ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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こんにちは。今回でいよいよ、戦闘が始まります。さて、彼は一体誰なんでしょう?ではどうぞ!


錬金術師の帰還 VI

ただ待った。

 

こちらに近づいてくる気配に察知したわけでもなく、ただ、その時、その瞬間を闇の中から息を殺して待ち続けた。

それこそが自らの使命ゆえに、運命ゆえに…

 

そして、その瞬間は訪れた。闇の中を歩き、一歩一歩、自らのマスターへと近づいていく足音。それを聞いた瞬間、自身の鷹の双眸を細める。足音から察するに、身長は140〜150cm程度の体重50kg単位の人間だろう。ほんの少年か少女ほどの身長。だが、その事実を受け止めたとて、剣を握っている手は緩めなかった。むしろ、より一層その剣を握る手が自然と強くなった。

なぜなら感じたからだ。自分が持つ英霊特有の霊基の気配を。その英霊は足を潜めながら、ゆっくりと夏音に近づく。極度の緊張感。もしも常人ならば、その隙を狙うための一瞬を見やるために、とっくに息を切らしていただろう。だが、そんなヘマはしない。その英霊が最も隙を晒す瞬間を上空から獲物を狙う鷹のように待ち続けた。

そして、その英霊が立ち止まる。手を貫手にし、一気にその柔らかい布と毛布に包まれた胸に突き入れようとする。

爆発した。自分の中にここまで熱い感情が残っていたのかと自分でも戸惑うほどに、殺意がとめどなく溢れ、殺気が部屋の中を充満する。

それは暗殺を行う際ならば、致命的なまでの失敗。殺気に気づかれ、当然のごとく避けられる。その失敗に対し、苦虫を噛み潰した表情をしていることは鏡を見ずとも分かった。ヘマをした。先程はあれほど暗殺に自信があったというのに…だが、心はその事実に対して、どこか安心しているような心地よさを抱いていた。そして、自分の剣を避けたサーヴァントに目を向ける。

 

ウェーブを描く白髪に大きな切れ目、年齢はまだほんの少年ほどだろうことを伺わせる丸みを帯びた頰にそれにつられるように描かれた形の良い程よく尖った顎。世間的に見て、美少年と言われても文句は言えない顔つきだった。そんな美少年は白いYシャツと黒いベストを上につけそのベストにスカーフを納めるようにして首に巻き、パンツはチェック柄のハーフパンツとストッキングを着用し、先程貫手のために細めた手はよく見れば、手袋が取り付けられている。

言葉にするとおかしいが、『少年紳士』という言葉が似合うようなそのサーヴァントに向かって言葉をかける。

 

「こんばんは。お初にお目にかかる。名も知らぬサーヴァントよ。知っているとは思うが、俺はサーヴァントアーチャーだ。

 

戦う前に一つ忠告させてもらうが、慣れないことはするものではないな。君は間違ってもアサシンではあるまい?」

 

適当に、だが確かな確信も覗かせながら言葉を告げる。それに対して、向かい合うサーヴァントは

 

「こんばんは。そして、その言葉、そっくりそのまま返してあげるよ。アーチャー。」

 

と、噛みつかんばかりの表情で言い返してきた。

 

ーーーーーー

 

「はぁ、可能性としてなくはないとは思っていたけれど、やはり(・・・)この少女が君のマスターだったわけか。アーチャー。」

「やはり、か。その言葉を聞く限り、俺を一度は見たことがあるのか?それとも、以前セイバーに協力していたサーヴァントというのは君ということで正解なのかな?」

「…さあ?どうだろうね。」

 

アーチャーのその質問に対して、警戒を強めながら惚ける。このアーチャーの前で迂闊には言葉を発してはいけないと直感したからだ。

一刻も早く、この場を撤退しなければならない。戦って勝てないこともないが、それはこの場一体を更地にすることを条件とするので、却下だ。

 

(とはいえ、こうして見つかってしまった以上、ただでは帰してはくれないだろうな。しょうがない。)

 

心の中で諦観と同時に腹をくくる。そして、

 

音もなく、アーチャーの目前にまで迫った。

 

「っ!?」

 

瞠目するアーチャー。だが、驚きと同時に反射的に自分の手に持った双剣のうち干将を上へと振り上げる。

その一撃には構いもせずに、拳を突き込む仮称『少年サーヴァント』の行動に瞠目する。

 

(なっ!?腕が飛ばされるぞ。この男、そんなことまるで気にしないかのように…)

 

一瞬、その腕の振り上げを緩めてしまう。通常ではありえない少年サーヴァントの選択に対する驚愕がアーチャーの腕を緩めてしまう原因の一つとなってしまったのだ。

だが、驚愕はそこでは終わらない。突き込まれた拳は音速を超えているとはいえ、その一撃はサーヴァントたちの一撃としては決して早すぎる一撃などではなかった。そう。その一撃こそが罠なのだとは梅雨知らずに…

 

瞬間、その拳は

 

加速した。

 

目では追えたものの、その明らかに常軌を逸した加速度に驚愕する。そして、拳はアーチャーの剣がその腕にたどり着くより先に、アーチャーのプレートアーマーを正確に狙い撃ち、鳩尾を貫く。

 

(っ!?重っ!)

 

その重く速い一撃に自分の足が宙に浮くのを感じた。宙に浮くと同時にまるで後ろから引っ張られるかのように体が吹っ飛び、壁へと叩きつけられる。

 

「がはっ!?」

 

瓦礫とともに崩れていく体。それを確認した少年サーヴァントはゆっくりと構えを解き、改めて後ろの少女が横になっているベッドへと振り向く。

 

「さて、じゃあ、仕事を完了させよう。悪く思うなとは言わない。悪く思うにせよ、思わないにせよ、君を殺すという結果に変わりはない。それに対して、まだ何か要求するというのは贅沢というものだ。」

 

そして、歩を進めようとした足を止める。

 

「驚いたな。仕留めきれてはいないと思ったけれど少なくとも霊核を確実に狙った一撃だと思ったんだけど」

 

改めて振り向く。そこには剣を握り締めながら、口元の血をぬぐい、相貌を眇めてこちらを見てくるアーチャーの姿があった。

アーチャーは思う。

 

(ちっ、油断…ではないな。5年以上も学生として生活していたことがここで仇になったか。やれやれ、初めてライダーに遭遇したとき、すでに己の甘さは払拭できたと思っていたが、どうやらそうではないらしい)

 

5年も学生として生活していれば、当然、その分、子供達との距離は近くなる。目の前の少年がサーヴァントであり、生前は妙齢をいっていたかもしれないことを考慮に加えても、どうしても少年であるということが自分の中で引っかかった。それも先程の行動の緩みの原因の一つだ。

 

「だが、不幸中の幸い…か。」

「?」

「今のでようやく真の意味で思い出したようだ。

 

自分が戦士だということを」

 

言い終えると同時に、アーチャーの体が横にブレる。

 

(!?しまった。見失った!)

 

急いで周囲を確認する。だが、アーチャーの姿を確認できなかった少年サーヴァントはどこが一番狙われるかを予測する(・・・・)

その結果から最も狙われるであろう首を守るように腕を振り上げる。ギャリン、と鈍い音が響き渡る。それは少なくとも腕と剣が衝突したときに起こるような音では決してなかった。

そう。まるで金属同士がぶつかり合ったような…

少年サーヴァントの後方わずかに距離を取った位置に立つアーチャーは己の剣の刃元を見ながら、キャスターの方へと振り向く。

 

「やはり、先程の攻撃の重さはあの速さだけから来るものではなかったか。その腕、金属か?となると錬金術…錬金術と強化の魔術を組み合わせることによって、凄まじい強度を生み出しているというところか。でなければ、俺の剣がお前の腕を断ってるはずだしな。」

「随分と、自分の剣に自信があるようだね。」

「まあ、人並みに…な。」

 

再びアーチャーの姿がブレる。猛烈な冷や汗を感じた少年サーヴァントはその部屋からの脱出を図る。狙うは外へと繋がる窓。そこから逃げれば、逃亡と戦闘、どちらの手段も広がってくる。

 

最も、アーチャーがそれを許すほどの隙を作ってくれたならばの話だが…

 

恐怖が冷や汗とともに最大になった瞬間、感じた。自分の死の予感を

 

「っ!?」

 

拳を地面に叩きつける。瓦礫が宙を舞い、壁が形成される。

そこからさらに繋ぐ。瓦礫を鋼鉄に変え、腰につけられたベルトがわりのポーチから試験管を一つ取り出し、その中の液体を瞬時にかける。すると鋼鉄はところどころが溶け出し、くっつき出す。そのくっついた金属を今度は強化の魔術で硬度を高める。この間、実に0.08秒。即席の防護壁が出来上がった。

 

鈍い音が…今度は響き渡らなかった。何故か?今度は、その即席の防護壁を間断なくアーチャーが切り裂いたからだ。

 

「ぐっ!」

 

防護壁を両断され、迫ってくる双剣をかろうじて認識できた少年サーヴァントはその双剣の前に両腕の肘と手をつけながら、防御する。腕に刃が食い込むのを感じながら、少年サーヴァントは吹き飛ばされる。だが、それが少年サーヴァントの狙いだ。

少年サーヴァントは自らの後方にある窓に向かって、逃げるためにそのアーチャーの衝撃を使ったのだ。

 

「ちっ!」

 

アーチャーも遅れて気づいたが、遅い。元々、無駄な衝撃を与えることなく切り裂こうと考えていたのにも関わらず、防御され、結果無駄な衝撃が生み出されてしまったことも災いし、まんまと少年サーヴァントに行動を誘導される。窓は破れ、少年サーヴァントは、ビルの屋上から外へと投げ出されていく。

追撃を加えるために走るアーチャー。迷うことなく屋上から飛び出る。予想していた気持ちの悪い浮遊感を防ぐために、足元にナイフを投影し、空間を一部凍結しながらの投影により、空を立つ。一方、敵の少年サーヴァントは向かい側のビルの屋上からこちらを見下ろしている。

 

「……。」

「……。」

 

互いに無言。何も口にすることなく睨めつけ合う。

 

少しの沈黙の後、お互いが同時に動く。アーチャーは弓に矢を番え、少年サーヴァントはアーチャーに向かって手をかざす。

 

「水よ。」

 

詠唱すると、水流が手から飛び出す。コンクリートを両断するまでに圧縮された水流が鉄砲さながらに飛んでくる。それに対し、アーチャーは水流の向こうにいる少年サーヴァントに狙いを誤ることなく、矢を引き絞り、射ち放つ。衝突した水流をまるで意に介さず、矢はまっすぐに少年サーヴァントの元まで行く。それを予見していた少年サーヴァントは焦らずに右へと駆け、その攻撃を避ける。

 

「っ!?」

 

だが、即座に立ち止まる。目の前にまで高速移動をしたアーチャーは干将を少年に向けて振り上げてきたためだ。それに対し、はたくように手を振る少年サーヴァント。その手の動きに合わせるように横から突如出現した土の壁が蠅たたきのように迫ってくる。

 

「ふっ!」

 

その地面を、剣を使わずに足でけり砕く。そして、地面をけり砕いた足をそのままに鎌で刈るように首めがけて振る。鈍い音が響き渡る。だが、それは、少年サーヴァントの首が折れる音ではなく、少年サーヴァントが鋼鉄に変化させた腕でアーチャーの蹴りを防いだ音だった。

 

「ぐっ!」

 

防いだはずだというのに、腕からくる衝撃が頭にまで渡り、言葉そのままに頭を苛んでくる。その一撃から理解できる自分と目の前の男のステータスの違いに歯を軋ませ、口の中に苦いものを感じるが、そこで動きは止めずに拳を突き出す。

 

「ふん!」

 

アーチャーはその拳をもう片方の足の膝で受け止めると体を空中で回転させ、少年サーヴァントと同じビルの上に立つ。

 

(妙なやつだな…。)

 

ひざを折り、猛獣のような態勢を維持しながら、目の前のサーヴァントに対し、アーチャーはそう評価を下す。

 

(今までの俺の移動と攻撃、ヤツの攻撃と同程度のスピードだったはずだ。だというのに、ヤツは俺の姿を確認できていないときと確認できているときがある。まったく同じはずなのに(・・・・・・・・・・・)…)

 

自分の動きが確認できるというのなら、最初から圧倒的に自分の戦闘を優位に進められるはずなのに、あの男は途中、演技などではなく、本当に慌てていた。

こう言っては何だが、非常にヘンテコな戦闘の流れだ。

 

(魔術による身体の強化…いや、それだけでどうにかなっているならば、先ほどの蹴りだって、そこまで苦ではなかったはず…)

 

先ほどの戦闘における相手の顔色を含めて現状を考察する。つまり、魔術以外の何かが働き、目の前のサーヴァントを補佐している。ということは…

 

(宝具か。スキルか…)

 

おそらく、最初の不意打ちでは使っていたが、その後、能力の詳細はつかませないために、封印した。だが、その一連の戦闘の流れで俺には宝具なしでは到底太刀打ちできないと判断したために、続く戦闘では使うように決心したのだろう。だから、こんなヘンテコな戦闘の流れになってしまったのだとアーチャーは当たりをつけた。だが、実はそんな複雑なものではなかった。理由は、もっとシンプル。

少年サーヴァントの頭の中は『その理由」で非常に騒がしいこととなっていた。

 

(いやぁ、失敗したなぁ。やっぱりどう考えても、さっき能力を封印したのは悪手だったよね。そう思うんだけれど、どうかな?)

(どうかな?じゃないでしょ!!私だけの所為ではなく、あなただって、最初の不意打ちで『少なくとも立てないくらいのダメージを負っている。』と言ってたわ。そう聞いたから、私はこれ以上魔力を無駄にしないためにも、いったん宝具を解除するように命令したのではなくて?)

(あはは、ま、そうだね。確かに、彼の耐久から考えるにあの一撃ならばしばらく動けないと思ったんだけどね。英雄の底力ってやつかな?)

 

要するに、単純に魔力消費のことを考えての行動だったのだ。まあ、その中には、確かに能力の詳細をつかませないという狙いも少なからずあったが、大元がそれではなんとも格好のつかない話だ。

 

(それにしても、まさか、アーチャーと当たるとはね。こんなことだったら、『あの錬金術師』の信用なんて無視して、とっとと行方をくらませるべきだったかしら)

(そういうわけにはいかないでしょ。それに『ここに僕がいる』っていうのはある意味、後のことを考えれば、かなりいい状況に誘導できるかもしれない。)

(…それは、あなたの目の前にいる男の裏を完全に欠いてこそできることじゃなくて?)

 

先ほどの不意打ちも力づくとは言え、破られたお前にそんなことができるのか。と聞く自分のマスターに対し、不適に笑みを浮かべながら、少年サーヴァントは宣言するのだった。

 

(任せてよ。この世界にて最も強大な力の『流れ』を解き明かした存在(モノ)。それが僕だ。この程度の『不確定な流れ』、容易く変えて、君に証明して見せよう。

 

あらゆる自然、概念、思想の『流れ』は僕の手の内に存在するのだと)

 

有無を言わさず、傲慢にも王のように大いなる自然に相対するように宣言する。その一言を聞き、瞠目するが、すぐに口元に笑みを浮かべ、マスターは命令する。

 

(いいわ。信じましょう。あなたの力、ここで見せて)

 

その言葉を聞き終わると、少年サーヴァントはニイッと三日月状に唇を歪める。そして、まるで、場を引き締める日本で言うところの一本締めをするようにパンと掌と掌を合わせる。

その様子を観察していたアーチャーは目を細め、静かに相手の動きを観察する。

だが、その観察の目は即座に瞑られ、アーチャーはその場からの撤退のために思い切り屋上から跳躍する。その瞬間、アーチャーが踏みしめていた大地は変形し、巨大な歯が出現する。人間と同じような、相対する歯の刃が平行な形を保ったその歯はガブリとアーチャーがいた大地を噛み付く。

 

「!なに?」

 

それを躱して終わりではない。歯が展開されている前方に目を奪われている隙に後ろから自分に影が指す。その正体はシルエットを見て、すぐに察しがついた。

 

「!?腕、だと!?」

 

それは巨人の腕だ。掌だけで自分の体を優に包み込めるその腕が自分の方へと迫ってくる。迫り来る腕をアーチャー双剣により断つ。それにより腕の素材が何なのか理解した。

 

「やはり、ビルと同じコンクリートか。」

 

そこから、少年サーヴァントの能力をさらに解析しようと考えたが、彼がそんな思考をする隙さえ、少年サーヴァントは与えなかった。

断たれ、自分の舞い散る瓦礫それらは突如として、黒く変色する。変色したそれらの正体を解析眼は即座に理解する。

 

「磁石か!」

 

グッと少年サーヴァントが拳を握ると同時に、瓦礫だった磁石がアーチャーの元へ吸い寄せられる。それに対し、剣群を周囲に投影し展開することで粉々に砕く。

磁石たちを砂つぶほどに砕いた後、今度はその剣群を少年サーヴァントに放つ。

 

「そう来ると思ったよ!」

 

一つが一つが宝具であるそれらに対して、少年サーヴァントは慌てもせずに片手を宙に掲げる。すると瓦礫で作られた巨人の胴体が彼の体に覆い被さることで攻撃を防いだ。

 

その様子を見たアーチャーは内心、ひどく混乱していた。

 

(何だ?こいつの能力は?)

 

加速に、巨人、果てはコンクリートの磁石化まで…

三つ目はまだ錬金術のこともあるので理解ができるが、この男の能力、あまりにも一貫性がない。自分は千を超える種類の宝具を無限に投影することができるが、それにだって、自分が武器の本質を理解することにより、それらの武器を投影することができるという条件が一貫して存在する。だが、この男の能力にはそういった一貫したルールが見受けられない。

 

(俺が知る錬金術では、『万物の流転』こそが錬金術の奥義であり、基本。それを考えれば、万物に精通するというのはあながち間違いではないのかもしれない。だが…)

 

いくらなんでも万能が過ぎる。あれでは万物どころか万象にさえ干渉している。そのおかげで、通常ならば力を出せば出すほど、絞れるはずの真名が絞れずにいた。

自分を混乱させるこの万能は、何かトリックがなければ決してなし得ない。最もあったところで一つだけ確信していることがある。それは

 

(この男の英雄としての知名度とクラス。知名度についてはもはや、『知らない方が非常識』とされるレベルの英霊でなければおかしい。)

 

この男がどのようなトリックで万象に干渉しているのかは未だ分からない。だが、彼の服装、雰囲気からして、神代の英雄というのは考えにくかった。神代の英雄でないにも関わらず、万象に干渉し得るほどの能力を行使する。これほどの能力を神代でないにも関わらず扱えるということは、この男の偉業はそれほどまでに凄烈で、偉大だということだ。であれば、万人が知らなければおかしい。

 

(今のところ分かっている範囲だと、錬金術のみだ。それ以外は分からん。)

 

だが、それで十分。ここから更に情報を取り出していけばいい。

 

(そして、『クラス』…これは最早、確認するまでもないが、)

「君のクラスはキャスターだろう?」

 

唐突に尋ねる。

この言葉には、根拠がある。まず、最初、この男は暗殺者(アサシン)としては、あまりにもズボラだった。よってアサシンではない。では、召喚されていない残りのクラスのバーサーカーなのかというと、それも違う。会話からして狂気何も感じない。完全な理性によって会話が成り立っているためだ。

となると、残りはどうあってもすでに召喚が確認されているライダー、キャスター、セイバー、ランサー、アーチャーだ。

まず、三騎士は除外しても構わないだろう。となると、最後はライダーかキャスターになるわけだが、あれだけの魔術を使いこなせる上に、乗り物に騎乗している姿も見受けられない。となると、キャスターである確率が非常に高い。まあ、先程からチラチラと教会由来の拳法を当たり前のように使いこなして、接近戦をこなしているように見えるが、そのことを差し引いても、キャスターである確率が非常に高いと踏んだのだ。

 

そんなアーチャーの言葉に対し、少年サーヴァント迷うそぶりも、惚けるそぶりも見せずに

 

「ああ、そうだよ。」

 

と不気味なほど自然な微笑みを浮かべながら答えた。

 

(即答か。ちっ!)

 

勘繰りすぎてしまうのは自分の悪い癖なのかもしれないが、目の前のキャスターの対応に舌を打つ。

幾分か迷ってくれればよかったものの、即答するということは、大したダメージのない情報だったか、ダメージがあってもあちらが上手く隠しているということだ。自分の自慢の鷹の目でも判別できないところを見ると、嘘じゃないように感じられるが、確実な保証はない。

 

「僕からも、一つ聞いていいかな?」

「何だ?」

「何で、君はマスターを変えないんだい?アーチャー。」

 

その発言に目を鋭くする。

 

「どういう意味だ?」

「言葉そのままの意味さ。君の真名は衛宮士郎なんだろう?君のマスター、少し見たが、才能は惜しいほどのものを感じるが、所詮は一般人。とても、我らの争いに耐えられるような人間じゃないはずだ。」

「それで?」

「君にとってはあの子を巻き込まないことこそが最優先なのだろう?こうやって戦闘をしていれば、すぐに分かる。

 

なら、当然マスターを変えることこそが、君にとって最も優先すべきことなんじゃないかな?」

「確かに、そうも考えられる。」

 

今度は、アーチャーの方が惚ける素振りもなく、返答する。

その迷いのない返答振りに流石のキャスターも面を食らう。

 

「随分、即座に答えてくるんだね。」

「実際、俺も考えていたことだ。お前の発言はある意味で正しい。俺がこの場にいることで、彼女の身を君から守れていることを考えても、そんなものは礼装か何かで代用すれば事足りる。そうだ。確かに、君のいう通り、俺がこの場にいない方がいいとも考えられだろう。だが…」

 

そこで一呼吸置き、静かに男は宣言する。

 

「それで99.9%の安全が作り出されたとしても、0.1%の危険が、不安が存在する。ならば、俺はあの子の側にあり続ける。たとえ、その結果、彼女から99.9%の安全を取り除く結果になろうとも、俺が確実に彼女を守りきる。」

 

それは、かつての英雄として衛宮士郎であれば、選択し得ないものだった。

たった一人の個人のためだけに与える奉仕、施し、それが今のこの男全てだと、その昔、世界を救うためとはいえ、多くの人間を見殺してきてしまった男は宣言したのだ。

その言葉は…

 

「人間だなぁ…」

 

呟いたその言葉に反応し、眇めた目で相手の顔を見る。

その顔はなんとも表現し難いものだった。

 

憎たらしいほど(・・・・・・・)目を背けたくなるほど(・・・・・・・・・・)、人間だな。お前は…」

「……」

 

憎むような、尊ぶような相反する二つの感情を目に携え、キャスターは呟いた。

 

「英雄のくせに、人間なんだな。お前。いやぁ、どうしたんだろう?()。どうにも、

 

ムカつくなぁ。」

 

その言葉を皮切りに一気に膨れ上がる殺気。

そして、キャスターはその殺気を呪いのように纏いながら、呟く。

 

「決めたよ。」

「何を…っ!?」

 

言葉を紡ぐ前に自分が見えない何かに突き飛ばされるのを感じた。

足が宙に浮き、そのまま体が夏音のいた高級マンションの異なる一室へと体が吹き飛ばされる。

 

「ぐあっ!!」

 

意味不明な衝撃に頭を混乱させながらも、アーチャーは目の前のキャスターから決して目を逸らさなかった。

キャスターはこちらをまるで、仇敵を見るかのような目で見ていた。

 

「お前は、()の敵だ。アーチャー。」




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