拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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今回のキーワード 会談


第40話

「さあ、始めましょうか。山田先生、繋げて下さい」

 

 山田先生に連れてこられた場所は一夏達が宿泊する宿の大広間。そこには2つのプロジェクターやテレビカメラ付きパソコンが置かれており、着々とIS学園が今回の件で参加しようという魂胆が見える。

 

 山田先生に指示を出し、パソコンを起動させアメリカとイスラエルの会談を始める。

 目の前の2つの巨大なプロジェクターにそれぞれ映像が映し出され、山田先生はその顔ぶれに驚く。

 

 左のプロジェクターには現米国大統領ビル・クリミアが映し出され、右のプロジェクターには元イスラエル大統領ルー・ベリブンが映し出されたのだから。元大統領とは言え今でも政治界に顔が利く重鎮で今のイスラエル現大統領よりも高い人気と支持率を未だに持っていると噂されるほどの人物だった。

 

 この予想外の人物に驚いたのは山田先生だけでない。一夏も内心驚いた。当初どうせ、政府の末端議員が来るだろうと予測していたのだが予想外の人物にどうしても驚いてしまうが表情に出さない。もう会談は始まっているのだ。先に嘗められてはアドバンテージを失ってしまう。

 

「急の会談要請に感謝する。クリミア大統領及びベリブン元大統領。さて、件の任務だが何故このようなアラスカ条約に引っかかる軍用IS(モノ)を作ったのか、自らの手に余る力を管理できないのにこの先どう管理するのか、何故IS学園側がこの様な命を懸ける任務を受けなければいけないのか、もし受けたとしてIS学園側にどの様なメリットがあるのか、その他諸々の問いに答えて戴きたい!」

 

覇気のある声で怒鳴るように言う一夏に米国現大統領のビル・クリミアがキレた。

 

「無礼な!若造がこちらが下手に出れば調子づきおって!!」

 

それに一夏がキレた。

 

「無礼なのはあなた方の方だ!何故我々IS学園があなた方の尻拭いをしなければいけないのかお答え戴きたい!我々は命を賭ける任務につくかもしれないのにただやれと命令されて自国の、自分らの利益に成らない任務につく道理も筋もない!あなたはその事すら解らないのならばボロを出さぬ内に今すぐ大統領の座を降りる事を推奨する。かけ引きのイロハを学んで出直してきた方が良い現米国大統領」

 

「この!」と米国現大統領はキレるがイスラエル元大統領ルー・ベリブンは一夏の発言に「ほう!」と関心を寄せる。

 

「と言うか、いい加減お互いの腹を探るのはやめて手っ取り早く交渉の座についてくれませんか?はっきり言って面倒臭い。それに、時間をかけての交渉はそちらが不利でしょう?こちらは何時でも交渉を破棄して任務を放棄しても痛くも痒くも無いんですから。これは、そちらの為を思っての発言ですよ。そちらが戦争をしたいならば指を咥えていらっしゃれば良い。それが嫌なら……黙って交渉の座に着きやがれや!大体何で手前等が上から目線で命令してんだこら!戦争になる前に事態の鎮静化を図りたいのならば帽子を脱ぎ、自らの非を詫び、その上で土下座は言い過ぎかもしれんがお願いするのが筋だろうが!命令だけ寄越して事態の鎮静化を図る?寝言は寝てから言えや!この依頼蹴る事もこっちは出来んだぞ!?命がけの任務に何で手前等の国民でもねえ俺らが手前等の命令に従わなきゃなんねえんだ?はっきり言って………調子に乗るのも体外にしとけや!」

 

 もう外交官が一夏の隣に座っていたら卒倒ものであろうが、今部屋にいるのは泡を吹きそうなぐらい真っ青に成った山田先生のみ。

 冷めた目で発言する一夏にイスラエル元大統領ルー・ベリブンは「ハッハッハ」と面白そうに笑い、米国現大統領のビル・クリミアは頭を抱える。

 

「それで、質疑応答に参加するかしないかの確認を取りたい。俺の質問に答えてくれる気は有るのか無いのかはっきり返事をしてもらおうか⁉」

 

 米国現大統領のビル・クリミア大統領は「参加しよう」と疲れた表情で言い、イスラエル元大統領ルー・ベリブンは「ああ、君は面白い。答えれる範囲で答えよう」と両者承諾。その上で一夏は「今から録音しても良いか」と尋ね、両者の了解を得ると録音を始める。

 

 

「それで、クリミア大統領並びにベリブン元大統領に質問させていただく。何故軍用IS等と言う物を作ったのか?答えられたら答えて頂きたい。答えられないのであるならば黙秘権を行使して頂いても構わない。出来る限り根掘り葉掘り事情を聴き、そちらに不利な状況が生まれるだけでこちらにはデメリットが無いのだから」

 

 これはつまり、手前等正直に話せや、こら!手前等が誤魔化す度に時間は使われ手前等の国が戦争に成るカウントダウンが速まるだけでこちらに何もデメリットが無いんだから痛くも痒くも無いぜと言う事が隠されている。そして、それを明確に言いはしないがこの言う事が察せないのならば交渉は向いておらず自国が戦争に巻き込まれるカウントダウンが刻一刻と速くなるだけである。

 

「それで、先ず第一問。何故軍用ISを作った?」

 

「それは、「それは私が説明させて頂こう!」クリミア大統領」

 

ベリブン元大統領の発言を遮ってクリミア大統領が口を開く。

 

亡国企業(ファントム・タスク)と言うテロリスト集団がイギリスのBTプロジェクトの第二試験機サイレント・ゼフィルスが強奪されるという事件が起きたと言うの情報を我がCIAが入手し、その真偽の可能性が黒に近かったため軍用ISを開発したのだ」

 

「フム、色々とその真偽を問いただしたい所ではあるが今はそのような時間は無いな。まあ、良いだろう。それで、その後身に余る力をどの様に管理するつもりか尋ねたい!」

 

一夏の問いに今度はイスラエルのベリブン元大統領は淡々と答える。

 

「それは、アメリカ及びイスラエルの両国でもう決まっている。この案件が終結し次第凍結処理する予定だ」

 

 

「そうか。分かった。では次の質問だ。何故IS学園に依頼した!はっきり言ってIS学園には各国の専用機持ちがいるといってもモンド・グロッソに出場するほどの選手に依頼すれば任務成功の確率は我々IS学園側に依頼するよりも高いと思うのだが、なぜ我々なのだ?」

 

「それは、今回の相手が高速で移動しており、移動場所が転々と移っているからだ。我々がモンド・グロッソに出場する選手を雇った場合その選手は我々の所属になり、戦闘領域が限られてくる。無論、今回の対象は高速でもっか移動している為、接触は極めて難しいが接触した後の戦闘を考えると戦闘領域が限られている場合は任務成功がとても難しいと思われるのだ。その点IS学園はどこの国にも属さない独立地帯であり、ある程度の制約はあるがそれでも他国の制空権に入って侵入しても問題に出来ないと言う事だ」

 

「問題に出来ないからと言って侵して良い制空権などないはずだが?」

 

「無論、制空権の問題になる前に任務が成功できれば問題は無い」

 

「その言い方だと自国には何のダメージも無いからIS学園にまわせば良いという風に聞こえるのだが、クリミア大統領。そう解釈しても構わないか?」

 

「そうは言って無い。制空権を侵した場合、我々が全力を持って交渉にあたりその分の被害を補償する。だが、争い(揉め)事は小さい方が良い。我々がモンド・グロッソに出場する程の腕を持ったIS操縦者を雇い、もし任務遂行中に他国の制空権を侵してしまった場合、騒ぎは大きくなる。だが、」

 

「だが、我々IS学園がこの依頼を受ける事でどの国家にも属さない独立地帯の為、騒ぎを大きく出来ない――と」

 

「そうだ」

 

「しかし、万が一我々がこの依頼を受けて他国の制空権を侵してしまった場合バッシングされるのはIS学園側。来年度の受験者数が減少する可能性も否定できない。我々IS学園側にはデメリットしか無い様にしか思えないが?」

 

「メリットは、イスラエル及びアメリカ政府から資金援助ではどうだろうか?」

 

「いいや。それでは未だIS学園側(こちら)にとってデメリットの方が多い。考えてもみろ。専用機持ちを全員投入しても成功するかどうか分からない命がけの任務だぞ。それに、もし専用機持ちが死んだり重傷を負ってしまえば、バッシングを受けるのはIS学園側(こちら)だけ。あなた方は金を用意すれば良いだけというのは、些か虫が良すぎるのではないだろうか?」

 

「では、我々にどうしろと?」

 

「少なくとも最前線に希望者制にはするがIS学園(こちら)の生徒が出るのだ。命位はかけて貰わねば、こちらはやってられないし信用にならない!」

 

「「なっ!?」」

 

「あなた方の政治家生命、及び両国の軍によって戦闘空域の確保と海上閉鎖を少なくともそちらでやって貰わねば些か金を用意するだけというのは卑怯ではないだろうか?これでもまだこちらにデメリットがあるのだ。そちらの全部の要望を求めるのは強欲すぎるのではないだろうか?こちらがこの依頼を蹴っても痛くも痒くも無い事をお忘れなく」

 

 一夏の発言にベリブン元大統領は「ハハハハ」と笑い、クリミア大統領は苦笑いをする。

 

「この少年は我々にここまで言うのだ。素晴らしい素質だと思わんかね?クリミア大統領」

 

「そうですな。まさか日本という島国で我々とここまで言い合える少年がいた事に驚きですよ」

 

二人の大物の賛美に山田先生はポカンとした表情で映像を見ており、一夏は顔色一つ変えない。

 

「あなた方にお世辞かどうかの真偽はさておき、褒めて貰えるとは……ここは素直にありがとうと言っておきましょう。まあ、俺も一応手下を連れているんでね。一般人よりかは多少言い合えるかと」

 

「いやいや、ここまで我々に臆する事無く言い合えるのならば誇るべきだ。素直に感心するよ。どうかね?イスラエルに移住して大統領になってみては?君ならば普通の議員よりも素晴らしい素質がある。私としては大歓迎なのだが……」

 

「いやいや、ベリブン元大統領。彼は我が国アメリカに是非とも来て欲しい。彼の弁舌の能力を評価しているのはあなただけでは無い。私も実際途中から彼が欲しいと思ってしまった。彼は素晴らしい大統領となるだろう。私は、今から制度を変えて彼が議員になれるようにしておこうと思っているのだから」

 

 一夏は目の前で自分のスカウトにヒートアップする大物に待ったをかける。

 

「そのお言葉ありがたく頂戴しておこう。だが、先ずは件の暴走した軍用ISだ!お二人とも、返答は如何に!?」

 

「良いだろう君の言う通りに明確な責任宣言と戦闘空域の確保とそれに伴う海上封鎖に協力しよう」

 

「アメリカも同様に協力させて貰おう!」

 

「次に、対価だがこれは参加者各人の要望に沿わせて叶えて貰いたい!大統領にしろ等非現実的や非常識な要望は却下してくれて構わないが、だが今回は命がけの任務なのだ。出来る限り参加者の要望に沿わせて頂きたい!!俺は、暴走したISのコアを頂きたい!!」

 

「「………コアはちょっと」」

 

 もう一夏はアメリカ、イスラエルに後が無い事は分かっていた。このまま行けば領空侵犯で戦争になり得る。IS一機ですら戦場を覆せる戦闘能力を持っている。IS一機を失うのと戦闘機を一機失うのとでは訳が違う。

 

 二人がちょっとと言うのも頷ける。だが、一夏は両国がイエスと言うのが解っていた。

 

「それでは、この依頼は破棄という事で」

 

 IS一機を失うのと戦争になり国費を消費するのとでは後者が断然に不利だ。いつ終わるか解らない先が見えない戦争をするよりもISを一機失う方が断然に被害は少ない。欲を言えば戦闘機一機の方が国防的にも被害は少ないのだが、戦争を引き起こされるよりは断然マシなので二人は了承する。

 

「わ、分かった!」

 

「ああ、コアは貰って頂いて構わない!」

 

もう完璧に一夏の一方的なターンであった。

いくら負けにくい交渉とは言え、大統領と元大統領を相手に自分の要望を叩き付ける度胸は並大抵の者ではまず無理だろう。だが、一夏はそれをやってのけた。

その事実が更に大物二人の興味を刺激する。

 

「それでは、あなた方二人の責任宣言を確認し次第、こちらも全力で取り組ませて貰うとしよう。パイロットは確実に生かしたまま、そちらに帰還させる。だが、パイロット救出の際にかなりの確率で怪我の恐れがある。医療班の用意だけしといてくれ。こちらの要望は以上だ。それと最後に……次はないからな!」

 

 そう言って一夏は話を終えると一方的に通信回線を切った。

 その行為もまた大物二人の好奇心を刺激したため失策ではあった通信を切った一夏が知るすべなど無かった。

 

 

「お、織斑君!?一方的に通信を切っちゃあ拙いんじゃ……」

 

 もう顔が真っ青で冷や汗をかいている山田先生に一夏は苦笑しながら答える。

 

「拙いのは向こうの現状ですよ。取り敢えず、今回の任務の参加者の把握をしませんとね」

 

 大物二人と会談し、何も恐る事はなく堂々と立ち振る舞い、無茶な約束をさせる一夏に山田先生は驚きと共に恐いと思った。

 ISのコアを寄越せ。普通は無理な話である。

 だが、目の前の一夏はやってみせた。それは紛れもない事実であり、さっき目の前で交わされた約束である。

 

 一夏はそう言って部屋から出ていく。

 

 一夏が居なくなった部屋で山田先生は一人ヘタリ込む。

 

「こ、腰が抜けちゃいました」

 

 あまりの緊張に腰を抜かしてしまったようだ。




どうでしたか。今回の一夏君は?

もう一夏君、一般人ではなく逸般人じゃね?と思われるかもしれませんが車酔いしますし、ISも戦闘が無ければIS酔いしますし、完璧超人じゃありません。

因みに車酔いの件ですが36話で酔っていますが5話では酔っていません。これは、青狼会の本拠についた時に話し合いが決裂すれば戦闘になると思い、脳内のアドレナリンが過剰に分泌された為です。帰りは電車で帰ったため問題ありません。

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