「おい、一夏?」
一時限目の授業が終わり、授業の後半から机で寝そべっていた一夏に声をかける人物がいた。
その声は聞き覚えのある声で、一夏はその声の主の為に顔を上げる。
「あん?お前……箒か?」
幼馴染で束の妹 篠ノ之 箒がそこに居た。
「少し……話さないか?」
「OK」
箒に連れられ一夏は廊下に出る。
「箒、剣道の全国大会優勝おめでとう」
「!?何故お前がそれを知っている!」
「何故ってそりゃあ、新聞に載っていたからだ」
「そ、そうか。……そ、それでお前は一体d「キーンコーンカーンコーン」」
箒の言葉輪遮る様に無情にも予鈴が鳴り響く。
「ほら、予鈴が鳴ったぞ。教室入んぜ」
一夏はそれだけ言うと、さっさと教室に入ってしまった。
「一夏……お前は一体どうしてしまったんだ」
自分を一瞬で見抜いてくれた為に今の一夏を見て箒はショックに成った。
かつての一夏との思い出。自身の思い出に補整が掛っていないとは否定できないが、それでも昔の一夏と比べると別人の様に変わってしまった一夏に箒は困惑の表情を浮かべながら教室に入った。
「ちょっと、宜しくて?」
二時限目の数学が終わった休み時間、再び一夏に声をかける人物がいた。
一夏はその声を聴き聞いた事のない声だったので、知らない人物とすぐに判別。二時限目の授業の途中から眠っていたために起こされた事に腹を立てるも、相手にあたったからと言って眠っていた時間が取り戻されるわけでもないので声の主を無視して眠りの彼方に着こうと机に突っ伏した状態で開いた眼を閉じた瞬間、
「な、なんですの、貴方!代表候補生である私に声を掛けて貰って起きないとはどういう了見ですの!?」
一夏が突っ伏していた机をバンバンと叩き、更に一夏の睡眠を妨害した。
その様子を見ていた周りの女子たちは「うわ!やっちゃったよ、あの子」と驚きの声を上げている。
それに一夏は激怒した。
「うっせえんだよ!さっきから人の睡眠邪魔しやがって!!」
「何て口のきき方ですの!?私に声を掛けられただけでも光栄なのですからそれ相応の態度と言う者がるんじゃありませんこと!?」
信じられないと騒ぐ目の前の金髪で透き通ったブルーの瞳をした女子生徒はキーキーと騒ぐ。
「ハン。うるせえな。おい、何時からIS学園は教室で金の毛並みをした動物を飼育するようになったんだ?」
「ど、動物ですって!?」
「五月蠅いんだよ、糞哺乳類」
「糞哺乳類!?あ、あなた言うに事を欠いて代表候補生である私を侮辱しますの!?」
「代表候補生?」
オウム返しにきく一夏に目の前の女子生徒はやっと気付いたか!と威厳を取り直した表情で腰に手を当てて答え始める。
「ええ、そうですわ。イギリスの代表候補生であるこの私セシリア・オルコットをご存じありませんの?」
「あ~、つまり、あれか?イギリス代表の候補の一人。つまる所イギリスのTOP5に入る実力を国家に認められた人物ってわけか?」
「あら?今頃お気づきに成りましたの?」
一夏の返答に失笑を隠せない様子のセシリアに、一夏の周りでは「やばいよ!」と女子が騒いでいた。
「ああ、驚きだ!」
「あら、今更驚いたんですの?ですが、今更おd「ああ、驚きだ!イギリスのTOP5がこんなにも頭が悪そうな人物を選ぶなんてイギリスの品格と底が知れるぜ」」
一夏の言葉にセシリアは顔を赤くし、肩をブルブルと震わせる。
その様子を見た一夏は更に追撃を行う。
「お!図星か!?はっ、だったらお国にとっとと帰って代わりの奴とチェンジして来るこったな!!」
一夏とセシリアのやり取りを見ていた箒は「うわ、一夏の奴やりやがった!」と頭を抱え、周りの女子はハラハラドキドキの表情で二人のやり取りを見ていた。
「あ、貴方言うに事を欠いて私を侮辱するならばまだしも、私の祖国まで侮辱するんですの!?」
「ああ!?事実だろうが!一体何年ゲロマズ料理作ってんだ?学習能力が無いとしか思えないな!それとも、あれか?イギリスは国を挙げてわざとゲロマズ料理作ってギネス世界記録を目指してるんですか?または、ゲロマズ料理を出すこと自体がイギリスジョークなのか?だとしたらユーモアがあって羨ましいぜ」
「ゆ、許せませんわ」
「あっ、そっ。許してくれなくて結構だ」
一夏とセシリアのやり取りは三限目の予鈴が鳴り、千冬が教室に入って来た為強制的に中断された。
セシリアは、去り際に「絶対に許しませんわ!」と言い残して一夏のもとから去って行った。
「それでは全員席に着け!……ああ、忘れていたが再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな。クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会の出席…まあ、平たく言えばクラス長だな。一度決まると一年間は変更が出来ないからそのつもりでいろ」
千冬がそう言い放つと教室がざわつき始める。
そして、一人の少女が手を挙げて一人の人物を推薦する。
「はい!私は織斑さんが良いと思います」
先程セシリアとのやり取りをしていた人物の名をその少女は口にしたのだ。
一人の少女が言うと女子と言うのは不思議なもので教室のあちこちから
「はい!私も織斑さんが良いと思います」
「私も!」
「同じく!」
と口々に一夏を後押しする声がわき起こる。
当の本人である一夏は、
「へえ~、我が姉ながら人望が厚いね~。ククク」
と面白そうに腹を抱えて嗤っていた。
そんな一夏を見た千冬は、黒板から使い潰された白チョークを取り出すと一夏に目掛けて投げつける。見事チョークは一夏の額に直撃し、粉々に砕けた。
そして、ハアと溜息を吐くと、
「馬鹿者。教師がクラス長に成るわけないだろう!お前の事だぞ織斑」
一つの現実を知らせる。
それを聞いた一夏は、「ハア!?」と驚きの声を上げた。
「おい、ちょっとまて!なんで俺がクラス長なんて面倒な事をしなきゃいけないんだ!?」
「推薦された者に拒否権は無い。…他に居ないか?居ないならば無投票当選で織斑に確定だぞ。本っっっっっ当にそれで良いのか!?」
残り時間ラスト。このままでは俺がクラス長なんて云う面倒事をやらされてしまう!と一夏は焦り、神童と呼ばれた脳をフル活用する。
(知っている人間……箒。駄目だ!束の妹だ恨まれる要因を作っておきたくはない。となると、この教室で俺が知る人物は教師以外だと…)
そして、記憶を頼りに一人の人物を推薦する。
「はい!セシリアさんが良いと思います!」
一方のセシリアは、
「やはり自覚してらしたんですね?貴方の様な人物にクラス代表の座は相応しくないと」
「いんや、全然。クラス代表なんて面倒臭い役職やる気なんてなかったけど、押し付ける相手の名前を知らなくて唯一押し付ける奴の名前を言っただけ。セシリアさんなら本場イギリスのゲロマズ料理で培ったイギリスジョークを生かすユーモアあふれる人物だろうから他のクラスとの仲を円滑に良くしてくれる人物(笑)だろうから推薦しただけだ」
と、一夏はにやけながらセシリアに言い放つ。
セシリアはそれを聞き、俯き体を髪と共にプルプルと震わせる。その顔は真っ赤に成り、怒髪天を突かんばかりの怒りを現していた。
そんなセシリアを尻目に一夏は更に追撃を行う。
「てか、フィッシュ&チップスって、なにあれ?あれじゃあ、豚や牛なんかの家畜に食わせる餌じゃね?まだ犬の猫まんまの方が美味そうだわ」
ブチッ。遂にセシリアの堪忍袋の緒が切れた。
「決闘ですわ!」
それを聞いた一夏は信じられないと言った表情で暫く黙っていると、急に笑い出した。
「クックック、あははは!ひゃはははは!!決闘!決闘だとよ!やべえ、腹痛てえ!流石本場イギリス!ユーモア溢れる素敵な国だな、おい!今時決闘なんて言うやつがいるとは、流石時代錯誤の王室を残しておくだけあるぜ」
「まだ私と私の祖国を侮辱しますの!?」
「あ~、おもしれえ。一つ無知の手前に教えといてやるよ決闘ってのは、対等な奴と戦う時に初めて使う言葉だ」
「あら?ご自分が負ける事が分かっていますの?ならば、さっさと私と私の祖国に対しての侮辱の謝罪を」
「ぬかせ。手前が俺に負けんだよ、カス!一つ教えといてやる!良いか!この教室にいる奴ら全員聞いとけ!!」
そう言って一夏は立ち上がると大きな声で宣言をする。
「女尊男卑の風潮で脳が逝かれてるセシリア嬢みたいな奴に教えといてやんよ!女尊男卑とは、女性がISを使えるが故に浸透した風潮であり、男である俺がISを使えるならばその常識は通じない!つまり、手前ら女性が優遇され重宝される前提は、俺を前にすれば無意味、無駄!俺と手前らはISを使えると言う時点では対等な関係であり、そこからは実力が物を言う!!手前ら女性が俺の前で威張り散らすことなんざ出来やしねえんだよ!!」
それだけ言うと一夏は満足そうに席に着いた。
その様子を見ていた箒は途中から「もう知らん」と教室の窓の外を見ており、教卓の傍に立っていた千冬は、ハアと溜息を吐き、副担の山田先生は何故か一夏の発言を顔を赤らめてうっとりと聞いていた。
「私が勝ったら今までの謝罪とその代償として小間使い―――いいえ、奴隷にさしますわよ」
「ハッ!だったら俺が勝ったらそのチョココロネを思わす髪をした罰として毎日おやつにチョココロネ2個を貢いでもらおうか!」
「チョココロネ!?」と、セシリアは更に激怒するもパンと千冬が手を打って強制的に話を進める。
「さて、話は纏まったな。それでは勝負は一週間後の月曜日。放課後、第三アリーナで行う。織斑とオルコットはそれぞれ準備をしておくように。それでは授業を始める」
そう言って千冬が話を締め、授業を開始すると一夏は机に突っ伏して睡眠の彼方へと意識を飛ばす。その為、千冬による出席簿での全力スイング攻撃が振るわれるも彼が意識を睡眠から戻す事は無かった。