拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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第28話

学年別トーナメント当日、一夏は選手待機室に設置されているパイプ椅子に座っていた。

 

「……」

 

 無言で見る前方にはトーナメントの対抗戦の対戦表。そして、第一回戦の相手はラウラ・ボーデヴィッヒと篠ノ之箒。

 まさかの予想外の展開に驚き半分、期待半分といった具合で目の前のデータを見る。

 

 篠ノ之箒がラウラ・ボーデヴィッヒとのペアとなったのは、ペアがいないものは抽選で選ばれてペアになるというルールだったためペアが出来なかった箒は強制的にラウラとペアにさせられたのだが一夏は知らない。

 

「一夏、もうそろそろ時間だよ」

 

 パイプ椅子に座って対戦表のデータを見る一夏に声をかけるのはシャルル・デュノア。デュノア者のご令嬢……等と肩書は良いものの実際はデュノア社の社長である父親の命令を受けてIS学園に潜入した元スパイ。社長の愛人の子供という事で無下に扱われた可哀そうな娘。ひょんな事から一夏にスパイであることがバレ――というより良心の呵責に耐えられずあっさり自白し――て、一夏に道を示されてIS学園に残る事を決意した原作ヒロインの一人。いまだに一夏に男疑惑をもたれており、一夏が身の危険を感じて徹夜で修業、朝の授業中から寝るという愚行に拍車をかけている要因の一人。

 

 「ああ。今行く」と言いながら椅子から立ち上がる一夏を見て、『まるで新婚さんみたいなやり取りだよね』とピンク脳のシャルル。彼女はうら若き乙女。いや、十代の少女なのだ。誰も文句は言えないだろう。ましてや、今までの境遇が境遇なだけに一般人よりも幸せを求めるのも考えれば当たり前の事と言えるだろう。

 

 まあ、そんな事を考えていたら一夏がさっさと横を通り過ぎデュノアよりも先に行ってしまったのでデュノアは「待ってよ、一夏~」と言いながら彼の後を追うことになったのだが……

 

○★■

 

 

 

 

「人が多いな」

 

「まあね。二年の専用機持ちは一年の成果。三年生はIS企業からのスカウトのチャンスだからね~。まあ、一年の時から目を付けておくっていう企業もあるだろうからね。まあ、拍車をかけるように一年で専用機持ちが5人いるっていうのもあるみたいだよ。というよりもそっちが本命…かな?」

 

 選手入場口からアリーナを見て呟く一夏とデュノア。

 目に映るアリーナ会場の観客席には、人、人、人、人、人。ビッシリと人が観客席に座ってみておりその服は全部IS学園の制服だった。

 

 中央の来賓席には数名のお偉いさん方が座っており、その中の一人に一夏は見覚えがあった。

 相手は一夏の視線に気が付いたのか一夏に向かって手を振っていた。

 

「……」

 

 無言で視線を逸らす一夏。

 その顔は露骨に嫌な表情をしており、それに気が付いたデュノアが一夏に「どうしたの?」と尋ねるも一夏は「何でもねえ。ちょっと嫌な奴を見ちまっただけだ」と言って壁にもたれかかる様に壁に背を預けた。

 

「?」

 

 不思議に思ったデュノアが一夏が見ていた視線先に目を向けるも相手はもう一夏から視線をアリーナのステージへと向けており、一夏が言った嫌な奴というのがさっぱり解らなかった。

 

『試合選手はアリーナステージに入場してください』

 

 入場のアナウンスが流れてデュノアは一夏にアリーナのステージに入ることを促し、一夏は「う~ん」と唸り、考えた末大きなため息を吐いて「ああ」と頷くとデュノアと共にアリーナのステージに向かうのだった。

 

 

 

「フン。待つ手間が省けるというものだ」

 

「五月蠅いぞ。ケツの青い糞餓鬼が」

 

 ラウラと一夏はISを展開して空中に待機しており、デュノアは一夏の後ろで専用機のラファール・リヴァイヴ・カスタムIIを。箒はラウラの後ろで訓練機の打鉄をそれぞれ身に纏い、空中で待機している。

 

「私はお前に勝たなければいけない」

 

「あ゛?」

 

 突如語り始めたラウラに一夏は顔をしかめる。

 

「お前がいなければ教官は第二回モンドグロッソで連勝という輝かしい結果を出していただろう」

 

 一夏はラウラの話からすぐにピンと解った。そして、クククと笑いながらラウラの後に続いた。

 

「そして俺がいなきゃ手前は、ちーt……織斑先生に出会う事も無かったわけだ」

 

 ラウラの主張を否定するが如くわらう。笑う。嗤う。

 

「「黙れ」!!」

 

 ラウラのセリフと一夏のセリフが重なった。

 

「黙れ。五月蠅い。貴様の所為で……手前の言うセリフはある程度予測がつくんだよ糞餓鬼君。もう少し捻りのあるセリフを吐いてくんないと面白くねえなあ」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる一夏にラウラは更に怒りが募る。

 

 笑みを浮かべていた一夏は「ハア」と溜息を吐くと真面目な顔に戻り、一夏はラウラに向けて言う。

 

「そうそう。教えてやんよ、糞餓鬼。真実を」

 

「真実?」

 

「ああ、そうだ。あの日、第二回モンドグロッソ当日に俺は拉致られた。いや、正確に言うならば拉致されそうになった。だが、俺が発見された場所まで俺がそいつ等に付いていき、そいつ等を半殺しに返り討ちにしたってんのが真実だ!要は中学生だった俺にそいつ等は負けたんだよ。大の大人が、中学生の俺に!まあ、ちーt……織斑先生が試合ほっぽって駆けつけてきたっていうのも間違いじゃねえんだが、そんな俺を襲った負け犬風情にちーt……織斑先生なんて言ったと思う?大丈夫か?だとよ。アハハハハハ。敵に大丈夫かって心配すんだぜ。惚れちまいそうに成るぜ!しかも、律儀に警備をしていたのがドイツ軍。手前の祖国の軍隊よ?要は手前の祖国の軍隊の警備の甘さが原因で起きたのに、わざわざ協力してくれたからって言ってドイツ軍に教官として赴任したっていうのが真相よ。心が優しいと思わねえか?わざわざドイツ軍の失態の所為なのに捜索に手伝ってくれたからってお礼を返すあたり、惚れるね。真相を知ってもう実の姉じゃなきゃ、告ってたとこだぜ!」

 

 クククと笑いながら一夏はその手に大剣型近接格闘武装【雪片弐型】を展開させる。

 

■■■

 

「お、織斑先生?」

 

 ディスプレイ越しで試合の様子を見ていた副担の山田先生は後ろを振り向く。

 先ほどの恥辱プレイ(?)放送でどうしても千冬の様子が気になった。

 この学年別トーナメント終わりに地獄組手覚悟で後ろを唾を飲みながら振り返ると、そこには

 

「クッ。死にたい」

 

 ビシッと黒のビジネススーツを身に纏うも真っ赤にした顔を両手で覆い、部屋の隅で(うずくま)る千冬の姿がそこにはあった。

 

「あははは。ですよね~」

 

 うん。自分も一人っ子ですけどもし弟がいて公衆の面前でそんな事を言われたらそうなりますよね~。一人っ子でよかったと山田先生は初めて自分のおい立ちに感謝した。

暫く立ち直れそうにありませんね。これじゃあ、と判断するとディスプレイに再び視線を向ける。

 ディスプレイには予定の試合開始時間がちょうど5分前で、山田先生は放送ボタンに手を置いた。

 

 

○○○

 

 

 全てを聞き終えたラウラは、「そんな!?」とやる気が喪失していた。

 

「まあ、それでも俺の言う事全てを否定したいつーなら、かかってこいや糞餓鬼!」

 

 不敵に悠々とたたずむ一夏を見てラウラはクッと唇を噛みしめる。負けられない。織斑一夏は憧れの教官の栄光に傷をつけた相手。そう思う事でラウラは今まで頑張ってきた。だが、それが瓦解することを言われた。

 

 全ては警備にあたっていたドイツ軍の失態。憎むべき相手は織斑一夏(目の前の男)では無くドイツ(わが祖国)!?

 

 

「……認めない」

 

「あ゛?」

 

「認めない。そんな戯言認めない。仮に真実であったとしても認める事は出来ない!」

 

 涙を浮かべるラウラに一夏は笑みを浮かべ言い放つ。

 

「良いだろう。戦意喪失しなくて結構だ。ここから先はどっちが真実かなんて関係ねえ!歴史が、世界が示す勝った方が真実。そうシンプルに行こうや糞餓鬼!」

 

「負けない!……私は、負けられない!」

 

『両ペア試合を開始してください』

 

今、ラウラと一夏の両ペアの戦いの火蓋が切って落とされた。


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