拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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第30話

「見せてやるぜ、糞餓鬼。お前が憧れる織斑千冬(あいつ)の力の片鱗を!」

 

 大剣である雪片弐型を左手で担いだ状態で、右手はラウラに向けられている。

 

「ほざけ!」

 

 ラウラの大口径レールカノンの砲口が一夏に向けられ、爆音と共に発射される。

 砲撃は一夏の体をモロに狙われており、当たればかなりのシールドエネルギーが削られる。

 

「………甘い!」

 

 砲撃の射線上に右手を合わせると、一夏の右手にはド派手な着弾音と共に煙が発生する。

 ラウラは、その事実に眼を見開いた。

 

「……化け物め!」

 

 恐怖がラウラの体を支配する。

 

○○●

 

 

「一体何が起こったんですか!?」

 

 目の前の巨大ディスプレイに映し出される戦闘の様子に山田先生は驚きの声を上げる。

 ラウラの砲撃。

 そして、その後一瞬で一夏の右手から出る煙。

 

 わけが解からなかった。

 

 刹那の間に何が起こったのか理解できなかった。

 ちらりとやっと立ち直り、背後で腕を組む千冬の顔を見ると僅かながらいつもよりも少し眼を見開いている。

 

 

「………」

 

 ただ、黙って無言で一夏とラウラの戦闘を見守る千冬は少しだけ口を開いた。

 

「スグに何が起こったのか解かる。織斑(あいつ)がネタを明かしてくれるだろうさ」

 

 そう言って千冬は再び口を閉じた。

 山田先生もそれ以上説明は求めず再び視線を先頭が映し出されるディスプレイへと向ける。

 

◇◇◇

 

 煙が舞い上がる一夏の右手。

 一夏はその手を開いた。

 

 すると、カランカランという音と共に原型を留めることもなく一夏によって握りつぶされ、変形したラウラが発射した砲弾が地面に落ちた。

 

全力(本気)で来い!お前に俺と織斑千冬(あいつ)のいる次元(場所)を見せてやる!」

 

 目の前に極々僅かにシールドエネルギーが削られた事を表示を消しながら一夏は目を見開いた。

ラウラが瞬きをした瞬間、一夏はラウラに踏み込み、距離を詰めていた。

 

「!?」

 

 素早い足踏みで間合いを詰める一夏にラウラは左目のしている眼帯を取った。

 普通の右目では見えなかったからである。

 だが、ラウラの左目は『ヴォーダン・オージェ』である。それは、擬似ハイパーセンサーと呼ぶべき代物で脳への視覚信号伝達の爆発的な向上と、超高速戦闘状況下における動体反射の強化がされており、ラウラはそれが常に稼動状態でカット出来ない為、普段は眼帯をして隠している。

 

その眼帯を外したという事は、一夏の踏み込みが強化された左目でなければ見えなかったからである。

 

(こんな奴に、私が!)

 

その眼帯を外させた事実にラウラのプライドは傷ついた。

 

――だが、これで一夏の攻撃は見える。

 

 その距離は雪片弐型の攻撃範囲。

 一夏が左手で担いでいる雪片弐型が鈍い光を放ちながら振り下ろされる軌道が見えた。真っ直ぐにラウラの大口径レールカノンを斬りつける軌道。

 

 その軌道をラウラは僅かに体を反らす事で大口径レールカノンを軌道上から逸らす。

 

 鈍い光を放ちながら雪片弐型はラウラの大口径レールカノンをかする事無く空振る。

 

――完璧に躱した。

 そう思った瞬間僅かなそよ風をラウラは感じた。

 

「双頭の蛇。お前も感じただろ――刹那の狭間を」

 

「何を言って!?」

 

 突然、ラウラの大口径レールカノンがズレて爆発した。

 見れば一夏の大剣は斬り上げていた。

 

(解らない!解らない!解らない!)

 

――理解できない。一体何が起きたというのだ!振り下ろされる軌道を完璧に躱したはずだ!

なのに、何故大口径レールカノンが斬られているのか(・・・・・・・・)!?

『ヴォーダン・オージェ』によって視覚信号伝達の爆発的な向上と、超高速戦闘状況下における動体反射の強化はされている筈!なのに何故!?

 

★☆★

 

「!織斑君は一体何をしたんですか!?」

 

ディスプレイ越しで見る山田先生は驚きの声を上げる。

一瞬、一夏が担いだ状態の雪片弐型が鈍く光ったと思ったらラウラの大口径レールカノンが爆発を上げた。

 

まるで、マジックでも見ているかの様な感覚だ。

 

「2回同時攻撃だ」

 

「え!?」

 

「織斑は今、2回同時攻撃を行ったのだ」

 

「……2回同時攻撃、ですか?」

 

「ああ。一瞬あいつが持つ雪片弐型が鈍く光っただろう?」

 

「あ、はい」

 

「その瞬間にあいつは、ボーデヴィッヒの大口径レールカノンに振り下ろしと斬り上げを同時に行ったのだ」

 

「!そんな事が!?」

 

「ああ。ボーデヴィッヒは、振り下ろししか解からなかったみたいだがな」

 

驚く山田先生を気にせず千冬は「お前も至ったか。刹那の狭間に」と呟いたのだった。

そして、その表情は驚きの様な喜びの様などちらか判断できない表情であった。

 

○○●

 

「!」

 

一夏の間合いに居ては危険と判断したラウラは、素早く後ろに飛んで距離を取る。

さっきの攻撃?で確実に大口径レールカノンは壊れた。

 

(……まさか!?)

 

――信じたくなかった。だが、大口径レールカノンが斬られている事実がそれを決定づける。

 

「貴様!私ですら見えない速度で大口径レールカノンを斬ったというのか!?」

 

――強化された左目ですら反応できない速度で大口径レールカノンを斬られたということに。

 

「ああ、ご明察。これが俺と織斑千冬(あいつ)が居る次元(場所)さ。そして、ここからが……」

 

 そう言って斬り上げた後の雪片弐型を再び担ぐ。

 

「……俺の戦い(やり)方だ!」

 

「貴様の剣は確かに凄い!認めよう。だが、貴様の武器はその大剣のみ!近距離戦に持ち込ませなければどうという事はない!このシュヴァルツェア・レーゲンは、近距離から遠距離までの武装が装備されているのだからな!」

 

 そう言ってラウラはシュヴァルツェア・レーゲンに装備されている六つのワイヤーブレードを全て射出した。

 ワイヤーブレードは全て一夏へと矛先を向いている。

 

 迫り来るワイヤーブレードを見て一夏はニヤリと唇を歪める。

 

――やっと来た。この瞬間が!この雪片弐型の新たなる使い道を見せる時が!

 

 迫り来るワイヤーブレードは、それぞれが意思を持っているかの様に一夏の両手両足、首、胴を狙っている。

 

「今だ!」

 

 3つのワイヤーブレードが交差する直前に一夏は雪片弐型をぶん投げた。

 雪片弐型はグルグルと円を描く様に廻りながらワイヤーブレードが交差する軌道を正確に通り、ワイヤーブレードを切り倒して行く。その延長線上にはラウラがいた。

 

 潰した3つのワイヤーブレードの他にもう3機のワイヤーブレードが一夏を襲う。

 だが、一夏に当たる直前で空中でワイヤーブレードの先端のブレードが見えない壁にぶつかったかの様に粉々に消滅した。

 それは、強化されたラウラの左目でも認識することの出来ない速度での一夏の拳による攻撃。――千冬曰く消滅領域(デリート・ゾーン)と呼ばれる一夏の拳の攻撃距離だった。

 

 

 ラウラは迫り来る巨大なブーメランとなった雪片弐型をAICを発動させて攻撃を防ぐ。

 雪片弐型を避ける事は出来なかった。

 何故なら、雪片弐型は3つのワイヤーブレードを破壊してもなお勢いを弱らせる事なく、凄まじい速度でラウラに飛んできたのだ。2メートルを超える凶刃が飛来してくるのだ。

 横に回避しようと思っても回避できるものではなかった。

 

 ラウラがAICによって飛来してくる雪片弐型を止めた瞬間に一夏は動いた。

 

 瞬時加速によって雪片弐型の陰に隠れ、ラウラの注意を雪片弐型に引きつけた状態でラウラの正中線に拳による突き。

 

「終わりだ!ハアッ!!」

 

雪片弐型に注意を引きつられていたラウラは、一夏の一撃をモロに食らってしまった。

 

「クッ!」

 

「つ」の字になる体に腹部に走る二撃目の衝撃。

何故か、シールドエネルギーがガッツリ削られている。単なる突きを2回程食らっただけなのに!

 

「何故だ!」

 

シールドエネルギーの表示がゼロになりそうな瞬間、ラウラは叫んだ。

 

「どうだ?糞餓鬼。命を、己が信念を込めた俺の拳は?……効くだろう?」

 

――確かに効いた。思いがこもった一撃。それは、軍人であるラウラが初めて教えられたことだ。弱者であろうと、自分より弱い相手であろうとも思いのこもった一撃は効くと。

 

だが、それでも解らない。

何故、こんなにもシールドエネルギーが削られるの!?

 

「不思議そうな顔してんなぁ。ついでに教えといてやるよ!日本には鎧を着た相手を殺す鎧通しって技があんだよ。俺が今やったのはその鎧通しを非殺に変えた活人拳で『撫子』っていう、鎧を着た相手に衝撃波を当てて攻撃する技だ。ISも所詮パワードスーツ。つまり、現代版の鎧ってわけだ!鎧を着ている以上、攻撃を受けるのは理屈に合ってんだよ!」

 

止めの一撃。狙いはラウラの背中

 

スローに見える瞬間、ラウラは思った。

 

(こんな奴に!敗北させると決めたのだ!――あの男を、私の力で叩き伏せると!)

 

―――力が欲しい。

 

そう思った時、ラウラの中に何かがうごめく。

 


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