拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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第16話

IS学園地下50メートル。そこはレベル4権限を持つ者しか入れない、隠された空間だった。

機能停止した(と言うよりも一夏にバラバラに解体された)ISはすぐさまそこに運び込まれ、解析が行われた。それから二時間、千冬は何度もアリーナでの戦闘映像を繰り返し見ている。

 

室内は薄暗くディスプレイに映し出された千冬の顔は酷く悩ましげな表情だった。

 

そして、ハアと溜息を吐きながら呟いた。

 

一夏(馬鹿)め、零落白夜を使わなかったか」

 

零落白夜――それは、一夏のISに搭載されているバリア無効化攻撃という切り札。自身のシールドエネルギーを攻撃に転化して相手のシールドエネルギーを直接削り大幅に削ぐ事が出来る文字通り、諸刃の剣。かつて、千冬も雪片を使っていた時にこの特殊能力を使用してモンド・グロッソで優勝し世界一の座に君臨したのもこの特殊能力による所が大きい。

 

一夏が専用機を支給されたのは男性操縦者のデータサンプリングと言う目的もあるが、この特殊能力を使われることも目的としており、厳密にいうなら一夏の専用機である白式の戦闘データ蓄積も主な目的であり、その中には零落白夜が使用される事も含まれている。

 

それらの事は一通り説明されているはずなのだが……

 

「…絶対に聞いていなかったな。あの馬鹿」

 

それもまた一夏の性格を考えるならばすぐに解かる事で、後日千冬のもとに一夏専属の政府役員が泣きついて来る事だろう。一夏が特殊能力を使ってくれないと言う理由で。

 

これから起こるであろう未来に頭を痛めていると

 

「織斑先生?」

 

ディスプレイに割り込みでウインドウが開く。ドアのカメラから送られてきた情報にはブック型端末を持った真耶が映っていた。

 

「どうぞ」

 

許可を貰ってドアが開くと、真耶はきびきびとした動作で入室した。

 

「あのISの解析結果が出ましたよ」

 

「ああ、どうだった?」

 

「はい。あれは――無人機です。しかもISと似て異なる物でした。コアもISのコアとは全く違う形でしたので」

 

世界は躍起に成ってISの開発を進めている。

人間でいう心臓部に位置するコアが篠ノ之束しか作れないので世界は表面上だが均衡を保っていると言っても過言ではない。

 

だが、それがISに似て異なる存在が現れ、しかも無人機。

その事実が世界に知れ渡ってしまえば戦争大好き某国は大量に買い求めるだろうし、余計な戦火を起こさせる要因になってしまう。

 

「どの様な方法で動いていたかは不明です。織斑君のおかげで機能中枢が破壊されており、修復は無理かと」

 

両手をぶった切ってからの止めの一撃が余計だった為、千冬はあの馬鹿め余計な事をしてくれて!とぼやきたく成るがそれでも、誰一人怪我人が出なかった事で良しとしようかと思った。

 

「そうか。だが、絶妙なタイミングだ」

 

「何がです?」

 

「無人のISモドキの出現に防衛システムの発動」

 

「さあ、それはやっぱりあの無人機の仕業じゃないんですか?」

 

「ああ。ご丁寧にギャラリーとステージで試合をしていた織斑と凰の二名を分断させるような形での防衛システムの発動であった」

 

IS学園の防衛は千冬に一任されている。

千冬が学園の防衛システムの責任者である。本来ならば、千冬の判断によって幾つかのパターンに分類している防衛システムを作動させる。

 

今回はその防衛システムがハッキングによって無人機や一夏、凰のステージとギャラリーを分断し為、ギャラリーが誰ひとりも傷つく事無く、無人機の撃墜、一夏と凰のバトルで一夏が勝利し、事件と勝負の決着がついたと同時にステージへと向かう電子扉が開き教師部隊が突入した。

 

無人機がハッキングしていたならその後に行われた一夏と凰の決着がつく前に教師部隊がステージに突入していただろうし、仮に無人機を作った人物が無人機の性能実験の為にハッキングを行ったと言うならば無人機が破壊された瞬間に諦めたであろう。

 

「仮に無人機の性能実験と織斑と凰の専用機のデータ採取だとするならば、解らなくもないが」

 

各国で造られている第三世代の専用機は唯一使用の特殊能力を搭載しているため、凰の衝撃砲と一夏の雪片弐型を見たくて無人機を破壊された後もハッキングしていたと仮定すると辻褄が合う。

だが、何処か引っかかるのだ。何か、大きな勘違いをしているように思えてならない。

 

「そうじゃないでしょうか?各国の第三世代の力は非公開の部分もありますので、ぶっちゃけ、そのまま戦力と成ります。普通、わざわざ自国の戦力を全部教えるはずがありませんし」

 

何処の国も自国が持つ戦力を全て公開するはずがない。何故ならば、もしもの時の切り札にもなり得るし、他国やテロリスト達へのけん制にもなり得るからだ。

全ての戦力と技術を公開しているとしたら、それは余程の戦力と人が解くに解けず真似する事の出来ない、理論すらも認識されず提唱されていない余程の高技術だろう。

 

「箝口令を敷く。この事件は他言無用だ」

 

「解ってます。それじゃあ、ステージに居た二人には私から伝えておきます」

 

「いや、私から直接伝えておく。その方があの二人には効果がある」

 

「…解りました」

 

シュンとするほど悲しそうな表情を表す山田先生。

 

「………そう言えば、私は今回の事件について学園長に報告をしなければいけない。すまないが、山田先生はアリーナのステージに居た当事者二人に伝えといてくれ。グダグダ言う様ならば私の名前を出せば織斑はどうかはわからんが、凰の方は言う事を聞くはずだ」

 

「解りました」

 

最後に♪が付きそうなくらいうれしそうに話す山田先生を見て千冬は更に悩みの種を発見した。

 

「それでは、な」

 

そう呟いて千冬は頭痛のする頭でその秘密の空間を出て行った。

 

「ハア、頭が痛い」

 

一夏、無人のISモドキの出現とそれによって引き起こされた今回の襲撃事件の報告書、山田先生。

千冬を悩ます種が多すぎて目まいすらしそうに成る程だ。

 

頭痛をしながら足取りは地上へと繋ぐ廊下を歩くのだった。


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