拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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第6話

 一夏がIS学園に着くと時間は22時を回っていた。

 モノレールからIS学園の寮に向かう道中巡回をしていた千冬に出会う。

 

「遅い帰りだな織斑。寮の帰寮時間は21時までだが?」

 

「すんませんね。織斑先生。俺もやることがあって暇人じゃないんすよ」

 

「……次から気をつけろよ」

 

 帰りの遅くなった理由を後でつけさせた山田先生に訪ねてみようと千冬が考えていると一夏が千冬とすれ違う様に寮の方へと向かう。

 その千冬とすれ違う間際、「あんま、根を詰め過ぎんなよ。あんたは俺のストッパーなんだからストッパーがぶっ倒れたら誰が俺を止めんだ?」と一夏から忠告があり、千冬は驚いて一夏の後ろ姿を見る。ポケットに片手を入れて、もう片方の手でヒラヒラと手を振る一夏の姿がそこにあった。

 

「…そう思うならもう少し言動を謹んで欲しいものだ」

 

 ハアと溜息を吐きながらもニヤケながら一夏の後ろ姿を見送る千冬の姿があった。

 

★☆★

 

「1025室……ここだな」

 

IS学園寮3階の1025室の部屋の扉を開き、中に入る。

部屋の中は真っ黒で部屋の中から微かに寝息が聞こえる。

 

「Oh,学園って馬鹿なの?同居人いんじゃねえか……あ~、こりゃあ廊下で寝っか?」

 

 部屋の電気をつけようとするも折角寝ている同居人を起こすのもなんだか可愛そうな気がして携帯電話を取り出し、携帯電話の明かりを頼りに室内を見る。ベッドが二つにテレビが一台。ソファー2つに机が1つ。その他勉強机が2つ。いたってシンプルな構造となっていた。

 

「シンプル イズ ザ・ベスト って誰か言ってたけどシンプルすぎんだろ。花の女子高校的な存在だっただろ、去年まで。何このシンプルさ。これじゃあ、俺の部屋の方がまだ賑やかだわ。まあ、俺は寝れてネット環境が良好だったら別に良いけど」

 

 そう呟いて携帯を操作し、WIFIモードに設定する。

 電波の状態はとても良好でサクサク動くことに「さっすがIS学園」とニヤケながら携帯を操作する。

 

一夏は、幾つかの特技を持っている。一つが主婦顔負けの家事テクニック。そして、もう一つが中学の頃に開花させたハッキング能力。

 一夏が好きなバトルは現実世界でのやりとりだけではない。ネットの電脳世界でのバトルも好きなのだ。

 

 まあ、実際には白騎士事件の元凶を追求する過程で開花させた能力なのだが、ネットの世界でのバトルも好きで一夏が現在使用している携帯もハッキング・クラッキングできるように一夏が魔改造しちゃった代物なのだが普通に使用していると普通の携帯にしか見えないので今のところ誰も気づいてはいない。

 

 

「さてさて、ワン・サマー様がファイアーサマーを起こしちゃうぜ~」

 

 にやりと笑みを浮かべる一夏。

 彼の携帯にはイギリス政府のA級データベースから今度対戦するセシリアのISの情報を盗み出していた。

 

「ん?」

 

 その次の情報に眼を疑ってしまう。

 

「サイレント・ゼフィルス 第二試験機報告書。BT兵器搭載の2号機で強奪された……フーン。って、事はセシリア・オルコットのISよりも強い機体って事か。やんならこっちとやりたかったぜ~。まあ、いっか。でも、イギリスも立つ瀬がないだろうな~実験機とは言えISを奪われてちゃあ」

 

 ISは、一機だけでも他の国よりも多く持っているだけで戦力バランスを大きく崩すほどの戦闘能力を持っている。防衛力と各国が謳っては、いるがその機動力を持ってすれば世界情勢を大きく覆しかねない。

 

「まあ、別に世界が滅ぼうがどうでも良いけど~」

 

 フンとそのデータを読み終わると一夏は他に幾つかのイギリスA級データベースから適当な情報を読み終わると無数の海外通信で繋げた抜け穴から帰る。

 一夏にとって世界が滅ぼうがどうでも良い事なのだ。ただ、興味があるのは世界最強という称号。そして、白騎士事件を起こして篠ノ之 束を泣かせた元凶の首のみ。

 

 それら全てが片付けば世界が核ミサイル合戦で人類の9割りが死滅しようとも構わないとすら思っている。精々興味があるのは肉親である千冬と青狼会の人間、一夏を取り巻く人物ら位でその他の人間が死のうが生きていようが関係ない。路肩の石に一々気に止めないのと一緒で赤の他人に興味などない。

 

 

「さて、月が綺麗だし練習でもすっかな~」

 

 そう言って一夏は部屋に備え付けられたベランダに出る。ベランダから見えるのはすぐ傍に大きな樹木が並んでいる風景で一夏はベランダから樹木に飛び移る。3階の1025質のベランダから樹木に飛び移ることに失敗すれば死亡。良くて骨折や強度の打撲になるであろうそれを臆することなく飄々と猫やモモンガみたいに飛び移る。

 

 そして、彼は木を使って1階の外に降り立つと暗闇に走って消える。

 

 

 

「遅せえ!!」

 

 セシリア・オルコットとの戦い当日、一夏のもとに支給される専用機が来ていなかった。

 一夏は第三アリーナ・Aピットで千冬にぼやいていた。

 

「仕方ないだろう。お前の専用機がごたついているんだから。諦めろ」

 

 超現実主義の千冬による指摘は更に一夏を苛立たせる。

 

「あ~、もう訓練機で良いや。訓練機を俺に回してくれや。そうすりゃあ本番ぶっつけの専用機よりかは僅かな時間でも試験稼働できた訓練機の方が使い勝手が良いからよお」

 

「お前がこの学園に入学させられた理由を覚えているか?」

 

「あ?知らねえな。一々雑魚の話に耳なんざ傾けねえし。俺にご機嫌伺いに来て媚を売りに来るやつなんぞに興味ねえから覚えてねえし」

 

「……ハア、政府の役人らは媚を売りに来たんじゃなくてお願いに来ていたんだけどな」と前置きしたうえで一夏に言った。

 

「お前の男性IS操縦者のデータサンプリングを目的にしてるんだ。馬鹿者めが」

 

「あ!?じゃあ、そのデータサンプリングの為だけに藍越学園の入学を変更させられてIS学園にぶち込まれたってか?」

 

「まあ、ざっくばらんに言えばそうなるな」と千冬が頷いた瞬間一夏がキレた。もうブチギレた。怒髪天を突くんじゃないかと思うぐらい怒りが天元突破した。

 

「ふざけんなや、カス!この戦いが終わったら俺ちょっくら世界に宣戦布告して来るわ!日本政府代表と言ってこの世界から日本政府を潰してやる!徹底的に、圧倒的に、絶望的に日本政府の役人諸共この世界から抹殺してやる!!」

 

 このままでは男性IS操縦者による世界大戦が始まってしまう。勢力図で言うならば世界VS日本。この様な形で開始され日本政府どころか日本と言う国そのものが下手をすれば一日で世界地図から消えてしまう。

 

「ハア、させると思うか馬鹿者が」とストッパーの千冬、一夏に対峙し何時でも一夏を拘束できるように位置取りをしておく。この今いる部屋の出口は二つあるが一つは千冬の背後にある扉で、もう一つはピット搬入口で今は電子ロックによって閉まっている。

 

 一夏と千冬の強さは一夏の方が千冬と互角かそれ以上。かつて一夏が一度だけ暴走した時に、一夏を止める為に生身で挑むも敵わず。結局その時に千冬の専用機であった日本製第一世代型IS「暮桜」を使用して一夏の暴走を止めた事があるが、この時の暴走を止める為に使用した時にIS「暮桜」に途方もないダメージを一夏によって受けてしまった。その所為で千冬の専用機「暮桜」は今スリープモードに入って修復中なのだ。あの時は一夏も半分意識の無い状態ではあったが、それでも潜在能力を引き起こされた状態であったと仮定するならば、その戦闘能力の高さはISを操縦した状態の千冬と生身で互角かそれ以上と言う事に成る。その事については千冬と一夏が暴走した時の元凶しか知りえない情報だ。

 

 現状の表の世界最強は織斑千冬だが、本当の裏の世界最強は織斑一夏なのだ。

 

 一夏が意識が正常に戻った時の戦闘力は生身の千冬以下だった為、一夏は千冬こそが世界最強の座に君臨していると思い込んでいる。故に一夏は口では逆らったり逆らう様な言動をしたりするが千冬を心の中では敬い、敬愛し、その強さに憧れすら抱いている。

 

 対峙する千冬を見ると「ムウ!邪魔スンナ!」と抗議の意を唱えるも、千冬は「日本が世界地図から消されては故郷が無くなるのでな」と一歩も引かない。

 

 そうこうしている内に山田先生がその大きな胸をボヨンボヨン揺らしながら第三アリーナ・Aピットで駆け足でやって来た。

 

「織斑君、織斑君織斑君!」

 

 そして、最後にドジッ子スキルを発動。盛大に床で蹴躓いて転んだ。その様子を一夏と千冬は無言で見ていたが山田先生がこけるのを見ると「「ハア」」と二人して溜息を吐いた。

 一夏は盛大にこけた山田先生の所まで行くとヤンキー座りをして山田先生の目線と同じ目線に合わす。

 

「ほら、手」と一夏は手を差し伸べ山田先生は涙目で一夏の手を握ると一夏は立ち上がり山田先生の手を引っ張って立ちおこした。

 

「んで?山田先生、俺になんか用っすか?」

 

「そうでした。織斑君、専用機が来ました」

 

 

 ゴゴンと閉じられていたビット搬入口が重く開き、斜めにかみ合う防御壁扉はゆっくりとその向こう側を晒してゆき、そこに『白』がいた。

 

「これが織斑君の専用機 白式です」

 

 山田先生の説明を受けながら一夏はその手で待機状態の白式に触れる。そして、体を白式に預ける。

 

「アリーナの使用時間は限られている。時間が無いからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。出来なければ負けるだけだ」

 

 千冬の言葉に一夏は僅かばかり笑う。

 

「良いじゃねえか!こうでなきゃ、潰し甲斐がねえなあ!丁度いいハンデだ」

 

 その獰猛な眼には、莫大な情報量の操作が行われている事を現していた。その情報終了時間約20分。

――戦闘待機状態のISを感知。操縦者セシリア・オルコット。ISネーム ブルー・ティアーズ。戦闘タイプ中距離射撃型。特殊装備あり

 

「一夏、ISのハイパーセンサーは良好か?」

 

「ああ。問題ねえみたいだ」

 

 そう言って一夏は開いたピット・ゲートから飛び出して外に出た。

 

 

 

 ピット・ゲートから飛び出して出た一夏はアリーナ・ステージに降り立った。

 

「逃げずに来ましたのね」

 

 上空に浮かぶセシリア。そして彼女が身に纏うISブル―・ティア―ズ。その手には自身の背よりも大きな巨大な銃が握られていた。

 あれがBT兵器か?と一夏は考えながら事前に得た情報を頭の中でまとめていた。

 

――BT兵器とはその威力、速度、有効射程距離は銃よりも高いがそのエネルギー消耗が悪い事。その為、如何に無駄玉を撃たせるかが鍵と成る。ならば、無駄玉を撃たせてエネルギーを消耗したところを叩く。ただし、オールレンジ攻撃があるので複数の同時攻撃に気を付けなければいけない。

 

「ああ、来いよ。潰してやるからさあ!」

 

 地面を殴り、クラッチングスタートの体勢となるも、その肉食獣の様な獰猛な眼で視線をセシリアから外さなかった。

 

「そうですか――」

 

――警告、敵IS射撃体勢に移行。トリガー確認。初弾エネルギー装填。白式がそう告げると一夏は意識をセシリアと自分の脚に向ける。速く、セシリアの撃つ銃よりも速く動く為。彼女から攻撃を食らわない様にするために引き金を引くタイミングを見極めてその引き金を引くよりも早く動き回避する。

 

「お別れですわ!」

 

 セシリアの持つ銃 六七口径特殊レーザーライフル《スターライトmkⅢ》から耳をつんざくような独特の音と銃口から青白い閃光が発せられた。


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