拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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第13話

 深夜、みんなが寝静まった時刻、一夏は学園のサーバーにハッキングして監視カメラに自分が映らない様に細工をした後、第三アリーナ付近に人が近づいたら知らせるように|MAKUBEX(マクベス)に命令した。そのせいでMAKUBEX(マクベス)に命令した学園のメインサーバーのコントロール主導権の変更速度が多少遅れる事は仕方ないと割り切り、第三アリーナでひっそりと修行をしていた。

 

 修行といっても簡単な修行である。ただ、単純に雪片弐型のみを部分展開して両手で持ち、素振りをするだけだ。

 

 だが、これが結構難しくキツイ。

 何しろ雪片弐型は総重量が80kg以上ある大剣なのだ。それをISの補助無しで扱える様にするために素振りをしているのだ。80kgを超えるその巨大な大剣を生身で扱えるように出来れば、パワードスーツであるISを装着した時に文字通り棒きれを振るかの様に雪片弐型を扱えるように成るだろうと考えての事である。

 

「198…199…に、200。クッ!キツイ」

 

 雪片弐型を握っているはずなのに200回目の素振りで握っている感触が無くなり、一夏は雪片弐型を地面に刺して雪片弐型から手を離す。

 両手はプルプルと痙攣を起こしており、やり過ぎだと肉体が悲鳴を上げている。

 

「あ~、くっそ!200回が限度かよ」

 

 悔しそうに呟く一夏だが、疲労困憊のせいで地面に大の字になりながら仰向けの状態で倒れる。

 

 痙攣を起こしている腕でポケットから携帯電話を取り出し、画面を見るとそこにはMAKUBEX(マクベス)に命じた学園のメインサーバーにハッキングしてコントロール主導権の変更の進行状況が映し出されていた。

 

「……18%か。まあ、仕方ねえか。俺がやってるわけじゃねえんだし、どうしても時間が掛かるか」

 

 一夏がMAKUBEX(マクベス)に命じて学園のメインサーバーにハッキングさせコントロール主導権の変更をさせているのには理由があった。

 一夏は今現在確認されている中で唯一男性でISが扱えるIS適正者だ。

 一夏のバックには日本政府がいるが、日本政府の中にも男性IS操縦者ということで一夏の存在を快く思わない者もいるだろう。そんな人達が目の上のたんこぶの様な存在の一夏を除去できるとしたら、それは……

 

「俺の暗殺……か」

 

 万が一である。

 万が一刺客が送られてきたら一夏は喜々として戦うだろう。返り討ちにした上で「無駄な努力をどうもご苦労さま(笑い)」と書いた手紙を襲ってきた刺客に持たせ依頼人の下に届けさせるように指示するだろう。指示に従うしかない状況にさせた上で…

 

 だが、刺客がもしIS学園の生徒を人質にとった場合、その場合が問題なのだ。

 

「……らしくねえな」

 

 自分らしくないと思う。

 赤の他人…とまで行くかどうかわからないが、見ず知らずのIS学園の生徒の為に動く事に。

 

 弱い奴が負ける。弱い奴は弱く、強い奴は強い。ただ、それだけだと思う。

 

 束を泣かせた白騎士事件の元凶の首と最強の称号()を手にする事が出来れば、世界の9割の人間が滅びようとも自分の知り合いでなければ構わないとすら思っているのに、学園の知らない奴のために動くなんてらしくない。赤の他人の為に動く程そこまで心が広いわけでも博愛主義者なわけでもない。だというのに、行動している自分がいる。

 不思議だとすら思う。

 

「まあ、ちーたんの仕事を減らすと思えば理由になっか。それと義妹になるかも知れない奴の身の保証と思えば良いや」

 

 そうして、自分の行動の理由を勝手に見つけ正当化させる。

 阿呆くさいとすら時々自分でも思う。

 いちいち理由を探って、付けて、行動を正当化させるその行いが馬鹿に見える。

 

「でも、何かしっくり来ねえんだよな~」

 

 行動理由を正当化させなければ気分が悪い。その辺、千冬からして見れば戦闘狂の一夏の唯一の救いだろう。

 

 

 腕の痙攣が収まったので再び立ち上がり、雪片弐型を持とうとした時一夏の携帯が光った。

 それは、誰か第三アリーナ付近にいる事を監視カメラで監視していたMAKUBEX(マクベス)が知らせる合図だった。

 

「ヤベッ!今日はここまでか」

 

 すぐさま部分展開させていた雪片弐型を戻す。

 そして、携帯の画面を見ると

 

「oh、ちーたん」

 

 巡回だろうか。第三アリーナ付近の道にバッチリと映る千冬の姿があった。

 野生の勘でもあるのだろうかと思うほど千冬の勘は鋭い。

 

 手元の携帯を頼りに千冬に出くわさないように移動する。

 

出会えばどうせ深夜に寮を抜け出したとかで組手の相手でもさせられるだろうが、普段ならば構わなくはないがぼっちの千冬の相手をできるが今は少し疲労がたまった状態。こんな状態で出会いたく無い。

 

「悪いな、ちーたん。あんたの相手はまた今度してやんよ」

 

 そう呟いてち冬のいる位置を監視カメラで確認しつつも出会わないルートを慎重に選び寮の自室へと戻るのだった。

 

 

 

 試合当日、第二アリーナ第一試合。組み合わせは一夏とセカンド 凰 鈴音だった。

 噂の新入生というのでアリーナの全席満員。席に座りきらずに廊下で立って見る生徒やアリーナには入れずに会場入りできなかった生徒や関係者は、リアルタイムでモニター鑑賞という有様となっていた。

 

 そんな中、一夏は控え室にいて携帯を見ていた。

 携帯の画面には進行状況100%と表示されており、詰まる所IS学園のメインサーバーを一夏が掌握し、学園を一夏がセキュリティーやら防衛機能を一夏がコントロールできる事実を表していた。

 

「一週間か」

 

 一週間。それが学園のメインサーバーを掌握するまでにかかった時間である。一夏自身だったら1日もしくは、2日で掌握していたであろうそれをAI MAKUBEX(マクベス)は一週間かかった。

 その理由として、やはり性能の違いもあるがMAKUBEX(マクベス)は本来一夏のアシスタントをメインとしている。故にAIではあるがサポートをメインとしている為、ハッキング・クラッキングを目的に作られたAIではないからだ。

 無論、ハッキング・クラッキングも出来るがやはり、ハッキング・クラッキングを目的に作られた訳ではないのでどうしても性能の差が出てしまう。

 

「まあ、しゃあねえか。俺が出来る状況じゃあ無かったんだし」

 

 そう呟いて眠っているエルフ型AI MAKUBEX(マクベス)に視線を落とすと内心、ご苦労様と呟くと携帯が鳴る。

 

 それは、一夏が設定していたアラームで戦闘が始まる5分前を現していた。

 

「……さて、行くか」

 

 全てを出し切る為、己の実力を証明するために今現在唯一の男性IS操縦者 戦闘狂の織斑一夏は戦闘会場へと向かう。

 

 獰猛な肉食獣の様な眼で嬉しそうに無意識に笑いながら。


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