし、行くぞ」

 

 小部隊のリーダーの指示で彼らは動く。

 彼らの正体はアメリカの特殊部隊。先日IS学園を襲撃した無人機を手に入れる為に派遣された。特殊迷彩服で消えてはいるがそんな彼らは学園の校舎に侵入した。どこに目的のものがあるのか知らない。そのため校舎を見て回らなければならない。

 

 まずは整備室。ISを整備する部屋にある可能性を思い浮かべ、整備室へと続く廊下を歩く。

 整備室の扉まであと少しという時に急襲を受けた。

 

「グルルル」

 

獣のうなり声。

 振り向けばそこには アメリカアカオオカミ(ポチ)とホワイトタイガー(タマ)。それに一際大きなダチョウ(ボス)という一夏の可愛いペット達。学園に整備されている監視カメラが学園に入りすぐさま姿を消したアメリカ特殊部隊の彼らを一夏に報告し、よし姿が消えたならば残った臭いで追跡しよう!と派遣したのだ。

 

 突然の猛獣の出現に混乱する特殊部隊の隊員達。彼らは人と出会う事を想定された訓練を受けていても猛獣と遭遇した時の訓練は受けていなかった。

 アメリカの特殊部隊に猛獣の脅威が襲う。

 

 

 

 

 IS学園に着いた一夏。病院にいる更識刀奈、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア、更識簪は一夏を崇め象徴とする修羅達と更識家の者達に警護させており、いざとなれば生死は問わないとの命令を出している為かなりの高確率で安全地帯といえる手筈にした。

 だが、一方で非常電源すらついてないIS学園は防衛機能が殆ど消えた半壊の要塞だ。そんな場所を浸入する等容易い事。

 MAKUBEXに案内されてペット達との戦闘があった場所へと向かう。

 

「……やりすぎたか?」

 

MAKUBEXのナビゲーションによって目的地に着くとその惨状を見てポツリと呟いた。

廊下に転がる特殊部隊。誰一人として無傷な者はおらず、全員手足にポチとタマによる引っかき傷。 中には骨まで見える者もいた。

 そして、全員が全員意識を失っていた。

 理由はさまざまだが、主にボスの蹴りによって壁まで蹴り飛ばされ激突しての気絶かもしくは、応援に寄越したAI搭載型無人機に投げ飛ばされての気絶かブレードによる斬撃での出血で意識を失っているかのどれかであった。

 

 辺り一面血の海で、血の臭いが充満していた。

 

 

「片付けが面倒くさいな~」

 

 廊下の天井までかかった血を見てハアと溜息を吐きながら廊下に転がる意識を失った特殊部隊の一人に視線を向けると思いっきり蹴りつけた。が、反応する事も無く横たわる特殊部隊の一人に跨り、今度は経穴を突いて殴り始める。顔を、体を執拗に何度も何度も。

 皮膚が裂け血が出てもそれは、意識が戻るまで続いた。

 

「おい、さっさと起きろ!」

 

「うう」

 

 ボコボコになった顔面。あちこち青あざができた。薄らと目を開けるがそれで納得する一夏ではない。

 目をハッキリと開けるまで今度は頭を持ち上げると地面に叩きつける。

 

「さっさと起きろつってんだよ!!」

 

3回ほど頭を地面に叩きつけられ特殊部隊の一人は今度はハッキリと目を開けた。

 

「お前ら、どこの組織だ?」

 

彼らは特殊部隊。極秘任務を専門とするため所属を示す物は付けていない。

よって、どこの組織の者か解る手掛かりとなる物がなかった。

 

「……」

 

無言を貫く特殊部隊の一人にハアと溜息を吐くと次の質問を問いかける。

 

「んじゃあ、お前らの中でリーダー的な奴はどいつだ?」

 

もしかしたら、こいつは末端の人間で上の許可を得ていないから発言出来ないのかもと思ったが故の質問だった。

だが、それに対しての返答もやはり無言だった。

 

「……」

 

「無言かよ!!」

 

 一夏は激怒した。「ふざけんな」と叫んだ。

 

「俺が慈悲でお前にチャンスをくれてやったのに俺の質問に答えねえのかよ!!」

 

ヒステリックに怒鳴り散らしながら馬乗りで乗った特殊部隊の一人の顔面を何度も何度も連続で殴りだす。

歯が飛び、特殊部隊の一人の唇が切れ血が口から溢れ出る。

 

「ああ、拷問しなきゃ答えねえのか!?」

 

襟首を掴み特殊部隊の一人の頭を持ち上げるとギラリと睨み付けて目を覗き込みながら問う。

 

「拷問していたらやりすぎて何人が死んで何人めで口を割るかな?もう一回訊くぞ、この中でお前らのリーダーは誰だ?」

 

 殴りつけ唇が切れた特殊部隊の一人が視線を一夏からとある場所へ向けた。

 その視線を追い、一夏は馬乗りで乗った特殊部隊の一人から離れ視線を追うとうつ伏せで横たわる一人の男性に行き着いた。

 

「こいつで良いんだな?」

 

 うつ伏せで横たわる男性を指差し確認をとると特殊部隊の一人は無言で頷いた。

 

「おい、起きろ!」

 

うつ伏せで横たわる特殊部隊のリーダーの腹部を蹴り飛ばし壁に激突させて痛みによって目を覚まさせる。

 

「ったく。んで、おどれら何処の国の者だ?」

 

「……」

 

「か~、揃いも揃ってだんまりかよ。言わないんだった俺とお前らとの戦争不可避だ。そしたら全員殺すから。皆殺し、平和を脅かす存在をこの世から排除する。女子供、手前らの家族・友人その他諸々全員をその国そのものを抹殺する。俺が勝った後に残るのは国家だった土地のみだ」

 

 動揺が走るリーダーをニヤリと笑いながら言葉を続ける。

 

「まあ、話さなくても良いや。一つ一つ言い当てていけば答えに辿り着くからよ。この豪勢な特殊装備からして一番可能性が高い国はぁ……アメリカ!!」

 

リーダーの視線が泳いだ。母国を一番に言い当てられ思わず無意識の内に動揺してしまったのだ。

 

「ははは、一発で正解かよ!良いぜ、望み通り戦争大好きなアメリカの望みを叶えてあげようじゃねえか!?一体どっちが勝つだろうなぁ!俺が勝てばアメリカ国民全員皆殺し。正義の名の下、平和を脅かす大義名分によりアメリカ自体を抹消だ!!」

 

「ま、待ってくれ!」

 

「はは、喋れたのかよ。だが今更もう遅い!!自分達の都合の悪い事態になって懇願……反吐が出る!!縋る事しか能が無い弱者は生きる価値がなし。よって殺す!指導者が勝手にやった事だ…その指導者を選んだのは誰だ!その指導者の指示に従ったのは誰だ!?その指導者を止めれるべき立場にいながら止めなかったのは誰だ!?お前達の骸と共にアメリカに宣戦布告を言い渡す。ISを使った世界大戦。多くの国々が俺に味方をする。ここはIS学園、如何なる国にも所属せず、如何なる組織にも属さない世界で唯一の中立国に侵入した報いを世界から受けるが良い。世界は俺に味方する。中立国に刃を向けた俗物の言い分を誰が信じる?自らの国の滅びを受け入れろ」

 

 それは宣言だった。本人すら知らない真の世界最強の宣言。

 あらゆる国や組織に属さない中立国たるIS学園に向けられたアメリカの特殊部隊。それを公表しアメリカに宣戦布告をすれば世界各国が我先にと一夏の御旗に賛同して来るだろう。アメリカという国家そのものを消滅させ、残るものは土地のみとなればその土地のお零れを貰おうと世界各国が一夏に賛同する。打倒アメリカを掲げ、世界が一つとなって協力し合う。

 

 ISの登場によって世界中に散らばったISのコアにより軍事バランスは表面上均衡に保たれていた。ISの登場によってかつて世界一の軍事力を誇っていたアメリカの軍事力はISの登場によってある程度瓦解した。

 

 世界中からISを集めアメリカを攻撃すれば如何にアメリカといえども1週間で勝負がつく。勝利した暁にはアメリカ人を皆殺しにすれば人権団体や国連が騒ぎ出すやもしれないが放っておけば良い。騒いだところで何もしない。制裁を行ったとしても所詮指導者は欲にまみれた人間。都合の良い様に操る事など造作もない。

 

 

「は、もう少し交渉術を学んでおくべきだったな!お前から何をこちらに提示できる?残り少ない命のお前が。良いか、お前等はもう少しで死ぬ。その骸と共に俺が世界に公表しアメリカに宣戦布告をしてアメリカを滅ぼし利益を得る以上にこちらに魅力のある提案をしろ!出来なければお前らの祖国が消滅するだけだ。散々ルールを破った罰をお前達の望む形で受け入れろ」

 

 残酷な宣告が今下された。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

女は学園に侵入した米軍特殊部隊「名も無き兵たち(アンネイムド)」の隊長だった。

因みに一夏が接触し痛めつけたのは副隊長である。

 

「……」

 

女は進む。先日学園を襲った無人機がIS学園地下特別区画にあるかもしれないから。

その身に纏うのは【ファング・クエイク】ステルス試験型。

かつてあった名も訓練の中で忘れてしまった。ただただ、隊長とだけ呼ばれる事実。

 

任務の裏にどんな計画があるのか知りもしないし興味もない。ただ隊長は与えられた任務をこなすだけ。

 

「……?」

 

【ファング・クエイク】の浮遊による前進を停止する。ハイパーセンサーが前方の人影を捉えていた。

 

「参る!」

 

「……!?」

 

 短い言葉と共に弾丸の如く影が風となって駆けた。

 ガインッ‼と派手な金属音と火花を立てて影は隊長の後ろへと飛ぶ。

 そして次の瞬間通路に灯りがついた。

 

 隊長が後ろに視線を向けるとそこには一振りの刀を握りしめ漆黒のボディースツを身に纏い太腿に左右3本ずつ計6本の日本刀が納められ腰に太腿に収められているのより一回り大きな刀が鞘に収まっていた。

 

(本気か?)

 

先ず隊長が思ったのがそれだった。

対通常兵器用のスーツで防弾性や防刃効果はあるだろうがそれでもISの圧倒的火力の前に裸であるのとなんら変わりがない。

 

「フム、久しぶりで腕が鈍っていそうだな。丁度良い、この機会に肩慣らしをしておくか」

 

 そんな隊長を前に千冬は2、3回程素振りをすると良しと言って隊長と向き合う。

 

「さあ、かかって来い。お前の目の前にいるのは世界で初めて世界最強の名ブリュンヒルデを手にした女だ。全身全霊で挑むが良い」

 

 

 隊長の前に不敵な笑みを浮かべる世界最強が立ちはだかる。


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