「織斑、デュノアの面倒を見てやれ」
「断る。何で一々野郎の面倒を見なきゃいけないんだ!ついてこられねえ奴は置いてけぼりが普通だろうが!デュノアが俺についてくりゃあ良いだけだろ。手取り足取り指導するなんざ、俺の性格に合ってっと思うか?」
「……デュノア、織斑について行け。遅れるなよ」
そう言って千冬は教室から出ると一夏はケッと悪態をついた。
そんな一夏を見てデュノアは尋ねる。
「えっと~、よろしくね?」
「なんで疑問形なんだよ」
「織斑君って、織斑先生と仲が悪いの?」
そんな質問をするデュノアにキョトンとする一夏だったが、僅かに頬を揺るませて答える。
「いんや。そんな事はねえと思うぞ」
「そうなの?」
「ああ。喧嘩するほど仲が良いって言うからな。お互いに殺し合うくらい仲が良いぜ
」
「普通、それを仲が良いとは思わないし言わないよ!寧ろ、険悪だよ!仲が良いの次元を超えてるよ!」
「そうなのか?でもな、ちーた……織斑先生も俺も互いの実力を分かってっからお互いの全力を出し合って、殺し合うんだぜ。それを仲が良いとは言わねえのか?お互いの事を知り、信頼して全力を出してぶつかり合う。俺はそれが仲が良いと思うがねっと、まあ、お喋りはここまでだ」
そう言って一夏は椅子から立ち上がるとデュノアに「ついて来い。ついて来れなきゃ置いてくだけだ」と言って教室から出た。
デュノアもその後について行く。
二人が教室を出てすぐに、女子たちが現れた。
その女子達の視界に一夏とデュノアが映った事で女子達から黄色い悲鳴が上がる。
「見てみて!織斑君と噂の転校生よ!」
「クールな織斑君と王子様的なデュノア君!」
「良いわ、絵に成るわ!」
「者共出会え、出会え!」
わーと集団が一夏とデュノアに群がろうとする。
「え、なに、これ?」
「男のIS操縦者だから珍しいんだろうよ。行くぞ、最短距離に成る近道を使う」
女子どもを睨みつけるも普段ならば一夏の人睨みで臆する女子達だが、耐性が出来たのか、または余程興奮しているのか一向にその勢いが衰えない。
それに見切りをつけ、一夏は2階の窓を開けるとデュノアに「ついて来い」と言って窓から飛び降りた。
「え、ちょっと、ここ二階だよ!?」
慌ててデュノアが窓から下を見ると、そこには地面に着地した一夏の姿があった。
「ほら!とっとと降りて来い!」
デュノアにそう指示する一夏だが、普通の人は二階の窓から飛び降りたりしない。
「え~と~、僕は階段を使って下りるよ」
「あっそ、そんじゃあ、遅れるから先に行ってるぜ」
そう言ってとっとと先に進む一夏を見てデュノアは「これじゃあ、特異ケースとの信頼は難しいかな」と一人呟く。
この後デュノアは女子に囲まれて大幅に遅れるのだった。
◆◆
第二アリーナに集合した一夏に千冬は声を掛ける。
「織斑、何だその恰好は!?」
「普通にISスーツですけど、何か?」
「可笑しいだろ!何故そのような姿に成っているんだ!?」
千冬が怒るのも無理なかった。なぜならば、一夏のISスーツを見た女子生徒たちは全員赤面しておりまともな授業に成れる事は無いのだから無理もない。
一夏のISスーツは股間だけを隠している状態で、ぶっちゃけ小学校のスクール水着と言ってもおかしくなかった。
「ああ、それはですね。履き辛かったですし、使い勝手が悪すぎたので試行錯誤の結果、この様な形に成っただけです。無論、裸でも自分は構いませんけど?」
「くっ!いつの間にか愚弟が露出魔に成っていたとは……」
「おい、こら、糞姉貴!言うに事欠いて露出魔とは聞き捨てならねえなぁ!この無駄に脂肪の無い体は、恥じる事のない体であると主張するだけであって露出魔の如く裸でハアハアと性的興奮をするのでは断じてねえぞ!」
頭痛をする頭を抱えるも、この現状には変わりはせず。
女子は顔真赤で眼を廻しており、千冬は頭を抱えて悩みこんでいる状態の所へ
「お、遅れてすみません。って、何これ!?どういう状況!?」
一人遅れたデュノアが到着した。
周囲の状況に状況判断が追いつかないデュノアに千冬は、
「……デュノア、本来ならグランド十周させる所だが、今はお前に構っている時間は無い。さっさと並べ。おい、そして、そこの
「ハア!?ふざけんなこら!ISスーツが履き辛いのならば、変えるしかねえだろう!履きやすいように変えただけだ。寧ろ全員裸で羞恥心なんざぁ捨てちまえばいいんだよ!無駄な贅肉ぶら下げてっからISスーツが履き辛いんだ!俺は悪くねえ!ISスーツの考案者が悪い!もしくは腹に余分な脂肪を蓄えてISスーツを着てきれいに見せようとする女子が悪い!媚びぬ、引かぬ、省みぬわ!俺が悪いんじゃなくて履き辛いISスーツを生み出した世界が悪い!」
ふざけた暴論を発する一夏を見て千冬は更に頭が痛くなる。
「……良いから、さっさと着替えてこんかぁ!」
「フッ、ちーたん。解かるぞ。俺には解る!」
「何がだ?」
若干イラついた声を発する千冬に一夏は悲哀な眼差しで千冬の肩に手を置くと、
「最近太っただろう!?解るぞ!俺には解る!何しろ俺はあんたの弟、織斑一夏なのだからなぁ!正直、最近食べ過ぎ飲みすぎちゃったなあ……とか、思ってたりするだろう?何せ現役を引退したのだからなぁ!そんな中今までと同じように、いや、今まで以上に食べていれば貯蔵されるのは自然の理。解かる…んぐっ!」
マウスキラーと呼ぶべき技だ。
アイアンクローの応用で一夏の口を左手で覆う様に塞ぐと力を入れる。
「……戯言は十分か?」
「んーんー!」
絶対零度を思わせるような冷たい視線を一夏に向ける。
その視線を見て女子達は一気に廻していた眼を覚まし逆に恐怖に震えた。
「どいて下さああああああい!」
空から山田先生の声がし、千冬は一夏の口から手を離すとその場を離れる。
「お~、いて~。手加減なしかよ。ちーたんめ!」
悪態をつきながら握られていた口を摩る一夏。
頬には千冬が力を入れたせいでジンジンしており、違和感が半端なかった。
そんな一夏の上空から女性の声が。
「ん?」
一夏のすぐ真上から落下物が一夏に急接近していた。
「おっと!」
反射的に落下物を片手でキャッチすると、その落下物は山田先生だった。
良く良く見ると一夏の手は山田先生の顔を掴んでおり、俗に言うアイアンクローをしている状態だった。
山田先生はだらんと脱力しており、一夏は事の重大さを理解した。
「あ、やべ!」
すぐに山田先生を上空に投げて、再び落下してくる山田先生を今度はお姫様抱っこでキャッチする。
「……大丈夫っすか?」
「うう、酷い目にあいましたぁっ!?」
眼を開けた山田先生の視界に移った物は上半身裸の一夏。
山田先生は、「あうあう」言いながら口をパクパク開いたり閉じたりしながら顔がだんだん赤く成っていく。そして、眼を回して頭から湯気を出しながら気絶した。
「と言うわけだ。織斑、さっさと着替えて来るなり、上に羽織って来るなりしろ!授業が始めれん!」
「はいはい。了解っすよ」
「それとだな、織斑。お前、ISスーツがどんな役割をしているか知っているか?」
「ん?貞操帯?」
「違うわ馬鹿!身につける事でその真下の皮膚及び神経伝達を読み取り、お前のIS操縦のデータサンプリングの役割をしているんだ!なのに、お前ときたら勝手に斬りおって!つまり、今のお前からは……」
「って、ことは今の俺から、股間のデータしか取れてないって事?」
「……ああ、そう言う事に成る」
「まあ、それはそれで、政府のお偉いさんが泣く羽目に成るだけだから、俺としては別に良いんだけどね」
「取り敢えず、上着を羽織ってこい。授業が出来ん!」
「………了解」
渋々と言った感じで一夏は山田先生を地面に寝かせると教室にある体操服を目指して歩くのだった。
その道中、何故かデュノアの顔が真っ赤に成っている事を尻目で見ながら向かうのだった。