ギャングキングを襲撃事件から一週間が経過した。
ギャングキングのパーティーを襲撃した事でいかにもマスコミが好きそうなネタなので翌日の新聞に掲載されるかと思い二、三日新聞を見ていたがその様な記事は書かれておらず神奈川電力を一時ハッキング!?や横浜シーサイドマリンホテル強風により漂流物がパーティー会場に撃墜!幸いな事に死者は出ずと一夏が行ったハッキングや襲撃したホテルの事は当たらずとも遠からずと言った感じで書かれているが、ギャングキングの事については一度たりとも書かれなかった。
もとより彼らは日陰者。新聞などに乗ること自体があまり好ましいとは言えないのだ。彼らに恐れた日本政府がマスコミ各社に圧力をかけたと言った所が真相だろう。
「……ハア」
溜息を吐くほど一夏には新たな問題が浮上していた。
その原因はギャングキングのパーティーを襲撃してから翌日の事である。青狼会の本拠地に刀を返しに向かうとそこには、ギャングキングと青狼会の構成員がずらりと並んで一夏を出迎えた。
突然の事にその手に持った刀を少し鞘から抜き何時でも居合斬りを行えるようにしておく。
「ま、待って下さい!若!!」
そんな一夏を止めたのはマサだった。
「親っさんが意識を取り戻して、今回の一件でギャングキング達との話し合いを再びここで行うようにしたんでさあ」
「何!?それは本当か!?」
「はい、今話し合いのために着替えています」
「そうか!なら良かった!!」
安どの表情を浮かべるのだが、虫の知らせと言うやつか何故か嫌な予感しかしない。
表面上は笑顔を取り作ろうが、嫌なざわめきを抱えたままマサに案内されるがままに青狼会の今の一角和室に案内されて和室に入ると着物を羽織り、座布団の上で胡坐をかいて待つ組長の姿がそこにあった。
「親っさん!」
「おう、坊主。人の言う事を聞かん馬鹿共同様中々勝手な事をしたな」
「……すまない。恩人が倒れてただ黙って指を咥えていろと?だが、俺は、俺は知らないふりが出来るほど人間出来ちゃあいないんでね」
二人の会話でギャングキングのボスは隣にいる幼い少年が昨日の襲撃事件の犯人だと知ると、目を丸くする。
こんな幼い子供に自分たちがやられたのかと思うと隣に立つ少年が不気味に思えてくる。
「その齢であの強さならこの子は将来…」
一体どれほど強くなるというのだろうか?銃を持った大人を相手に圧倒的な力を見せた彼はどれほどまでに強くなるのだろうか??
そう思うと同時にこの者と絶対に敵対してはいけないと悟る。敵にしたら最後根絶やしにされるだろう。無論、急な襲撃だったとはいえ昨日の一件でかすり傷一つ付けれなかったのだ。敵対するのは死を意味するだろう。
そう思うと昨日の襲撃から考えていた事を内心決定した。
「まあ、ええわ。おい、坊主ちょっとそこに座れ」
そんなギャングキングのボスをほっといて青狼会の組長は自分の前を指さして座るように指示を出し、一夏はその指示をおとなしくきく。
「今回の一件でお前さんには、ほとほと呆れさせてもうたわ」
呆れた表情で一夏を見る組長はハアと溜息を吐くと
「もう、お前さんに組をやる。この決定は青狼会全員の総意や」
「何!?」
「何だと!?」
驚いたのは一夏だけではなくギャングキングのボスもまた一夏の隣で驚いていた。一夏が青狼会の組長に就任するようになれば今後ギャングキングが敵対する事になった際に確実にギャングキングが根絶やしにされる事を意味していた。
そうなれば昨日の命がけの選択は無意味に終わってしまう。
「……成程」
うまい事を考えてくれたな青狼会!
内心そう呟きながら手を強く握りしめ、唇をかみしめる。
そして、
「解った。ならば、ギャングキングもまた君にあげよう。これは決定事項だ」
「な!?」
ギャングキングのボス……いや、元ボスの言葉に一夏は驚きの表情を隠しきれずに絶句した。
この二人の宣言で一夏にはアメリカ最大のギャングと日本最大の極道のドロップアウター達の頂点となる事が決定した。対暗部用暗部更識家当主、IS学園の生徒会長、
「……良いだろう。貴殿らの後継者選びの選択が正しかったかどうかその眼でしかと見届けるがいい」
不敵にそう笑いながら呟くと一夏は「謹んでお受けします」と宣言した。
これにより表面上一夏は巨大な勢力となったのは言うまでもあるまい。
「残る巨大なブラックアウトローの勢力は中国位か。まあ、国がデカいだけあって香港マフィア勢力は未だ強力だろうが……」
水面下ではマフィアやギャングの他にもテロリスト集団なども暗躍している。テロリスト達には特定の居場所は無いがギャングやマフィアは自分の国を根城にしている。
そして、アメリカの次に巨大なマフィアは中国の香港マフィアだ。何せ、この香港マフィアは中国共産党に対してその莫大な資金で強い発言権と権力を持っており、香港は表向きは観光スポットだが実際には香港マフィアの巣窟である。その為、香港は事実上香港マフィアの国といえ、元々は香港が観光スポットとして脚光を浴びたのに目を付けたのが香港マフィア達であり、その客足の多さで数多の金がマフィアの資金源となって勢力増強を促している。
最近は香港マフィアの話は耳に入らない。平和と言えるほど喜ばしい事だが、実際はどうだかわからない。嵐の前の静けさかも知れないが故に気を引き締めて諜報活動に専念しなえればいけない。
対暗部用暗部更識家当主更識楯無には暗殺や破壊を行う暗部に対して必要とあらば同じく暗殺や破壊を行う責務がある。そして、そんな更識家にはギャングやマフィアに対して必要とあらば暗殺や排除を行う必要があるのだが、今回日本とアメリカの二つのお国のドロップアウター達を支配できれば仕事が減ると言うもの。そう悪い話ではなかった。
「まあ、問題は無いな」
「ん?どうかしたんかいな新組長?」
意地悪そうな笑みで青狼会の元組長が尋ねてくるが、それに対して「何も」とそっけなく答えると視線を元組長から大空へと移す。暫くギャングキングの内部は荒れるし、下手をすれば暗殺も差し向けられるかもしれないが更識家当主となった一夏ならば問題ない。唯一の肉親である姉の千冬に暗殺者が差し向けられる可能性があるがそれで命がとられるならば千冬は世界最強にはなっていなかっただろうし、世界最強はその程度で命を取られる程安い称号ではない。
他にも婚約者である束や娘のクーに暗殺者が差し向けられる可能性も考えられるが、そもそも各国が血眼になって探して未だに発見されていない婚約者と娘を見つけることは不可能に近いだろう。
「いや、何でもないさ。どうせ3つの長をやっているのだ。一つや二つ増えたところで大差ないだろう。だが、貴様らは俺を長にするのならば俺の命に従い、俺のために働き、俺の為に死ね!それが、俺が襲名するにあたっての唯一無二の絶対条件だ」
これである程度間引けるだろうと一夏は内心ほくそ笑んだ。
ぽっと出のやつがリーダーとなり、次期リーダーになろうとしていた今までの苦労は全て水の泡。青狼会は元組長の話曰く全員の総意らしいがギャングキングは元ボスの一存。どの程度の発言権があるが知らないが内部は荒れるに荒れ、離反する者も出て来るだろうが不穏分子を内部に抱きかかえた状態で頭数をそろえてもいざピンチの時に寝首をかかれるリスクがデカすぎる。ならばいっそこの襲名を理由に間引けば良い。
「さあて、新組長兼新ボスとしての初仕事を始めるとしようか!ギャングキングと青狼会の併合による新たなるアメリカと日本を股にかける巨大な武力組織へ」
元組長と元ボスにそう宣言すると元組長に刀を返し部屋を出ていく。
一夏は宣言して終始愉快そうに口元を歪ませていた。
一夏が部屋を出て行ってすぐに元組長が溜息を吐いた。
「……あかんな。ドえらい者に組長を譲ってもうたかもしれんな」
「こちらとしても敵対したくは無かったが故に咄嗟にボスの座を譲り渡してしまったが……早くも後悔した」
「しゃあないやろう。あいつに組を継がせたわい等の選択や。わいもお前さんと同じ立場なら組の存続のために同じ選択をしたやろう。逃れられぬ定めっちゅうこっちゃ」
二人の元長は深い深い溜息をつくのだった。
一方、部屋を出た一夏は青狼会の構成員らに組長襲名の意を伝え、青狼会NO2のマサが運転するクラウンに乗り、摩天楼に向けて車を走らせていた。
「しかし、良かったのか?俺が青狼会の組長を襲名して」
「ワシ等は、ワシ等は親っさんの言う事を聞くあまり極道としての本質を忘れておりました。仁義っちゅうもんを」
「だが、親っさんは俺に伝える事は勿論やり返す事を望んでいなかった筈だが?」
「確かにそうですわ。でも、ワシ等極道は日陰者。世間から疎まれたドロップアウター達ですわ。そんなワシ等が仁義を忘れたら、それこそ人間としての誇りを失うてしもう。ワシ等は親っさんに怒られる事を恐れるあまりその大切な事を忘れてました。人として恥ずべき事ですわ。そんな人間の誇りを失いかけたワイ等に誰が付いてきやす?人間として怒った若こそが組長を継ぐに相応しいとワイ等が思っただけの事ですわ」
「……フン。物好きな奴らだ。ボロ雑巾のようにこき使い潰してやるから覚悟しとけ」
「お手柔らかに」
そう言ってそれから二人の会話が続く事は無かった。
運転するマサの後ろ姿を見ていた一夏は視線をマサから車の外へと視線を移す。車が移動すると共に通り抜けるビルや建物を見ながらこれからの事を考える。
「若……いいえ、組長。お気をつけて」
「ここは俺のもう一つの実家も同然だ。だいたい帰宅した自分の家を警戒しながら入る奴はおるまい。あ、後俺が戻るまでここで待機だ」
一夏は車を摩天楼から少し離れた場所に止めさせ、車から降りると摩天楼に向かって歩く。
マサはそう言いながら不敵に笑いヒラヒラと手を振る小さい組長の背中が自分よりとても大きく、大きく見えた。
摩天楼に帰還した一夏を出迎えたのは修羅達の洗礼だった。
至る所から修羅達が飛び出して小さくなった一夏に拳をあるいは脚を向ける。
彼らがそうするのも無理はない。摩天楼は修羅の国。はるか高みを目指す男達が集まり、競い合う場所。時には命をかけてぶつかり合う場所なのだ。そんな所にノコノコと子供が入って良い場所ではない。不審者と思われて襲いかかられても文句は言えない場所なのだ。
「でや!」
「だあ!」
襲いかかって来る修羅達に対して一夏は、修羅の攻撃予測軌道を算出。素早く軌道から体を退かせ、自ら距離を詰めて来た相手に対してその腹の正中線にめがけて拳を振るう。相手は自分の速度と一夏の拳によって正中線に拳が入り見事に隙が出来てしまう。呼吸も思うように出来ず、お腹を押さえて蹲る。そこに止めと言わんばかりに一夏に向けられた蹴りが一夏がその蹴りを飼わす事によって頭に直撃し脳震盪を起こして沈黙。
蹴りを繰り出した修羅もまさか仲間を巻き込むとは思わず、意識を沈黙した仲間の方に向けてしまい一夏のジャンピング回転蹴りを頭に食らって沈黙。
倒れた仲間の修羅達に驚きを隠せない修羅達。それもその筈であろう。見た目は小さな子供に戦闘に特化した修羅が倒されたのである。驚かない方が不自然であると言える。
だが、そんな状況の中当の本人である一夏は、
「フム、やはり未だこの程度の戦闘で苦労するか。威力も速度も攻撃距離も落ちているこの身では……数でこなすしかないな!」
拳を強く握りしめ面白そうに笑う。
――そう言えばいつ以来だろうか?こんなに心躍る戦闘をするのは……
――この身が弱体化した事に嘆いてもいたが、今は心が躍る。
――この身で、この弱体化した身では一体何処まで力を求める漢達の摩天楼で通用するのだろうか?
――ああ、実に、実に楽しい!心が躍り胸が高鳴る!!
いつの間にか一夏は気づかない間に口端が上がり笑っていた。
一発一発の威力が低下した拳では腹にワンパンで相手を殴り飛ばす事も出来ない。ならば、相手に数で攻めて疲れさせ隙を作らせ、その隙を突き沈める数でこなす戦法しかない。摩天楼は修羅の国であり修羅の巣窟。数も相手の方が上、絶望的な状況でしかないのに湧き出る衝動が抑えきれずに一夏の口から次第に声をだし腹から笑い始めた。
「ククク、ハハハハハ!」
「な、何だ!何が可笑しい!?」
突然の一夏の笑いに摩天楼の修羅達に動揺が走る。
そう言えば、戦いも心理戦であったなと思い出しながら一夏は構えたまま、「何も」と言うと不敵に笑う。
――無謀。あまりにも無謀。今の俺は弱体化した小さな体で無限組手と同じ事をやっている。
――だが、この高揚感!これは止められぬのだ。
胸の内側から沸き起こる高揚感に一夏は邪悪な笑みを浮かべて修羅達を見る。
修羅達はそんな一夏に純粋な生物として危機を感じていた。
一夏に対峙する修羅達。獰猛な笑みでそんな修羅を見据える一夏。一触即発の空気が摩天楼に広がる。
「おいおい、なんだこの一触即発の空気は!?」
この状況を一変させる事の出来る人物であり一夏がよく知る声の人物。幼い頃からその声をよく耳にした。
修羅達が一斉に声の発信源である人物に視線を向け、一夏は構えを解き舌打ちをしながらその人物へと視線を向ける。
「チッ!俺の楽しみを奪って……この落とし前どう付けるつもりだ?弾!!」
ギラリと憎々しげに視線を弾に向ける。
弾は驚いた様子で「い、一夏!?」と素っ頓狂な声を発した。
「い、一夏!?お、お前なのか!?ちっちぇえ頃に良く似てたから親戚の子供かな~なんて思ってたがお前だったのか!?」
「ああ、そうだよクソッタレ!!お前のせいで俺は楽しみを潰されて腸が煮えくり返りそうになってるんだが?」
「そうか。だがよぉ、この人数相手にその様では無謀としか言いようがないぞ?」
「だから?だからどうした!?だからこそ心が躍るというものだ!この身一つで一体どこまで通じ、何処までが限界で、その限界を超えれるか?この身で摩天楼の頂に立てれるか?それら全てを知るために俺は名を伏せていた。なのに!何故お前は俺の楽しみを奪う!?」
「俺は、お前をここで失うわけにはいかない!!
「ハ!その程度で瓦解するならばそれも良かろう!そうなるべくして成るだけの事よ!!まあ、お前のその心配は終わるだろう。何せこの俺が自ら終わらすのだからな!!」
「一夏、お前!」
「
「させるか!」
弾は一夏の口を塞ごうと一夏に向かって距離を詰めるが残酷な現実が弾に突き付けられる。
「摩天楼はこの時を持って終わりを告げる。
それは事実上の解散ともいえた。一夏の弱体化に事実上の解散。
衝撃を受けるには十分と言える理由だった。
「摩天楼が終わりを告げる?」
「それはつまり……」
「解散という事なのか?」
困惑する修羅達に不敵な笑みを見せながら一夏は言う。
「そうだ。摩天楼はこの時を持って終わりを告げる。
一夏の演説に一人、また一人が顔を上げ耳を傾けその言葉に魅了される。
既にその場にいる殆どが一夏につき従うと心を決めた。その時、
「成程、一夏。結局それが君の選択なんだね」
その場を支配していた一夏に声を向ける者がいた。
全員がその人物に視線を向けるとそこには――
「鏡」
鏡 形而。摩天楼のNO3.一夏の左腕と称される人物がそこにいた。
「ならば、僕は君を諌める!」
「貴様が、貴様如きが俺を諌める?大きく出たな鏡!!弱体化したとはいえ、その分俺は慢心などせんし頭を使うぞ!かつて神童と呼ばれた頃の頭脳に若返った俺をはたして貴様は諌めれるかな?」
既に臨戦態勢で構えている一夏に襲い掛かろうと機会を窺う鏡。
そんな二人の間に割って入る者がいた。
「俺は、俺は一夏についていくぜ」
鮮血の弾だ。
そう宣言した弾に鏡は困惑した表情でどうしてと尋ねる。
「どうして!?何故だ、弾!君は彼が、一夏が何をしようとしているのか解っているのか!?」
「さあな。はっきり解んねえな!」
「ならば、何故!?」
「だからこそよ!俺はこいつの
「
「ああ、そうともよ」
「何れ敵対する事になったとしても、それは変わらないのかい?」
「ああ、変わらないな。そもそも
「だから、だから
「そうだ。不良集団が
「ならば、何故!?何故
「鏡、一つお前の間違いを指摘しよう裏切るのではない。これは言わば一つの分かれ道のようなものだ。ここで一夏を今までと同じく支持するも良し、抜けるも良し。それだけだ」
「……それが、その選択が何れ世界を巻き込んでの争いになるとしてもかい?」
「その時は、その時は己が正義を執行するだけだ。俺らは、ただただ強くなったのではない。各々の中に正義を培ってきたんだ。始めは名ばかりだったが、何時しか俺らの中に正義が生まれた。悪を憎み善と成す正義がな」
「争いが、争いが悪だとは思わないのか弾!?悪であるならば、君の言葉を借りると悪を憎み善と成す。それが、正義と言うのならば、その争いを事前に防ぐ事こそが善!」
「それはお前の考えだ、鏡。争いは一つの解決方法でしかない。戦争もまたしかり。それに、な。俺にはこの女尊男卑の世界が悪にしか思えないんだ」
「ならば、話し合いで……「そこまでだ」一夏!」
「俺らは自分らの持つ正義が違い道を違えた。ただそれだけだ。それに鏡、お前に一つ教えておいてやる。弱者の語る正義など悪でしかないんだよ!!そう、弱者の語る正義がこの世で最も醜く憎むべき悪!その証拠に今の世界を見て見ろ。女尊男卑の社会的風潮は欠陥品であったISの到来によってもたらされたものだ。男がISよりもすぐれていれば女尊男卑の社会的風潮にはならなかった!!それは単に男が女より弱かったからに他ならない!弱者に、敗者に正義は無い!強者が勝者が正義なのだ!!それは歴史が証明している!その歴史をお前は否定できるのか?全人類が今まで刻んだ歴史をお前が、お前一人の正義が覆せるのか!?」
「だが、人類には対話と言う手段が……」
「それは無い!人が人類が刻んだ歴史に対話によって築かれた平和などありはしない!結局、人類は生物の業から解き放たれたことなど一度たりとも無いんだよ。人である以上他の生物の命を奪う事で命を繋ぐ生物の業からは、な!」
「それでも僕は……」
「それ以上は言うな。既に我らの道は違えた。ただそれだけだ」
「一夏!どうして……どうして解ってくれない!!何故にそこまで……」
君は自分を貶めようとするんだ!と叫びたかった。
だが、それをやってしまえば本当に、本当に修正や誤魔化しが効かなくなる位まで歴史が変わってしまう。
それは悪手中の悪手。故に鏡は胸から込み上げて来る衝動を抑えこんだ。
「さらばだ、鏡。我が左腕よ。出来る事ならばお前が俺の前に敵として現れん事を祈る」
唇を噛みしめ、悲哀の眼差しで一夏を見ると鏡は一夏に背を向けその場から立ち去ると摩天楼を後にした。
修羅や一夏の間には長い長い沈黙が訪れた。
一夏の左腕であり元摩天楼のNO3。その存在は大きく、損失もまた大きかった。
「……どうする?」
「どうしようか?」
修羅達の間に動揺が走る。どちらも正しい。
「諸君、動揺しているところ悪いが、ハッキリさせておこう。私について来ない、これない者はこれから30分以内にこの場を去ってくれ。ハッキリと宣言しておこう。私が作る理想郷は公平公正な世界。人類が更なる進化を遂げた人類進化の先にある。そして、その人類の理想郷を、私の目的を阻む者は……人類の敵だ!全力で潰させて貰う。だから、だから諸君。諸君等はこの場を去っても私の前に立ち塞がらないでくれ。私に諸君等を殺させないでくれ。以上だ。諸君等が賢明な判断になる事を願う。そして、最後に……諸君らに出会えて良かったと思う。ありがとう」
そう締めくくり一夏の演説は終わった。
数十分後、一夏の下には鏡以外の摩天楼に居た修羅全員が残っていた。
「諸君、良いのか?ここから先は後戻りが出来ない。命のやり取りを行う事になるのだぞ?」
「構いません。我らは今まで貴方にご恩になりました。故に、その恩を返すまで」
「そう、我らは
「我々はその恩を報いるまでの事!」
「……そうか。だが、これから俺は鏡が言った通り戦争をするやもしれん。そして、その時にお前らを兵と、駒とみなすぞ?」
「構いません!」
「もとより覚悟の上!」
「最後に言っておく。俺は、俺は兵を無駄死にさせたくない。何れISと互角に、いや互角以上に戦えるように厳しい厳しい地獄の特訓をする。それでもついて来るというのならば、ついて来い!!」
「「「ハッ!我らは御身の剣となりて、御身と御身の理想郷を守る剣となりましょう」」」
「そうか。ならば、俺もまたここに宣言しよう。俺は俺が持つ全てを使って貴様らを守ると」
今ここに固い主従の絆が結ばれた。
王と民。民にして騎士。騎士にして修羅。
これから一夏はこの民たちに暗部としての訓練と何れISと互角に戦える様にするつもりだ。
そして、それが成就すれば最早それは世界を脅かす軍事力となりえる。
その事にまだ世界は知らなかった。