拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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作品の評価が下がった……orz
でも、感想が貰えるとやっぱり嬉しいですね。感想を下さった方々ありがとうございます。


第34話

「なあ、デュノア君。これは一体どういう状況なんでございましょうか?」

 

「うん?僕と一夏が一緒にお風呂に入っている状況だけれども?」

 

 何を言ってるの?と言わんばかりに首をかしげながら答えるデュノア。

 そう。一夏とデュノアは解禁になった大浴場のお風呂に背中合わせで浸かっていた。

 

 事情聴取をさぼった一夏が先に入浴していて、そこにやっと一夏の分も事情説明をし終えたデュノアがお風呂に入ってきたのだ。

 バスタオルで体を隠して入ってきたデュノアと一夏の互いの視線が合い、すぐに視線を逸らしたが、一夏の目にはデュノアの胸がしっかりと映った。千冬や束、エリスより小さいがセカンドよりは大きい胸。だが、中性的な顔立ちのため未だ男疑惑が拭えないデュノアとの混浴。本当に女性だったら世間一般の男子は嬉しいんだろうな~と思いながら何故か一緒に風呂に入ることになった。

 

「ねえ、一夏」

 

「なんでえ」

 

「僕ね、ここにいようと思う」

 

「そうか」

 

「僕がここに残ろうと思ったのも一夏のおかげなんだよ?」

 

『うわ~、本当にデュノアが女子だったら世間一般では男冥利に尽きるんでしょうけど、男だったらホモー展開なんてマジでいらないんですけど……』と思いながら一夏は「知らねえなぁ。手前の選んだ道だ。俺はキッカケを与えたにすぎねえ」と答える。

 

 そんなぶっきら棒に答える一夏の返答を聞き、デュノアはクスリと笑いながら

 

「優しいね、一夏は。一夏はキッカケを与えたに過ぎないって言うけれども、そのキッカケで僕は救われた。一夏にキッカケを与えて貰わなかったら今の僕は無かった。だから、やっぱり僕が一夏に言う言葉はありがとうしかないよ。僕を助けてくれてありがとう」

 

 そんなデュノアの言葉にふて腐れたように「俺が優しい?そう思うんなら手前は変な奴だな」と一夏は答えるとデュノアがまたクスリと笑う。

 

「……デュノア君よぉ。何か勘違いしてるようだが俺は手前の才能が失われるのが惜しいと思い、お前は助かりたいと願った。両者の利害関係が一致した。ただそれだけだぜ。だから、手前が俺に感謝するのはお門違いってもんだぜ。単にその結果手前が助かったそれだけだ」

 

「そう?それじゃあ、これは僕の一方的な思いだね。一夏がいくら否定しようともこれは僕の一方的な思いなんだから否定できないよね?僕が一方的に感謝するだけだね」

 

 フンと一夏は鼻を鳴らして「物好きな奴」とだけ言うとそれ以降二人の会話が続くことは無かった。

 

■■■

 

「えー、皆さんに転校生を紹介します」

 

朝のHR。山田先生司会のもと始まったわけだが、教室にデュノアの姿は無く、一夏はいつも通り睡眠体制に入って寝ていた。

「また?」と教室の誰かが言うと山田先生は歯切れが悪そうに続ける。

 

「紹介、と言いますか既に紹介が終わっているといいますか……ええっと、兎に角どうぞ」そう言って教室の扉に声をかけると扉が開き、一人の女子生徒が入ってきた。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん宜しくお願いします」

 

「「「え!?」」」とクラス中から驚きの声が上がりざわつき始める。

 

「デュノア君は、デュノアさんでした。ハア、また部屋割りの変更をしないといけません」

 

 ハアと溜息を吐く山田先生。だが、教室は更にざわつく。

 

「確か昨日男子が大浴場に入ったよね」

 

「って事は織斑君が知らないわけ無いよね?」

 

 じーっと視線が集まる中、爆睡する一夏。

 だが、二つの影が一夏のもとに集まった。

 

「い、一夏!どういう事だこれは!?」

 

「説明を要求しますわ!」

 

 箒が一夏の襟首を掴みグワングワンと一夏を揺する。

 

「んごっ。ふぇ、なんだぁ?」

 

 眠そうに僅かに目を開けて周囲を見渡す一夏。

 周囲には一夏に視線を向けるクラスメイトでいっぱいだった。

 

 ドゴーンと爆発音と共に教室の壁の一部が吹き飛び、吹き飛んだ箇所から一人の人物が入ってくる。

 

「ちょーっと一夏!これはどういう事か説明しなさいよ!」

 

 怒り心頭でその身にISを身に纏い衝撃砲【龍砲】の照準を一夏に向けている。

 

「一夏ああああああ!!」

 

 衝撃砲のチャージが完了しそうになった瞬間、

 

バンバンバンと衝撃音が発せられ、鈴、セシリア、箒の3人の頭に出席簿が振り下ろされる。

 

「あだっ!」

 

「痛っ!」

 

「痛つっ!」

 

 鈴、箒、セシリアは頭を押さえて涙目で背後を振り返ると、そこには黒いスーツを着た世界最強の名を持つ鬼がいた。織斑千冬という名の鬼がいた。そして、残念な事にその鬼は一夏の実の姉であった。

 

「今はHR中だぞ馬鹿共。そして、凰!お前は二組だろう!あろう事か壁を壊し、何故ISを展開している?そして、なぜ衝撃砲の照準を織斑に向けている!?」

 

 怒り心頭の千冬。それもその筈。

 彼女は第二回モンド・グロッソで一夏が誘拐されたとの情報を聞き、試合を放棄して駆けつけるほどのブラコン。そのブラコンぶりは、一夏が内心呆れるほどの重度のものである。

 

 千冬の怒り心頭の様子に凰鈴音(以下セカンドと表示)は顔を真っ青にしてあうあう言い始める。

 

「そんな事よりも、織斑」と言いながら欠伸をして椅子に座っている一夏の耳を引っ張りながら「ちょっと来い!」と一夏を立たせて移動を始める。

 

「いでっ!何だよ、ちーたん」

 

「良いから来い!」

 

「分かった分かった。行く行く。行くから耳から手を離してくれ」

 

 すっかり眠気を覚まされた一夏はフアアアと欠伸を一つすると千冬の後に教室から出ていく。

 千冬は教室から出ていく前に山田先生に「引き続きHRを頼む」と言い残して一夏と共に教室を後にした。千冬が教室から出ていく姿を確認したセカンドは「た、助かった」と涙目でへたりこみ、セシリアと箒は脂汗を手で拭う。

 

「はい。それじゃあ、HRを再開しますよ~。あ、凰さんは二組に戻って下さいね~」と一夏不在のまま山田先生によって朝のHRが再開されるのだった。

 

○○○

 

「さて、一夏。お前に幾つか質問がある」

 

 一夏を指導室に連れてきた千冬は扉をピシャリと閉めながら一夏に椅子に座るように促すと自分も一夏の対面に座り口を開いた。

 

「ん?何でございましょうか、お姉様?」

 

 ふざけて返事をする一夏の頭に出席簿を振り下ろす千冬だが、その出席簿をひらりと躱す一夏。

 

「真面目に答えろ!一夏、お前デュノアの正体を知っていたか?」

 

「……さて、何の事か俺には分かりませんよ。織斑先生」

 

「頼む真面目に答えてくれ。教師としての質問ではなく姉として質問する」

 

「いや、ちーたん。それ卑怯じゃないですかね?それじゃあ、俺が答えるしかないじゃないですか」

 

 一夏にとって家族は何よりも優先する事であり、そしてその次に知り合い。それ以外は死のうが生きようがどうでも良い存在である赤の他人であり、力を貸す事も無い有象無象の存在であった。そして、千冬は教師としてではなく姉としての質問というカードをきって来た。これによって一夏は絶対に質問に答えなければいけなくなった。

 

「ええ、お察しの通りデュノア君が女子である可能性には気づいていましたよ?」

 

「それじゃあ、何故私に相談なり報告をしなかった!?」

 

「いや、だから!言ったっしょ?女子である可能性には気づいてたって。でも、最初に男子として紹介されたんだから豊胸手術をした、ちょっと特殊な趣味や性癖を持つ男子だと思ってたもんだから相談をしなかっただけ」

 

「お、おう。そうか」

 

「ああ。ただ、毎晩貞操を狙われるんじゃないかって言う不安に駆られて眠れなかったけれどね」

 

「って、私生活に影響が出ているじゃないか!」

 

「まあ、これからもこの生活スタイルを変えるつもりは全くないけれどね」

 

「ダメに決まっているだろう馬鹿者!余計悪いわ!!」

 

「まあ、そんなこんなでこの話は、はい終わり」

 

「後一つだけ答えてくれないか?」

 

「ん?何すかね?」

 

「……凰戦、ラウラ戦。この二つの一連の騒動。お前が絡んでいるのか?」

 

「何でそう思うのか理由を訊いても宜しい?」

 

「デュノアが、デュノアが言っていた。お前に救われたと。ただ、それだけだったが気に成って調べた」

 

 千冬の返答に一夏は『あちゃー、デュノア君言っちゃいましたか。まあ、全てを言ってないから約束破りには成りませんか。こりゃあ、一本取られたな。まあ、デュノア君が少し上手だったってわけか』と思いながら返答を考える。

 千冬は全てを知っているわけではない。AIの事も知らなければ、学園とドイツ軍のメインサーバーを一夏が掌握している事も知らない。ただ、長年連れ添った家族としての感が千冬に疑念を抱かせている。

 

「デュノア社に何者かが圧力をかけている事までは突き止めた。そして、その圧力がデュノアが今日、自分が女子であることを私に自白する前に起きた事だという事も。それと、お前が前に私に圧力をかけて貰うようにお願いするかもしれないと言っていたのを思い出した」

 

『あちゃー。疑惑持たれちゃってるねー。動きづらくなるわ。ここでNOとは言えないし、YESと真実も今後の為に言えねえ』と思いながら頭を回転させる。そして、

 

「成る程ね。デュノア君の身の回りで起きた出来事と俺が言ってた言葉を思い出してそういう考えに至った、っと。いやー、我が姉ながら惚れ惚れする頭脳だね。ただ、俺があんたに言う言葉は俺はあんたの敵に回るつもりは無い。あんたに重荷を背負わせるつもりもない。ただ、俺はあんたを楽させたいと思っているだけさ」

 

 YESでも無ければNOでもない答え。

 白でなければ普通は黒だと思うが、真実は黒でもない。それを体現したセリフだった。

 

「一つだけ断言しとくぜ。俺にとって家族とは最優先される存在だ。あんたがどう思おうが、何をしようが虫けらの赤の他人と比べるまでもない存在であり、俺の行動の一つ一つがその存在を守るためにある。それだけだ」

 

 一夏はそう言って、千冬との話し合いの中とある計画を思い出した。だが、それはかつて必要のないものだと思い計画はしていたがあまりにも理想であり、現実味を帯びない絵に描いた様な計画であった為、封印した計画だった。ISの出現とAIの作製、現代兵器の進化と発展によってその計画が実現できれば一夏は世界の王となれる計画。あまりにも馬鹿げていてそれを考えた当の本人である一夏も若気の至りだと思って放棄した計画。

 その計画は当時の一夏では絶対に実現できないような計画だった。

 

「それだけさ。俺があんたに向ける言葉は」

 

 『何で今頃思い出しちまったんだろうな』と思いながら一夏は指導室を後にした。

 

「本当、訳解んねえ。何で今頃思い出したんだろ?」

 

 その計画は一夏が世界の王に成れる代わりに全てを失う。一夏が思い描く幸せな家族という一つの夢すらも破壊する計画。束を傷つけ、我が子の未来すらも傷つけ、千冬も下手をすれば死んでしまう可能性を秘めた計画。それもあり、夢物語のような計画の為に凍結した計画。

 

「まあ、今はどうしようも無いか」

 

 その計画はAI作成よりも難易度が高く完成する事の無いものを作る計画。莫大な資産と知識と技術が必要という事も理由の一つであるが故に放棄したのだ。一人の人間がAIを作るよりも次元が違う程はるかに難易度が高い計画だ。

 

「それとも、あんな馬鹿げた計画を実現して見せろって言う神様のお告げかね」

 

 フッと微かに唇を歪めて薄く笑うがすぐさま何時も通りの表情となり、教室に戻る一夏。

 ただ、この時の一夏は知らなかった。その馬鹿げた計画が今後の未来に大きく影響する事に。歪で全てを破壊する理想が今後の未来を大きく左右する事に一夏は勿論、世界最強の千冬や稀代の天才である篠ノ之束の頭脳を持ってしても予測できないのであった。

 

★★★

 

「お!この着信音は……」

 

 とあるラボ。

 そこには一人の天才がいた。全てのISのコアの生みの親にして稀代の天才。

 そして、何よりも一夏と一つの約束をして別れた女性だった。本人もその約束には了承しており、理解もしていた。だが、やはり一夏との別れは辛いものがあった。

 

 携帯の着信音に天才は携帯に飛びつき、通話を始める。

 

『姉さん』

 

「お、箒ちゃん。この携帯にかけて来たという事は箒ちゃんもついに欲しくなった訳かな?」

 

 そう言って稀代の天才は背後を振り向く。

 そこには、紅がいた。

 

『……』

 

 箒はその言葉を賛成も否定もしなかった。

 それを見透かしたように束は続ける。

 

「そうだね。それじゃあ、渡すよ次の臨海学校の時に。白と並び立つ、既存するISの全てに上回る箒ちゃん専用機。その名は紅椿」

 

 本当は渡したくは無かった。専用機を渡す事は兵器を渡す事。既存の戦闘機や戦車を上回るISさえも上回る箒専用の専用機 紅椿を渡す事はそれだけ、多くの敵を作り今以上に狙われやすくなるという事だ。

 だが、それも耐えられないが何より妹の箒に嫌われるという事が束には耐えられなかった。箒が傷ついて欲しくないという思いと嫌われたくないという思い故に作ってしまった。優しい稀代の天才は心が弱い。驚くほどに心が弱い存在であった。

 

 

「それじゃあね」と通話を終えた天才は、空中を眺める。

 

「いっくん。会いたいよぉ」

 

 泣きそうな声で言う天才の声はラボに響き、部屋に来た人物の耳に入ってしまった。

 

「束様」

 

 部屋に来た少女は、ラウラに何処か似た少女でその手には紅茶とクッキーが乗ったお盆が握られていた。

 

「ああ。ごめんねクーちゃん。さあ、おいで」

 

 そう言って束は少女を自分の膝に来るように両手を広げて促すとクーと呼ばれた少女はお盆を近くのテーブルの上に置いて束の膝の上に座る。束はクーを抱きしめ笑顔でクーの頭を撫ではじめる。その表情は先程まで泣きそうな声を出していた同一人物とは思えない程笑顔だった。

 

 その笑顔がクーには痛々しかった。何故そんなにも笑顔でいるのか?あの人と一夏と会いたいんじゃ無いのかと問い詰めたかった。

 だが、それはしてはいけない出来事だと理解していた。

 

「束様」

 

 それ故に甘えようと思った。せめて甘える事で一夏の代わりに成るのなら甘えてしまおうと思い束を抱きしめ、束に頭を撫でられる事を拒まなかった。ただ、ただ一つだけ尋ねてみる。

 

束様(母様)は未だ一夏様(父様)の事が好きなんでしょうか?」

 

 少し意を突かれた質問に面食らう束だが、クーの頭を撫でながら束は頷いた。

 

いっくん(あの人)がどう思っているか知らないけれども私は未だにあの人を、そしてクーちゃんの事が大好きだよ?それにちーちゃんや箒ちゃんの事も、みーんなの事も大好きだよ」




あんまり進展がありませんでしたが、次回か次々回には束と一夏が会う予定です。それに今回出て来たとある計画が今後の展開に作用します。それでは、今後とも拳の一夏と剣の千冬をお楽しみ頂けたらと思います。


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