「おー、痛てえ」
放課後、千冬との攻防戦で打撲による痛む体で一夏は今現在寮へ帰寮していた。結局、放課後に千冬に捕まって組手100本の相手を強制的にさせられた後、音読した日記を没収されたのだ。組手は千冬の仕返しで100%間違いないだろうが、日記を没収されたのが地味に痛かった。
「あ~、しかも反省文の課題もあんじゃん……逃げるか?」
原稿用紙20枚分の反省文を渡された事を思い出してすぐに逃げようと考えるが、逃げたからといって何処に隠れるかと訊かれれば家としか言えない。
その場合、どうせ千冬か日本政府の使者が来るに決まっている。日本政府の使者が来たらぶちのめしてお引き取り願ってもどうせ千冬が召喚されるに違いない。
「あれ?俺って、ちーたんに尻に敷かれてね?」
ふと思ったことだが、なんか的を得ている気がする。
戦闘力では一歩か二歩位劣るだろうし、ISでも操縦技術は千冬の方が上なのは確実だろう。千冬に優っているといえば
「家事、女子力、凶暴性ぐらいか?って、これじゃあ、凶暴性以外女子スペックじゃん!」
あんまり千冬より優っているところが思い浮かばずにもんもんとしながら寮への道のりを歩く。
そんな悶々としながら悩む一夏の後ろ姿を遠くから一人の少女が見ていた。
「……あれって、もしかして一夏?だとしたら約束は守ってもらわないとね!まだチャンスは二回残っているんだし、あんたを絶対頭に一発殴らせてもらうかんね!覚悟しといてよ一夏!」
ツインテールが特徴のその胸が慎ましい少女はそう言って踵を返して寮とは反対側のIS学園校舎に向かう。
★☆★
翌日、一夏のクラスである一組は一夏が登校すると妙に盛り上がっていた。
「ねえねえ、聞いた?二組のクラス代表が交代になったんだって」
「え、あれ?うちのクラスじゃないの?クラス長が織斑君からオルコットさんに変わるっ話じゃないの?」
「違うよ。なんでも中国から来た編入生がクラス代表の座をかけて争ったらしいのよ。それで、優勝してクラス代表になったらしいよ」
そんな話の中、一夏は特に興味なさげに自分の座席に座ると携帯をいじり始める。
倍率が1万倍のIS学園に入学が決まったからといっても一夏自身どうでもよく、せいぜい興味があるのがIS学園にいる強い強者達ぐらいで、特段興味があることなどぶっちゃけ何もない。周りは女子ばかりのハーレム学園だとか、小6の頃から一夏とつるんでいた一夏の右腕兼参謀的存在 鮮血の弾こと五反田 弾は、ほざくだろうが一夏にはもう好きな人が、心に決めた相手が居る。それに、娘のような存在もいる。だから、今更女子に興味なんて殆どといって良いほど興味がない。興味が沸く女子と言ったら強い女子だろう。
「ハア、睡眠時間減ったから寝ようかな……」
結局深夜まで反省文に追われる羽目になった一夏は絶賛睡眠不足中なのだ。
携帯をしまうと机に突っ伏し、いつでも睡眠に入れるようにする。
「アタックチャーンス」
「!」
突然の声。しかし、聞いたことのある声。
それに、「アタックチャンス」と言うセリフ。
忘れられない。いや、忘れることが出来ない。そう、何故なら
「喰らいなさい一夏!」
「セカンド!?」
それは、一夏の将来を左右する約束をしたセカンド幼馴染なのだから。
突然背後からの奇襲。
狙いは正確に一夏の後頭部。
一夏は勢いよく上半身を起こし、首を大きく左に傾ける。すると、一夏頭が先程まであった所に拳が背後から飛んできたのだ。
一夏はすぐさま椅子から立ち上がり襲撃者の顔を見る。
ツインテールの髪型に小柄な体格と慎ましい、と言うか胸板な胸。
襲撃者は襲撃が失敗したのが気に食わないのか「チッ」と舌打ちした。
「ハ!随分なご挨拶だなセカンド」
「フン!あんたが隙だらけで寝ているから襲撃したのに!」
「お生憎様寝てなかったんでな。それと、ラストワンだぜ」
「うっさい。解ってるわよ!」
「お前との約束未だに正解だったのかどうなのか判断しづらいぜ」
「フン。だったら、少しは手加減しなさいよ」
「手加減しても良いが、だとしたら俺はお前に全く興味がなくなんぜ?」
「前言撤回。やっぱり手加減しなくて良いわ。徹底的に叩きのめしてあんたを手に入れてあげる」
急な襲撃者を教室に居る女子達は( ゚д゚)ポカーンと見ていたが襲撃者の「徹底的に叩きのめしてあんたを手に入れてあげる」という発言に「!?工エエェ(゚〇゚ ;)ェエエ工!?」と驚きの声が沸き起こる。
そんな中一夏に駆け寄る人物がいた。
「一夏!ど、どういう事だ!?」
「説明を求めますわ!」
箒とセシリアだ。
なぜか二人共すごい剣幕で一夏に詰め寄るが、当の一夏は面倒臭そうに箒を指さした。
「箒がファースト幼馴染。んで、こいつが凰 鈴音。お前が小5の時に転校していったときに入れ違いで小6で転校してきたセカンド幼馴染。通称セカンドって呼んでる」
一夏が説明し終わるとセカンドは、爆弾発言を投下した。
「まあ、将来を約束し合ったふたりだもんね~」
「「ハア!?」」
「どういう事だ一夏!」「説明を要求しますわ」と箒とセシリアがギャンギャン喚くので一夏は溜息を吐いてダルそうに説明を始めた。
「別に将来を確実に約束したわけじゃないぞ。こいつがなんか、中一の頃から好きだとか、結婚しなさいよ!とかほざきやがってのらりくらりと躱してたんだが、毎日言うんでな。流石にうんざりして三回チャンスをやる。その内、俺の頭に一撃ブチ込めたら結婚してやるって言っちまったんだよ。まあ、そん時にさっきみたいに「アタックチャンス」って発言して攻撃して俺が攻撃をモロに食らったら結婚するっていう約束なんだが、今も昔もこいつの事はぶっちゃけ妹分みたいな感じだから異性として意識するつーのがむずいんだが……」
「あ、ちょっと、あんた!酷いわね!久しぶりに幼馴染に会えたんだから少しは嬉しそうにしなさいよ!!」
「セカンド。背は大きく……なってなさそうだな」
「ま、毎日牛乳飲んでるんだもん!いつか伸びるわよ!いつか!!」
若干涙目のセカンド。その後ろには鬼教官が立っていた。
「ほう!見ない間に予鈴を無視するほど偉くなったようだな凰」
脂汗をだらだらと流しながら背後に視線を向ける。
周囲に視線を向けるといつの間にか周囲にいた生徒たちは着席をしており、箒とセシリアも席についていた。
「ち、ち、ち、千冬さん!?」
パーンと気持ちのいい出席簿アタックの音が一組に鳴り響く。
凰 鈴音は、痛そうに頭を抱えてその場にうずくまった。
「織斑先生だ。馬鹿者めが。さっさと教室に戻れ。授業が始まっているぞ」
「はい」と千冬に向かって返事をしたあとキッと一夏を睨みつける。
「話があるんだから昼休み開けときなさいよ!」
一夏はそれを聴くとハアと溜息を吐きやれやれといった表情で肩をすくめるのだった。
束さんがこの約束を知れば……一夏、刺されそうな気がします。