「ハア、少し言い過ぎたかな?でも、ちーたんがもう少し過保護じゃなきゃ、ぶっちゃけ楽だったかもしんねえけどな」
溜息を吐きながら一夏はブルー・ティアーズ、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、甲龍、シュヴァルツェア・レーゲン、紅椿、白式の今回任務に参加する専用機持ち全員のISのデータを全て見ながら今回の討伐対象の
だが、白式の雪片弐型は使えない。武器破壊は出来るかもしれないが今回の任務は操縦者の救助だ。それに報酬は銀の福音のコア。
人間でいう心臓にあたるコアを傷付ければ下手をすれば使い物にならなくなる事だってあり得る。
それを考えるならば、威力が高すぎる零落白夜を発動した状態での雪片弐型は使えない為一撃必殺の戦法ではダメと成る。すぐさま使えない作戦を頭の中から消して別の作戦を練る。
そうなると、複数の同時攻撃により銀の福音のシールドエネルギーを削る短期決戦型での作戦としてみる。全方向同時射撃というのが気になるが、それを考えたとしても分からないのでは予測のしようがない。それに、今回の相手は射撃に秀でているだけらしく近距離戦になれば自分達の方に勝機はある。
剣道少女の箒に、近接格闘戦のエキスパートである一夏。軍人のラウラに近距離戦で高速切替による射撃と近接ブレードによる格闘戦が出来るデュノア。セシリアは近接戦が苦手であるため、遠距離兼中距離による援護射撃をして貰い、隙があればビットとスターライトmkⅢによる射撃を。ラウラはプラズマ手刀による近距離戦と大口径レールカノンによる距離をとった時の銀の福音に対して遠距離射撃を行ってもらい、隙を見てワイヤーブレード及びAICによる拘束。デュノアは近距離格闘戦及び隙を見て射撃、またセシリアの防御サポート。セカンドは双天牙月による近距離格闘戦及び燃費の良い龍咆による中距離援護射撃。箒は雨月と空裂による近接戦と中距離戦に機体が出来る。
ただ、この作戦ならば一夏はいつも以上にエネルギー残量を気にかけなければいけなくなる。束にエネルギー供給装置を付けて貰ったからと言って瞬時加速を多用すればすぐにエネルギーはそこを尽きる。瞬時加速は切り札として考えておくのが妥当である。そうすると、燃費の悪い白式をどうやって
「やはり、船にエネルギーを乗っけて貰っておこう」
――アメリカ及びイスラエルの海上閉鎖の為の船にシールドエネルギー用のエネルギーを乗っけて貰っておく方が無難である。もしかしたら、戦闘途中でエネルギーが尽きかけた時にエネルギーを回復させる事が出来るかもしれない。
そう考えて山田先生にイスラエル及びアメリカに伝達するように指示を出すと一夏は頭の中で纏まった作戦を専用機持ちに伝えるのだった。
☆ ☆
「ま、ちーたんにゃあ後で詫び入れて晩酌しておつまみを何時もより多く作ってやりゃあ、曲げたへそも治んだろ」
独り言を呟きながら一夏は今現在箒に乗って銀の福音が通ると予測される進路に向かっていた。一夏と箒の後ろにはラウラ、セシリア、デュノア、セカンドの4人の専用機持ちが並走している。何時戦闘が始まっても良い様に前衛組の箒と一夏を前方で飛び、デュノアとセシリア、ラウラとセカンドはその後ろを飛ぶというスタイルをとっている。
「一夏、お前人の背中に乗っておいて独り言とは浮かれているぞ」
語尾が大きくなるように言っている箒の方が何倍も浮かれているが、それを指摘したからと言って箒が素直に認めるはずが無い事を一夏は知っていた。素直に認める性格だったら箒と束の仲も今よりは良くなっていただろうし、剣の腕も今よりも上達していただろう。
「ああ、すまねえ」と一夏が箒に謝ると突然オープンチャンネルが開かれる。
『あー、織斑。先程はすまなかった。動揺してとんでもない発言をしたようだ。他の専用機持ちももう大丈夫だ』
それは、千冬からだった。先程の一件で自分がとんでもない発言をした事を今認識したらしく少し何時もよりも声が小さい事に全員気付き苦笑する。
『おう、ちーたん。何時もの織斑先生ご復活ってか?こりゃあ、めでたいね~。今日は赤飯かな?』
オープンチャンネルで軽口をたたく一夏に千冬は拗ねるように返信する。
『う、五月蠅い!一夏、後で覚えてろよ!』
『そ、そうか。帰るのが怖いな』
『篠ノ之、お前織斑を引きずってでも連れて帰ってこい!連れて帰らなければお前に一夏にやらせる懲罰トレーニングをさせるからな!』
『はい!必ず!!』
『あれ?俺任務が成功しようと失敗しようと、つんでね?』
一夏の発言にその場の空気が和む。少し表情が和らぎ笑顔が専用機持ちの間に広まる。
戦闘では緊張することも大事だが、ずっと緊張したままでは神経を研ぎ澄ませた状態の為疲れてしまう。戦闘が始まる前に疲れた状態では任務が失敗するリスクが格段に高くなる。それでは、本末転倒なため千冬の突然のオープンチャンネルは一夏にとって正直ありがたかった。
『ちーたん。俺、この任務が終わったら、あんたに伝えたい事があるんだ』
勿論内容は先程のオープンチャンネルの感謝であるが。
『やめろ!死亡フラグっぽいから!!』
千冬の懇願に近い命令に一夏は勿論専用機持ちは全員笑いがこみ上げてくる。
「さて、
ISのハイパーセンサーで見える今回の討伐目標
「さあ、全員気合を入れろよ!全員、戦闘準備!!」
一夏の怒鳴り声がその場を支配し、その声で全員の気持ちが戦闘へと切り替わる。
セシリア、ラウラ、デュノアはそれぞれ射撃武装の安全装置を解除し、何時でも撃てるように弾やエネルギー、砲弾を装填しておく。
セカンドや箒、一夏は得物を握りしめて
『織斑、お前がたてた作戦は山田先生から聞いている。作戦は継続、いざと成った時の指示はこちらに任せろ。お前は戦闘に専念しろ!』
「了解!カウントダウン開始!5、…4…3…2…1」
ゼロの掛け声と共に一夏と箒は
「おら!」
スピード+正確で威力が増している中段突きは
「なら、これはどうよ!織斑流拳術 断空手刀」
未だ掴まれていない右手で大きく振りかぶり、ゆっくりと手刀を行う。
だが、それこそが一夏の狙い。そもそも、織斑流拳術は活人拳ではあるが、辛うじて生きていれば問題無いと一夏は思い、えげつない技が多いのだ。そして、断空手刀はラウラ戦で一夏が使用した断空手刀斬りとは違い、手刀。断空手刀斬りは斬るという動作が含まれるが、断空手刀は斬るという動作が含まれない為威力は断空手刀斬りよりは落ちるが、それでも効果は絶大。
そして、一夏の狙いは
「腕一本貰うぜ!」
因みに、断空手刀斬りをしていた場合
もし、首に断空手刀斬りを叩きこんでいれば首が飛ぶため活人拳ではなく、殺人拳になるため一夏は今は使わない。もし、一夏が殺人拳になる時は白騎士事件の犯人と戦う時が最初で最後であろう。
「Laaaaa」
一夏はとっさに雪片弐型を呼び出し片手で雪片弐型を操りながら雪片弐型で防御する。
突如、全方向に同時に砲撃に似たビーム射撃が行われ、セシリア、デュノア、セカンド、ラウラはビーム射撃を受けてしまう。
「クッ!」
「凄い砲撃!」
「何なのよこいつ!」
「これがマルチロックオンシステムによる全方向同時射撃か!」
セシリア、デュノア、セカンド、ラウラが体勢を立て直そうとした時、再び一回転し先程の砲撃に似たビーム射撃を行おうと
だが、
「良い加減……放しやがれ!」
一夏の怒鳴り声と共に
それと共に一夏を掴んでいた腕が緩み一夏はバック加速と共に
「今だ、
一夏が
「Laa~♪」
それを
「ク、これが軍用ISってわけ!?」
セカンドの悲鳴に似た叫びが戦場に響き渡る中、セシリアはスターライトmkⅢによる援護射撃とビットを射出してビットによる
「なら、私も!」
そう言ってラウラは大口径レールカノンによる支援砲撃を行い、ワイヤーブレードによる拘束を試みる。
ラウラの大口径レールカノンは構造がリボルバー型となっており、連射が出来る。その連射とセシリアのスターライトⅢによる遠距離からの援護射撃に拍車がかかる。
「Laaaa♪」
再び翼の砲口が開き
「ラウラ、セシリア!」
デュノアが瞬時加速によってラウラとセシリアの前に移動し、巨大な盾を展開する事で二人を砲撃から何とか守った。
「!」
砲撃を回避していた箒が突如海に向かって加速する。
「箒!?どうした!?」
「密漁船だ!」
「なに!?」
驚いた一夏は箒の向かう先をハイパーセンサーで見ると確かに密漁船があった。
「糞が!こんな時に!!」
一夏は怒鳴り声に似た怒声をあげながら、箒の後を追う。
ISのハイパーセンサーが警告を出して背後からの砲撃を教える。そして、その砲撃の矛先は密漁船を守ろうとする箒だった。
「全知全能の神にでも成ったつもりかよ、箒!」
瞬時加速をして箒との距離をつめ、砲撃の射線上へと移動する。
だが、砲撃を真正面から受ける事は出来ずに一夏は真横から迫る砲撃を雪片弐型で受けるも大きく体勢を崩してしまう。
「Laaaa♬」
その隙を逃す
自慢の機動力で一夏との距離をいっきにつめ、近距離での射撃を行う。
その一撃はシールドエネルギーを一時的に貫き、一夏は腹部から肉の焦げる臭いを鼻で感じながら海へと落ちていく。
その瞬間、箒の顔を見た。
驚いたような、泣きそうな顔を見てクスリと笑う。
「やっぱ似てんぜお前ら姉妹。そうやって誰かのために行動して誰かのために泣く優しい所」
ドボンと大きな水柱を立てながら一夏は海底へへと沈んでいった。
「「「「「一夏(さん)(主)!!」」」」」
「Laaa♬」
『全員、任務を続行しろ!』
専用機持ちが全員一夏が海に撃ち落されたことに動揺した瞬間に
「Laaaaa」
大空で一人浮かぶ