一夏が教室から体操服を羽織って戻ってくると授業が開始された。
山田先生は未だ顔を真赤にさせているが意識はあるものの一夏の顔を見れずにいた。
「織斑、オルコット武器を出せ」
「はい」
「了解」
左手を方の高さまで上げ、真横に突きだすと一瞬爆発的な光が放たれるもすぐに光はやみ、その手にはスターライトmkⅢが握られており銃器にはすでにマガジンがセットされており、セシリアが視線を送るだけでセーフティーが外れる様になっている。
「おい、織斑。とっとと武装を展開しろ」
一夏は拳を握っただけでその手には雪片弐型が握られていなかった。
そんな一夏は千冬に対して何言ってるの?と言わんばかりに首を傾げる。
「ん?武器ならここにあるじゃん」
そう言って視線を拳に落とすと千冬はそれを見てしまった!と言いたげな表情と成った。
「あ~、言い方を間違えた。雪片弐型を出せ」
「あ、はいはい」
一夏の左手には瞬時に光が集まり、巨大な大剣雪片弐型が現れる。
「初心者にしては早いな。では、飛べ」
千冬に言われてセシリアの行動は早かった。急上昇し、遥か頭上で静止する。
「どうした、織斑?早くしろ」
しかし、それとは対照的に未だ地面に立っている一夏が居る。
「えっと~、織斑先生。飛ぶってどう飛ぶんですか?」
その言葉にセシリア以外全員がずっこけた。
「お前、オルコット戦と凰戦で飛んでいただろう!」
「え、そうなんですか?無我夢中で戦ってたんでぶっちゃけ覚えてません」
ハアと溜息を吐いて一夏にレクチャーする千冬
「イメージだ。飛ぶ様子をイメージすればいいんだ」
「了解」
眼を瞑り、イメージする。
眼を開いた瞬間、一夏は急加速によって上空へと飛んだ。
飛ぶ時に一夏を中心に砂埃が吹き、その所為でセシリアと一夏以外全員が眼を瞑った。
大空へと駆ける一夏。
そして、空中に浮かぶと加速して何故か校舎の方へと向かった。
「おい、織斑!何処へ行く!?」
そんな千冬の声など一夏の耳には届かず。ただ、一夏は加速して校舎へと向かう。
「オルコット!織斑を追え!」
「了解しましたわ!」
セシリアも千冬の命を受けて一夏を追い、校舎へと向かう。
「ハア、一体なんだと言うのだ」
勝手にISを使用して校舎に向かった
★★★
前方を駆ける一夏に向かって何度もオープンチャンネルで声を掛けるセシリア。
『織斑さん!一体なんだと言うんですの!?』
しかし、一度も返答が返ってこない。
『ああん!もう!一体何なんですの!?』
苛立ちを露わにするセシリアだが前方を走っていた一夏は学校の窓を加速したまま突き破り、校舎に侵入する。
「え!?ちょ、ちょっと織斑さん!?」
そして、ISを解除して廊下を走る一夏にセシリアは後を追う為、一夏が突き破った窓から校舎に侵入してISを解除し、一夏の後を追う。
一夏は廊下を素早い速度で駆けると、とある場所に入っていった。
「女子トイレ?」
一夏が入って行った場所は女子トイレだった。
セシリアがトイレに足を踏み入れた瞬間、
「うげえええええ」
一夏が吐く音が聞こえる。
「ちょ、ちょっと一夏さん!?」
慌てて一夏が駆け込んだ女子トイレの便器に駆け寄ると、そこには一夏が便器を抱えた状態でゲーゲーと吐いていた。
「大丈夫ですの?」と言いながら絶賛吐しゃ中の一夏の背中を優しく摩って介抱するセシリア。
その行為は数分続いた。
「ハア」
溜息を吐く千冬の視界に何故か歩いて戻ってくるセシリアと一夏の姿が映る。
戻って来た一夏に尋ねる。
「さて、言い分を聞こうか」
「どうやら俺は普通の授業が駄目みたい」
「は?」
「だから、ISで空中に浮いた瞬間酔っちまったんだよ!」
「いや、でも、お前この前空中に浮いて戦っていただろう!?」
これは仮説だけどと前置きしたうえで一夏は説明を始めた。
「それは、あんとき戦いだったから脳内のアドレナリンが過剰に分泌されて酔わなかったみたい。でも、今はまるっきりダメ。普通の実学は戦闘やって無きゃ酔う。走るんだったらいけるっぽいけど」
千冬は頭を抱えた。これじゃあ、まるっきり授業に成らない。
すると、山田先生が手を挙げて、「それじゃあ、織斑君と私が戦いながら、織斑先生は解説をお願いしたらどうでしょう?」と言うと一夏は目を輝かせる。肉食獣のような鋭い眼と成るも予想外の時に戦えることに喜びを隠せなかった。
「解りました。お願いします」
千冬が了承すると山田先生は光を発しながら瞬時に光がISを形成してラファ―ル・リヴァイヴを身に纏う。
一夏もすでに専用機の白式を身に纏っていて手には大剣である雪片弐型を握っている。
踏み込み。
大地に踏み込むと共に真耶に目掛けて雪片弐型をまっすぐ縦に振るう。
大剣とは思えない速度で振るう一夏の素早い斬撃は、真耶は回避する間もなく頭上に振り下ろされる。
真耶はショートブレードを呼び出して一夏の斬撃を受けるも予想以上の重さに片膝を付けてしまう。
ギリギリとショートブレードと雪片弐型が押し合うも真耶の方が不利だった。
先ず、予想以上の重さと真耶が片膝をついてしまった事でうまく力が入らず現状押し負けている状態。
それに、真耶が呼び出した近距離武装がショートブレード。その名前の通り短い刀身と軽い重さが特徴の剣は一夏の斬撃を耐えているとはいえ、いまいち決定打に欠ける。しかも、ショートブレードの刀身は40cm程で、一夏の2m以上超える大剣型近接武装雪片弐型の前には圧倒的に不利だった。
大剣であればその一撃一撃は重いが、その重量故に連撃は望めず振るわれる斬撃も回避しやすい。だが、逆にショートブレードは一撃一撃のダメージが軽いが連撃によって相手にダメージを与えて行く。普通は。
だが、一夏を前にするとそれが破たんする。
その圧倒的に重い重量でゆっくり振るわれるはずの斬撃が素早く、大剣ではないのではと思わすほど素早い速度で振るってくるのだ。
そんな素早い斬撃を受け止めてみれば予想以上のその重い重量で体勢を崩してしまう。
「っ!」
徐々に押される真耶は表面には出さないが内心焦る。
その予想以上の重さである雪片弐型とそれを繰り出す一夏に。
――剣の申し子
そう言っても過言ではないのではないだろうか!?と思わすほど大剣を振るう一夏は強かった。
ちらり、と尻目で千冬を見る。
だが、その名は千冬が持つべき名だ。
あの美しい斬撃。人々を魅了する斬撃は太刀筋は勿論、その一撃一撃が重く素早い斬撃。
さしずめ一夏に付ける二つ名は、剣鬼と言った所か。
そんな事を考えながら真耶は膝をついていない方の脚に意識を集中させ
「!」
一気に後ろに跳ぶ。
一夏の斬撃から逃れると上空に跳び制空権を確保すると射撃武装を展開する。
呼び出したのはレッドパレット。51口径アサルトライフル。
フルオートで放たれる銃弾を一夏は、加速しながら僅かな動作で回避し山田先生との距離を詰める。
だが、元代表候補生である山田先生の射撃の腕は高く、回避しながら距離を詰める一夏に連射した状態で軌道修正を行い一夏が回避する場所へ予測撃ちを行う。
山田先生が予測撃ちをして放たれた銃弾は一夏の肩を掠めるも、一夏には当たらず。
一夏は大剣を盾にして身を隠したまま加速し、山田先生との距離を詰める。
「!?」
幾ら撃とうとも大剣にあたるだけで距離を詰められる山田先生は武装を変える。
今度呼び出した武器はグレネード。
「おら!」
下段から斜めに斬りあげる様に剣を振るう一夏に目掛けて手に持ったグレネードを放り投げる。
迫りくるグレネード。
もう爆発するカウントは始まっており一夏は、目の前に飛来するグレネードを叩き落とそうと考えるも地面には千冬達が居る。万が一にも地面付近で落ちて爆発してしまえば、不味いと思いすぐにその考えを捨てる。
そして、ならばと思い更に加速した。
一夏が迫りくるグレネードを抜けて2秒後にグレネードは爆発を引き起こし、一夏は爆発によって引き起こされる爆風を利用して山田先生との距離を一気に詰める。
「おらあああああ!!」
再び振り下ろされる雪片弐型。その切っ先は真耶の胴体を確実に狙っている。
「そこまで!!」
はるか下の地面から千冬の怒鳴り声。
ピタッと雪片弐型は真耶の体に触れる直前で寸止めされている。
そして、一夏の腹には真耶がレッドパレッドの銃口があった。
「ククク、やべえ超楽しいな!しかし、名残惜しいが仕方ねえか」
名残惜しそうに一夏が雪片弐型を収めると真耶もレッドパレッドを引っ込める。
そして、二人は地上へと移動した。
「今年一年で全員が此処まで出来るのが理想だ。各員、修練に励むように」
千冬は、そう言ってテキパキと専用機持ちをリーダーにして生徒を出席番号に並ばせてISによる歩行を行わせるのだった。