拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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今回のキーワード ポチとタマと外道と麻婆豆腐


第50話

 織斑の表札の前にシャルロット・デュノアはいた。

 一夏の事が好きな彼女だが、残念な事に一夏はデュノアを異性として見ていなかった。単なるクラスメイトでしか思えていないがそれでも、まあ境遇故に手を差し伸べるに値する人物だった。

 

「こ、ここで間違いないよね。うん、表札だって織斑って書いてるし」

 

 自分に言い聞かせるように織斑の前で一人ぶつくさ言っている様子はまるっきり不審者だった。しかも、シャルロット・デュノアは美少女だが金髪の外国人。故に不審者っぽさに拍車をかける。渋谷や新宿で外国人がよく職質される事もあるが、それは外国人ゆえに少し不審に思われるが故にである。

 そんな織斑の表札の前で挙動不審な外国人が居ればどうなるか……答えは明白である。

 

「あ、すみません。なんか挙動不審な不審者がいるんで来て貰えますか?場所は――」

 

「え、あ、ちょっと!ぼ、僕は別に何も怪しい事は—―」

 

 慌てて背後を振り返るとそこには携帯電話を片手に持ちスーパーの袋を持つ一夏の姿がそこにあった。

 

「フム。やはり、デュノア君か」

 

 そもそも一夏が不審者如きで不祥事を起こした警察に電話するわけがない。不審者が居れば自分でとっ捕まえるし、何よりも腕や手足が1、2本無くなってしまうかもしれないが一応活人拳である為襲ってきたらぶちのめせば良いだけである。

 

「え、えっと~一夏?最初から僕だって理解して?」

 

「いや、理解してという言葉には語弊があるな。お前である可能性が高かっただけだ」

 

「それじゃあ、普通に声をかけてくれたら良かったんじゃあ……」

 

「そりゃあ、お前。俺の単なる趣味。慌てふためく姿は中々のものだったぞ」

 

「そ、そう?お気に召したようで何よりです」

 

「まあ、何だ。折角来たのだから上がって行けよ」

 

「え、良いの!?」

 

「ああ、まあ、何もないがな」

 

 そう言って一夏は家の門を開け敷地の中に入っていく。デュノアもそれに続いて敷地内に入っていく。玄関の扉の鍵穴に一夏がカギを入れた瞬間、

 

『警告、警告、警告。これより6秒以内にパスワードを入力して下さい』

 

 けたたましいアラームが敷地内に鳴り響き、ウイーンと上からタッチパネルが下りてくる。タッチパネルには数字と文字が表示されるもすぐに表示される文字が変わってしまう。

 

「え、ちょ、これ何!?」

 

「ああ、単なる俺が作った防犯装置」

 

 そう言って一夏はすぐに変わる文字が浮かび上がるタッチパネルを鼻歌を歌いながらさっさと押していく。ピンポーンとどこかのクイズ番組で正解した時に流れる音が鳴り響く。

 

「速く入れよ」

 

「えっと~、因みに今の織斑先生もするの?」

 

「馬鹿だなデュノア君。人には向き不向きと言うのがあってだな~。ちーたn……織斑先生があれを出来ると思う?」

 

一夏に言われて少し想像してみるが……

 

「……正直出来る様子が思い浮かばない」

 

「だろ?だからちーたn……織斑先生用にパンチングマシーンを用意してだな600点以上を叩き出さないと開かない仕組みになっている」

 

「………」

 

 ツッコミ待ちなのか!?ツッコミ待ちなのか!?とデュノアは眉間を親指と人差し指で挟むようにして考え悩む。

 

「中々ツッコミが来ないなあ。あ、そうそう。ツッコミと言えばこのパンチングマシーンなんだけど、車で突撃してきたりパンチ以外でパンチングマシーンと接触しようものなら迎撃システムが発動するんだ」

 

 何で迎撃システムが見た目普通の一軒家に?と思ってしまうが、まあそれは置いておくとしよう。何せ相手は織斑先生。世界最強なのだから熱狂的なファンが侵入するとかそんな理由だと思っておこう。

 

一夏が扉を開け廊下を歩きデュノアの先頭を歩いているとマットの上を踏み次に瞬間大きくジャンプした。デュノアはそれに何でジャンプするんだろうと思いながら歩いていると

 

「あ、そのマットの先に大きな穴があるから。気を付け「わあああああ!?」あ、ほら言わんこっちゃ無い」

 

 大きな穴があり、その穴の中に落ちていく。

 後ろを振り返った一夏はデュノアが穴に落ちた事を知るとやれやれと言いたげな表情で肩をすくめる。

 

 一夏の家織斑邸は何を言おう、からくり屋敷である。一夏の家には一夏が作ったAIのデータを入れたパソコンを保管しており、千冬に内緒で地下に作った秘密の部屋にあるのだが、この件にはどこかの天才兎がかかわっている。その為侵入者への迎撃システムはばっちり。千冬と一夏でしかこの家には入れないのだ。

 

 因みに先程デュノアが落ちた穴は単に新たな秘密部屋を増築するために一夏が作った穴でデュノアが落ちた理由はその穴がフローリングシートで隠されていたからである。

 

「ったく。人の話をちゃんと聞かないからこんな目に合うんだ」

 

 そう呟きながら一夏はポケットから携帯電話を取り出すと弄る。すると、ウィーンと機械音が鳴り響き天井からロープが穴の中に垂れ下がってくる。

 

「おーい、デュノア君~。そのロープに捕まって登って来いよ」

 

 一夏はそう言うと荷物を置くためにいったんリビングへ。そして台車を押してデュノアが落ちた穴へと戻るとそこには穴から出てきたデュノアの姿が。

 

「ひ、酷い目にあった~」

 

「さっきも言ったが人の話を聞かないからだ!ちーたn……織斑先生が相手なら拳骨されてても文句は言えないぞ」

 

「うっ、反論できない」

 

「兎に角、この台車に乗れ。廊下を汚されてはたまらん」

 

「うう、僕ってお荷物なの!?」

 

「少なくともそういう状況を作ったのはお前自身だ。否定できんだろ?」

 

「うぐっ」

 

 渋々と言った表情で台車に乗るデュノア。もう気分はドナドナの牛である。気合を入れておしゃれをして異性の家に行ってみれば穴に落ちて砂まみれ。踏んだり蹴ったりである。

 

「うう、酷い目にあった……」

 

 バスルームに通されシャワーをお借りして頭からシャワーを浴びるとデュノアは考える。折角、気になるあの子の家に行って「き、来ちゃった」をやりたかったのだが、もうそれ所ではなくなった。

 だが、ふと現状を確認してみる。一夏の家に来て、穴に落ちて踏んだり蹴ったりではあるがシャワーを浴びている(現状ここ)。

 

 やがて、現状を理解するとみるみる顔が赤くなってくる。

 

 

「え、えっと~このままお泊りコースなんてのは………」

 

 期待しても良いんじゃない!?と叫びたくなる衝動をごくんと無理やり飲み込み抑える。

 大抵そう言った後はそうならないと言うのがお約束なのだ。

 

「お~い、ここにとりあえずの着替え置いておくぞ」

 

「ひゃ、ひゃい!!」

 

 思わず声が裏返ってしまい、一夏はそれを扉の向こうから呆れた声で指摘する。

 

「ひゃいってお前……声裏返ってたぞ」

 

「あ、うん。着替えありがとう」

 

「今からコンビニで勇者になってくるから、まあ待っとけ」

 

「えっと、どうしてなのかな?」

 

 デュノアの疑問は尤もであろう。コンビニで勇者になる……訳がわからない。

 

「そりゃあ、お前の下着を買ってくるからに決まってんだろ。所詮コンビニ下着だから白か黒だぞ。まあ、そこはコンビニ下着って事で割り切ってもらうしかないな。俺がコンビニで下着を買う事だって、姉が急きょ入院する羽目になってとか言い訳をしなければいけんのにランジェリーショップに堂々と男の俺が入って真顔でお前が注文する下着を手に取って、このブラジ○ーはいまいちだな。あ、このパンテ○ーは中々の物だな。うん、買おうなんて言ってみろ!馬鹿め、どう考えても警備員に連行されるのがおちだ!」

 

「だ、大丈夫だよ!服を貸してくれれば!」

 

「そうか。フム、ならば『ピーンポーン。あ、ソーランソーランソーラン、ハイハイ』っち。客か」

 

 何故かインターホンが鳴った後にソーラン節が流れたが気にしないでおこうとデュノアは決めた。

 

 

☆                 ☆             ☆

 

 

「は-い」

 

 もうやる気の無さ全開で一夏が家の扉を入るとそこには、

 

「御機嫌麗しゅう、一夏さん」

 

 日傘を持ったお嬢様風の金髪美少女が居た。

 

「………」

 

 眉間にしわを寄せ無言で玄関の扉を閉めようとする一夏。

 

「ちょ、ちょっと待って下さいまし!」

 

 慌ててセシリアは日傘を持っていない手を掲げる。

 

「じ、実はここに来る途中でケーキを購入しましたの!というか、それが本命でして。ここに来たのはついでと言いますか、近くでしたのでこの幸せを一緒に共有したいなと思いましたの」

 

 僅かに開いていた玄関の扉が暫くしてから開き、一夏が顔だけひょっこり覘かせる。

 

「す、すまんが暫し待て!」

 

 そう言って扉を閉めるもセシリアの耳にはドタバタと慌ただしく家の中をかける音が聞こえる。

 数分後に玄関の扉が開き一夏が出てくると

 

「どうぞ」

 

「し、失礼しますわ」

 

 セシリアは気になる異性の家に入るという緊張感に襲われる。鼓動が速くなり心拍数が上昇する。

 玄関を入るとそこには鼻孔を刺激する一夏の匂いが………

 

「!!」

 

「どうした?」

 

「あ、いえ。何でもありませんわ!オホホホ」

 

 やっべえ!匂いにやられてもうちょっとで天に召されるところだったよと内心思いながら玄関で靴を脱ごうとすると可愛らしい女物の靴が目に留まる。

 

「………」

 

 靴を揃えて置こうとしたまま固まったセシリアに一夏が声をかける。

 

「どうした?」

 

「い、一夏さん。こ、こ、この靴は一体どなたのですの?」

 

 目の前の女物の靴を見るも一夏が履くとは考えにくい。そんじゃあ、織斑先生のじゃねえの?と思ってしまうが千冬が目の前の可愛らしい靴を履くとはどうしても想像がつかなかった。

 

「あ~、それね。今風呂つーかシャワーを浴びているデュノアのだぞ」

 

 何気なく言った一夏の一言がセシリアの耳に入り脳内でリピートされる。

 

――シャワーを浴びているデュノアのだぞ。シャワーを浴びているデュノアのだぞ。シャワーを浴びているデュノアのだぞ。シャワーを浴びているデュノアのだぞ。

 

「そう……ですの。シャルロットさんの……ですのね。シャワーを浴びて……いらっしゃる!」

 

 靴を置くも一瞬でセシリアの眼から光が消失し、得体のしれない雰囲気を体から発するようになった。詰まる所、セシリアは一瞬でどこぞの腹黒後輩の如く一瞬で病んだのだ。今のセシリアがナイフを握ればもう様になっていただろう。

 

「ほら、ここがリビングだ。まあ、ちょっと待っててくれ。すぐに用意する」

 

 そう言って一夏はキッチンに向かうと換気扇をつけ、何やら作業をし始める。

 

「い、一夏。しゃわーありがとえええええ!?セ、セシリア!?」

 

 濡れた髪をタオルで拭きながらデュノアはリビングに入ってくるとセシリアの姿を見てひどく驚き、何でここに!?と呟いた。

 

「御機嫌よう、シャルロットさん」

 

 そう言ってにっこりと向日葵のような明るい笑顔を浮かべるセシリアの眼は、笑っていなかった。

 

「あははは。ご、御機嫌よう」

 

 シャワーを浴びたばかりのデュノアだがセシリアの視線に冷や汗が流れる。

 

 殺伐とした二人の間に流れる空気に水をかけたのは一夏だった。

 

「お~、デュノア君風呂から上がったかs『ピーンポーンあ、ソーランソーランソーラン、ハイハイ』また客か」

 

 苛立ち舌打ちをしてリビングから出ていく一夏。

 それと共に不穏な空気がセシリアとデュノアから流れる。デュノアを見るセシリアの眼は光を失ったハイライトな目で、暫らくの静寂の後その静寂を破った。

 

「シャルロットさん、どうしてあなたは一夏さんの家でシャワーを浴びましたの?ハ!?もしや、すでに(ピー)までしましたの!?いえ、(ピー)だけでは飽き足らず(ドキュン)や(ばきゅん)、(自主規制)や(放送禁止)まで!先に抜け駆けをして、勝ち取ったと言いますの!?」

 

「ええ!?」

 

 セシリアの様なリアルお嬢様から出る放送禁止ワードの連発にデュノアは混乱した。光を失ったハイライトで言われる放送禁止ワードの連発。異様な雰囲気にデュノアは飲み込まれる。

 

「それだけでは飽き足らず○○や✖✖✖まで!なんてうらやm……この変態!?」

 

「いやいや、僕は何もしてないからね!?(ピー)や(ドキュン)、(ばきゅん)、(自主規制)や(放送禁止)○○や✖✖✖も一切何もしてないからね!?ただただ、土まみれになったからシャワーを借りて浴びただけだよ!」

 

 デュノアが言い終わると同時にキイとリビングの扉が開き一夏が入ってくる。

 

「デュ、デュノア君……お、お前何言ってんの?」

 

「そうですわよシャルロットさん。先程から、乙女の口から出るのはどうかと思うはしたない言葉をおっしゃってますけど、ちょっとそれはどうかと思いますよ」

 

 しれっとした顔でそう言うセシリア。しかし、その眼は『してやったり』と言っていた。

 手前、どの口がそうほざきやがんだ!?ああん!?と叫びたい衝動を抑えつつ、「ごめんね」と一夏に向かって言うと今度はセシリアに向かって「セシリアもごめんね」と言うも、その眼は『いつか殺す!』と言っていた。

 

 一夏がリビングに入ってくると一夏の後から箒、セカンド、ラウラが続いて入ってくる。

 

 箒とセカンド、セシリアとデュノアは互いの顔を見ると「ゲッ」と言いたげな表情を作る。

 

「まあ、突っ立ってないで座れ。セシリアがケーキを1ホール持ってきてくれたのだ。皆でデザートとして食べよう」

 

 そう言って全員がリビングのソファーに座ると目の前の机に置かれる赤いマグマ。マグマの中には白い四角いものが浮かんでいるが、そんなことはどうでも良かった。何よりも気になったのは、それを置かれた時に瞬時に発せられる強烈な刺激臭。

 

 セカンドはそれを見ると顔を真っ青にし、「わ、私急用を思い出したから帰るわ。それじゃあ」と言ってとっととこの場を離脱しようとする。だが、一夏に出入り口であるリビングの扉を先回りされ、離脱に失敗。

 

「セカンド、一体何処に行こうと言うのかね?」

 

 某大佐の名台詞をゲス顔で言う一夏の眼はこう言っていた『愉悦』と。

 

「ほら、飲み物も折角用意したのだからぐびっと飲むが良い」

 

「飲み物じゃないわよ、あれは!?そう言うのはあんた位よ!カレーは飲み物って言った石○やパパイヤ○木だって、あれを飲み物とは言わないわよ!あんた、あの刺激臭絶対やったでしょう!やっちゃいけないって事でうちの封印された秘伝のレシピを完璧に真似したでしょう」

 

「ああ、親父さんに一度だけ作って貰って、感動を覚えたからな。俺の能力完璧再現(パーフェクトトレース)で再現させて貰った。いや、再現だけでなく更なる研究をし、あれは遂に独自の進化を遂げたのだ!!」

 

「そ、そんな!?」と涙目でへたり込むセカンド。

 一夏が言った完璧再現(パーフェクトトレース)こそ一夏が短い期間で様々なジムや道場を通い、織斑流拳術を編み出した特技。その名の通り完璧に再現する一夏の特技であり、これがあるから一夏は約2年であらゆる道場や事務を道場破りの様な感じで入り武術を習得出来たのだ。ただし、一夏の完璧再現(パーフェクトトレース)は、一夏の得手不得手に大きく左右されるため千冬の技を完璧に真似する事は出来ない。それ故に一夏は剣ではなく拳の道を選んだわけだが。

 

「さあ、心して飲むが良いこの俺、織斑一夏が編み出した究極の麻婆豆腐。その名も泰山激辛麻婆豆腐一夏verを!!」

 

 一夏に言われるがままセカンド以外の全員が目の前に置かれた麻婆豆腐の皿に置かれたスプーンで麻婆豆腐をすくう。ドロリとした赤。いや、紅。刺激臭はスプーンを入れた段階でさらに増し一夏以外の全員を涙目にさせる。

 刺激臭を放ちとろみを含んだそれを口に入れた瞬間に感じる痛み。まるで舌を針で無数に刺した後に塩を念入りに塗り込まれた様な刺激を口の中どころか喉にも感じ、やがてはとろみを帯びたそれは胃にゆっくり入っていく。

 原初の食べるという全人類、ひいては生命の大罪を脳内で思い出させ償わせる罰を連想させる一品。それは、fateの世界でどこぞの外道神父が英霊となった時に喜々として使うであろう、呪いの対人用宝具として使えるような物だった。

 

「ブホオオオオオ」

 

「み、水!」

 

「水を!って、ラウラが白目をむいたまま気絶してる!?」

 

 女子達は最早自分が乙女であるという事を捨てた。

 生物として生存本能のままに滑稽な形で水を求める。

 そして、その激辛麻婆豆腐の威力は拷問に耐えうるであろう訓練を受けた軍人のラウラを軽く気絶させるほどの威力であった。

 

「そうか……水が欲しいか。なら、飲むが良い」

 

 そう言って一夏が机の上に置いたのはデスソースだった。しかも、ご丁寧にデスソースのラベルの上からアルプスの天然水と言うラベルを張り付けている。

 

「この鬼!」

 

「コフッ」

 

「ラウラが死んだ!この人でなし!!」

 

「み、水を……」

 

 ギャアギャアと騒ぐ女子共に一夏はやれやれと言いたげな表情で五月蠅いと言って口の中に麻婆豆腐を流し込ませようとした時、廊下からドンと鈍い音がした。その音は階段から人間が転げ落ちた様な音をして、廊下に繋がっているリビングの扉を勢い良く開き、部屋の中に入って来た。太い手足に巨大な爪牙。鋭い眼光をした巨体の猫と犬。

 

「「「狼と虎!?」」」

 

 そう、勢い良く扉を開いて入って来たのは肉食動物に分類するネコ目イヌ属イヌ科に属するアメリカアカオオカミと食肉目ネコ科豹属に分類するホワイトタイガー。

 グルルと唸り声をあげる二匹。部屋は緊張が走るが、そんな事よりも全員動けなかった。指一つ動かす事が出来なかった。何故ならば、部屋に入って来た二匹よりも強烈な敵意と殺気を含んだ気を放つ一夏が居たからだ。

 

「この食いしん坊の馬鹿共が!!」

 

 猛獣二匹に向かってずんずんと歩み寄るとその頭を叩く。

 叩かれた二匹の眼から星が出て、猛獣二匹はクウンと悲しそうに唸りながら尻尾を腹に隠す。だが、一夏は二匹をしばく手を休めずに、バシバシと頭を叩き続ける。

 

「ポチ!タマ!!手前等、セシリアが来る前に散々おやつやっただろうが!まだ食い足りずに肉の匂いを嗅ぎつけて降りて来たのか!?散々客人が帰るまで2階の俺の部屋から出るなと言いつけといただろうがこの馬鹿共!!」

 

 織斑邸がカラクリ屋敷なのは外部からの侵入者を防ぐためと共にこの猛獣二匹を外に出さないためだ。外に(ポチ)(タマ)が逃げ出してしまえばどうなるかすぐに解かるだろう。

 大混乱が引き起こされる。その為、二匹を家から出さないために織斑邸はカラクリ屋敷なのだ。

 

「ほら、この馬鹿犬と阿保猫!客人に謝りなさい!」

 

 一夏の怒声で二匹は渋々と言った感じにセシリア、デュノア、箒、セカンド、気絶中のラウラにゴロゴロと喉を鳴らしながら頭を下げる姿はどう見ても飼い主に怒られてしょぼくれた犬と猫だった。二匹が全員に謝り終えると一夏は溜息を吐きながら冷蔵庫から一夏自家製の巨大ちくわを取り出すと近付いてきた二匹に向かって放り投げる。二匹は空中でキャッチすると美味しそうに食べ始める。

 

「「「………」」」

 

 気絶したラウラ以外の全員が呆気に取られてその風景を見ていると、ドゴンという鈍い音と共に玄関口が開かれ、廊下を歩く音が聞こえる。やがてその音が近づいてくると遂にリビングの扉が開かれ、スーツ姿の千冬が現れた。

 

「何だお前達か」

 

 セシリア、デュノア、箒、セカンドを見て千冬は、そう言うが猛獣二匹が千冬目掛けて飛びかかる。

 

「フフ、ただいまポチ、タマ」

 

 千冬は猛獣二匹を軽くいなして、(ポチ)(タマ)の頭を優しく撫でる。千冬の表情は自然に優しい表情になり、それは普段ならば絶対に見られない表情だった。

 

「あ、お帰りちーたん。昼飯食った?」

 

「時間が時間だ。流石に食べたぞ」

 

「そう、それは残念。あ、ポチ、ちーたんから服を貰って洗濯かごの中に入れといて。タマ、二階からちーたんの服を取って来て。大至急ね」

 

 テキパキとポチとタマに指示を出しながら千冬の為にお茶を入れる。

 セシリア達はその姿を見て『なんだか夫婦みたい』と思いながら黙って傍観する。

 

 ジーと妬みを含んだセシリアたちの視線に千冬は気づき、一夏に「すまんが、すぐに出る。夕食はいらん」と言ってタマが持ってきた千冬の私服を片手にリビングから出て行った。

 千冬がリビングから出て行って、ポチとタマを二階に上がらせると一夏はリビングの扉を閉め、出入り口を自分の体で塞ぐ。

 

「さあ、心して食べるが良い。な~に、まだ山の様に泰山激辛麻婆豆腐一夏verは残っている。全部完食するまで一人も帰さんぞ」

 

 織斑邸のリビングには激辛麻婆豆腐を片手に外道が一人愉悦に浸るのと4人の美少女の悲鳴が響き渡るのだった。


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