ストライク・ザ・ブラッド 錬鉄の英雄譚   作:ヘルム

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長かった観測者たちの宴編。正直、これだけの長さになるとは自分も予想外でした。では、どうぞ。


観測者たちの宴 XIIX

戦いが思わぬ形で終わってしまい、島民たちにはアレから映像の中の方はどうなってしまったのか、という不満が高まっていた。絃神島の管理者たちは流石にアレをただの実験だと済ませるわけにもいかず、対策案を練りつつ、とりあえず島の元々あったイベントを執り行って少しでも住民の気を紛らわせようと考えた。無論、そのようなことをしたところで焼け石に水だと理解はしているのだが、今は何も対策が思い浮かばない以上、仕方がないとの判断だった。

よって、すでに夜の闇が深まってきた深夜であるにもかかわらず、当初の予定通りフィナーレの花火が闇を照らしている真っ最中だった。

 

花火が次々とその夜空に大輪の花を咲かせている時、ソレに見向きもせずにただ先ほどまで戦いが流れ、現在は別の映像が流れている映像機器を眺めている少女がいた。叶瀬夏音。彼女は知らぬことだが、彼女は先ほどまで映像に流れていたアーチャーのマスターである。

 

「………」

 

静かに見つめるその瞳はわずかに揺らいでいた。ソレが迷いなのか、それとも恐れなのか、それは自分自身にも分からなかった。だが、なんで、そんな感情が自分の中に沸き起こるのかは分かった。それは戦っていたもう一方のアーチャーと呼ばれていた男に原因がある。

 

(…似て…いました……)

 

自分がある時から兄と慕っていたある男によく似ている。それが理由となっていることは分かった。そう。まるで、彼本人(・・・)だと見紛うほどに…だが、そのギリギリの部分で彼女自身が違うだろうと頭の中で否定してしまう。何故か?彼女が見たのは自分が兄と慕っている男よりも大人びた口調と声色を持っていたことも理由に挙げられるが、何よりも彼女自身が信じたくなかったのだ。自分が兄と慕っていた男があのような危険な場で自分に何も言わずにとんでもない戦いを繰り広げていたことが…もし、彼が本当にそう(・・)だとするならば、どうしようもない寂寥感が自分の中にひしめいてしまう。

頭の中はそんなことで埋め尽くされていた中、不意に後ろから袖を引かれた。見ると、その袖を引いた主はアスタルテというホムンクルスだった。

 

「ミス・叶瀬。少し、人混みに動きが出てきました。そろそろ帰りましょう。」

「は、はい。そう…でした。」

 

心ここにあらずといった様子で返事を返した夏音は、少し迷ったものの、やがて考え事は今の自分の家ですればいいと考え、歩き出したのだった。

 

ーーーーーーー

 

人の気配のないビル群の屋上、そこには二人の学生服姿の少年と少女がいた。少年・矢瀬 基樹はビル屋根の端に座り込み、少女閑 古詠はその隣で静かに立っていた。

 

「……。」

「……。」

 

その場を覆うのは只管に沈黙のみだった。誰も黙れとも言わず、また喋れともいっていない。ただ、呆気に取られていたのだ。先ほど流れていた映像に映された事実の数々に…

彼ら二人はともにある組織において重要な立ち位置にある。矢瀬は絃神島公社の長の息子。閑は獅子王機関の三聖という獅子王機関の中でもトップ3の立場にあるものだ。それ故に、今、この場で起こったことに対しての報告は彼らにとって何よりも重要なものとなっているのだ。

しばらく動けずにいた両者だったが、やがて閑の方はゆっくりと方向を変えて、歩き出そうとする。

 

「なあ、緋稲さん(・・・・)、これから一体どうする気だ?」

 

矢瀬は顔をその少女のほうには向けずに質問する。迂闊にも少女の名を彼が呼んでしまったのは、彼がそれだけ衝撃を受けたことの証左でもある。

少女もまた振り向いた顔を戻しもせずに質問に答える。

 

「…とりあえず、私は獅子王機関に戻ります。おそらく、本部は今混乱状態に陥っているでしょうから」

 

そして、名前について窘めもせずに質問に返していることから、彼女もそれだけ動転しているのだろうと矢瀬は感覚的に理解した。

 

「…まあ、そうとしか言いようがねえよな。こればっかりは…」

「ええ。では…」

 

と返事したことに対して、矢瀬は振り向く。すると、もう、そこには先ほどまでいたはずの少女の姿はなく、ただ、寂しく風の音が流れるのが聞こえるだけだった。

 

「懸命に隠そうとしてたけど、ありゃ、相当動揺してたな…」

 

確認するまでもないことではあったが、矢瀬は少女の様子に対してそのように感想を漏らした。

 

「さて、俺もそろそろ戻った方がいいかね!」

 

そう呟くと同時に彼はトボトボと屋上入り口へと歩き、その場を後にするのだった。

 

ーーーーーーー

 

一方こちらはまた別のビルの屋上だった。屋上には古城たち一行が一人の男を待っていた。そんな彼らの姿を確認したその待ち人は彼らの背後へと上空から静かに着地した。

 

「こんばんは。アーチャー。」

 

彼の気配に気づき、声をかけるライダー。キャスターとランサーはわずかにこちらに視線を向けるだけで完全に振り向きはせず、古城たちはライダーの言葉でようやくその存在を認識し、振り返る。

少しの間、沈黙が空間を覆ったが、やがて意を決したように古城が話しかける。

 

「えーと…」

「一つ言っておくが、俺を呼ぶときはアーチャーか今まで通りシェロと呼ぶように…まあ、もはや、俺には何の意味もないのだろうが、流石に自分の真名を他人に言い続けられるというのはどうにも据わりが悪い。

それはそれで変な感覚ではあるのだが…」

「それじゃあ、えっと、シェロ。その…」

 

と言ったまま古城は黙り込んでしまった。すでに深夜だが、そんな夜空を明るく照らす打ち上げ花火その爆発音が余計にこの沈黙を煽ってしまい、話しづらい空間が続いてしまった。

何か言いたかったのは事実だが、それが何なのかまでは自分の中ではっきりできなかった。そんな彼の心情を見抜いたシェロ(・・・)はわずかに視線を意地悪く細めた上で言葉をかける。

 

「なんだ?告白しかけの恋愛少女というわけでもあるまい。言いたいことがあるなら、はっきりいうといい。」

「な、何ですか!?その差別にも取られかねない発言は!?」

 

あまりにもあんまりなシェロの言い草に雪菜が反応する。それに対し、シェロは半目で見返し、言い返す。

 

「いや、何。すでに何度か見てはいなくても、容易に想像できる光景だったのでな。間違っているというのならば謝るが?」

「な、なんでそこで僕たちを見回すのかな!?」

 

今度は雪菜、優麻、紗矢華を順々に見た彼の態度に対して、優麻が反応する。

 

「ふむ、違うのか?」

「違うわよ!!」

 

今度は紗矢華が声を荒げて反応する。

そんな彼女たちの様子を涼やかに受け流した後、シェロは改めて古城に質問する。

 

「それで?一体君は何が言いたかったのかな?」

「よくそんなスルーできるな…はぁ…まあ、なんか言いたいことはたくさんあった気がするけどいまはこれだけでいいや。なぁシェロ。これからどうするんだ?」

 

古城の質問に対して、わずかに目を細めたシェロは少し考え込んで答える。

 

「そうだな。こうなってしまった以上、今までよりもさらに警戒を強めなければならないだろう。まあ、あちらがまた大きく動くとしたら、ここから相当時間を置かなければ不可能だと思うしな。焦る必要はない。」

「いや、そうじゃなくて、その…」

 

古城がやけに自分の顔を見上げるような仕草を強調したことから、アーチャーも何が言いたいのか察せられた。

 

「ああ、なるほど。君が聞きたいのはその体で(・・・・)これからの学校をどうするのかということか?」

「あ、ああ。」

 

そう答えた古城を見て、わずかにシェロは苦笑する。そんなシェロの反応を見て、古城は訝しんだ。それに気づいたシェロはフォローするように言葉を付け加える。

 

「いや、失礼した。何、俺たちサーヴァントのマスターというのはたいていの場合、そのようなことで我々の心配などしないのでな。少しばかり新鮮だったから笑ってしまっただけだ。君が気にすることではない。それで問題のこの体格についてだが…」

 

アーチャーは言いながら、自分の手を確認するように見つめる。しばらく見つめた後、何かに納得したように頷き、古城の方へと向き直る。

 

「まあ、大丈夫だろう。時間はかかるだろうが、俺の場合は他のサーヴァント達と違って最近に召喚されたわけではなく、5年前に召喚されているからな。だから、いい加減にあの体の時も慣れてきた。俺の魔術の特性を応用すれば、霊基をある程度までコントロールすることも可能だろう。…で、君の聞きたいことはそれで全てか?そうならば、俺はこれで帰らせてもらうが」

「ちょっと待て、アーチャー。5年前だと?てめえそんなに前から召喚されてやがったのか!?」

 

ランサーの噛み付かんばかりの体勢からの質問をアーチャーは軽く受け流すように肩を竦めながらその質問に答える。

 

「そうだが…そういえば、言っていなかったか。」

「5年前…つまり、5年間聖杯戦争には全く動きがなかったと言うことですか。それはおかしいですね。」

「…悪いんだけどよ。ライダー。俺たちその聖杯戦争っていうのについてはまったく無知なんだ。だから、何がおかしいのかそこんところ詳しく教えてくれないか?」

 

ライダーが訝しんでいる様子に対して、異を唱えるようにして古城が質問する。すると、慈しむような瞳を向けながら、ライダーが質問に答える。

 

「いいですか。古城。今の魔術師の概念がどのようなものかは知りませんが、基本的に私たちの知る魔術師という生き物は無駄を嫌うもの達の集まりでした。」

「無駄を嫌う?」

「ええ。難しくいうと合理的、単純に言い表せば非情。とにかく、私たちの知る魔術師という生き物は近道をするためならば、そこにどれだけの屍が転がろうとも気にはせず、ただ、己が目的を遂行することを目的としていました。」

「目的?目的ってなんだよ?」

 

古城にそう問われたライダーはわずかに目を見開いた後、盛大に溜息を吐いた。そこには侮蔑の色はない。ただ、単純に自分のことを非難しているようなそんな溜息だった。

 

「そうでした。あなた方はそこから語らなければならないのでしたね。そうですね……ひどく陳腐な物言いになってしまいますが、簡単にいうと、神様になるために彼らは魔術を極めているのです。」

「はっ?」

 

間の抜けた声を出したのは何も古城に限った話ではなかった。今の今までの会話に飛ぶに飛んで神様ときたのだ。意味がわからなくなるのも無理はない。

 

「本当に陳腐だが、その通りだな。それを俺たちは『根源を目指す』と言っている。」

「根源?」

「ああ、だが、この辺りについてはそこまで考えなくてもいい。先ほどライダーが言った通り、『神様になるために魔術を極めているんだ』と言った方が君たちには分かりやすいだろう。とにかく、そう言った目的のために魔術を極めているのが俺たちの知る魔術師という生き物だった。そのために必要なことならなんだってする。例えば、100人の人間を殺して根源に到達…つまり神様になれると言えば、迷いなくそれを実行するほどにな。」

「なっ!?」

 

そのあまりにも非倫理的な言動に思わず絶句する古城達。

 

「…なるほど、それほど非情に徹することができるもの達が貴様が召喚されてからの五年間、何もしなかったのはおかしい…というわけか。」

「その辺りについては、俺もすぐに思い至ったのだが、何分、ここは俺が…いや、俺たちが知らないことが多すぎる。何より5年前ではどう言った事態で俺が召喚されているのか、そのことも不明瞭だったのだな。」

「…?まるで、聖杯戦争以外にもあなた方を召喚する方法があるような物言いですね。」

 

切り返すようにして鋭くラ・フォリアが質問する。

 

「ああ、最もその場合の『マスター』は世界ということになるが、世界によって呼ばれ召喚される場合も時たまではあるが可能性としてある。…そうだな。この際だ。とりあえず、聖杯戦争について知り得るすべての情報の公開をしよう。」

 

そこから、シェロはツラツラと語っていた。聖杯戦争におけるサーヴァントの詳細。宝具における対人、対軍などの種別。英霊が持つ複数のサーヴァント適正など、以前、豪華客船の甲板にて語ってくれた部分も含めて詳細に語った。

 

気がつくと花火は終わりに近づき、辺りが再び闇夜に沈もうとしていた。

 

話を終えたシェロは講義を終えた教師のようにふぅと溜息をつく。

 

「さて、では、何か質問はあるか?

「え、あ、ちょっ…」

「なぜ、今になってそのようなことを話し出す?」

 

呼び止めようとする古城の言葉を遮るようにして那月が質問する。シェロはわずかに鬱陶しげではあったものの、仕方がない、といった調子で鼻を鳴らし、首だけを那月の方へと向ける。

 

「何かね?答えられる範疇であるならば答えよう。」

「なぜ、お前はこのタイミングで聖杯戦争についてそこまで詳細に教える気になったのだ?」

 

那月のその質問に対してシェロはわずかに悩むように目を細めたが、少しして口を開く。

 

「理由は簡単だ。この聖杯戦争は思った以上に大規模になる可能性がある。それこそ、世界を巻き込んだものとなる可能性が…な。そのことがよく理解できるものがこの世界にすでに存在しているだろう?」

「え?なんのことだよ?」

「聖域条約のことだ。」

 

聖域条約。その昔、真祖の一人である第一真祖がけしかけた戦争によって成り立った今の魔族と人間の関係を作り出した条約だ。

 

「そうか。アレは元々、良くも悪くも、三大真祖の戦力によって成り立っていたもの。今回のことでサーヴァントという未知の存在が加わり、しかも、期せずして、先ほどの映像が流れ、戦闘力が真祖達にも迫るものがあったことを証明した。であるならば、聖域条約そのものに大きな亀裂を産みかねないということか。」

「ああ、本来ならば、このようなことをしたところで、ヤツらにメリットはないと思うんだがね。何せ、こうなってしまえば、真祖達とて黙ってはいられないだろう。聖杯戦争に大きな支障が出てくるのは間違いない。どうやら、随分派手好きなようだ。こうなってしまえば、後々世界に影響を及ぼす確率は十分にある。そうなれば……ん?」

 

そこで話を止めたシェロはあることに気がつき、口を止める。

 

「………。」

 

それはどこか上の空にも似た心境でどこか遠くを見て、呆然としている古城の姿だった。

 

「古城。おい、古城!!」

「……っ!あ、ああ、何だ?」

「……ハァ、今日は話はここまでにしよう。いずれにせよ、遠からぬうちに結果として起こることだろうしな。」

「えっ?」

 

いきなりのことに戸惑いを隠せない古城を他所にスタスタとシェロは歩き始め、建物端に移動した。

 

「では、また学校で会おう。」

「え、ちょ、おいっ!」

 

突如として話を切り上げたシェロはそこから自らの脚力だけで跳び上がり軽く20メートル先のビルにまで移動し、そこから転々とビルからビルへと移動していくのだった。

 

「……何だか、急だったね。古城。」

「ああ、何だったんだ?一体…」

 

流れるように隣にやってきた幼馴染の優麻の姿を確認した古城。その何処と無く、空虚さを感じる返事に不満そうな顔を示す優麻だが、少しして人の悪い笑みを浮かべると…

 

「ねえ、古城。」

 

呼びかける優麻の声に反応した古城はゆっくりと、優麻のいる方へと首を向ける。

 

「ん?何……」

 

だよ、と言おうとしたところで言葉を止められる。唇を優麻の唇によって塞がれたために…

 

「「なっ!?」」

「ヒューッ!」

「まぁ!」

「ん?」

「「はあ…」」

 

古城のその様子に紗矢華と雪菜は絶句し、ランサーは口笛を鳴らし、ラ・フォリアは感心したように声を上げ、キャスターは何が何だか理解できてないかのように首を傾げ、那月とライダーは呆れた様子でため息を漏らした。

優麻が唇を離していく。

 

「さて…と、それじゃあ、南宮先生そろそろ行きましょうか?」

 

その言葉に重々しく那月が首を縦に振る。

 

「…それもそうだな。そろそろ、連行せねば、あちらも業を煮やしていることだろう。」

「!…そうか。」

 

古城は決してバカではない。たとえ、それまでの行いが母親に利用されたものであったとしても、優麻の犯した罪は重い。であるならば、連行されるのもまた仕方のないことなのだと理解できた。

 

「そんなに悲しそうな顔しないでよ。古城。多分、すぐにまた会うことになるからさ。」

「!…本当か!那月ちゃん。」

「ああ、重要参考人であるのには違いないが、不幸中の幸いというべきか、死者は出ていない。とは言っても、長い間監禁されることは間違いないだろうがな。」

「いや、それでもよかったよ。」

 

綻ぶように笑顔を出す古城を見ながら、不遜に鼻を鳴らして那月は今度は一人の少女の方へと顔を向ける。

 

「では、行くぞ。キャスター。」

「うん。」

 

少女はトテトテと駆けながら、那月の方へと向かう。それと同時に優麻も那月の方へと近づいて行く。

そして、二人がつくと同時に那月は魔法陣を展開する。紫色の光を顔に浴びながら、振り向き、優麻は快活に笑いながら、去り際にこう言った。

 

「じゃ、またね。古城。」

 

彼女がそういうと同時に3人の人影が消え去っていった。

 

「イヤー、中々、おもしれえものを見た。この時代にもあんなアプローチをかけてくる女がいるもんなんだなぁ。さて、んじゃ、俺らもボチボチ行くかね。嬢ちゃん。」

「…そうですね。では、古城、私たちはこれで…」

 

ラ・フォリアの方はというと、意外なほどアッサリと、その場を後にする。その様子を古城たちは黙って見過ごす。

 

ランサーは少し歩いたところでわずかに首を古城たちの方へと向ける。

 

(いいのかね。ありゃ、後々問題になると思うが…)

 

そんな若干何かを心配するかのような目をしたのちランサーはラ・フォリアから5メートル以上も距離を取りながらついて行く。こう言うのもなんだが、何だか、息が詰まりそうな空気だ、と古城は漠然的に感じた。

 

そして、ラ・フォリアが扉に手をかけ、ランサーが霊体化すると、そこで古城はあることに気がつく。

 

「あれ、ってかさ、煌坂。」

「…何よ?」

 

凄まじい殺気に似た気配を感じさせながら、紗矢華は古城の質問に答える。その紗矢華の態度に一瞬、体を引かせてしまう古城だったが、質問する口を休めない。

 

「お前って、確か、ラ・フォリアの護衛が任務だっんじゃ…」

「あっ!」

 

すでにビルから姿を消したラ・フォリアを追うために紗矢華は準備を急ぎ、そして準備が整った後、古城に顔を向けた後、こう言った。

 

「灰になれ!この変態吸血鬼!!」

 

吐き捨てると、彼女はその場を後にするのだった。

 

そうして、ようやく、その場は落ち着いてきた。

 

「んじゃ、俺らも帰るか。姫柊……姫柊?」

「先輩。何か、言うことは?」

 

にっこりと極上の笑みを浮かべながら、雪菜は詰め寄ってくる。

 

「あ、いや、けど、アレは仕方ないだろう!」

「ええ、そうかもしれませんね。ですが、先輩は前々から思ってたことですが、隙がありすぎじゃありませんか!?もう少し、周りを警戒すべきです。全く危なっかしくて仕方ない。こうなったら監視を強化しなければ、ですね。」

「ええ……それって長く続くのか?」

「これからも、ずっとです。」

 

若干のプロポーズとも取れなくもない発言に古城は動揺し、言った後雪菜も顔を真っ赤に染める。

だが、彼らは忘れていた。

 

「ゴッホン!あぁー…すみません。今ここにはわたしもいるのですが…」

「「あっ…」」

 

気まずい沈黙が流れる中、それを打ち消すように古城は一際明るい声を出す。

 

「そ、そんじゃ、俺らも帰るか!」

「は、はい!先輩!」

 

そのあまりにもギクシャクした雰囲気にライダーは思わずこう思った。

 

(私は、一人で帰るべきだったのかもしれまんね。)

 

ーーーーーーー

 

帰り道、シェロはビルとビルを飛びながら、セイバーとの戦いでのある言葉を思い返す。

 

「約定……決闘か。」

 

その言葉で思い出すのはかつての親友であり、最後の最後で自らの前に立ち塞がった最大の難敵だった。

 

『この決闘はある意味、約定だったのかもしれないね。君が英雄になるための…』

「お前がこの場にいたのならば何と言うのだろうな。これもまた俺が英雄であることを思い返すための約定だとでも言うのか、果たして……」

 

今更、理解はできないとわかっていても、だが、そう思わずにはいられなかった。「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」彼にとってその名はそれほどまでに影響があるのだ。

 

だが、考えても仕方がないことを理解すると、シェロはもう一つのことに対して頭を巡らす。

 

『いや、言いたくはないが、そうなって仕舞えば、マスターの差が露骨に出てくる戦いとなってくるだろう。』

 

意図的ではなかったが、その言葉はアーチャーのマスターへの対応についての一言でもあるように、アーチャーには感じられた。

 

マスター(夏音)

 

その言葉を思い返し、静かに自らの主人の名を呼ぶと、彼はまたしずかに闇にとけていくのだった。




最近、気になること、トリスタンの最終再臨の絵の背後にいる白髪、褐色肌の男について、何かな?アレはギャラハッドなのかな?と考えることがある。髪の毛と肌の色からすぐにエミヤを想像しましたけど、さすがに時代がちがいすぎるからな。

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