青狼会の親分に推薦状を書いて貰い、一夏は藍越学園に来ていた。何故ならば親分曰くOBやOGが出来るのは推薦状を書くまで。書いて貰った推薦状を藍越学園まで持って行って、そこから推薦された人物の面接をする為のスケジュール調整が始まるのだ。
一夏は推薦状を書いて貰い負傷した体で藍越学園へと足を運んでいた。
腕や脚に埋まった銃弾はピンセットで無理やり取り出し、日本刀や長ドスで付いた切り傷と共に包帯を巻いて止血した応急処置で対応した。その為Tシャツやジーパンに血が滲み出ているが気にしなかった。
藍越学園の校門を抜けると藍越学園の校舎が見える。普通の高校の3倍ほどの大きさで校舎は少し古く、年代を思わせるような造りと成っていた。
藍越学園―その入学合格者率は不明。何故ならば推薦状を書いて貰うこと自体が困難だからだ。藍越学園の卒業生は様々なジャンルのトップに君臨する。故にほぼほぼ会うこと自体が困難を極める。
「どうなるか分からないって事だよな」
眼の前に立ち塞がる大きな藍越学園の校舎を見ながら一夏は呟いた。
一夏は藍越学園の玄関を抜け、事務室に向かった。
「すみません」
ガラス越しに見える事務室の中では数人の事務員が忙しそうに働いており、その中の一夏の傍で椅子に座りデスクワークをしていた女性事務員が一夏に気づいた。
「はい。どのようなご用件でしょうか?」
「入学希望の者ですけれども…」
「当学園は一般受験を受け付けておりません。OBやOGによる推薦でのみ受け付けております」
「あ、推薦状でしたら持ってきました」
一夏がそう言うと対応していた事務員は驚いた表情を浮かべる。
一夏は懐から先程ヤクザの親分に書いて貰った推薦状を出すと事務員に見せる。
「確認して貰ってもよろしいですか?」
「拝借します」
そう言って余生事務員は受付のガラスから一夏の推薦状を受け取ると座っていた机に戻り、机に備え付けられているパソコンや電話を使用して忙しそうにデスクワークを始める。
5分ぐらいたっただろうか。
事務員の方が一夏の推薦状を持ってやって来た。
「確認が取れましたのでお返しします」
一夏は推薦状を受け取ると事務員に顔を向けたまま懐に推薦状をしまう。
「後日日程が調節出来次第手紙で連絡しますのでこちらにお名前と住所の記入をお願いします」
事務員に渡された書類に記入すると帰路に着いた。
藍越学園に足を運んでから四日後、一夏は地元の市民体育館に来ていた。今日ここで面接があると言うのだ。何故校舎でやらないのか解らないのだが向こうから指定されては受験生である一夏に異論を言う事は出来ない。
「ハア、にしても何だここ?」
かれこれ一時間ぐらい一夏は市民体育館を彷徨っていた。全部が全部同じような作りと成っていてまるで迷路の様だ。何故か案内図が見当たらず近くにいた職員に一回訪ねて道のりを言われたが何処も同じ構造をしている為今現在言われた通りの道のりか分からなくなっていた。
廊下を歩いていると一つの扉があった。その扉には試験会場と書かれた紙が貼ってある。
「……ここか」
一夏は試験会場と書かれた紙が貼ってある扉を開くとそこには一つの鎧が待っていた。
鎧は中世の騎士の様な鎧で来る人を待っている様に待機していた。
「IS……懐かしいな」
IS事件の元凶を探す一夏にとってISはあの事件を思い起こさせる。
しんみりした気持ちでISに触れてみる。ひんやりとした鉄の感触が一夏の手に伝わる。
「っと。いけねえ。そろそろ試験会場に行かないと」
藍越学園入学のための試験を受けに来た一夏にとって時間厳守遅刻は許されない。
ISから手を離そうとした瞬間一夏の脳に数えきれない情報が手を通して流れ込んできた。
「っな!」
驚いて手を離そうとするもすでに遅かった。
一夏の目の前にあるISはまばゆい光を放つ。それと同時に背後にある入って来た扉が開き「な!」「ISが起動している!?」と驚いた声が一夏の耳に入った。
光が止むと一夏の視線はやけに高くなっていた。
「ん~身長でも延びたか?まあ、何しろもうすぐ高校生。身長がグーンと伸びる事もある……わけねえだろう!!なんじゃこりゃあ!?」
一人漫才をした後に自身に起こった出来事に驚く。
何故ならば男である一夏には動かせないはずの一夏がISを身に纏っていたのだから。
「男がISを!?」「取り敢えず政府に連絡を」とあたふたする様子が分かった。映像として認識できた。
「……これがIS。これが束の作った翼。女性だけが見れる世界」
馴染む。しっくりくる。一夏の体に纏うISは初めて身に纏う物とは思えないほどしっくりきた。
新たな世界を見れた事に大きな喜びを感じ隠せなかった。
「………おい、織斑先生よお。一体何故俺がIS学園に来てるんだ?」
「織斑、口のきき方には気を付けろ。それとお前の質問だがお前が男で今現在ISを動かせるからだ」
今現在一夏はIS学園に入学していた。ISを起動させた後に藍越学園の面接を受ける間もなく政府の使者?が来て何故かIS学園に強制的に入学が決まってしまったからだ。
そして、今現在一夏はIS学園で教師をしている姉のクラスにいた。
「そうじゃねえ!俺は藍越学園に入学するつもりだったんだが、な ん で あいえす学園にきてんだ!?ああん!?俺はあいえつ学園に入学するつもりだったんだよ!」
「仕方ないだろう!!それと一夏!放課後に家族会議だからな!お前藍越学園に入学するためにヤクザの青狼会の事務所に殴り込みに行ったそうだな!!その事も踏まえて放課後に家族会議だ」
「断じて断る!!」
数十人の好奇の視線が一夏に降り注ぐ中一夏は姉の千冬と共に言い争いを始めていた。
「それに仕方ないだろう!お前がISを動かしてしまったせいで世界中がお前を欲しているんだから。中にはお前を快く思わない連中から刺客とかも送られてくるやもしれないんだから」
「俺としてはそっちの方がスリリングな経験が出来るから好ましいんだが……」
そう呟く一夏の頭に出席簿での千冬の渾身の一撃が炸裂する。
「辞めろ。国際問題に成る……余計な手間を増やすな!」
「はん!国際問題?上等じゃねえか!!向こうが俺に危害を加えようと動くんだ!返り討ちにして、のしつけて倍返しにしてやんぜ!」
「これだからお前を他の学校に行かせられないんだ!いい加減解れ!」
「はあ!?俺みたいな聖人君子にケチ付けんなよ愚姉」
「黙れ愚弟。お前が聖人君子ならばヒトラーや曹操だって聖人君子だろうよ馬鹿者め」
「はあ!?俺が暴君だっていうのかよ!!」
「お前のその口調からではそうとしか感じとれんわ馬鹿者が。この歩く核爆弾が」
「おいおい姉貴。そりゃあ、ちょっと酷いんでねえか?俺が喧嘩っ早いのは否定しねえが俺が聖人君子であることは事実だろう?何せ襲ってくる敵をぶっ殺さねえんだから。自分の命を狙ってくる敵を殺さねえ優しさがあるんだぜ?まさに聖人君子じゃねえか。聖人君子は俺の為にある言葉じゃねえか?」
「優しさと言う言葉を辞書で引いてみろ馬鹿者め」
「織斑一夏の様な人物って書いてあるだろうよ」
「ふん。んなわけあるか。お前を表す言葉は暴君、チンピラ、歩く核爆弾のいずれかだろうよ」
「ひでえ!」
「事実だ」
二人が言い争いをする中あたふたしながら千冬のクラスの副担である山田真耶が二人を止める。
「あ、あのう。お二人ともそこまでにして貰えますか?それと織斑君自己紹介お願いします」
「ぁあん!?自己紹介?俺、織斑一夏以上!!」
再び自己紹介をした一夏の頭に千冬の出席簿による渾身の一撃が降り注ぐ。
「何すんだよ!」
「お前はその年に成っても自己紹介すらまともに出来ないのか!?」
「はん!おいおい、織斑先生よお。俺は藍越学園に行く予定で俺もそうなる事が希望だったわけよ?んでも、俺が努力不足ってわけでもなくIS動かしたって言うふざけた理由でIS学園にぶち込まれた俺の身を考えるなら分かるだろう?モチベーションってもんがあるんだよ!モチベーションってもんが!!今のモチベーションは月とスッポンどころか、月とミジンコ位違うわけよ!あ、因みに言うならば月は藍越学園でミジンコがIS学園だから」
「知らんわ!」
「兎に角、これ以上言う事なんてない!」
「ハア、取りあえずあそこの空いている席に着け」
千冬の指示に渋々従う一夏。
千冬は一夏が席に座るのを確認すると
「諸君。君たち新人を一年で使い物になる操縦者にするのが私だ。私の言葉は全て理解しろ。出来なければ私が出来るようになるまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五歳を十六歳までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言う事は聞け。いいな」
等と暴君発言をする。
それに教室は
「キャ---千冬様よ!!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様の為ならば死ねます!」
等と女子による黄色い声が響き、その中で一夏は「どっちが暴君だよ」と呟いた。